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第16章 摩天楼の聖女
第308話 真実
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最近仕事がやたら忙しくなってきたので、更新に間が空くようになるかもしれません……
人減らしといて仕事増やさないでほしい今日この頃……
そんなタイミングでこんな話投下するのもどうなんだろうと思いつつ、第308話、どうぞ。
*******************
アガトは、数年前まで、当時まだ『リアロストピア』と呼ばれていた国で暮らしていた。
ごく一般、というよりも、この国では普通だが……かなり貧しい生活水準の家に生まれ、そこで普通に育っていった、その国の基準からすればごく普通の少年だった。
決して恵まれているとは言えない生活環境。
未だにクーデターの傷跡の残る、紛争の続く国で、両親と共に生きていた。
肉体労働で得られるわずかな賃金でどうにか食料や物資を手に入れて食いつないでいた。
スラムに住むような者達に比べればまだまし、と言える程度の、貧しく苦しい暮らしだった。
そんなある日、家の掃除をしていたアガトが、戸棚の奥で小箱に入れられて、隠すようにして保管されていた1枚のハンカチを見つけたことをきっかけに……彼の人生は狂いだす。
当時、流行病のせいで彼の父親はすでに死んでいた。
連れ合いに先立たれ、疲れ切った様子の母親に、彼はこのハンカチ……自分の名前の入っている、明らかに高級品だとわかるそれが何なのかを聞いた。
そして、母親から告げられたのは、衝撃と言う他ない内容。
アガトが……自分が、リアロストピアの前身である『ベイオリア』の王族の末裔であること。
王妃アドリアナの子供として生まれたものの、双子で生まれたことや、難産でアドリアナが死んだことで不吉とみなされ、忌み子として殺されるはずだったこと。
秘密裏に逃がされ、その里親として自分たちが選ばれたこと。
その際に、名前の入ったハンカチをもらって、今まで持っていたこと。
そして今まで、本人であるアガトにもそれを告げず、一庶民の子として育ててきたこと。
それらを、昔を思い出すようにしながら……黙っていてすまなかったと、涙ながらに謝罪しながら……アガトの養母は告げた。
そして、その数日後……自らも流行病でこの世を去った。
☆☆☆
「そっから先は……聞いててもつまらねえし、話したくもねえ話だ。ただ、裏の世界に入って……今まで自分を鍛えながら、死に物狂いで生きて来た、ってだけだ……お前と違ってな!」
僕の顔面目掛けて、アガトは黒い籠手を装着した拳を振りぬいてくる。
一般人が相手なら、一撃で死亡確定。骨まで粉々に砕ける威力のそれだ。
しかも、どうやらこないだ戦った時は全力じゃなかったようで……そこに仕込まれていたギミックまで使って攻撃してきた。
拳打と同時に、火薬か何かが爆発するみたいで……追加でこっちにダメージを与えてくる。
結構な威力だな……なるほど、壁とか壊してたのはコレか? 威力の調節もできるみたいだし……射出すらできるようだ。遠距離武器にもなるのか。
まあ……そんな小細工で今更僕がどうにかなるわけでもないが。
正面からそれをガードで受け止め、直後に爆発するものの、それでも僕は傷一つ負わない。というか、服に焦げ跡すらつかない。
ちっ、と舌打ちするアガトは、すぐさま飛び退って僕から距離をとるものの……ステップの速さが違う。ノータイムで僕はそれに踏み込んで追いつき、みぞおちに一発。
体勢を崩したアガトの足を蹴って払い、床に倒れ込むところにサッカーキック。
壁までふっとんだアガトにさらに追撃で踏みつけ……しかしこれは転がってかわされる。
そのまま立ち上がっ……というか、体のばねではね起きたアガトは、壁を蹴って立体的に動いて僕の真横に回り込む。で、蹴りが飛んでくる。
が、今度は僕はそれを頭突きで迎撃。相殺。
空中で勢いを殺されて無防備になったアガトを、かかと落としで撃ち落とす。
アガトはガードはしたものの、背中から墜落……ああ、受け身失敗して頭打ったな。
それでもすぐに転がって飛び退って距離を取れるのは、場慣れしてるってことかね。
話の途中からこんな感じで喧嘩吹っかけられて、僕もそれに応じて……主に体術で戦ってるわけなんだが、もうずっとこんな感じだ。
自画自賛になるが、ぶっちゃけた話、実力差は歴然である。
確かに一流の枠内には入るレベルだろう。冒険者ランクで言えば、AAは確実……AAAに片足突っ込んでるかもしれない。
軍とか傭兵団でも優遇され、状況とか条件によっては賓客扱いされてもおかしくはない。
けど、その程度で僕と戦えると思ったら大間違いだ。
ひけらかすつもりはないが、だからって無駄に卑下する気もない。今更僕がAAだのAAA程度に遅れなんて取りゃしない。
隠し持ってたらしい薬か何かで治したらしいが、さっきウェスカーから受けた足の傷の影響か……機動力も満足でない感じが伺える。
