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第六章 親分はボディガード
朝からボディガード
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あくる日の朝、健悟はスッキリと目覚めた。ベッドの上で素っ裸かになっている。しかし隣りには誰もいない。健悟は徐々に、柳川とテレフォンセックスをしたこと、柳川は二回戦目でへとへとになって通話を切り、その後ひとりで五回戦まで続けたこと、などを思い出した。
健悟は大きく伸びをして全身をストレッチさせた。股間の相棒も同じように伸びている。
——よう、相棒。おまえもお目覚めのようだな。
——久しぶりにスッキリしたぜ。頭陀袋も軽々としてやがる。
健悟は手さぐりでスマホを探し、確認する必要のない時刻を見た。いつも通り、朝の五時五十五分だ。消防士になってから、朝はいつもこの時間に起きている。
「おっと」
LINEのメッセージが一件届いている。今から五分前、送信者は柳川だ。
>親分、今羽田です!
>朝イチの飛行機で北海道までひとっ飛びです。
健悟は柳川の声を聞こうと電話を掛けた。三コール目で柳川が出る。
「よう、柳川。気をつけて行ってこい」
「はい!」
「朝っぱらから元気だな」
「久しぶりにスッキリと目覚めました!」
健悟は、くくっ、と笑った。
「熊カレーの缶詰があっちの空港にあるそうなんですけど」柳川も軽く笑い声を立てた。「お紅茶カレーより良くないっすか?」
「土産は気を遣わなくて好いぞ。しっかり仕事して戻ってこい」
「わかりました!」
やがて搭乗時刻となった。
健悟は通話を切り、スマホを持ったまま左手をシーツの上に、すとん、と下ろした。気づけば右手は相棒を握りしめ、ゆったりと上下に扱いている。まるで馬をあやしているようだ。
「さて、起きるとするか」
健悟はカーテンを開けようとベッドを降りた。思いの外、腰が軽い。その場でジャンプすると頭陀袋がポンポンと弾む。
カーテンを開け、サッシ窓を引いてベランダに出た。
素っ裸かで浴びる朝の陽は心地よい。健悟は大股を開き、両腕を高く持ちあげ、目を閉じてしばらくそのままでいた。
リフレッシュを了えると健悟は登庁の準備をした。キッチンでコーヒーメーカーをセットしてから浴室へ行き、シャワーを浴び、髭を剃り、キッチンに戻ってきて適当に腹ごしらえをする。軀が乾くまでのあいだは素っ裸かで過ごす。腹ごしらえがすむとテレビを点けて淹れたてのコーヒーを飲む。健悟はここまでを素っ裸かで過ごした。
すべてが滞りなく進んでいる。
健悟は鼻歌を歌いながらスーツに着替え、鞄を手にマンションを出た。
時間に余裕があったので少し遠回りをした。例のコンビニの前を通り過ぎたとき、後ろから声を掛けられた。
「親分さん!」小雪の声だった。「おはようございます」
健悟は肩ごしに顔だけふり返らせた。「おう、小雪か。また朝っぱらから待機宿舎を見張らされていたのか?」
「そうなんです。あそこに柳川さんが居るわけないのに萬屋さんったら……」
「何とかしねえとな……おまえに対するパワハラだ」
健悟は車道側に移り、小雪と並んで歩いた。
「ところで親分さん、昨日のニュース観ました? 萬屋さん出ていたんですよ」
「ちょっと待て。あいつ熱中症以外にも何ンかやらかしたのか?」
「いえ、熱中症のニュースです。熱中症で女性が運ばれた、っていう内容なんですけれど、SNSでも話題になっていて——」
そのとき後ろからチリンチリンとベルの音がした。ママチャリ軍団だ。この先にあるスーパーで朝のセールが始まるころだ。
「小雪、危ない!」健悟は咄嗟に小雪の腰を抱いてクレーンのように持ちあげると、くるりと回ってママチャリ軍団に背を向け、彼女を護る大きな盾となった。「通り過ぎるまで凝っとしてろ」
「は、はい……」健悟の胸のなかで小雪が応えた。「あ、あの……親分さん?」
ママチャリ軍団が疾り去り、こんどはふたりが危なくなる番だった。
健悟のワイシャツのボタンがふたつみっつ弾け飛び、分厚く毛深い胸板が露わになっている。小雪がその裸かの胸に頬を埋めている。さらにズボンのなかで盛りあがった相棒が小雪の腹に当たっている。
健悟は何事もなかったようにそっと小雪から離れると、
「まったく……道交法違反で取り締まってくれないかなあ」
と云いながら身なりを整えた。「小雪、怪我はないか? 救急車ならすぐそこで待機してるぞ」
しばし沈黙があった。
「もう、親分さんったら……」小雪が照れくさそうに微笑んだ。「わたし、用事があるので先に行きます」消防署に向って駆けだし、途中で立止まってふり返って、「活動服に着替えたら、シャツを持ってきてください。ボタン付けしますから」
「おう、頼んだぞ」
健悟は左手を挙げて手を振った。
小雪の姿が見えなくなって、ふぅ、とため息を吐いた。相棒を雄っ勃てていたのは、小雪に絶対バレている。いや、でもあれは事故だ。男の生理現象だ。そういえば『ボタン付けします』って云ってたぞ。大丈夫だ。小雪は恥じらっているだけだ。
——おい、健悟。男四十二の本厄だぞ。小雪には手を出すな。
——柳川の研修期間中は我慢するさ。今は柳川とヤることのほうが優先だからな。
——研修期間中? せめて後厄が過ぎるまで待ったほうが良くないか?
