[R-18] おれは狼、ぼくは小狼

山葉らわん

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第四章 人の噂も七十五日

3 一緒に洗おう

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 部屋からテレビの音が聞こえる。ちょうど夕方のニュース番組のコーナーで、あの女子アナのお姉さんがグルメリポートをしている。
 康太は、野球のユニフォームを膝の上に乗せて湯槽の縁に腰を下ろし、蛇口から勢いよく噴きだす水がたらいに溜まってゆくのを眺めていた。まずはアンダーシャツをじゃぶじゃぶして、つぎにソックスを手洗いして、最後にズボンをブラシでこすろう。シミュレーションは完璧だ。粉石鹸、洗濯板、ブラシ、濯ぎ用に水を張ったバケツも準備してある。
 水がいっぱいになった。蛇口の水を止めて粉石鹸を溶かし、シミュレーションどおりに手洗いを進める。アンダーシャツとソックスはあっという間にバケツ行きとなった。残すはユニフォームのズボンだけだ。とは云っても、武志のものと自分のものと二着ある。
 康太は独りごちた。
「ついてないなあ、ぼくって」

 ——男子寮に戻ってきた康太は、ランドリールームで立ち尽くした。
 そこはすでにフル回転だった。洗濯機がうんうんと唸り声を上げ、その上では乾燥機がくるくると洗濯物を踊らせている。室内をぐるりとひと巡りしたけれども、どれもまだ時間がかかりそうだった。
 待つしかないのかな……。
 康太は手にしたコンビニ袋を持ち直した。中身は武志と康太のユニフォームだ。一緒に洗っておきます、と武志に気を利かせた結果、こうなったのだった。
 お腹空いたなあ……。
 一度部屋に戻って、大樹と夕食を食べてからまたここに来ようか、と康太が思いはじめたとき、
「よう、康太」
 と大樹が後ろから声をかけてきた。
「あっ。森先輩……」
「ここにいたのか。遅いから心配したぞ。迷子になったんじゃないかってな」
 結局、康太は部屋に上がって浴室で手洗いをすることになった。洗面台で手洗いをしようとしたところ、浴室を使え、と大樹が云ってくれた。
「森先輩は、一緒に洗うものないですか?」
「一緒に洗うって云っても、あれぐらいしかないぞ」大樹は洗面所の片隅に置かれた折りたたみ式のタオルハンガーを指差した。「今日はもう洗ってしまったし、またこんどな」
 そこには大樹の水着が掛かっていた——。

 康太は気を取り直し、武志のズボンを水に浸した。すでに泥は粗方はたき落としているので、ふたり分でも時間はかからないだろう。康太は洗濯板を盥に渡し、ズボンをその上に乗せ、ブラシを手に取った。
「あ」
 ファスナー全開のズボンが目の前にあった。さっきの『球磨き』の光景が脳裏によみがえる。白いろの洗剤液を掛けながらブラシで今からここをこするのだ。
 康太は何も考えないように目を閉じて、ズボンの股間をブラシでこすった。しかしシャワールームでの記憶が鮮明に甦るばかりだ。後ろから手を回して、武志のバズーカ砲に気を遣いながら股間の叢で泡を立てて……。
「ひ、膝からしようかな。うん、そうしよう」康太は独りごちて、武志のズボンを盥に一度戻した。「それに今井先輩、『球磨き』はまたこんどって云ってたし」
 武志は、合宿までに八分立てが出来るようになれよ、と云って『球磨き』を中断させた。それは康太にとってラッキーでもあり、アンラッキーでもあった。先延ばしに出来きたのは有難いが、しかし一方で、武志の期待に応えられなかったのでは、といった不安もある。
『一緒に洗うって云っても——』こんどは大樹の声が脳裏でくり返された。『あれぐらいしかないぞ』
 森先輩の水着!
 康太は、大樹の水着を揉み洗いする自分の姿を想像した。あの水着は野球のユニフォームとは異い、素肌に直接触れているものだ。そしてあのバズーカ砲を包む立体カットのふくらみが、自分の手のなかにある……。
 いつしか、そのふくらみを両手でそっと撫でるような仕草をしていた。
 そのときだった。
「康太、どんな感じだ?」
「あ」
 浴室の入口に大樹が立っていた。
「今井のユニフォームなんか、ちゃっちゃと洗っちまえよ」大樹は悪戯っぽく笑った。「どうせ、また汚すんだし」
「でもそういうわけには」康太はブラシを手に取った。
「そろそろ一階の洗濯機、空くころだぞ。それに晩飯も食べないとな」
 康太は軽く絞った武志のユニフォーム一式をコンビニ袋に入れて、大樹と一階に降りた。
 ランドリールームに行くと、すでに止まっている洗濯機がいくつかあった。
「ほらな」大樹はずんずんと奥に進み、止まっている洗濯機の蓋をつぎつぎと開けては中身を確認した。そして、ある洗濯機の中身を手で探って、
「康太、ここ使いな」
 と云った。
「えっ」
「おまえも聞いているだろうけど、寮の規則ルールでは洗濯機は上級生優先だ。洗濯の途中で上級生が上から洗濯物を入れることもある。おれはそんなことしないけどな」
 これからしようとしているじゃないか。康太は、コンビニ袋を腰の後ろに回した。「だからって、このまま入れるのは」
 大樹はにこやかに笑った。「ついでに先客のも二度洗いしてやるんだよ。今井のヤツだって文句は云わないはずさ。一緒に洗うのは杉野の柔道着だからな」
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