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第五章 ワン・モア・チャンス
6 康太、負んぶしてやる
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部屋のドアが閉まった。
「康太、今井たちがどうなるか——」大樹が誘うように云った。
「——気になりますよね?」康太もそれに乗った。
ふたりは一緒にドアに耳をつけた。
——あっ、当たってる……。
気づけばドアと大樹のあいだに挟まれている。康太は、大樹のバズーカ砲を尻に感じた。背中にも大樹の胸から腹がぴたりと密着している。
大樹はそれを気にするようすはない。あからさまに裸かの肌をぐいぐいと押しつけようとすることもせず、ただ平然とドアの外の出来事に集中しているようだった。
——ぼくが下手に意識するからいけないんだな。
——森先輩は、いつも裸かでプールにいるし、水球はぶつかりあう競技だからきっと平気なんだ。
——とりあえずぼくから動くのはやめよう。
ほどなくして武志たちの大袈裟な騒ぎ声と勝利の快活な笑い声が聞こえた。
大樹が小声で云った。「よし、作戦成功だ」
「やりましたね」康太も自然にこう返した。
「さてと。康太、大野さんはここに戻ってくるだろうから、お出迎えの準備だ」
大樹がドアから耳を離した。二人羽織りの状態なので、康太も引っ張られるようにしてドアから引き剥がされた。
康太は顔を少し傾けて大樹の顔を仰ぎ見て、
「えっ、またですか? 点呼はもう——」
「——ガウンを返してもらわないとな」
大樹は片眉を吊りあげてニカッと微笑むと、ガウンの紐をほどいた。ガウンの合わせ目がハラリと広がる。
「森先輩……?」
「二人羽織りはお仕舞いだ。おまえは素っ裸かになって、おれの背中に回れ。顔だけ出していればいい」
康太は両腕を袖から引き抜いてガウンから脱け出し、大樹の背中に隠れた。適切な距離をとりつつ、両手で大樹の腰をそっとつかむ。「森先輩、これでいいですか?」
「そうだ。好いことを思いついた」ガウンの紐を結びなおしながら大樹が云った。「康太、負んぶしてやる。おれの背中に乗れ」
「ぼく、重いですよ。178センチの76キロなんで」
「軽い軽い。その身長なら82、3キロあってもおかしくない」大樹はすでに両手を後ろに回していて、早く来い、と指を曲げたり伸ばしたりしている。
「それじゃあ」康太は大樹の左右の肩に両手を乗せた。ガウンの生地の上からも筋肉質でがっしりとしているのがわかる。負ぶさっても、びくともしなさそうだ。「森先輩、いきますよ」
「おう、いつでも来い」
ガウンの生地があるお陰で、直接当たることはないだろう。康太は安心して、ぽんと飛びあがり、両脚で大樹の腰を挟んだ。すると大樹が、待ってましたとばかりに、両手で康太の膝裏を掬いあげ、二、三度揺りあげて位置を調節した。
康太は、天井にぶつからないように頭を低めた。「うわあ、高い!」
大樹は、ははっ、と快活に笑うとドアに耳を当てた。外のようすをうかがって、
「大野さん、部屋に這入ったみたいだな」
と呟いた。「康太、このまま部屋を一周してみるか?」
「お願いします!」
「ようし、しっかりつかまってろよ」
大樹はドアにくるりと背を向けて、部屋に戻った。
テレビのある壁からアダルトビデオの音声が滲みでている。
「どうやら……」大樹がため息をついた。
康太も同時にため息をついた。「そのようですね」
この部屋のテレビはボリュームを下げているので、まるでアナウンサーのお姉さんが喘いでいるようだ。
「まったく、大野さんまで……」
と大樹が云いかけたとき、
「うぉおおおおお!」
と壁の向うで野太い声が立った。明らかにあの三人の声だ。
大樹は、こほんと咳払いをひとつして、何事もないかのように、こたつテーブルの周りを一周し、それから部屋の奥——ベッドのあるスペース——まで進むと、またくるりと回ってベランダに背を向けて立った。
「うわあ」康太は思わず口にした。
大樹が嬉しそうに云った。「康太、どうだ?」
それは康太にとって、はじめて目にする部屋の眺めだった。何よりも天井が近い。手前のベッドも、向う側のこたつテーブルも、高い山から見下ろしているかのようだ。康太は目線をちゃんと合わせようとして、大樹の頬に自分の頬をくっつけた。
「すごいなあ。2メートル近いと、こんなふうに見えるんですね」
「肩車だってしてやっていいぞ」
「えっ?」
康太の脳裏に体操部の先輩がバスケ部の後輩と戯れあっている光景が泛んだ。今ここでそれをやったら、大樹の首に直接当たってしまう。
「おまえ、軽いからな。スクワットだってやれるぞ」大樹が云った。
——マズい! 森先輩がここでしゃがんだら……。
康太は話をそらそうとして、
「本当に重くないんですか?」