そもそも、この程度の攻撃じゃ、直撃したって僕には痛打にはならない。火薬も、毒物も効かない……決め手の火力に欠ける。どうしようもない状態だ。
……そのくらい、わかってると思うんだけどな。向こうも。
けど、そんなことは見えていない……あるいは、そうであっても関係ないとばかりに苛烈に攻め立ててくる。
まるで、僕のことが憎くて憎くてしょうがないとばかり。
まあ、その理由も、今の説明で分かったんだけどね。
要するにアレだ、嫉妬だ。
アガトは、決して恵まれているとは言えない環境で育った。貧しい暮らしの少年時代を過ごし、裏社会に入ってからも……こっちは詳しくは聞いていないが、まあ、色々あったんだろう。苦労して、つらい目に会って、それでどうにかここまで上り詰めた。
それに対して……まあ、これはこいつの知ってる限りの情報で、なんだろうけど……僕は、優しい親の元で何不自由なく暮らし、才能にも恵まれ、鍛えられて強くなり、仲間たちと順風満帆な冒険者ライフを謳歌している……ってな感じに見えているわけだ。実際そうだけど。
同じ双子の兄弟なのに、何でこんなに違うんだ。
何で俺だけ苦労して、あいつは幸せそうなんだ。そんなの納得できない。
突き詰めれば、こいつの主張はこれに尽きる。
……こういう言い方はアレだけど、まあ、ありがちだな。
あの会談の時からずっと僕に向けられてきた敵意やいらだちの正体はこれか。納得した。
「認められるか……お前だけが幸せになって、俺だけがこんな、惨めな負け犬のまま終わるなんて……認められるか……!」
「ありがちな返し方だろうけどあえて。お前に認められる必要があるわけ? つか、僕は僕の努力の結果としてこんだけ強くなったし、仲間とか友達にも恵まれてるわけだけど。お前に文句つけられる筋合いないよ」
って言ってもこいつは、
「知ったことか! 俺は……お前を絶対に認めねぇっ! お前の全部を奪って壊してやらなきゃ……俺と同じように苦しませてやらなきゃ気がすまねえんだよ!」
はい、聞く耳持ってないですね。うん。知ってた。
「ここまで俺が来るのにどれだけ苦しんできたかわかるか!? どれだけのものを犠牲にしてきたか、お前にわかるか!? どれだけ奪われてきたかわかるか!? 生まれてきてすぐに殺されそうになって、地位を奪われたのに始まり……その日暮らしが精いっぱいな中で、搾取されながら生きてきて……独り立ちしてからも、騙されて、奪われて、出し抜かれて……敵しかいない中で牙を研いできた! 挙句の果てに、改造手術まで受けて……それでようやくこの力を手に入れた」
「え゛!?」
改造手術って……マジで? そんなん受けたの? つか、あるの?
とっさにウェスカーに視線をやると、首肯が帰ってきた。
「本当ですよ。ダモクレスの技術の一つで……まあ、素養のある者に限られますが、様々に肉体に手を加えることで、身体能力の向上や潜在能力の発揮などが可能です。無論、リスクも様々なものがありますが」
「いよいよもって悪の秘密結社だな、お前ら……」
「俺がそこまでやって手に入れた力を、当然のように上回って……上から見下してきやがって……! 認められるか! 双子の兄弟であるにも関わらず、違った人生を歩むことになった……預けられた家が違っただけ、たったそれだけの理由で! お前が! もしかしたら、俺がその立場にいたかもしれないのに! ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな!」
……色々と、言いたいことはある。
逆恨みされてることに対して色々と言ってやりたいし、正論ぶつけて論破してやりたいし(そんなに難しくはなさそうだ)、今聞いただけでも色々と自業自得な部分があるから指摘したいし……その他、全体的にこの迷惑野郎は否定して突き返してやりたい。
幼少期のつらい経験とか、その辺が気の毒なのは差し引いても、同情できないレベルだし。
……が、それはそれとして、そろそろいい加減に指摘した方がいい点が1つある。
何か色々、僕が把握してないようなことまでしゃべってくれそうだったから、今まで話の腰を折らずに聞く姿勢で来たし、戦闘にも適度に付き合って来たけど……これ以上ヒートアップすると、会話自体いまいち成立しなくなりそうだ。
……その後、あるいはそれと同時でいいか。
こっちも1つ、確認したいことがあったんだよね……幸いにも、役者はそろってる。
「さて、あらかたしゃべってくれたところで……そろそろこっちも言うこと言わせてもらおうか」
「あぁ!? 俺の話はまだ終わってねえぞ! けっ、スカした態度しやがって……お前が俺の弟だと思うと虫唾が走るぜ、いっそ完璧に他人だったらよかったのによ!」
「それなら安心してくれていいよ? だって僕らは……
……正真正銘、何の関係もない他人だからね」
「……あ?」
僕の言った言葉に、一瞬、アガトも呆気にとられたようだ。
何を言ってんだこいつは、的な顔になってこっちを見返してくる。
というか、部屋の中の空気が全体的にそんな感じになってるな。
ナナとか師匠とか、一応冷静さを保ってはいるものの、一応疑問の感情は持っているようだ。
