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第五章 ワン・モア・チャンス
1 シャカシャカ
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康太は、脱いだ衣服を胸に抱え、急いで階段を駆けおりた。誰かとすれ違うとしても、武志と健司ぐらいだろう。四階まで上がってくる寮生は自分たちぐらいだし、それに大樹は今、ベランダで煙草を吸っている。
四階に着いた。廊下には誰もいない。401号室と402号室のドアが佇んでいるだけだった。
——今のうちに……。
康太は、ドアが開かないことを祈りながら402号室の前を疾りぬけ、自分の部屋の前に立った。震える手で暗証番号を入力し、キー解除のアラーム音を待つ。ちらっと隣りのドアを見た。耳を澄ますと、アダルトビデオの音声が薄く洩れていた。
——今井先輩たちは大丈夫だ!
キー解除のアラーム音が鳴った。
康太は、ドアをガバッと開けて、部屋に飛びこんだ。背後で施錠のアラーム音が鳴る。辷りこみセーフだ。緊張が一気にほどけ、胸に抱えていた衣服がドサリと床に落ちた。
部屋のなかを見まわすと、ちょうど素裸かの大樹が、ベランダから戻ってくるところだった。
「康太……?」
大樹が立止まった。
何か云わなくちゃ。康太は、努めて明るく云った。
「森先輩、今、戻りました!」
「いや、そんなことより……おまえ、何やってんだ?」
大樹は、驚いた表情で素裸かの康太を見つめた。
「あ、いや、その……さっきまで大野先輩の部屋にいて……」
康太は、しどろもどろになった。辻褄の合う話をしなければならない。そう思えば思うほど焦ってしまって、言葉が出てこない。
大樹が康太に近づいてきて、
「大野さんの部屋?」
と不思議そうな顔をした。
そうだ。マイナス・ワンだ、と康太が思いついたときには、大樹は康太の真ん前に立っていた。ふたりの距離は、ほんの一歩分ほどだった。
大樹は、胸に脱いだ服を抱えた康太の全身を、スキャンするようにさっと見て、
「まあ、好いや。これからシャワー浴びるから、おまえもついてこい。背中を流してくれ」
「わ、わかりました」
康太は、ちょっと失礼します、と云って自分のベッドのうえに脱いだ服を置いてから、大樹のあとを跟いて浴室に這入った。
——今日、これで三度目になるんだなぁ。
康太は、浴室のなかで大樹の後ろ姿を眺めながらこう思った。目の前では大樹がシャワーのお湯を出して温度を確認している。
「あ」
康太は、お湯の確認を自分がしなければならないのを思い出した。
「ん?」大樹がシャワーヘッドをフックに掛けて、胸にお湯を受けはじめた。「どうした? 突然」
「森先輩、すみません。お湯の温度確認……ちょっと考えごとをしていて、ぼく……」
「その程度のことなら気にしなくて好いぞ」両手を大きく動かしながら大樹が云った。
大樹が手を動かすたびに、背中の筋肉がふくらんだり凹んだりした。そればかりではなかった。肩の筋肉、そして太い腕もまるで生きているように動いている。背中の中心を深い溝が疾っていて、肩から溢れたお湯が、頸から腰まで続く馬の立髪のような濃い毛をつたって滝のように落ちる。
康太は、ただ大樹の後ろに立って、そのたくましい姿を見つめているだけだった。
大樹がフックからシャワーヘッドを取って、
「康太、背中を頼む」
と後ろ手に康太に差し出した。
康太が、はい、と応えてシャワーヘッドを受けとると、大樹は前の壁に両手をついた。「おまえも浴びて好いぞ」
「ありがとうございます」
康太は、それでも先ずは先輩からだと考えて、左手にシャワーヘッドを握り、大樹の背中にお湯を掛けた。右手が自然と大樹の背中へと向かい、手のひらがその裸かの肌のうえを辷る。大樹は何も云わない。康太のするままにしている。康太は少しだけ大胆になって、大樹の右の脇腹にもお湯を掛け、手のひらで撫でた。
