[R-18] おれは狼、ぼくは小狼

山葉らわん

文字の大きさ
46 / 84
第五章 ワン・モア・チャンス

1 シャカシャカ

しおりを挟む
 康太は、脱いだ衣服を胸に抱え、急いで階段を駆けおりた。誰かとすれ違うとしても、武志と健司ぐらいだろう。四階まで上がってくる寮生は自分たちぐらいだし、それに大樹は今、ベランダで煙草を吸っている。
 四階に着いた。廊下には誰もいない。401号室と402号室のドアが佇んでいるだけだった。
 ——今のうちに……。
 康太は、ドアが開かないことを祈りながら402号室の前を疾りぬけ、自分の部屋の前に立った。震える手で暗証番号を入力し、キー解除のアラーム音を待つ。ちらっと隣りのドアを見た。耳を澄ますと、アダルトビデオの音声が薄く洩れていた。
 ——今井先輩たちは大丈夫だ!
 キー解除のアラーム音が鳴った。
 康太は、ドアをガバッと開けて、部屋に飛びこんだ。背後で施錠のアラーム音が鳴る。辷りこみセーフだ。緊張が一気にほどけ、胸に抱えていた衣服がドサリと床に落ちた。
 部屋のなかを見まわすと、ちょうど素裸かの大樹が、ベランダから戻ってくるところだった。
「康太……?」
 大樹が立止まった。
 何か云わなくちゃ。康太は、努めて明るく云った。
「森先輩、今、戻りました!」
「いや、そんなことより……おまえ、何やってんだ?」
 大樹は、驚いた表情で素裸かの康太を見つめた。
「あ、いや、その……さっきまで大野先輩の部屋にいて……」
 康太は、しどろもどろになった。辻褄の合う話をしなければならない。そう思えば思うほど焦ってしまって、言葉が出てこない。
 大樹が康太に近づいてきて、
「大野さんの部屋?」
 と不思議そうな顔をした。
 そうだ。マイナス・ワンだ、と康太が思いついたときには、大樹は康太の真ん前に立っていた。ふたりの距離は、ほんの一歩分ほどだった。
 大樹は、胸に脱いだ服を抱えた康太の全身を、スキャンするようにさっと見て、
「まあ、好いや。これからシャワー浴びるから、おまえもついてこい。背中を流してくれ」
「わ、わかりました」
 康太は、ちょっと失礼します、と云って自分のベッドのうえに脱いだ服を置いてから、大樹のあとをいて浴室に這入った。
 ——今日、これで三度目になるんだなぁ。
 康太は、浴室のなかで大樹の後ろ姿を眺めながらこう思った。目の前では大樹がシャワーのお湯を出して温度を確認している。
「あ」
 康太は、お湯の確認を自分がしなければならないのを思い出した。
「ん?」大樹がシャワーヘッドをフックに掛けて、胸にお湯を受けはじめた。「どうした? 突然」
「森先輩、すみません。お湯の温度確認……ちょっと考えごとをしていて、ぼく……」
「その程度のことなら気にしなくて好いぞ」両手を大きく動かしながら大樹が云った。
 大樹が手を動かすたびに、背中の筋肉がふくらんだり凹んだりした。そればかりではなかった。肩の筋肉、そして太い腕もまるで生きているように動いている。背中の中心を深い溝がはしっていて、肩から溢れたお湯が、頸から腰まで続く馬の立髪のような濃い毛をつたって滝のように落ちる。
 康太は、ただ大樹の後ろに立って、そのたくましい姿を見つめているだけだった。
 大樹がフックからシャワーヘッドを取って、
「康太、背中を頼む」
 と後ろ手に康太に差し出した。
 康太が、はい、と応えてシャワーヘッドを受けとると、大樹は前の壁に両手をついた。「おまえも浴びて好いぞ」
「ありがとうございます」
 康太は、それでも先ずは先輩からだと考えて、左手にシャワーヘッドを握り、大樹の背中にお湯を掛けた。右手が自然と大樹の背中へと向かい、手のひらがその裸かの肌のうえを辷る。大樹は何も云わない。康太のするままにしている。康太は少しだけ大胆になって、大樹の右の脇腹にもお湯を掛け、手のひらで撫でた。
「ちょっとくすぐったいな」
 大樹が気持ちよさそうに、しかし少し照れたような口ぶりでこう云った。
 康太は、はっとして脇腹から手を放した。「すみません」
「おれはもう好いから、おまえも浴びろ」大樹は棚に置いてあるボディソープのボトルに手を伸ばした。
 ——あっ……。ぼくも泡立てないと。
 康太は急いでシャワーのお湯を浴びて、
「森先輩、後ろから失礼します」
 と云って、大樹とぶつからないように腕を伸ばし、シャワーヘッドをフックに掛けた。
 大樹がポンプを二、三度プッシュしてソープ液を手に取った。「あ、そうだ。康太、手ぇ出しな」
「こうですか?」
 康太はフックから手を放し、大樹の腰のあたりまで降ろした。すると大樹が大きな左手をそのうえに重ね、ソープ液を塗りつけるようにして渡した。
「これで足りるだろう」大樹は、もう一度ボディソープのボトルに手を伸ばした。「スポンジは……と」
 康太は周囲を見渡した。ボディタオルもスポンジも見当たらない。ややあって、洗面所にお風呂セットのカゴがあったのを思い出した。
「森先輩、洗面所にお風呂セットが確か……」
「まあ、っか」大樹は呑気な口で云った。「康太、取りに行かなくて好いぞ」
 康太は、手のひらのソープ液を見つめながら、恐る恐る訊いた。「あの……森先輩も、その……するんですか? 大野先輩も今井先輩もそうやって……」
? ああ、あのことか」大樹がふり向いた。「ふたりに教えてもらったんだな」
「あっ、はい……」
 目の前に大樹の豊穣の毛が現れた。盾をふたつ横に並べたような見事な大胸筋を覆うそれは、胸の谷間に向うにつれて段々と濃くなり、その谷間では筋肉の隆起を強調するかのように漆黒の影となっている。
「おれにはここがある」大樹は手のひらのソープ液を胸の谷間に塗りつけた。「おまえもここで出来るだろう?」
「え……」
 大樹は優しげな表情で康太の左手を取った。康太は大樹の裸體に目を奪われて、ただぼうっとしているだけだ。大樹は康太の左手を、そっと胸の谷間にふれさせた。
「康太、やってみるか? ウルフ流のを教えてやるよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...