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第五章 ワン・モア・チャンス
24 始めます
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その夜、康太は素裸かになって風呂の準備をしていた。
——今井先輩、何ンにも云わなかったなぁ。
ポットを抱えて四階にたどり着いたとき、ちょうど武志と出くわしたのだった。
扉を半分ほど開けた武志は、康太が両手に持っていたカフェ・オ・レのポットを見つけると、
「いいもん、持ってんな」そして眉を吊りあげてニヤリと笑った。「それから水野のおばちゃんに聞いたぞ」
「えっ?」
まごつく康太を置いて、武志はさっさと部屋に這入っていった。
——変だよなあ。いつもならもっと絡んでくるのに。
その武志は今、ベランダの仕切り越しに大樹と博多弁で何やら云いあっている。ふたりとも素裸かになって煙草を吸いながら——これはいつもの光景だ。けれども今夜に限ってマフィア同士の密談のように思えてならない。
康太は給湯のボタンを押した。するとゴボゴボと音がして、湯が勢いよく溢れだした。湯気を立てながら、湯の面がゆっくりとせり上がってゆく。
——それに森先輩、あれをどこで手に入れたんだろう?
部屋に這入ると康太は先ずポットを冷蔵庫に押し込んだ。奥のスペースでは大樹がベッドに寝転がっていた。康太が近寄ってみると、起こすのも申し訳ないほどぐっすりと眠っている。そういえば水球部は今日、自主トレの日だったっけ。康太は思い出した。おそらく体力の限界まで大樹はトレーニングをしたらしかった。
「おっ、康太。戻ったのか?」康太の気配に気づいたらしく、大樹が目を覚ました。
「すみません。起こしちゃったみたいで」康太はすぐにその場を離れようとした。「ぼく、ロフトのほうに行ってるんで」
「いいものがあるぞ」大樹が起きあがった。「おまえと一緒に観ようと思って」康太に隣りに坐るように促し、右腕でがっしりと康太をホールドすると、空いた左手をヘッドボードに伸ばしてスマホを取った。「このあいだのインタビュー動画だ」
「えっ?」
それは五分ほどの動画だった。最後の最後にふたりは登場していた。大樹とアナウンサーのお姉さんとのやり取りはカットされていて、緊張しながらインタビューに応じる康太とそれを見守る大樹の姿が流れていた。——
「あ」
ピーっと音がした。給湯が終わった合図だ。康太は正気に戻った。
——今井先輩のミッションと貫通式……。どっちも大事だよなあ……。
康太は一度、浴室を出て、洗面台の棚から入浴剤のタブレットをふたつ取り出すと、また浴室に戻ってきて、それをバスタブに放りこんだ。
すぐにシュワシュワと泡の立つ音がして、湯が真っ白に染まった。
康太は片脚を入れて湯をかき混ぜた。
するとそこへ、
「お、もう準備できたみたいだな」
と云って、大樹が浴室に這入ってきた。
康太と大樹はシャワーで掛湯をし、バスタブに向かいあわせになって腰を下ろした。ザアザアと大きな音を立てて湯の波が立った。
ふたりはしばらくのあいだ湯につかって、その心地よさにゆったりとした。
——そろそろ云わないと……。
口火を切ったのは康太のほうだった。両手に湯をすくい、顔をバシャバシャと拭って、
「森先輩。今日、よほど疲れてるみたいですけど、大丈夫ですか」
「ん?」大樹は首をゆっくりと左右に一度ずつ回した。「……ったくあのバカちんときたら」
話が噛みあっていない。極度の疲労のせいか、そうでなければ、武志がロクでもないことを云って大樹を困らせているに相違ない。康太が核心に触れようとすると、大樹が云った。
「康太。今日も『道具の手入れ』をするんだよな?」
「え?」
「野球の道具だ。バットとボール、磨くんだろ?」
云うが早いか大樹が立上った。康太の目の前に大樹のものが現れる。しかしそれも一瞬の出来事で、大樹は洗い場に移り、風呂椅子に腰を下ろした。
康太も急いでバスタブを出た。棚からボディソープのボトルを取り、大樹の背後にまわって両膝立ちになる。それからソープ液を手に取って、
「後ろから失礼します。まずはシャカシャカから」
「ああ」大樹の声は眠たそうだった。
康太は大樹の繁みに指を置き、シャカシャカを始めた。
——今日は無理かな……。疲れてそうだし……。
大樹が、ふぅ、と息を吐き、首をゆっくりと左右に傾けた。
シャカシャカをすませると、康太は授業で習ったとおりにマッサージを始めた。泡で辷りのよくなった両手で大樹の肌のうえを撫でさすってゆく。肩、鎖骨、胸とリンパを流すように両手をゆっくりと動かした。
大樹は凝っと目を閉じている。
康太は大樹に抱きつくように、自分の胸を広い大樹の背中にピタリとくっつけた。盛りあがった肩のうえに顎を乗せる。この状態で少し目線を下げれば、大樹のものが目に這入る。
——鼠径部のリンパを流して……それがすんだら……。
鼠径部のマッサージもすんだ。康太は、ひと呼吸置いて、
「森先輩……」
しかし返事はなかった。大樹は半分夢見心地で康太のマッサージを受けているようだった。
「それじゃあ『球磨き』から始めます」
康太は小声でこう云った。
——今井先輩、何ンにも云わなかったなぁ。
ポットを抱えて四階にたどり着いたとき、ちょうど武志と出くわしたのだった。
扉を半分ほど開けた武志は、康太が両手に持っていたカフェ・オ・レのポットを見つけると、
「いいもん、持ってんな」そして眉を吊りあげてニヤリと笑った。「それから水野のおばちゃんに聞いたぞ」
「えっ?」
まごつく康太を置いて、武志はさっさと部屋に這入っていった。
——変だよなあ。いつもならもっと絡んでくるのに。
その武志は今、ベランダの仕切り越しに大樹と博多弁で何やら云いあっている。ふたりとも素裸かになって煙草を吸いながら——これはいつもの光景だ。けれども今夜に限ってマフィア同士の密談のように思えてならない。
康太は給湯のボタンを押した。するとゴボゴボと音がして、湯が勢いよく溢れだした。湯気を立てながら、湯の面がゆっくりとせり上がってゆく。
——それに森先輩、あれをどこで手に入れたんだろう?