「ちょっとくすぐったいな」
大樹が気持ちよさそうに、しかし少し照れたような口ぶりでこう云った。
康太は、はっとして脇腹から手を放した。「すみません」
「おれはもう好いから、おまえも浴びろ」大樹は棚に置いてあるボディソープのボトルに手を伸ばした。
——あっ……。ぼくも泡立てないと。
康太は急いでシャワーのお湯を浴びて、
「森先輩、後ろから失礼します」
と云って、大樹とぶつからないように腕を伸ばし、シャワーヘッドをフックに掛けた。
大樹がポンプを二、三度プッシュしてソープ液を手に取った。「あ、そうだ。康太、手ぇ出しな」
「こうですか?」
康太はフックから手を放し、大樹の腰のあたりまで降ろした。すると大樹が大きな左手をそのうえに重ね、ソープ液を塗りつけるようにして渡した。
「これで足りるだろう」大樹は、もう一度ボディソープのボトルに手を伸ばした。「スポンジは……と」
康太は周囲を見渡した。ボディタオルもスポンジも見当たらない。ややあって、洗面所にお風呂セットのカゴがあったのを思い出した。
「森先輩、洗面所にお風呂セットが確か……」
「まあ、好っか」大樹は呑気な口で云った。「康太、取りに行かなくて好いぞ」
康太は、手のひらのソープ液を見つめながら、恐る恐る訊いた。「あの……森先輩も、その……シャカシャカするんですか? 大野先輩も今井先輩もそうやって……」
「シャカシャカ? ああ、あのことか」大樹がふり向いた。「ふたりに教えてもらったんだな」
「あっ、はい……」
目の前に大樹の豊穣の毛が現れた。盾をふたつ横に並べたような見事な大胸筋を覆うそれは、胸の谷間に向うにつれて段々と濃くなり、その谷間では筋肉の隆起を強調するかのように漆黒の影となっている。
「おれにはここがある」大樹は手のひらのソープ液を胸の谷間に塗りつけた。「おまえもここで出来るだろう?」
「え……」
大樹は優しげな表情で康太の左手を取った。康太は大樹の裸體に目を奪われて、ただぼうっとしているだけだ。大樹は康太の左手を、そっと胸の谷間にふれさせた。
「康太、やってみるか? ウルフ流のシャカシャカを教えてやるよ」
四階に着いた。廊下には誰もいない。401号室と402号室のドアが佇んでいるだけだった。
——今のうちに……。
康太は、ドアが開かないことを祈りながら402号室の前を疾りぬけ、自分の部屋の前に立った。震える手で暗証番号を入力し、キー解除のアラーム音を待つ。ちらっと隣りのドアを見た。耳を澄ますと、アダルトビデオの音声が薄く洩れていた。
——今井先輩たちは大丈夫だ!
キー解除のアラーム音が鳴った。
康太は、ドアをガバッと開けて、部屋に飛びこんだ。背後で施錠のアラーム音が鳴る。辷りこみセーフだ。緊張が一気にほどけ、胸に抱えていた衣服がドサリと床に落ちた。
部屋のなかを見まわすと、ちょうど素裸かの大樹が、ベランダから戻ってくるところだった。
「康太……?」
大樹が立止まった。
何か云わなくちゃ。康太は、努めて明るく云った。
「森先輩、今、戻りました!」
「いや、そんなことより……おまえ、何やってんだ?」
大樹は、驚いた表情で素裸かの康太を見つめた。
「あ、いや、その……さっきまで大野先輩の部屋にいて……」
康太は、しどろもどろになった。辻褄の合う話をしなければならない。そう思えば思うほど焦ってしまって、言葉が出てこない。
大樹が康太に近づいてきて、
「大野さんの部屋?」
と不思議そうな顔をした。
そうだ。マイナス・ワンだ、と康太が思いついたときには、大樹は康太の真ん前に立っていた。ふたりの距離は、ほんの一歩分ほどだった。
大樹は、胸に脱いだ服を抱えた康太の全身を、スキャンするようにさっと見て、
「まあ、好いや。これからシャワー浴びるから、おまえもついてこい。背中を流してくれ」
「わ、わかりました」
康太は、ちょっと失礼します、と云って自分のベッドのうえに脱いだ服を置いてから、大樹のあとを跟いて浴室に這入った。
