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第四章 人の噂も七十五日
3 一緒に洗おう
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部屋からテレビの音が聞こえる。ちょうど夕方のニュース番組のコーナーで、あの女子アナのお姉さんがグルメリポートをしている。
康太は、野球のユニフォームを膝の上に乗せて湯槽の縁に腰を下ろし、蛇口から勢いよく噴きだす水が盥に溜まってゆくのを眺めていた。まずはアンダーシャツをじゃぶじゃぶして、つぎにソックスを手洗いして、最後にズボンをブラシでこすろう。シミュレーションは完璧だ。粉石鹸、洗濯板、ブラシ、濯ぎ用に水を張ったバケツも準備してある。
水がいっぱいになった。蛇口の水を止めて粉石鹸を溶かし、シミュレーションどおりに手洗いを進める。アンダーシャツとソックスはあっという間にバケツ行きとなった。残すはユニフォームのズボンだけだ。とは云っても、武志のものと自分のものと二着ある。
康太は独りごちた。
「ついてないなあ、ぼくって」
——男子寮に戻ってきた康太は、ランドリールームで立ち尽くした。
そこはすでにフル回転だった。洗濯機がうんうんと唸り声を上げ、その上では乾燥機がくるくると洗濯物を踊らせている。室内をぐるりとひと巡りしたけれども、どれもまだ時間がかかりそうだった。
待つしかないのかな……。
康太は手にしたコンビニ袋を持ち直した。中身は武志と康太のユニフォームだ。一緒に洗っておきます、と武志に気を利かせた結果、こうなったのだった。
お腹空いたなあ……。
一度部屋に戻って、大樹と夕食を食べてからまたここに来ようか、と康太が思いはじめたとき、
「よう、康太」
と大樹が後ろから声をかけてきた。
「あっ。森先輩……」
「ここにいたのか。遅いから心配したぞ。迷子になったんじゃないかってな」
結局、康太は部屋に上がって浴室で手洗いをすることになった。洗面台で手洗いをしようとしたところ、浴室を使え、と大樹が云ってくれた。
「森先輩は、一緒に洗うものないですか?」
「一緒に洗うって云っても、あれぐらいしかないぞ」大樹は洗面所の片隅に置かれた折りたたみ式のタオルハンガーを指差した。「今日はもう洗ってしまったし、またこんどな」
そこには大樹の水着が掛かっていた——。
康太は気を取り直し、武志のズボンを水に浸した。すでに泥は粗方はたき落としているので、ふたり分でも時間はかからないだろう。康太は洗濯板を盥に渡し、ズボンをその上に乗せ、ブラシを手に取った。
「あ」
ファスナー全開のズボンが目の前にあった。さっきの『球磨き』の光景が脳裏に甦る。白いろの洗剤液を掛けながらブラシで今からここをこするのだ。
康太は何も考えないように目を閉じて、ズボンの股間をブラシでこすった。しかしシャワールームでの記憶が鮮明に甦るばかりだ。後ろから手を回して、武志のバズーカ砲に気を遣いながら股間の叢で泡を立てて……。
「ひ、膝からしようかな。うん、そうしよう」康太は独りごちて、武志のズボンを盥に一度戻した。「それに今井先輩、『球磨き』はまたこんどって云ってたし」
武志は、合宿までに八分立てが出来るようになれよ、と云って『球磨き』を中断させた。それは康太にとってラッキーでもあり、アンラッキーでもあった。先延ばしに出来きたのは有難いが、しかし一方で、武志の期待に応えられなかったのでは、といった不安もある。
『一緒に洗うって云っても——』こんどは大樹の声が脳裏でくり返された。『あれぐらいしかないぞ』
森先輩の水着!