まあ、ここまでは話してなかったからね……ごめんね、今までちょっと確証がなくて。
表面上も実際も、全く動揺してないのは……あいつだけか。
数秒間をあけて、最初に口を開いたのは、アガトだった。
「はっ……なるほどな。テメェも俺が兄貴だとは認めたくねえってわけか。いいぜ、それならそういうことにしておいてや……」
「いや、そうじゃなくて」
それを遮って言う僕。
続けて、もっと正確にというか、具体的かつ誤解のできないように、はっきり言う。
「何かお前本気で誤解してるっぽいからきちんと訂正しとくけどさ、僕とお前、本当に血縁関係ないからね? どうしてそんな風に勘違いしてんのかは知らないけど」
「……何だと?」
最初はてっきり、『僕の兄』を名乗って動揺させる作戦で、こいつはそういう演技をしてるんだと思ってた。
けど、会話していくうちに、違うと気づいた。
こいつは本気で、自分は僕の兄だと思ってる。そう信じている、と。
だが、違う。
僕にははっきりわかる。こいつは……僕の兄じゃない。赤の他人だ。
『リアロストピア』の一件で僕が覚醒した、『シャーマン』の能力。
それを使うことで、僕は他人の『魂』の力を感じ取ることができる。そしてそれは、魂の類似性やつながりを読み取ることで、血縁関係とかを察知する、なんていう応用ができる。
DNA鑑定みたいなもんだ。
もっともこれは、自分の魂だからこそそういう芸当が可能なんであって、ホントにDNA鑑定みたいに、誰に対しても同じように使えるわけじゃない。
けど……さすがに自分と血縁関係がある相手かどうか、くらいはわかる。
この間戦った時、そして今日この場で、僕はこいつの魂の気配を感じ取った。
その上で断言しよう。こいつと僕は、赤の他人だ。
気になって、さっきアドリアナ母さんにも協力をお願いして確認したから間違いない。
彼女も、生き別れになったもう1人の子供のことは気になっていたらしく、『もしかしたら』という候補が現れたっていうのには驚いてたし、二つ返事で協力を了承してくれた。
そうして、『指輪』を介して、『キャッツコロニー』にいるアドリアナ母さんにも見てもらったんだけど……診断結果は僕と同じ。他人だった。
多少ブランクはあるとはいえ、本職のシャーマンがそう言うんだ。間違いない。
というか、アドリアナ母さんなら、DNA鑑定もどきとして使うのも可能じゃなかろうか。
……その際にもう1つわかったこともあったんだが、これはもうちょっと後でね。
「何を言ってやがる……てめえ、俺をバカにしてんのか?」
「お前バカにしたって何も得とかないでしょ、うるさいだけで。聞くけどお前、そのお母さんの話と、さっき見せたハンカチ以外に何も証拠とかないんだよね? 僕が兄弟だって」
「はっ、だから嘘だってか!? 確かにな……俺が嘘ついてねぇって証明はできねえよな……だがよ、てめえも多少は知ってるんじゃねえのか? 今俺が言ったことをよ……聞けば、リアロストピアの紛争に巻き込まれて、その時にベイオリア時代の忠臣から話を聞いたらしいじゃねえか。その話の中に、俺が言ったことと同じ話はなかったかよ?」
「結構あるね。それどころか、さっきのハンカチ……僕が拾われた時に持ってたものだ、って母さんに見せられたのと、ぱっと見同じ感じだったし。お揃いであつらえたのかも」
「あぁ? そこまで言うなら何が……」
「それが余計に不思議なんだけどね……赤の他人なのは間違いないのに、何でそんな部分が中途半端につじつまが合ってるのか」
「っ……だから、テメェさっきから何を根拠に俺を他人だって言いきりやがるんだよ!?」
シャーマンの能力……は、説明してもいいんだけど、ややこしいし、眉唾物だから根拠としてはちょっと弱いだろうな。ただでさえこんな感じの相手に、ちゃんと聞いてもらえるかも怪しい。
と、なれば……もっとわかりやすい方の証拠を出すか。
さっきから妙な方向に話が進んでいるのを、『?』を浮かべている感じで聞いている皆さん……おそらくは、水晶玉の向こうのエルクたちもそんな感じであろう中、僕はアガトに問いかける。
「お前さ、こないだ僕と戦った時に……僕が最後にお前に質問したこと覚えてる?」
「あ?」
「聞いたじゃん。ウェスカーと一緒に帰ろうとしてる時に…………『お前、歳いくつ?』って」
「あぁ……聞かれたな。そん時も答えたろ……つーか、今説明したからには、聞かなくてもわかるんじゃねえのかよ! 双子なんだから、お前と同じ18に決まってるだろうが!」
「…………あん?」
その時、会話を聞いていた師匠が何かに気づいたらしい。さすが鋭い。
少しして……ナナや義姉さんも気づいていく。今の言葉に、おかしい部分があることに。
それに対して、ソフィーやソニア、エレノアさんといった、僕の内部事情にそこまで詳しくないメンツは、気づかない。師匠たちの反応に、逆に疑問符を浮かべている。
まあ、知らない人が気づけないのはしょうがない。
けど……おかしいよね、今の会話。というか、今の回答。
僕の双子の兄が、僕と同い年…………って、おかしいよね?