部屋に這入ると康太は先ずポットを冷蔵庫に押し込んだ。奥のスペースでは大樹がベッドに寝転がっていた。康太が近寄ってみると、起こすのも申し訳ないほどぐっすりと眠っている。そういえば水球部は今日、自主トレの日だったっけ。康太は思い出した。おそらく体力の限界まで大樹はトレーニングをしたらしかった。
「おっ、康太。戻ったのか?」康太の気配に気づいたらしく、大樹が目を覚ました。
「すみません。起こしちゃったみたいで」康太はすぐにその場を離れようとした。「ぼく、ロフトのほうに行ってるんで」
「いいものがあるぞ」大樹が起きあがった。「おまえと一緒に観ようと思って」康太に隣りに坐るように促し、右腕でがっしりと康太をホールドすると、空いた左手をヘッドボードに伸ばしてスマホを取った。「このあいだのインタビュー動画だ」
「えっ?」
それは五分ほどの動画だった。最後の最後にふたりは登場していた。大樹とアナウンサーのお姉さんとのやり取りはカットされていて、緊張しながらインタビューに応じる康太とそれを見守る大樹の姿が流れていた。——
「あ」
ピーっと音がした。給湯が終わった合図だ。康太は正気に戻った。
——今井先輩のミッションと貫通式……。どっちも大事だよなあ……。
康太は一度、浴室を出て、洗面台の棚から入浴剤のタブレットをふたつ取り出すと、また浴室に戻ってきて、それをバスタブに放りこんだ。
すぐにシュワシュワと泡の立つ音がして、湯が真っ白に染まった。
康太は片脚を入れて湯をかき混ぜた。
するとそこへ、
「お、もう準備できたみたいだな」
と云って、大樹が浴室に這入ってきた。
康太と大樹はシャワーで掛湯をし、バスタブに向かいあわせになって腰を下ろした。ザアザアと大きな音を立てて湯の波が立った。
ふたりはしばらくのあいだ湯につかって、その心地よさにゆったりとした。
——そろそろ云わないと……。
口火を切ったのは康太のほうだった。両手に湯をすくい、顔をバシャバシャと拭って、
「森先輩。今日、よほど疲れてるみたいですけど、大丈夫ですか」
「ん?」大樹は首をゆっくりと左右に一度ずつ回した。「……ったくあのバカちんときたら」
話が噛みあっていない。極度の疲労のせいか、そうでなければ、武志がロクでもないことを云って大樹を困らせているに相違ない。康太が核心に触れようとすると、大樹が云った。
「康太。今日も『道具の手入れ』をするんだよな?」
「え?」
「野球の道具だ。バットとボール、磨くんだろ?」
云うが早いか大樹が立上った。康太の目の前に大樹のものが現れる。しかしそれも一瞬の出来事で、大樹は洗い場に移り、風呂椅子に腰を下ろした。
康太も急いでバスタブを出た。棚からボディソープのボトルを取り、大樹の背後にまわって両膝立ちになる。それからソープ液を手に取って、
「後ろから失礼します。まずはシャカシャカから」
「ああ」大樹の声は眠たそうだった。
康太は大樹の繁みに指を置き、シャカシャカを始めた。
——今日は無理かな……。疲れてそうだし……。
大樹が、ふぅ、と息を吐き、首をゆっくりと左右に傾けた。
シャカシャカをすませると、康太は授業で習ったとおりにマッサージを始めた。泡で辷りのよくなった両手で大樹の肌のうえを撫でさすってゆく。肩、鎖骨、胸とリンパを流すように両手をゆっくりと動かした。
大樹は凝っと目を閉じている。
康太は大樹に抱きつくように、自分の胸を広い大樹の背中にピタリとくっつけた。盛りあがった肩のうえに顎を乗せる。この状態で少し目線を下げれば、大樹のものが目に這入る。
——鼠径部のリンパを流して……それがすんだら……。
鼠径部のマッサージもすんだ。康太は、ひと呼吸置いて、
「森先輩……」
しかし返事はなかった。大樹は半分夢見心地で康太のマッサージを受けているようだった。
「それじゃあ『球磨き』から始めます」
康太は小声でこう云った。
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