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第16章 摩天楼の聖女
第307話 ミナトとアガト
しおりを挟む爆発。
火炎。
毒霧。
毒虫。
その他もろもろ、明らかにこっちを殺す気で仕掛けられているトラップの数々。
『摩天楼』を階段で下に降りていくにつれて仕掛けられていたそれらを、時に無効化し、時に解除し、時に力づくで突破しながら、僕らはようやく最下層についた。
そしてそこには……そのトラップ軍団を仕掛けた張本人であろう男が立っていた。
「ちっ……全員生きてんのかよ、想像以上にぶっ壊れてる集団だな」
苦々しげな表情で悪態をついてくるアガト。
それを見返す僕らは……それぞれ違った表情を浮かべている。
自然体なのが一番多くて……僕、師匠、エレノアさん、ナナ、義姉さんもだな。対照的に、ソニアとソフィーは怒りを隠しきれていない。
友達――ネフィアットに手を出した老害連中ほどじゃないけど、多くの犠牲者を出す方策を平然と実行した極悪人を前にして、冷静にしていられない、ってことか。……外で『獣』に教われたのも、一因がこいつにあるとわかってるし。
……え、一人足りないって? まあ、それは置いといて。
それはそうと……こいつ妙に落ち着いてるな?
自分で言うのもなんだけど、今の状況、こいつからしたら結構絶望的な感じじゃないか?
何せ、こんな閉所に、孤立無援の状況で……しかも、明らかに自分より格上の連中を含む――どころか、世界最高峰が2人いる――っていうのに。
仕掛けてたトラップとか全部突破されて絶体絶命なのに、この余裕……何でだ?
まあ、予想はつくけど……
「ちっ、手伝うって言ってたウェスカーの奴も見当たらねえし……まあいいや、こうなったら仕方ねえ、すっぱり諦めてさっさと逃げるか」
「随分余裕だね? 逃がすと思ってんの?」
……予想はつく、けど、まああえて乗ってやる。
この場面ならこういうセリフだな、っていうのを、貧弱な語彙から選択して言ってやると……おーおー、嬉しそうにしちゃって。わかりやすいなこいつ。
「ははっ……ああ、逃げるさ。そしてお前らは追って来れねえ……」
言いながら、アガトは……懐から、何かを取り出す。
「確かにお前らにここで襲ってこられたら、そりゃヤバいがよ……もしここで俺に何かあったら、お前のお仲間が酷い目に会うぜ?」
それは、水晶玉だった。
同じもの、ないし種類のそれを見たことがある。……リアロストピアの戦いの時に。
亜人軍団の翼野郎(名前は忘れた)が持ってた奴だ。僕に精神的にダメージを与えるために、配下の魔物にオルトヘイム号を襲わせて、その光景を見せつけようとして使った……離れたところの景色を投影して見せる魔法の水晶玉。
まあ、あの時は結局、少年漫画のライバルよろしく参戦してきたゼットに蹴散らされて、恥かくだけで終わったけど。
そして、それは今回も変わらない。
水晶玉の向こうには、宿屋の一室でエルク達が談笑している姿が映っていた。
それはつまり……何らかの手段で、その光景がこの水晶に送られてきている……すなわち、こいつの手の者がエルク達の近くに、気づかれずに忍んできていることを意味する。
「こういうわけだ……さあ、動くなよお前ら。動いたら……ここに映ってる全員が……さて、どうなっちまうだろうなぁ?」
嗜虐的な感じの、下衆い笑みを浮かべるアガト。
反応の薄い僕ら。
ただ、ソニアとソフィーが怒りをあらわに……というか、隠しきれない感じになっているので、逆に真実味が出ているため、上手く騙されてくれている。
……けど、いい加減面倒だしもういいか。
「本当ならこのまま、抵抗できないお前らをなぶり殺しにしてもいいんだがよ……それじゃあ隙を見て逃げられちまうかもしれないからな。俺が逃げるまでそのままじっとしてたら、後は自由にしていいぜ? どうだ、簡単だろ?」
「そしてその後、この塔に仕掛けた爆弾で僕らを殺すわけ?」
「っ!?」
驚くアガト。……見破られてない、と思ってたらしいな。おめでたい頭だ。