『そうか……『代理出産エピソード』ね……!』
水晶玉の向こうのエルクも、それに気づいて声を上げた。
これを聞いても……まあ、当たり前だけど、事情を知らない人は『?』を浮かべるばかり……しかし、もしも『事情』を知っていた上で気づけていなかった人がいたら、今ので『あっ!』と思ったことだろう。
僕には、他の人にはまずない過去がある。
一度胎児にまで退化して、母さんことリリン・キャドリーユのお腹の中に収められ……10ヶ月の妊娠期間を経て、再び産み落とされたという過去が。
捨てられていた僕を母さんが拾って、治癒魔法も効かないくらいに衰弱してたから、胎児にもどしてお腹に収め、産みなおした……通称『代理出産エピソード』だ。
要するに僕は、アドリアナ母さんから生まれてから……数か月成長した。
その後、その数か月分がリセットされて生まれる前の状態に戻った。
さらに、そこから10か月かけて再び生まれた。
この、リセットされた数か月の分と、母さんのお腹の中で過ごした10ヶ月の分、最初に生まれた時から遅れて『誕生』している。
すなわち、アドリアナ母さんから同時に生まれた『双子』の兄弟がいたとすれば……その1~2年分、僕よりも年上であるはずなのだ。こっちは『産み直し』なんてされてないんだから。
「だから、僕と同い年であるお前が、僕の兄弟なわけがありません。おわかり?」
「な……そんな、バカな……! 嘘だ! 嘘つくんじゃねえ!」
「いや、嘘なんかついてないって……」
「なら、何で俺は……俺は間違いなく、お袋から聞かされたんだぞ! 俺はベイオリアの王家の生き残りだって……双子の弟がいて、ミナトって名前だってことも! お前も、さっきのハンカチに見覚えがあるって言ってただろうが!」
「……そこなんだよなぁ」
僕も不思議なんだよ。なんでそのへんだけ、こいつの話とか物証と僕の情報やら何やらのあれこれが一致してるのかわからない。というかそもそも、こいつが僕と兄弟だって誤解するようになったそもそもの原因がわからない。
こいつの言う通りなら、そのお母さんの言葉を信じて、そう信じるに足る証拠があったからだろう。証言があって、それが事実だったって確認できたからだろう。
けど、僕とこいつは赤の他人。それは確かだ。
だったら何で、こいつのお母さんがそんなでたらめを言ったのか。
何で、それを信じられるような証拠がこいつのところにあったのか。それがわからない。
そのへんも期待してたんだけど、どうもこいつから答えを聞き出すことはできなさそうだ。そもそも知らないっぽいし……さて、どうしたもんか。
と、思っていた時……視界の端にいた、ここまでのやり取りで唯一、全く表情を変えずに話を聞いていた男が挙手して発言した。
「私から、よろしいですか?」
「ウェスカー……?」
何でここでお前が出てくる、とでも言いたげなアガトには構わず、ウェスカーは一歩前に出た。全員の視線が集中する中、ウェスカーはこちらを向いて。
「私から話をする前に1つ……もう1つ証拠を出してみてはいかがでしょう? あなたと彼との間に血縁関係がない、と証明できる道具が1つ、ありますよね?」
「ああ、そうだね……」
その提案で、こいつが何をしようとしているのか察した僕は、収納から、そのアイテムを取り出した。12個の宝玉がちりばめられている、骨董品の鏡を。
水晶玉の向こうで、コレを知っているレジーナが『あっ』と声を上げたのが聞こえた。
彼女も使ったことがあるこれは、『ユミルの目』。ベイオリア王家の人間かどうかを判別できるマジックアイテムだ。王家に連なる人間が魔力を流すと、その血の濃さ……すなわち、本家たる『王家』への立場の近さに応じて、周囲にある宝玉が多く、強く光る。
傍流であるレジーナが使うと、宝玉が5つ、そこそこの明るさで光る。
不本意ながら『本筋』である僕が使うと、12個全部が強く光る。
それ以外の人間が使うと……
「……っ……!」
今のアガトのように、1つも光らないわけだ。
「バカな……嘘だ、ふざけんなこんなも……」
「ハイストップ。壊すなバカ」
なんか『こんなものでたらめだ!』とばかりに叩きつけるなりなんなりして、八つ当たりで壊しそうだったんで、さっと取り上げる。
憎々しげな視線で僕を見てくるアガトだが、それはひとまず無視して……
…………丁度いいや、一緒にやっとくか。
何か言いたそうなアガトはスルーして、僕はスタスタと歩いて部屋を横断する。
『ユミルの目』は収納せず、手に持ったままだ。
で、それを……
「はいコレ」
「どうも」
……部屋の反対側で黙って立っていた、ウェスカーに渡す。
その行為の意味が分からず、本日何度目かの疑問符を浮かべる皆さん(アガト含む)。
それに構わず……こっちは意味が分かっているからだろう。平然と問いかけてくる。
「よろしいので?」
「念のため言っとくけど、あげるって意味じゃないかんね?」
「それは承知しておりますとも。では、失礼して……」
次の瞬間、
ウェスカーが魔力を流した『ユミルの目』の宝玉が……12個全部光った。
全員の驚愕の視線(アガト含む)が集中する中、僕らはやっぱり何事もなかったのように話を続けていた。