「ああ。おまえを背中に乗せて腕立てだって出来るぞ」
大樹はどうやら体力自慢をしたがっているようだった。
——まあ、これだけ背も高くて筋肉質だったら、誰だってそうだよな。しかも体育会系だし。
そのとき部屋の呼び出し音が鳴った。いつの間にかアダルトビデオの音声も嘘のように消えている。
「大野さんだな」大樹が云いながらドアへと向った。「どうやら用事が済んだらしい」
大樹が片手でドアを開けて一歩踏み出し、その巨軀でドアを固定した。ふたりの目の前に勝利が立っていた。両腕を袖に通さず、肩からガウンを羽織っただけの恰好だ。合わせ目は大開けで、白いサポーターが露わになっている。
「よう、おまえら。待たせたな」
「大野さん」大樹が落ち着き払った口調で云った。「その恰好、AV男優みたいっすよ。なあ、康太。おまえもそう思うだろう?」
「ええ、まあ。そうですね」康太も大樹に話を合わせた。
「ガウンを返しにきてやったぞ」勝利はさっとガウンを剥ぎとって差し出した。両手が塞がっている大樹に代わって康太がそれを受け取ると、勝利は白い歯を覗かせて爽やかに云った。「マイナス・ワンだ!」
大樹がそれに応えた。「そう来るだろうと思っていました。ケツ割れとラグビーボールで、ふたつですよね?」
勝利が満足げに頷いた。「そうだ。それで、おまえらはどうなんだ?」
大樹は笑い返して、
「大野さん、ちょっとドアを持っていてください」
と云った。勝利がドアを手で支えると、大樹はその場でぐるりと一回ターンした。「おれはガウンひとつ、康太は見てのとおりゼロです」
「おまえらと来たら……」勝利が目を丸くしてドアから手を放した。
「あっ」そのドアを、康太が空いた手で支えた。
勝利はしばらく言葉を失っていたが、
「さすがウルフ・ブラザーズ。おれの負けだ」
とようやく口にした。
「それじゃあ、大野さん。おれたちはこれで」と大樹。
「大野先輩、おやすみなさい」と康太。
「ああ、夜更かしすんなよ」
勝利はこう云い残し、真白の逆三角形に囲われた引き締まった尻を丸出しにして廊下を歩いていった。
「さあ、康太。部屋に戻ろうか」
と大樹がドアを閉めようとしたとき、
「ああ、そうだ。康太!」
と云って、勝利がふり向いた。
「大野先輩、何ンですか?」大樹に負ぶわれたまま、康太は首を伸ばして勝利に訊いた。
勝利はラグビーボールを右手に抱え、左手を腰に当ててすっくと立って云った。「おまえ、気づいていないのか? ケツ丸出しで穴まで見えそうだったぞ」
「あっ」
康太は慌てて片手を尻の谷間に回した。
勝利は、あはは、と爽やかに笑って颯爽と階段を昇っていった。
「康太、今井たちがどうなるか——」大樹が誘うように云った。
「——気になりますよね?」康太もそれに乗った。
ふたりは一緒にドアに耳をつけた。
——あっ、当たってる……。
気づけばドアと大樹のあいだに挟まれている。康太は、大樹のバズーカ砲を尻に感じた。背中にも大樹の胸から腹がぴたりと密着している。
大樹はそれを気にするようすはない。あからさまに裸かの肌をぐいぐいと押しつけようとすることもせず、ただ平然とドアの外の出来事に集中しているようだった。
——ぼくが下手に意識するからいけないんだな。
——森先輩は、いつも裸かでプールにいるし、水球はぶつかりあう競技だからきっと平気なんだ。
——とりあえずぼくから動くのはやめよう。
ほどなくして武志たちの大袈裟な騒ぎ声と勝利の快活な笑い声が聞こえた。
大樹が小声で云った。「よし、作戦成功だ」
「やりましたね」康太も自然にこう返した。
「さてと。康太、大野さんはここに戻ってくるだろうから、お出迎えの準備だ」
大樹がドアから耳を離した。二人羽織りの状態なので、康太も引っ張られるようにしてドアから引き剥がされた。
康太は顔を少し傾けて大樹の顔を仰ぎ見て、
「えっ、またですか? 点呼はもう——」
「——ガウンを返してもらわないとな」
大樹は片眉を吊りあげてニカッと微笑むと、ガウンの紐をほどいた。ガウンの合わせ目がハラリと広がる。
「森先輩……?」
「二人羽織りはお仕舞いだ。おまえは素っ裸かになって、おれの背中に回れ。顔だけ出していればいい」
康太は両腕を袖から引き抜いてガウンから脱け出し、大樹の背中に隠れた。適切な距離をとりつつ、両手で大樹の腰をそっとつかむ。「森先輩、これでいいですか?」
「そうだ。好いことを思いついた」ガウンの紐を結びなおしながら大樹が云った。「康太、負んぶしてやる。おれの背中に乗れ」
「ぼく、重いですよ。178センチの76キロなんで」
「軽い軽い。その身長なら82、3キロあってもおかしくない」大樹はすでに両手を後ろに回していて、早く来い、と指を曲げたり伸ばしたりしている。
「それじゃあ」康太は大樹の左右の肩に両手を乗せた。ガウンの生地の上からも筋肉質でがっしりとしているのがわかる。負ぶさっても、びくともしなさそうだ。「森先輩、いきますよ」