塔の各部に設置していた爆弾。なかなか上手く隠して設置されてたものの、きちんと全部回収・無力化してある。『サテライト』なめんなよ。
自分は悠々と脱出して、その後僕らを殺す……殺せなくても、生き埋めにする、ないし地上に戻る手段を断って足止めにするくらいのことはできるわけだ。
まあ……この塔、なぜかめっちゃ頑丈だから、アレだけじゃ崩れるかどうかもともと微妙だったけどね。
見透かされてるとは考えもしなかったのか、アガトはさっきよりも苦々しい感じの表情を浮かべ……しかし、それもすぐに笑みに戻る。
「……少し違うな」
「?」
「爆弾は別に、使うつもりはなかったんだよ……もしお前らが人質を見捨てて俺に向かってくるようであれば、塔を崩して隙を作って、その隙に逃げるつもりでいただけさ……そのための手段はきちんと用意してあったからな。まあ……その心配もいらなそうだがな」
言いながら、エルク達が映っている水晶玉を、掲げて見せつけるように持つ。
「さっきと同じだ、動くなよ……こいつら殺されたくなかったらな。いくらお前でも、ここに居ない奴を倒したり、守ったりするのは無理だろう?」
……なるほどな。
さっきから妙に違和感あったというか何というか……府に落ちない、気持ち悪い部分があった。
こいつが抱えているであろう『事情』を鑑みてもなおのこと、だ。
露悪的で、こっちを煽るような態度。自信家というか、過剰なまでに強気な姿勢。
ようやくわかった。それらの意味が。
「安心しろ、俺が逃げたら、こいつらはきちんと返してやるからよ……くくっ」
(殺して、死体にした後でな)
……とか何とか考えてるんだろうな。
要するにだ。こいつは……僕らをなめてるんだな。
というか、正確には……『なめる』ということができるんだな。
何かおかしい日本語に聞こえるけど……あー、どう言えばいい? もっと正確に……
ある意味で『身の程知らず』というか……むしろわざとそうしている? そうなっている? というか……何というか、可哀そうな奴。
……もう、長引かせる意味もないだろう。さっさと終わらせよう。
「じゃあなお前ら、俺がこのぶごっ!?」
みぞおちに一発。
あまりに予想外のことが起こって驚いているアガトの体を『く』の字に折り曲げ……一拍遅れて壁まで殴り飛ばす。
結構いい音がして、石の壁に激突して墜落したアガトは……しかし、すぐに起き上がって、こっちを睨み返してきた。
「へー、割と頑丈ではあるんだ。加減したとはいえ、あばら2、3本は持ってくつもりで打ち込んだのに、普通に動けてる。ちょっと予想外」
「っ、てめ……何のつもりだ!?」
「何の、って……それ説明の必要あるの? 敵なんだし、そりゃぶん殴るに決まってるじゃん」
「聞いてなかったのか……こっちには人質がいるんだぞ!? てめーの女や仲間がどうなってもいいってのかよ!?」
「この展開なら気づいてもよさそうなもんだけど……あーもしもしエルク? みんなも、もう演技いいから」
『……了解。ったく、ちょっと緊張したわ……その分だと、問題なかったみたいね?』
「なっ……!?」
驚くアガトの目の前で、僕が持っている水晶玉――さっき殴った時、取り落としたのをキャッチしておいた――そこに移っているエルクが、カメラ目線で返事をした。
簡単なことだ。塔に仕掛けられてた爆弾と一緒で……僕は、僕らは、とっくの昔に、こいつが放った手下たちの存在には気づいていたのだ。エルクの『サテライト』で。
いつだったか言ったかもしれないが、僕はこういう状況は常に恐れ、そして同時に想定して動いている。また二次元の話になるが、こういう『人質』とかの展開は、正義の味方が悪に対して手も足も出せなくなるお決まりのパターンでしかない。
なので、エルク達のような『人質にされたら困る人』達には、そうならないように、指輪を始めとしていくつもの防御手段を……それこそ過剰なくらいに持たせている。
それに加えて、『不測の』あるいは『万が一』の事態が起こらないようにしている。
具体的には……今回は、エルクに頼んで、常に『サテライト』で周囲をきちんと監視してもらっといて……あっさり怪しい連中が引っかかったので、捕らえました。