もっとも……僕としても、この結果に何も思わないわけじゃない。予想してはいたけど。
「お返ししします」
「どうも……そっちは知ってたの?」
「知ったのは最近ですがね。後で詳しくお話ししますよ」
「頼むわ。割と興味あるし……アレが勘違いしてたのも含めて。お前一枚かんでる?」
「いいえ……まあ、知っていて何も言わなかったのは認めますが、こちらから誘導したことはありませんよ。少なくとも、私は……ですが」
「ふーん……それと、今更お前を兄って呼ぶの抵抗あるんだけど、別に今のままでいいよね?」
「ご自由に。私としても同感ですからね」
人減らしといて仕事増やさないでほしい今日この頃……
そんなタイミングでこんな話投下するのもどうなんだろうと思いつつ、第308話、どうぞ。
*******************
アガトは、数年前まで、当時まだ『リアロストピア』と呼ばれていた国で暮らしていた。
ごく一般、というよりも、この国では普通だが……かなり貧しい生活水準の家に生まれ、そこで普通に育っていった、その国の基準からすればごく普通の少年だった。
決して恵まれているとは言えない生活環境。
未だにクーデターの傷跡の残る、紛争の続く国で、両親と共に生きていた。
肉体労働で得られるわずかな賃金でどうにか食料や物資を手に入れて食いつないでいた。
スラムに住むような者達に比べればまだまし、と言える程度の、貧しく苦しい暮らしだった。
そんなある日、家の掃除をしていたアガトが、戸棚の奥で小箱に入れられて、隠すようにして保管されていた1枚のハンカチを見つけたことをきっかけに……彼の人生は狂いだす。
当時、流行病のせいで彼の父親はすでに死んでいた。
連れ合いに先立たれ、疲れ切った様子の母親に、彼はこのハンカチ……自分の名前の入っている、明らかに高級品だとわかるそれが何なのかを聞いた。
そして、母親から告げられたのは、衝撃と言う他ない内容。
アガトが……自分が、リアロストピアの前身である『ベイオリア』の王族の末裔であること。
王妃アドリアナの子供として生まれたものの、双子で生まれたことや、難産でアドリアナが死んだことで不吉とみなされ、忌み子として殺されるはずだったこと。
秘密裏に逃がされ、その里親として自分たちが選ばれたこと。
その際に、名前の入ったハンカチをもらって、今まで持っていたこと。
そして今まで、本人であるアガトにもそれを告げず、一庶民の子として育ててきたこと。
それらを、昔を思い出すようにしながら……黙っていてすまなかったと、涙ながらに謝罪しながら……アガトの養母は告げた。
そして、その数日後……自らも流行病でこの世を去った。
☆☆☆
「そっから先は……聞いててもつまらねえし、話したくもねえ話だ。ただ、裏の世界に入って……今まで自分を鍛えながら、死に物狂いで生きて来た、ってだけだ……お前と違ってな!」
僕の顔面目掛けて、アガトは黒い籠手を装着した拳を振りぬいてくる。
一般人が相手なら、一撃で死亡確定。骨まで粉々に砕ける威力のそれだ。
しかも、どうやらこないだ戦った時は全力じゃなかったようで……そこに仕込まれていたギミックまで使って攻撃してきた。
拳打と同時に、火薬か何かが爆発するみたいで……追加でこっちにダメージを与えてくる。
結構な威力だな……なるほど、壁とか壊してたのはコレか? 威力の調節もできるみたいだし……射出すらできるようだ。遠距離武器にもなるのか。
まあ……そんな小細工で今更僕がどうにかなるわけでもないが。
正面からそれをガードで受け止め、直後に爆発するものの、それでも僕は傷一つ負わない。というか、服に焦げ跡すらつかない。
ちっ、と舌打ちするアガトは、すぐさま飛び退って僕から距離をとるものの……ステップの速さが違う。ノータイムで僕はそれに踏み込んで追いつき、みぞおちに一発。
体勢を崩したアガトの足を蹴って払い、床に倒れ込むところにサッカーキック。
壁までふっとんだアガトにさらに追撃で踏みつけ……しかしこれは転がってかわされる。
そのまま立ち上がっ……というか、体のばねではね起きたアガトは、壁を蹴って立体的に動いて僕の真横に回り込む。で、蹴りが飛んでくる。
が、今度は僕はそれを頭突きで迎撃。相殺。
空中で勢いを殺されて無防備になったアガトを、かかと落としで撃ち落とす。
アガトはガードはしたものの、背中から墜落……ああ、受け身失敗して頭打ったな。
それでもすぐに転がって飛び退って距離を取れるのは、場慣れしてるってことかね。
話の途中からこんな感じで喧嘩吹っかけられて、僕もそれに応じて……主に体術で戦ってるわけなんだが、もうずっとこんな感じだ。
自画自賛になるが、ぶっちゃけた話、実力差は歴然である。
確かに一流の枠内には入るレベルだろう。冒険者ランクで言えば、AAは確実……AAAに片足突っ込んでるかもしれない。
軍とか傭兵団でも優遇され、状況とか条件によっては賓客扱いされてもおかしくはない。
けど、その程度で僕と戦えると思ったら大間違いだ。
ひけらかすつもりはないが、だからって無駄に卑下する気もない。今更僕がAAだのAAA程度に遅れなんて取りゃしない。