康太は、大樹の水着を揉み洗いする自分の姿を想像した。あの水着は野球のユニフォームとは異い、素肌に直接触れているものだ。そしてあのバズーカ砲を包む立体カットのふくらみが、自分の手のなかにある……。
いつしか、そのふくらみを両手でそっと撫でるような仕草をしていた。
そのときだった。
「康太、どんな感じだ?」
「あ」
浴室の入口に大樹が立っていた。
「今井のユニフォームなんか、ちゃっちゃと洗っちまえよ」大樹は悪戯っぽく笑った。「どうせ、また汚すんだし」
「でもそういうわけには」康太はブラシを手に取った。
「そろそろ一階の洗濯機、空くころだぞ。それに晩飯も食べないとな」
康太は軽く絞った武志のユニフォーム一式をコンビニ袋に入れて、大樹と一階に降りた。
ランドリールームに行くと、すでに止まっている洗濯機がいくつかあった。
「ほらな」大樹はずんずんと奥に進み、止まっている洗濯機の蓋をつぎつぎと開けては中身を確認した。そして、ある洗濯機の中身を手で探って、
「康太、ここ使いな」
と云った。
「えっ」
「おまえも聞いているだろうけど、寮の規則では洗濯機は上級生優先だ。洗濯の途中で上級生が上から洗濯物を入れることもある。おれはそんなことしないけどな」
これからしようとしているじゃないか。康太は、コンビニ袋を腰の後ろに回した。「だからって、このまま入れるのは」
大樹は和かに笑った。「ついでに先客のも二度洗いしてやるんだよ。今井のヤツだって文句は云わないはずさ。一緒に洗うのは杉野の柔道着だからな」
康太は、野球のユニフォームを膝の上に乗せて湯槽の縁に腰を下ろし、蛇口から勢いよく噴きだす水が盥に溜まってゆくのを眺めていた。まずはアンダーシャツをじゃぶじゃぶして、つぎにソックスを手洗いして、最後にズボンをブラシでこすろう。シミュレーションは完璧だ。粉石鹸、洗濯板、ブラシ、濯ぎ用に水を張ったバケツも準備してある。
水がいっぱいになった。蛇口の水を止めて粉石鹸を溶かし、シミュレーションどおりに手洗いを進める。アンダーシャツとソックスはあっという間にバケツ行きとなった。残すはユニフォームのズボンだけだ。とは云っても、武志のものと自分のものと二着ある。
康太は独りごちた。
「ついてないなあ、ぼくって」
——男子寮に戻ってきた康太は、ランドリールームで立ち尽くした。
そこはすでにフル回転だった。洗濯機がうんうんと唸り声を上げ、その上では乾燥機がくるくると洗濯物を踊らせている。室内をぐるりとひと巡りしたけれども、どれもまだ時間がかかりそうだった。
待つしかないのかな……。
康太は手にしたコンビニ袋を持ち直した。中身は武志と康太のユニフォームだ。一緒に洗っておきます、と武志に気を利かせた結果、こうなったのだった。
お腹空いたなあ……。
一度部屋に戻って、大樹と夕食を食べてからまたここに来ようか、と康太が思いはじめたとき、
「よう、康太」
と大樹が後ろから声をかけてきた。
「あっ。森先輩……」
「ここにいたのか。遅いから心配したぞ。迷子になったんじゃないかってな」
結局、康太は部屋に上がって浴室で手洗いをすることになった。洗面台で手洗いをしようとしたところ、浴室を使え、と大樹が云ってくれた。
「森先輩は、一緒に洗うものないですか?」
「一緒に洗うって云っても、あれぐらいしかないぞ」大樹は洗面所の片隅に置かれた折りたたみ式のタオルハンガーを指差した。「今日はもう洗ってしまったし、またこんどな」
そこには大樹の水着が掛かっていた——。
康太は気を取り直し、武志のズボンを水に浸した。すでに泥は粗方はたき落としているので、ふたり分でも時間はかからないだろう。康太は洗濯板を盥に渡し、ズボンをその上に乗せ、ブラシを手に取った。
「あ」
ファスナー全開のズボンが目の前にあった。さっきの『球磨き』の光景が脳裏に甦る。白いろの洗剤液を掛けながらブラシで今からここをこするのだ。
康太は何も考えないように目を閉じて、ズボンの股間をブラシでこすった。しかしシャワールームでの記憶が鮮明に甦るばかりだ。後ろから手を回して、武志のバズーカ砲に気を遣いながら股間の叢で泡を立てて……。
「ひ、膝からしようかな。うん、そうしよう」康太は独りごちて、武志のズボンを盥に一度戻した。「それに今井先輩、『球磨き』はまたこんどって云ってたし」
武志は、合宿までに八分立てが出来るようになれよ、と云って『球磨き』を中断させた。それは康太にとってラッキーでもあり、アンラッキーでもあった。先延ばしに出来きたのは有難いが、しかし一方で、武志の期待に応えられなかったのでは、といった不安もある。
『一緒に洗うって云っても——』こんどは大樹の声が脳裏でくり返された。『あれぐらいしかないぞ』
森先輩の水着!
康太は、大樹の水着を揉み洗いする自分の姿を想像した。あの水着は野球のユニフォームとは異い、素肌に直接触れているものだ。そしてあのバズーカ砲を包む立体カットのふくらみが、自分の手のなかにある……。
いつしか、そのふくらみを両手でそっと撫でるような仕草をしていた。
そのときだった。
「康太、どんな感じだ?」
「あ」
浴室の入口に大樹が立っていた。
「今井のユニフォームなんか、ちゃっちゃと洗っちまえよ」大樹は悪戯っぽく笑った。「どうせ、また汚すんだし」
「でもそういうわけには」康太はブラシを手に取った。
「そろそろ一階の洗濯機、空くころだぞ。それに晩飯も食べないとな」
康太は軽く絞った武志のユニフォーム一式をコンビニ袋に入れて、大樹と一階に降りた。
ランドリールームに行くと、すでに止まっている洗濯機がいくつかあった。
「ほらな」大樹はずんずんと奥に進み、止まっている洗濯機の蓋をつぎつぎと開けては中身を確認した。そして、ある洗濯機の中身を手で探って、
「康太、ここ使いな」
と云った。
「えっ」
「おまえも聞いているだろうけど、寮の規則では洗濯機は上級生優先だ。洗濯の途中で上級生が上から洗濯物を入れることもある。おれはそんなことしないけどな」
これからしようとしているじゃないか。康太は、コンビニ袋を腰の後ろに回した。「だからって、このまま入れるのは」
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