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第三章 貫通式
12 康太の迷い
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十分後、康太はロフトから降りて、洗面台の前に立って、冷水で顔を洗った。棚からハンドタオルを取りだして手を拭き、洗面ボールに残った水滴も叮嚀に拭った。それがすむと、ハンドタオルを展げて三度叩き、右肩に引っかけた。
顔を上げると、洗面台の一面に張られた鏡がその目に留まった。鏡は無遠慮に康太の裸かを映した。大樹には及ばぬながら、首から下は、精力あふれる、男性的な、荒々しい姿をしている。
康太は、オリエンテーション合宿の最終日に、脱衣場の洗面台で鏡のまえに大樹とふたりで並んだときのことを思い出した。すると鏡のなかの自分の裸體の上に、たちまち記憶のなかの大樹の裸體が泛びあがってきて、やがてひとつに重なった
——ぼくも、森先輩みたいになれるのかな?
康太は、両手で胸から腹までを撫でおろした。そこには筋肉のひしめきをなぞるように細くやわらかな毛があり、そこから続く性毛との境目も見出せない。こんどは両手を頭の後ろで組んでみた。腋窩には、そのくぼみに射す陰りと見分けのつかない黒々とした繁みがある。
康太は、自虐的に自分の姿を眺めた。その肉體を誇るには、あまりにも相応しくない、不釣り合いな、稚い貌立ちをしている。
不意にため息が洩れた。
何故、大樹のように堂々と出来ないのだろう。体育大の男なら「脱いだらスゴい」と云われて悪い気はしないものなのに。
——森先輩は、何かきっかけがあったのかな?。
康太は考えた。水の競技だから裸かでいるのは当然だとしても、首から下のあの野生的な肉體を堂々と曝すのは、やはり勇気がいることのように思われた。尤も武志のように豪快で見るからに男っぽい性格なら話は別なのだろうが。
『女関係、相当派手らしい』
突然、健司の言葉が耳に甦った。そしてこれが呼び水となって、この幼馴染が康太に囁いた、大樹にまつわる噂話が思い出された。
『あのバズーカ砲で仕留めて、女のほうもその気にさせちゃうんだってさ。おまえも風呂で見ただろ。あれだよ、あれ』
康太は、びくんと肩を震わせた。その拍子にハンドタオルが肩から落ちた。すぐに屈んで拾おうと顔を下げた。すると視界に自分のものがあった。さっきロフトでは何もしなかった。だから、今将に屹立しようとしているのだ。康太はハンドタオルを拾いあげると、栓を捻って水で濡らし、軽く搾って、それを包んだ。そして両手でしっかりと握り、鎮まるのを待った。
——森先輩はモテそうだし、経験があっても、ふしぎじゃないよな……。
寮内で実しやかに語り継がれている『ウルフ森伝説』には、多少の誇張が含まれているだろうが、いかにもあり得ることだった。大樹は端正な貌立ちをしていて、背も高く、しかもアスリートらしく筋骨隆々としている。脱いだときにわかる毛深さは、甘いマスクにワイルドな肉體というギャップをもたらし、かえって魅力的に思えるくらいだ。そればかりか三大バズーカ砲のなかでも、いちばんのものを持っている。
——女の人に褒められたとかかな?
康太はここへ来て、遠回りに考えようとしている自分に気づいた。大樹は、自分と違って、女性経験が豊富なのだ。そう考えるほうが自然ではないか。現に大樹は入寮したとき、先輩たちからの『事情聴取』で過去の経験人数を正直に話してしまい、あとで大変な目にあったと笑いながら話していた。
——やっぱりそうだよな……。
康太はタオルを取った。ようやく鎮まった自分のものを見つめた。それなりに大きいのは、自分でもわかっている。
『ホームランばんばん打ちそうだな』
『森が「ウルフ」なら、おまえは「リトル・ウルフ」だ』
『場外ホームランか……』
勝利と武志、そして大樹の言葉が立て続けに甦った。そのどれもが康太のものに向けられた言葉だった。四大バズーカ砲、四天王——そんな言葉がふと脳裏をかすめる。
——先輩たちからそう思われても、でも……ぼくは……。
そこへ健司の幻影が割り込んできて、
『硬式野球部期待の新人が包茎とか、情けねえなあ』
『それにおまえ——まだ童貞だろ?』
と康太を揶揄った。
あの幼馴染の健司でさえ、包茎でもないし童貞でもない。だから見劣りのするもの——康太のものよりも小さい——をぶら下げていても、堂々としていられるのだろう。康太はさらに考えを進めた。皆んな、あのときにどんな感じなんだろう。AVのようにしているのだろうか、それとも……。
「痛っ!」
康太はもう一度ハンドタオルを水に濡らし、それで未使用のバズーカ砲を包んだ。ダメだ。もうこれ以上考えるのはよそう。何も考えるな。
しかし康太の意思に反して、未使用のバズーカ砲は唸りつづけた。康太は正面の鏡を見た。自分の裸體の上に大樹の裸體が重なっては消える。康太は、堪えきれず左手でバズーカ砲を握り、手を動かした。鏡のなかの大樹も同じようにした。
——森先輩、ごめんなさい……。
いつしか鏡のなかの大樹が、康太のバズーカ砲を握っていた。こうするんだ、と康太に手入れの仕方を教えるように、それを磨く。
康太は、何かが足早にからだじゅうを駆けめぐり、腰の中心に集まってくる気配を感じた。
『可愛いな、おまえ』
鏡のなかの大樹が囁いた。
「あっ」
つぎの瞬間、腰の中心に集められたものが、ひとときに水飛沫のように迸った。
顔を上げると、洗面台の一面に張られた鏡がその目に留まった。鏡は無遠慮に康太の裸かを映した。大樹には及ばぬながら、首から下は、精力あふれる、男性的な、荒々しい姿をしている。
康太は、オリエンテーション合宿の最終日に、脱衣場の洗面台で鏡のまえに大樹とふたりで並んだときのことを思い出した。すると鏡のなかの自分の裸體の上に、たちまち記憶のなかの大樹の裸體が泛びあがってきて、やがてひとつに重なった
——ぼくも、森先輩みたいになれるのかな?