隠し持ってたらしい薬か何かで治したらしいが、さっきウェスカーから受けた足の傷の影響か……機動力も満足でない感じが伺える。
そもそも、この程度の攻撃じゃ、直撃したって僕には痛打にはならない。火薬も、毒物も効かない……決め手の火力に欠ける。どうしようもない状態だ。
……そのくらい、わかってると思うんだけどな。向こうも。
けど、そんなことは見えていない……あるいは、そうであっても関係ないとばかりに苛烈に攻め立ててくる。
まるで、僕のことが憎くて憎くてしょうがないとばかり。
まあ、その理由も、今の説明で分かったんだけどね。
要するにアレだ、嫉妬だ。
アガトは、決して恵まれているとは言えない環境で育った。貧しい暮らしの少年時代を過ごし、裏社会に入ってからも……こっちは詳しくは聞いていないが、まあ、色々あったんだろう。苦労して、つらい目に会って、それでどうにかここまで上り詰めた。
それに対して……まあ、これはこいつの知ってる限りの情報で、なんだろうけど……僕は、優しい親の元で何不自由なく暮らし、才能にも恵まれ、鍛えられて強くなり、仲間たちと順風満帆な冒険者ライフを謳歌している……ってな感じに見えているわけだ。実際そうだけど。
同じ双子の兄弟なのに、何でこんなに違うんだ。
何で俺だけ苦労して、あいつは幸せそうなんだ。そんなの納得できない。
突き詰めれば、こいつの主張はこれに尽きる。
……こういう言い方はアレだけど、まあ、ありがちだな。
あの会談の時からずっと僕に向けられてきた敵意やいらだちの正体はこれか。納得した。
「認められるか……お前だけが幸せになって、俺だけがこんな、惨めな負け犬のまま終わるなんて……認められるか……!」
「ありがちな返し方だろうけどあえて。お前に認められる必要があるわけ? つか、僕は僕の努力の結果としてこんだけ強くなったし、仲間とか友達にも恵まれてるわけだけど。お前に文句つけられる筋合いないよ」
って言ってもこいつは、
「知ったことか! 俺は……お前を絶対に認めねぇっ! お前の全部を奪って壊してやらなきゃ……俺と同じように苦しませてやらなきゃ気がすまねえんだよ!」
はい、聞く耳持ってないですね。うん。知ってた。
「ここまで俺が来るのにどれだけ苦しんできたかわかるか!? どれだけのものを犠牲にしてきたか、お前にわかるか!? どれだけ奪われてきたかわかるか!? 生まれてきてすぐに殺されそうになって、地位を奪われたのに始まり……その日暮らしが精いっぱいな中で、搾取されながら生きてきて……独り立ちしてからも、騙されて、奪われて、出し抜かれて……敵しかいない中で牙を研いできた! 挙句の果てに、改造手術まで受けて……それでようやくこの力を手に入れた」
「え゛!?」
改造手術って……マジで? そんなん受けたの? つか、あるの?
とっさにウェスカーに視線をやると、首肯が帰ってきた。
「本当ですよ。ダモクレスの技術の一つで……まあ、素養のある者に限られますが、様々に肉体に手を加えることで、身体能力の向上や潜在能力の発揮などが可能です。無論、リスクも様々なものがありますが」
「いよいよもって悪の秘密結社だな、お前ら……」
「俺がそこまでやって手に入れた力を、当然のように上回って……上から見下してきやがって……! 認められるか! 双子の兄弟であるにも関わらず、違った人生を歩むことになった……預けられた家が違っただけ、たったそれだけの理由で! お前が! もしかしたら、俺がその立場にいたかもしれないのに! ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな!」
……色々と、言いたいことはある。
逆恨みされてることに対して色々と言ってやりたいし、正論ぶつけて論破してやりたいし(そんなに難しくはなさそうだ)、今聞いただけでも色々と自業自得な部分があるから指摘したいし……その他、全体的にこの迷惑野郎は否定して突き返してやりたい。
幼少期のつらい経験とか、その辺が気の毒なのは差し引いても、同情できないレベルだし。
……が、それはそれとして、そろそろいい加減に指摘した方がいい点が1つある。
何か色々、僕が把握してないようなことまでしゃべってくれそうだったから、今まで話の腰を折らずに聞く姿勢で来たし、戦闘にも適度に付き合って来たけど……これ以上ヒートアップすると、会話自体いまいち成立しなくなりそうだ。
……その後、あるいはそれと同時でいいか。
こっちも1つ、確認したいことがあったんだよね……幸いにも、役者はそろってる。
「さて、あらかたしゃべってくれたところで……そろそろこっちも言うこと言わせてもらおうか」
「あぁ!? 俺の話はまだ終わってねえぞ! けっ、スカした態度しやがって……お前が俺の弟だと思うと虫唾が走るぜ、いっそ完璧に他人だったらよかったのによ!」
「それなら安心してくれていいよ? だって僕らは……
……正真正銘、何の関係もない他人だからね」
「……あ?」
僕の言った言葉に、一瞬、アガトも呆気にとられたようだ。
何を言ってんだこいつは、的な顔になってこっちを見返してくる。
というか、部屋の中の空気が全体的にそんな感じになってるな。