——それまで我慢できるかよ。そのあいだ中道署長が見合い話をずっと持ってくるんだぞ。さっさと子供作って既成事実作らないとな。
——柳川に本気になったらどうする? おまえいっつも肉体関係が先で、そっから惚れてたよな。
——うっせえなあ。
健悟は相棒と押し問答をしながら歩き続けた。
「親分!」誰かが声を掛けてきた。こんどは男の声だった。「親分!」
健悟はふり返った。声の主は、待機宿舎に女を連れ込んでいる新人隊員だった。彼は、若い青年らしく目を輝かせてキビキビと健悟に向って敬礼した。
「おう、水上か」健悟は水上の一歩先を行きながら訊いた。「SNSで丙午が話題になっているらしいが、おまえ、もう見たか?」
「今すっげえバズってるんすよ。俺、ひと晩じゅう笑い転げてて寝不足で」
「正直に云え」健悟は鼻を鳴らした。「昨日女を連れ込んだろ」
水上が慌てふためいた。「親分、見てたんすか?」
「さっき自分で白状したじゃないか」健悟が応えた。「『ひと晩じゅう笑い転げてて寝不足だ』ってのを訳すとこうなる。『ひと晩じゅう女と寝っ転がって寝不足だ』ってな」
水上が声をひそめた。すでに消防署は目の前だ。
「あの、親分。女連れ込んでるの、内緒にしてくれますよね?」
「もっとうまくやれ」
「親分のことも、俺、黙ってますから。誰にも内緒にするんで……」
何のことだろう、と健悟はふり返った。
「さっき見ちゃったんっす。あの……小雪さんと……その……さっき路上でハグしてましたよね? いつの間に附合ってたんですか?」
水上が真顔で云った——。
健悟は大きく伸びをして全身をストレッチさせた。股間の相棒も同じように伸びている。
——よう、相棒。おまえもお目覚めのようだな。
——久しぶりにスッキリしたぜ。頭陀袋も軽々としてやがる。
健悟は手さぐりでスマホを探し、確認する必要のない時刻を見た。いつも通り、朝の五時五十五分だ。消防士になってから、朝はいつもこの時間に起きている。
「おっと」
LINEのメッセージが一件届いている。今から五分前、送信者は柳川だ。
>親分、今羽田です!
>朝イチの飛行機で北海道までひとっ飛びです。
健悟は柳川の声を聞こうと電話を掛けた。三コール目で柳川が出る。
「よう、柳川。気をつけて行ってこい」
「はい!」
「朝っぱらから元気だな」
「久しぶりにスッキリと目覚めました!」
健悟は、くくっ、と笑った。
「熊カレーの缶詰があっちの空港にあるそうなんですけど」柳川も軽く笑い声を立てた。「お紅茶カレーより良くないっすか?」
「土産は気を遣わなくて好いぞ。しっかり仕事して戻ってこい」
「わかりました!」
やがて搭乗時刻となった。
健悟は通話を切り、スマホを持ったまま左手をシーツの上に、すとん、と下ろした。気づけば右手は相棒を握りしめ、ゆったりと上下に扱いている。まるで馬をあやしているようだ。
「さて、起きるとするか」
健悟はカーテンを開けようとベッドを降りた。思いの外、腰が軽い。その場でジャンプすると頭陀袋がポンポンと弾む。
カーテンを開け、サッシ窓を引いてベランダに出た。
素っ裸かで浴びる朝の陽は心地よい。健悟は大股を開き、両腕を高く持ちあげ、目を閉じてしばらくそのままでいた。
リフレッシュを了えると健悟は登庁の準備をした。キッチンでコーヒーメーカーをセットしてから浴室へ行き、シャワーを浴び、髭を剃り、キッチンに戻ってきて適当に腹ごしらえをする。軀が乾くまでのあいだは素っ裸かで過ごす。腹ごしらえがすむとテレビを点けて淹れたてのコーヒーを飲む。健悟はここまでを素っ裸かで過ごした。
すべてが滞りなく進んでいる。
健悟は鼻歌を歌いながらスーツに着替え、鞄を手にマンションを出た。
時間に余裕があったので少し遠回りをした。例のコンビニの前を通り過ぎたとき、後ろから声を掛けられた。
「親分さん!」小雪の声だった。「おはようございます」
健悟は肩ごしに顔だけふり返らせた。「おう、小雪か。また朝っぱらから待機宿舎を見張らされていたのか?」