そこそこ上手く隠れていたけども、立体マップで強制的に存在を明らかにされてバレバレだったし……戦闘能力はそこまでじゃなかったそうだ。ザリー1人で全員始末できたってさ。
まあ、ザリーは分身するから『1人』じゃなくて数人がかりになったんだろうけど。
アレ、分身を残してそこにいるように見せつつ、本人が隠れて動けるから、初見殺しもいいとこなんだよね。特に、ばれないように監視してるつもりで油断してる奴らによく効く。
そんなわけで、僕らをなめすぎである。
やられて困ることは、やられないように徹底的に警戒する。リアロストピアで学んだ基本だ。
……ただ、本来あそこに居るはずのブルース兄さんが、別件でちょっと出なきゃいけなくなってるのは予想外だったけど……まだあそこには戦力いるし、大丈夫だろう。
念のため、昆虫軍団の何匹かが警護に隠れてついてるし。
そいつらが持ってた監視用の……この水晶玉と対になるマジックアイテムも回収してたので、こいつが監視を継続してる可能性を考えて、そのまま演技してたってわけ。
さて、話を元に戻すが……こんな風に切り札があっさり無力化されちゃったわけだけど、どうするよ?
「ちっ……なら仕方ねえな」
すると今度は、ポケットから……目薬くらいの大きさの小瓶を取り出した。
中には、無色透明の液体が入っている。
「こいつが何だかぐごぉ!?」
だから……僕らを舐めすぎだってのに。
何か言う前に超高速で踏み込んで接近し、みぞおちに一発。それで取り落とした小瓶をキャッチして、元の位置にまで飛び退った。
多分だけど、こいつこういう感じに話を運びたかったんだろうな、ってのは予想できる。
このビンの中身を『御神酒の解毒剤』だって言って、コレが欲しければ大人しく自分を逃がせ、って言って……そうすれば、僕らはともかくソニアとソフィーは動揺するだろう。
その同様の隙をついて逃走、あるいは取引として見逃してもらう、的な。
その前にこうしてぶんどったわけだが……さて、中身は?
刺激臭。コレは……毒だな。まあ、予想通りだ。そもそも本当に解毒剤をこっちに渡すなんてことをこいつに期待してはいない。
ぽたぽたと床にこぼすと、煙を上げて刺激臭を漂わせて気化していった。
その光景を、忌々しげな表情で睨みつけてくるアガト。
つくづくこいつは外道というか、しかしやってることはけち臭いというか、小悪党というか……やめよ。考えるだけ無駄だわ。
「この、野郎……!」
「はぁ……なんていうか、テンション下がるな、お前の相手してると…………ん?」
その瞬間、視界の端で、師匠が何だか『ん?』って感じの表情になった。
しかし次の瞬間、その師匠の背後に――と言っても、不意打ちするような感じじゃなくて、別に気配も何も隠さずにすーっと現れる感じで、今まで隠れてた奴が姿を見せた。
その光景に、アガトは……ここからどうするか、追い詰められた感じのそれになっていた表情を、地獄に仏を見たようなそれに変えた。下品な小悪党スマイルは残ってるが。
「っ……ウェスカー! 間に合ったか!」
師匠の背後の空間から、滲み出すように現れたウェスカー。
それを見つけたアガトは、矢継ぎ早にまくしたてる。
「おいテメェ、今までどこに行ってやがっ……いや、いい。おい、早く俺を連れてここから逃げろ! お前転移魔法使えんだからできるだろ! なあ!」
そう言われたウェスカーは、目で合図を送る。
アガトにではなく……僕に。
それを受けて、こっちも一応、小さくだがうなずいて……アガトの方に、つかつかと歩き出す。
それに焦ったアガトは、僕から慌てて距離を取りながら――しかしウェスカーは僕らを挟んで反対側に居るので、そっちに近づくのは無理――喚き続ける。
「おい、何してんだ早くしろ! それかこいつら何とかするのに手ぇかせよ! このままじゃ俺ら全滅すんだろうが! 死にてぇのかテメェ!」
「ご安心を、私は死にませんよ…………死ぬのはあなた一人です、アガト」
「………………は?」