「おう、いつでも来い」
ガウンの生地があるお陰で、直接当たることはないだろう。康太は安心して、ぽんと飛びあがり、両脚で大樹の腰を挟んだ。すると大樹が、待ってましたとばかりに、両手で康太の膝裏を掬いあげ、二、三度揺りあげて位置を調節した。
康太は、天井にぶつからないように頭を低めた。「うわあ、高い!」
大樹は、ははっ、と快活に笑うとドアに耳を当てた。外のようすをうかがって、
「大野さん、部屋に這入ったみたいだな」
と呟いた。「康太、このまま部屋を一周してみるか?」
「お願いします!」
「ようし、しっかりつかまってろよ」
大樹はドアにくるりと背を向けて、部屋に戻った。
テレビのある壁からアダルトビデオの音声が滲みでている。
「どうやら……」大樹がため息をついた。
康太も同時にため息をついた。「そのようですね」
この部屋のテレビはボリュームを下げているので、まるでアナウンサーのお姉さんが喘いでいるようだ。
「まったく、大野さんまで……」
と大樹が云いかけたとき、
「うぉおおおおお!」
と壁の向うで野太い声が立った。明らかにあの三人の声だ。
大樹は、こほんと咳払いをひとつして、何事もないかのように、こたつテーブルの周りを一周し、それから部屋の奥——ベッドのあるスペース——まで進むと、またくるりと回ってベランダに背を向けて立った。
「うわあ」康太は思わず口にした。
大樹が嬉しそうに云った。「康太、どうだ?」
それは康太にとって、はじめて目にする部屋の眺めだった。何よりも天井が近い。手前のベッドも、向う側のこたつテーブルも、高い山から見下ろしているかのようだ。康太は目線をちゃんと合わせようとして、大樹の頬に自分の頬をくっつけた。
「すごいなあ。2メートル近いと、こんなふうに見えるんですね」
「肩車だってしてやっていいぞ」
「えっ?」
康太の脳裏に体操部の先輩がバスケ部の後輩と戯れあっている光景が泛んだ。今ここでそれをやったら、大樹の首に直接当たってしまう。
「おまえ、軽いからな。スクワットだってやれるぞ」大樹が云った。
——マズい! 森先輩がここでしゃがんだら……。
康太は話をそらそうとして、
「本当に重くないんですか?」
「ああ。おまえを背中に乗せて腕立てだって出来るぞ」
大樹はどうやら体力自慢をしたがっているようだった。
——まあ、これだけ背も高くて筋肉質だったら、誰だってそうだよな。しかも体育会系だし。
そのとき部屋の呼び出し音が鳴った。いつの間にかアダルトビデオの音声も嘘のように消えている。
「大野さんだな」大樹が云いながらドアへと向った。「どうやら用事が済んだらしい」
大樹が片手でドアを開けて一歩踏み出し、その巨軀でドアを固定した。ふたりの目の前に勝利が立っていた。両腕を袖に通さず、肩からガウンを羽織っただけの恰好だ。合わせ目は大開けで、白いサポーターが露わになっている。
「よう、おまえら。待たせたな」
「大野さん」大樹が落ち着き払った口調で云った。「その恰好、AV男優みたいっすよ。なあ、康太。おまえもそう思うだろう?」
「ええ、まあ。そうですね」康太も大樹に話を合わせた。
「ガウンを返しにきてやったぞ」勝利はさっとガウンを剥ぎとって差し出した。両手が塞がっている大樹に代わって康太がそれを受け取ると、勝利は白い歯を覗かせて爽やかに云った。「マイナス・ワンだ!」
大樹がそれに応えた。「そう来るだろうと思っていました。ケツ割れとラグビーボールで、ふたつですよね?」
勝利が満足げに頷いた。「そうだ。それで、おまえらはどうなんだ?」
大樹は笑い返して、
「大野さん、ちょっとドアを持っていてください」
と云った。勝利がドアを手で支えると、大樹はその場でぐるりと一回ターンした。「おれはガウンひとつ、康太は見てのとおりゼロです」
「おまえらと来たら……」勝利が目を丸くしてドアから手を放した。
「あっ」そのドアを、康太が空いた手で支えた。
勝利はしばらく言葉を失っていたが、
「さすがウルフ・ブラザーズ。おれの負けだ」
とようやく口にした。
「それじゃあ、大野さん。おれたちはこれで」と大樹。
「大野先輩、おやすみなさい」と康太。
「ああ、夜更かしすんなよ」
勝利はこう云い残し、真白の逆三角形に囲われた引き締まった尻を丸出しにして廊下を歩いていった。
「さあ、康太。部屋に戻ろうか」
と大樹がドアを閉めようとしたとき、
「ああ、そうだ。康太!」
と云って、勝利がふり向いた。
「大野先輩、何ンですか?」大樹に負ぶわれたまま、康太は首を伸ばして勝利に訊いた。
勝利はラグビーボールを右手に抱え、左手を腰に当ててすっくと立って云った。「おまえ、気づいていないのか? ケツ丸出しで穴まで見えそうだったぞ」
「あっ」
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