「そうなんです。あそこに柳川さんが居るわけないのに萬屋さんったら……」
「何とかしねえとな……おまえに対するパワハラだ」
健悟は車道側に移り、小雪と並んで歩いた。
「ところで親分さん、昨日のニュース観ました? 萬屋さん出ていたんですよ」
「ちょっと待て。あいつ熱中症以外にも何ンかやらかしたのか?」
「いえ、熱中症のニュースです。熱中症で女性が運ばれた、っていう内容なんですけれど、SNSでも話題になっていて——」
そのとき後ろからチリンチリンとベルの音がした。ママチャリ軍団だ。この先にあるスーパーで朝のセールが始まるころだ。
「小雪、危ない!」健悟は咄嗟に小雪の腰を抱いてクレーンのように持ちあげると、くるりと回ってママチャリ軍団に背を向け、彼女を護る大きな盾となった。「通り過ぎるまで凝っとしてろ」
「は、はい……」健悟の胸のなかで小雪が応えた。「あ、あの……親分さん?」
ママチャリ軍団が疾り去り、こんどはふたりが危なくなる番だった。
健悟のワイシャツのボタンがふたつみっつ弾け飛び、分厚く毛深い胸板が露わになっている。小雪がその裸かの胸に頬を埋めている。さらにズボンのなかで盛りあがった相棒が小雪の腹に当たっている。
健悟は何事もなかったようにそっと小雪から離れると、
「まったく……道交法違反で取り締まってくれないかなあ」
と云いながら身なりを整えた。「小雪、怪我はないか? 救急車ならすぐそこで待機してるぞ」
しばし沈黙があった。
「もう、親分さんったら……」小雪が照れくさそうに微笑んだ。「わたし、用事があるので先に行きます」消防署に向って駆けだし、途中で立止まってふり返って、「活動服に着替えたら、シャツを持ってきてください。ボタン付けしますから」
「おう、頼んだぞ」
健悟は左手を挙げて手を振った。
小雪の姿が見えなくなって、ふぅ、とため息を吐いた。相棒を雄っ勃てていたのは、小雪に絶対バレている。いや、でもあれは事故だ。男の生理現象だ。そういえば『ボタン付けします』って云ってたぞ。大丈夫だ。小雪は恥じらっているだけだ。
——おい、健悟。男四十二の本厄だぞ。小雪には手を出すな。
——柳川の研修期間中は我慢するさ。今は柳川とヤることのほうが優先だからな。
——研修期間中? せめて後厄が過ぎるまで待ったほうが良くないか?
——それまで我慢できるかよ。そのあいだ中道署長が見合い話をずっと持ってくるんだぞ。さっさと子供作って既成事実作らないとな。
——柳川に本気になったらどうする? おまえいっつも肉体関係が先で、そっから惚れてたよな。
——うっせえなあ。
健悟は相棒と押し問答をしながら歩き続けた。
「親分!」誰かが声を掛けてきた。こんどは男の声だった。「親分!」
健悟はふり返った。声の主は、待機宿舎に女を連れ込んでいる新人隊員だった。彼は、若い青年らしく目を輝かせてキビキビと健悟に向って敬礼した。
「おう、水上か」健悟は水上の一歩先を行きながら訊いた。「SNSで丙午が話題になっているらしいが、おまえ、もう見たか?」
「今すっげえバズってるんすよ。俺、ひと晩じゅう笑い転げてて寝不足で」
「正直に云え」健悟は鼻を鳴らした。「昨日女を連れ込んだろ」
水上が慌てふためいた。「親分、見てたんすか?」
「さっき自分で白状したじゃないか」健悟が応えた。「『ひと晩じゅう笑い転げてて寝不足だ』ってのを訳すとこうなる。『ひと晩じゅう女と寝っ転がって寝不足だ』ってな」
水上が声をひそめた。すでに消防署は目の前だ。
「あの、親分。女連れ込んでるの、内緒にしてくれますよね?」
「もっとうまくやれ」
「親分のことも、俺、黙ってますから。誰にも内緒にするんで……」
何のことだろう、と健悟はふり返った。
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水上が真顔で云った——。
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