康太は、両手で胸から腹までを撫でおろした。そこには筋肉のひしめきをなぞるように細くやわらかな毛があり、そこから続く性毛との境目も見出せない。こんどは両手を頭の後ろで組んでみた。腋窩には、そのくぼみに射す陰りと見分けのつかない黒々とした繁みがある。
康太は、自虐的に自分の姿を眺めた。その肉體を誇るには、あまりにも相応しくない、不釣り合いな、稚い貌立ちをしている。
不意にため息が洩れた。
何故、大樹のように堂々と出来ないのだろう。体育大の男なら「脱いだらスゴい」と云われて悪い気はしないものなのに。
——森先輩は、何かきっかけがあったのかな?。
康太は考えた。水の競技だから裸かでいるのは当然だとしても、首から下のあの野生的な肉體を堂々と曝すのは、やはり勇気がいることのように思われた。尤も武志のように豪快で見るからに男っぽい性格なら話は別なのだろうが。
『女関係、相当派手らしい』
突然、健司の言葉が耳に甦った。そしてこれが呼び水となって、この幼馴染が康太に囁いた、大樹にまつわる噂話が思い出された。
『あのバズーカ砲で仕留めて、女のほうもその気にさせちゃうんだってさ。おまえも風呂で見ただろ。あれだよ、あれ』
康太は、びくんと肩を震わせた。その拍子にハンドタオルが肩から落ちた。すぐに屈んで拾おうと顔を下げた。すると視界に自分のものがあった。さっきロフトでは何もしなかった。だから、今将に屹立しようとしているのだ。康太はハンドタオルを拾いあげると、栓を捻って水で濡らし、軽く搾って、それを包んだ。そして両手でしっかりと握り、鎮まるのを待った。
——森先輩はモテそうだし、経験があっても、ふしぎじゃないよな……。
寮内で実しやかに語り継がれている『ウルフ森伝説』には、多少の誇張が含まれているだろうが、いかにもあり得ることだった。大樹は端正な貌立ちをしていて、背も高く、しかもアスリートらしく筋骨隆々としている。脱いだときにわかる毛深さは、甘いマスクにワイルドな肉體というギャップをもたらし、かえって魅力的に思えるくらいだ。そればかりか三大バズーカ砲のなかでも、いちばんのものを持っている。
——女の人に褒められたとかかな?
康太はここへ来て、遠回りに考えようとしている自分に気づいた。大樹は、自分と違って、女性経験が豊富なのだ。そう考えるほうが自然ではないか。現に大樹は入寮したとき、先輩たちからの『事情聴取』で過去の経験人数を正直に話してしまい、あとで大変な目にあったと笑いながら話していた。
——やっぱりそうだよな……。
康太はタオルを取った。ようやく鎮まった自分のものを見つめた。それなりに大きいのは、自分でもわかっている。
『ホームランばんばん打ちそうだな』
『森が「ウルフ」なら、おまえは「リトル・ウルフ」だ』
『場外ホームランか……』
勝利と武志、そして大樹の言葉が立て続けに甦った。そのどれもが康太のものに向けられた言葉だった。四大バズーカ砲、四天王——そんな言葉がふと脳裏をかすめる。
——先輩たちからそう思われても、でも……ぼくは……。
そこへ健司の幻影が割り込んできて、
『硬式野球部期待の新人が包茎とか、情けねえなあ』
『それにおまえ——まだ童貞だろ?』
と康太を揶揄った。
あの幼馴染の健司でさえ、包茎でもないし童貞でもない。だから見劣りのするもの——康太のものよりも小さい——をぶら下げていても、堂々としていられるのだろう。康太はさらに考えを進めた。皆んな、あのときにどんな感じなんだろう。AVのようにしているのだろうか、それとも……。
「痛っ!」
康太はもう一度ハンドタオルを水に濡らし、それで未使用のバズーカ砲を包んだ。ダメだ。もうこれ以上考えるのはよそう。何も考えるな。
しかし康太の意思に反して、未使用のバズーカ砲は唸りつづけた。康太は正面の鏡を見た。自分の裸體の上に大樹の裸體が重なっては消える。康太は、堪えきれず左手でバズーカ砲を握り、手を動かした。鏡のなかの大樹も同じようにした。
——森先輩、ごめんなさい……。
いつしか鏡のなかの大樹が、康太のバズーカ砲を握っていた。こうするんだ、と康太に手入れの仕方を教えるように、それを磨く。
康太は、何かが足早にからだじゅうを駆けめぐり、腰の中心に集まってくる気配を感じた。
『可愛いな、おまえ』
鏡のなかの大樹が囁いた。
「あっ」
つぎの瞬間、腰の中心に集められたものが、ひとときに水飛沫のように迸った。
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