ナナとか師匠とか、一応冷静さを保ってはいるものの、一応疑問の感情は持っているようだ。
まあ、ここまでは話してなかったからね……ごめんね、今までちょっと確証がなくて。
表面上も実際も、全く動揺してないのは……あいつだけか。
数秒間をあけて、最初に口を開いたのは、アガトだった。
「はっ……なるほどな。テメェも俺が兄貴だとは認めたくねえってわけか。いいぜ、それならそういうことにしておいてや……」
「いや、そうじゃなくて」
それを遮って言う僕。
続けて、もっと正確にというか、具体的かつ誤解のできないように、はっきり言う。
「何かお前本気で誤解してるっぽいからきちんと訂正しとくけどさ、僕とお前、本当に血縁関係ないからね? どうしてそんな風に勘違いしてんのかは知らないけど」
「……何だと?」
最初はてっきり、『僕の兄』を名乗って動揺させる作戦で、こいつはそういう演技をしてるんだと思ってた。
けど、会話していくうちに、違うと気づいた。
こいつは本気で、自分は僕の兄だと思ってる。そう信じている、と。
だが、違う。
僕にははっきりわかる。こいつは……僕の兄じゃない。赤の他人だ。
『リアロストピア』の一件で僕が覚醒した、『シャーマン』の能力。
それを使うことで、僕は他人の『魂』の力を感じ取ることができる。そしてそれは、魂の類似性やつながりを読み取ることで、血縁関係とかを察知する、なんていう応用ができる。
DNA鑑定みたいなもんだ。
もっともこれは、自分の魂だからこそそういう芸当が可能なんであって、ホントにDNA鑑定みたいに、誰に対しても同じように使えるわけじゃない。
けど……さすがに自分と血縁関係がある相手かどうか、くらいはわかる。
この間戦った時、そして今日この場で、僕はこいつの魂の気配を感じ取った。
その上で断言しよう。こいつと僕は、赤の他人だ。
気になって、さっきアドリアナ母さんにも協力をお願いして確認したから間違いない。
彼女も、生き別れになったもう1人の子供のことは気になっていたらしく、『もしかしたら』という候補が現れたっていうのには驚いてたし、二つ返事で協力を了承してくれた。
そうして、『指輪』を介して、『キャッツコロニー』にいるアドリアナ母さんにも見てもらったんだけど……診断結果は僕と同じ。他人だった。
多少ブランクはあるとはいえ、本職のシャーマンがそう言うんだ。間違いない。
というか、アドリアナ母さんなら、DNA鑑定もどきとして使うのも可能じゃなかろうか。
……その際にもう1つわかったこともあったんだが、これはもうちょっと後でね。
「何を言ってやがる……てめえ、俺をバカにしてんのか?」
「お前バカにしたって何も得とかないでしょ、うるさいだけで。聞くけどお前、そのお母さんの話と、さっき見せたハンカチ以外に何も証拠とかないんだよね? 僕が兄弟だって」
「はっ、だから嘘だってか!? 確かにな……俺が嘘ついてねぇって証明はできねえよな……だがよ、てめえも多少は知ってるんじゃねえのか? 今俺が言ったことをよ……聞けば、リアロストピアの紛争に巻き込まれて、その時にベイオリア時代の忠臣から話を聞いたらしいじゃねえか。その話の中に、俺が言ったことと同じ話はなかったかよ?」
「結構あるね。それどころか、さっきのハンカチ……僕が拾われた時に持ってたものだ、って母さんに見せられたのと、ぱっと見同じ感じだったし。お揃いであつらえたのかも」
「あぁ? そこまで言うなら何が……」
「それが余計に不思議なんだけどね……赤の他人なのは間違いないのに、何でそんな部分が中途半端につじつまが合ってるのか」
「っ……だから、テメェさっきから何を根拠に俺を他人だって言いきりやがるんだよ!?」
シャーマンの能力……は、説明してもいいんだけど、ややこしいし、眉唾物だから根拠としてはちょっと弱いだろうな。ただでさえこんな感じの相手に、ちゃんと聞いてもらえるかも怪しい。
と、なれば……もっとわかりやすい方の証拠を出すか。
さっきから妙な方向に話が進んでいるのを、『?』を浮かべている感じで聞いている皆さん……おそらくは、水晶玉の向こうのエルクたちもそんな感じであろう中、僕はアガトに問いかける。
「お前さ、こないだ僕と戦った時に……僕が最後にお前に質問したこと覚えてる?」
「あ?」
「聞いたじゃん。ウェスカーと一緒に帰ろうとしてる時に…………『お前、歳いくつ?』って」
「あぁ……聞かれたな。そん時も答えたろ……つーか、今説明したからには、聞かなくてもわかるんじゃねえのかよ! 双子なんだから、お前と同じ18に決まってるだろうが!」
「…………あん?」
その時、会話を聞いていた師匠が何かに気づいたらしい。さすが鋭い。
少しして……ナナや義姉さんも気づいていく。今の言葉に、おかしい部分があることに。
それに対して、ソフィーやソニア、エレノアさんといった、僕の内部事情にそこまで詳しくないメンツは、気づかない。師匠たちの反応に、逆に疑問符を浮かべている。
まあ、知らない人が気づけないのはしょうがない。
けど……おかしいよね、今の会話。というか、今の回答。
僕の双子の兄が、僕と同い年…………って、おかしいよね?