一瞬、何を言われたかわからない、という感じの表情になるアガト。
その瞬間、僕は……体をひねって身をかわす。
と同時に……僕の体に隠れて死角になっていたそこから、ウェスカーが放った風の刃が迫り……それを寸前で察知したアガトは、底から飛びのいて回避した。
が、回避しきれずに……
「っ!? がぁあっ!」
足にそれを食らって……あーあー、左足が半分くらいイったな。
あれじゃ早く動くのは無理だな。激痛をこらえれば、動くくらいは何とかできるかもだけど……どっちにせよ、これでこの場からこいつが逃げられる確率はゼロと言っていいだろう。
罠は全滅、敵は集団の上に強い。助けは来ない。袋小路の密室。
おまけに……味方からも見放されている。
「う、ウェスカーっ!? テメェ、一体何を……っ!? う、裏切ったのか!?」
「まさか。ただ……争う必要がなさそうなので、一時的に相互不干渉、というだけです」
『ですよね?』とこっちに視線をやってくるウェスカーに首肯を返す。
まあね、今は無駄に戦ってる場合じゃないし、そういうことなら、ってことで。こいつの場合、損得や相互の目的が絡んでこない限りは、ある程度信用できるし。
それに……別件で話したいこともあったからなあ。
それは後で話すとして、ウェスカーは『わけがわからないよ』的な顔になっているアガトに向けて、いつもの営業スマイルを崩さないままに……おそらくは、決して味方・仲間に向ける者ではないのであろう表情と視線で、淡々と告げる。事務的に。機械的に。
「単刀直入に言います。アガト、貴方はクビです」
「……は……?」
「独断行動、命令違反、他の作戦や構成員への、直接的・間接的な妨害行為……まあ、他にもまだまだありますが、要するに愛想をつかされたということですね」
……だそうだ。
もっとも、僕らはこのこと、階段を下りてる最中に聞いてたんだけどね。あらかじめ。
要するにこいつ、命令に従わずに好き勝手やりまくってたのだ。
裏社会とはいえ、いや裏社会だからこそ、組織のやることにはきちんと連携が必要だ。
命令に違反したり、他の構成員の邪魔になったりするようなのを、そのままにしておくわけがない。よくて追放、最悪処刑ものである。
それでも、今まで最低限やることはやってきたし、戦闘力もそこそこにはあったので、利用価値はあり、とギリギリ判断されてたっぽかったものの……今回、このシャラムスカで幾度も独断行動やら何やらをやらかしたことで、ついに切り捨てられることになったわけだ。
聞けば、あの壁破壊や、僕ら『邪香猫』のメンバーに監視をつけて色々仕様としてたのとか……全部独断だったんだそうだ。
本来『ダモクレス財団』は、『蒼炎』のアザーのテロをバックアップして支援する以外は、この国での動乱に関わるつもりはなかった。しかし、財団で集めた情報――どうやったのか知らんけど、アバドンやら何やらに関することも調査済みだったっぽい――を閲覧したアガトが、勝手に騒ぎをより大きく、より致命的な方向に持っていくために動いたんだそうな。
獣を逃がし、要所要所であちこちにちょっかいを入れて混乱を加速させ、原則として不干渉を厳命されていた僕ら『邪香猫』に敵対行動をとる。
それもおそらくは……私的な感情、私怨でだ。
さすがにもうコレを許されるということはなく……こうしてウェスカーがやってきたわけだ。
助けに、じゃなく……始末しに。
それを理解したアガトの表情が、色々と感情がごっちゃになって……一周回って面白い感じにすらなった。
「っ……ふ、ふざけんな! 何で俺がっ……この国を、大陸を、世界を混乱させるのが『財団』の目的なんだろうが!? だったら俺は何も、その意にそぐわねえことなんてやってねえだろ!」
「あなたそれ、本気で言ってるんですか? ……まあ、それならそれで構いませんがね。そんなことも分からないようなのを置いておくのは無駄ですし」
「俺なんかよりもっと殺した方がいい奴がいるだろ! お前ならっ……化け物みてぇに強いお前なら、こいつら全員ぶっ殺して釣りがくるんじゃねえのかよ! 味方より敵を殺せよ!」