——今日、これで三度目になるんだなぁ。
康太は、浴室のなかで大樹の後ろ姿を眺めながらこう思った。目の前では大樹がシャワーのお湯を出して温度を確認している。
「あ」
康太は、お湯の確認を自分がしなければならないのを思い出した。
「ん?」大樹がシャワーヘッドをフックに掛けて、胸にお湯を受けはじめた。「どうした? 突然」
「森先輩、すみません。お湯の温度確認……ちょっと考えごとをしていて、ぼく……」
「その程度のことなら気にしなくて好いぞ」両手を大きく動かしながら大樹が云った。
大樹が手を動かすたびに、背中の筋肉がふくらんだり凹んだりした。そればかりではなかった。肩の筋肉、そして太い腕もまるで生きているように動いている。背中の中心を深い溝が疾っていて、肩から溢れたお湯が、頸から腰まで続く馬の立髪のような濃い毛をつたって滝のように落ちる。
康太は、ただ大樹の後ろに立って、そのたくましい姿を見つめているだけだった。
大樹がフックからシャワーヘッドを取って、
「康太、背中を頼む」
と後ろ手に康太に差し出した。
康太が、はい、と応えてシャワーヘッドを受けとると、大樹は前の壁に両手をついた。「おまえも浴びて好いぞ」
「ありがとうございます」
康太は、それでも先ずは先輩からだと考えて、左手にシャワーヘッドを握り、大樹の背中にお湯を掛けた。右手が自然と大樹の背中へと向かい、手のひらがその裸かの肌のうえを辷る。大樹は何も云わない。康太のするままにしている。康太は少しだけ大胆になって、大樹の右の脇腹にもお湯を掛け、手のひらで撫でた。
「ちょっとくすぐったいな」
大樹が気持ちよさそうに、しかし少し照れたような口ぶりでこう云った。
康太は、はっとして脇腹から手を放した。「すみません」
「おれはもう好いから、おまえも浴びろ」大樹は棚に置いてあるボディソープのボトルに手を伸ばした。
——あっ……。ぼくも泡立てないと。
康太は急いでシャワーのお湯を浴びて、
「森先輩、後ろから失礼します」
と云って、大樹とぶつからないように腕を伸ばし、シャワーヘッドをフックに掛けた。
大樹がポンプを二、三度プッシュしてソープ液を手に取った。「あ、そうだ。康太、手ぇ出しな」
「こうですか?」
康太はフックから手を放し、大樹の腰のあたりまで降ろした。すると大樹が大きな左手をそのうえに重ね、ソープ液を塗りつけるようにして渡した。
「これで足りるだろう」大樹は、もう一度ボディソープのボトルに手を伸ばした。「スポンジは……と」
康太は周囲を見渡した。ボディタオルもスポンジも見当たらない。ややあって、洗面所にお風呂セットのカゴがあったのを思い出した。
「森先輩、洗面所にお風呂セットが確か……」
「まあ、好っか」大樹は呑気な口で云った。「康太、取りに行かなくて好いぞ」
康太は、手のひらのソープ液を見つめながら、恐る恐る訊いた。「あの……森先輩も、その……シャカシャカするんですか? 大野先輩も今井先輩もそうやって……」
「シャカシャカ? ああ、あのことか」大樹がふり向いた。「ふたりに教えてもらったんだな」
「あっ、はい……」
目の前に大樹の豊穣の毛が現れた。盾をふたつ横に並べたような見事な大胸筋を覆うそれは、胸の谷間に向うにつれて段々と濃くなり、その谷間では筋肉の隆起を強調するかのように漆黒の影となっている。
「おれにはここがある」大樹は手のひらのソープ液を胸の谷間に塗りつけた。「おまえもここで出来るだろう?」
「え……」
大樹は優しげな表情で康太の左手を取った。康太は大樹の裸體に目を奪われて、ただぼうっとしているだけだ。大樹は康太の左手を、そっと胸の谷間にふれさせた。
「康太、やってみるか? ウルフ流のシャカシャカを教えてやるよ」
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