『そうか……『代理出産エピソード』ね……!』
水晶玉の向こうのエルクも、それに気づいて声を上げた。
これを聞いても……まあ、当たり前だけど、事情を知らない人は『?』を浮かべるばかり……しかし、もしも『事情』を知っていた上で気づけていなかった人がいたら、今ので『あっ!』と思ったことだろう。
僕には、他の人にはまずない過去がある。
一度胎児にまで退化して、母さんことリリン・キャドリーユのお腹の中に収められ……10ヶ月の妊娠期間を経て、再び産み落とされたという過去が。
捨てられていた僕を母さんが拾って、治癒魔法も効かないくらいに衰弱してたから、胎児にもどしてお腹に収め、産みなおした……通称『代理出産エピソード』だ。
要するに僕は、アドリアナ母さんから生まれてから……数か月成長した。
その後、その数か月分がリセットされて生まれる前の状態に戻った。
さらに、そこから10か月かけて再び生まれた。
この、リセットされた数か月の分と、母さんのお腹の中で過ごした10ヶ月の分、最初に生まれた時から遅れて『誕生』している。
すなわち、アドリアナ母さんから同時に生まれた『双子』の兄弟がいたとすれば……その1~2年分、僕よりも年上であるはずなのだ。こっちは『産み直し』なんてされてないんだから。
「だから、僕と同い年であるお前が、僕の兄弟なわけがありません。おわかり?」
「な……そんな、バカな……! 嘘だ! 嘘つくんじゃねえ!」
「いや、嘘なんかついてないって……」
「なら、何で俺は……俺は間違いなく、お袋から聞かされたんだぞ! 俺はベイオリアの王家の生き残りだって……双子の弟がいて、ミナトって名前だってことも! お前も、さっきのハンカチに見覚えがあるって言ってただろうが!」
「……そこなんだよなぁ」
僕も不思議なんだよ。なんでそのへんだけ、こいつの話とか物証と僕の情報やら何やらのあれこれが一致してるのかわからない。というかそもそも、こいつが僕と兄弟だって誤解するようになったそもそもの原因がわからない。
こいつの言う通りなら、そのお母さんの言葉を信じて、そう信じるに足る証拠があったからだろう。証言があって、それが事実だったって確認できたからだろう。
けど、僕とこいつは赤の他人。それは確かだ。
だったら何で、こいつのお母さんがそんなでたらめを言ったのか。
何で、それを信じられるような証拠がこいつのところにあったのか。それがわからない。
そのへんも期待してたんだけど、どうもこいつから答えを聞き出すことはできなさそうだ。そもそも知らないっぽいし……さて、どうしたもんか。
と、思っていた時……視界の端にいた、ここまでのやり取りで唯一、全く表情を変えずに話を聞いていた男が挙手して発言した。
「私から、よろしいですか?」
「ウェスカー……?」
何でここでお前が出てくる、とでも言いたげなアガトには構わず、ウェスカーは一歩前に出た。全員の視線が集中する中、ウェスカーはこちらを向いて。
「私から話をする前に1つ……もう1つ証拠を出してみてはいかがでしょう? あなたと彼との間に血縁関係がない、と証明できる道具が1つ、ありますよね?」
「ああ、そうだね……」
その提案で、こいつが何をしようとしているのか察した僕は、収納から、そのアイテムを取り出した。12個の宝玉がちりばめられている、骨董品の鏡を。
水晶玉の向こうで、コレを知っているレジーナが『あっ』と声を上げたのが聞こえた。
彼女も使ったことがあるこれは、『ユミルの目』。ベイオリア王家の人間かどうかを判別できるマジックアイテムだ。王家に連なる人間が魔力を流すと、その血の濃さ……すなわち、本家たる『王家』への立場の近さに応じて、周囲にある宝玉が多く、強く光る。
傍流であるレジーナが使うと、宝玉が5つ、そこそこの明るさで光る。
不本意ながら『本筋』である僕が使うと、12個全部が強く光る。
それ以外の人間が使うと……
「……っ……!」
今のアガトのように、1つも光らないわけだ。
「バカな……嘘だ、ふざけんなこんなも……」
「ハイストップ。壊すなバカ」
なんか『こんなものでたらめだ!』とばかりに叩きつけるなりなんなりして、八つ当たりで壊しそうだったんで、さっと取り上げる。
憎々しげな視線で僕を見てくるアガトだが、それはひとまず無視して……
…………丁度いいや、一緒にやっとくか。
何か言いたそうなアガトはスルーして、僕はスタスタと歩いて部屋を横断する。
『ユミルの目』は収納せず、手に持ったままだ。
で、それを……
「はいコレ」
「どうも」
……部屋の反対側で黙って立っていた、ウェスカーに渡す。
その行為の意味が分からず、本日何度目かの疑問符を浮かべる皆さん(アガト含む)。
それに構わず……こっちは意味が分かっているからだろう。平然と問いかけてくる。
「よろしいので?」
「念のため言っとくけど、あげるって意味じゃないかんね?」
「それは承知しておりますとも。では、失礼して……」
次の瞬間、
ウェスカーが魔力を流した『ユミルの目』の宝玉が……12個全部光った。
全員の驚愕の視線(アガト含む)が集中する中、僕らはやっぱり何事もなかったのように話を続けていた。
もっとも……僕としても、この結果に何も思わないわけじゃない。予想してはいたけど。
「お返ししします」
「どうも……そっちは知ってたの?」
「知ったのは最近ですがね。後で詳しくお話ししますよ」
「頼むわ。割と興味あるし……アレが勘違いしてたのも含めて。お前一枚かんでる?」
「いいえ……まあ、知っていて何も言わなかったのは認めますが、こちらから誘導したことはありませんよ。少なくとも、私は……ですが」
「ふーん……それと、今更お前を兄って呼ぶの抵抗あるんだけど、別に今のままでいいよね?」
「ご自由に。私としても同感ですからね」
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