「一体どこから指摘すればいいのやら……あなたはすでに味方ではないし、この方々の大部分は私が勝てるような領域ではありませんよ。そもそも、無能なくせにやる気だけはある味方というのは敵より厄介なんです……総裁の御意向を、聞いても理解できないようなのはね」
これ以上ないってくらいにばっさりと正面から切って捨てるウェスカー。
これで理解できないようなら、パニクってることを差し引いてもどうしようもない無能だ。
「それに、彼は確かに……まあ、敵というか友好的でない相手なのはそうですが、正直な話、あなたよりは信頼できますよ? 実力や技術力もそうですが、騙そうとしなければ誠実に応対してくれる相手ですので。まあ、精神的に未成熟な面があるのは少々不安要素ではありますが」
「本人を目の前にして好き放題言うね、お前……」
「お気を悪くされたのであれば申し訳ありません。ですが事実、ダモクレス財団の中では……あなたを含め『邪香猫』や、『女楼蜘蛛』の元メンバーの方々は軒並み高評価ですからね。我々の『本来の目的』に照らして考えても、あなた方は優位の人材ですし」
「あの……何だ、『全世界強制たたき上げサバイバル計画』? それで褒められても微妙な気分……まあ、信頼されてるのは多少は嬉しいし、僕自身お前はある程度信用してるけどね。言い方パクることになるけど、お互いに騙そうとしない限りは」
そんな軽口を叩きあっていると、何だか……暗い、鬱屈した感情を押し殺したような感じで、
「……何でだ……!」
「うん?」
「はい?」
同時に聞き返し、そっちを見る僕とウェスカー。
足の痛みでうずくまってる、アガトの方を。
「何で……敵のテメェが評価されて、俺が切り捨てられるんだ……! 何で、お前みたいな適当なのが生きて、俺が殺されんだ!」
……多分、僕に言ってるっぽい。
アガトは、最初の方にあった余裕はもうきれいに消えて失せて、ギリギリと歯を噛みしめ鳴らしながら、喉の奥から振り絞るような声で叫ぶ。演技とかは多分入ってない、心からの本音だ。
「何で、大事に育てられたテメェみてぇなのがいい思いをして、俺が……血反吐吐いてここまで這いあがってきた俺が切り捨てられて死ななきゃならねえんだ! 納得できるか! 何で……何でお前だけが! 何で今回もお前が!?」
「…………」
「同じ親の腹から生まれて! 引き取られた先が違ったってだけで! 何でお前だけがいつもいい思いをしてやがるんだぁあああぁ!」
「……え?」
そんな絶叫に……ソニアとソフィーが、驚いたような表情を浮かべ……僕とアガトの間で視線を行き来させる。
その表情には、次第に戸惑いと驚愕が色濃く浮かんでいく。
僕とアガト。
年も近い。背丈も割と近い。髪も、どっちも黒髪黒目。
あと……参考になるかは微妙だが、戦闘スタイルも近い。どっちも格闘型だ。
今は直接戦ってはいないけど……ソニアは僕とこいつの戦闘を数日前に見てるからな、それも知ってるだろう。
そして、今の、とても演技には見えない絶叫を聞いて……2人とも、『まさか』って感じの表情になっている。
……その2人だけだけどね。
他のメンバーには、このことについては、あらかじめ話してあるから。僕の見解を。
「み、ミナト様……? そ、その男、今……よもや、ミナト殿とその男は……?」
うろたえつつ、ソフィーが再びアガトに視線をやると、アガトは『くくく……』と、ちょっと頭の方を心配したくなるような感じで笑い始め、
「無駄だ、そいつは知らねえさ。無理もねえ、記録には一切残ってねえことだ……だがな、事実なんだよ。ミナト・キャドリーユ……! お前は……俺の、双子の弟なんだよ!」
鬼の形相で僕を睨みながら、そう言い切って……アガトは懐から何かを取り出した。
それは……布?
いや、だいぶくたびれてるけど……ハンカチ?
「教えてやるよ、ミナト・キャドリーユ……俺の、俺たち兄弟の出生の秘密を……そして、お前がぬくぬくと大事に育てられてる間、俺がどんな思いで育ってきたのかをな!」
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