魔拳のデイドリーマー

osho

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第16章 摩天楼の聖女

第314話 黒白共闘

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「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁあ゛あぁあ゛ああ―――っ!!!」

目の前で、アガト…………だったモノが、変容していく。
改造手術の副作用というか、アガト自身のバカの結果か。

斬れていた首と胴体はくっついたものの、何か明らかにそれを超えて体が変わっていくんだが……完全に人間の容姿を逸脱したものがあちこちに生えてきてるぞ?

異様に髪とか爪が伸びて鋭くなるのはまあいい……けど、明らかにさっきまでなかった、角とか生えてきてるし、肌は黒ずんで、所々鱗とか……口の中も、全部牙みたいになってんな。
体つきもさっきまでよりがっしりして、両腕はさらに太く……っておい、伸びた爪がアレ、指と一体化した? つか、背中に、蝙蝠みたいな羽が……

「改造手術の段階で、色々な生き物の体組織を取り込んだり、エキスその他を注入しましたからね……それらが暴走しているのでしょう。もう収まりそうですが」

「異形化した状態で収まってもね……完全に怪人じゃん。しかも、特撮的な意味での」

中にスーツアクターが入ってても違和感ないレベルだ。

まあ、どうでもいいか。
どんな見た目であれ……やることは変わらん。

「ア゛ア゛アァァア゛ァア゛アァ――――ッ!!」

そんな風に考えたのを察したわけじゃないだろうが……雄叫びを上げて、こっちに襲い掛かってくるアガト(怪人態)。
分かりやすくていい。向かってくるなら――来なくてもだけど――倒すだけだ。

怪人相手に戦うなんていう、特撮ヒーロー的なシチュエーションにちょっとwktkしちゃったのは心の中に押し込めておいて……行くか。

爪と融合して、指自体の先端がとがってるような状態になってるその手を、叩きつけるように振り下ろしてくるのをかわし……僕とウェスカーは左右に跳んで分かれる。

直後、ウェスカーは無視して僕の方を追いかけて来たアガト。
恨みが強く残ってるのか、はたまた偶然か……どっちでもいいか。

今度は……さっき戦った時のように、しっかり拳を握って――掌にアレ刺さらないんだろうか――こっちに突き出してくる。感じるプレッシャーはかなりのもんだ。
単純に威力が、ってだけだろうが……一応、ホントに強化はされてるみたいだな。

二度、三度と拳を繰り出し、それを避けられ……そこを隙と見たウェスカーが、背後から剣を振り下ろす。

しかし……

「……ぉ?」

その剣は、肩口からアガトを切り裂く……かと思いきや、まるで後ろに目がついているかのように、アガトは振り向きざまに拳を振るってそれをはじいた。

それにはウェスカーも驚いていたが、それで取り乱すようなことはなく、飛び退って追撃を回避。
すると、アガトも僕とウェスカー、両方から距離を取る感じで跳んで退いた。

……思ったより思考能力残ってる? いや、むしろこれは……本能的な所で戦ってるか?

「ぅぅうぅう……!」

すると今度は、両腕に魔力を収束させて光弾を放つ。
僕とウェスカー両方をめがけて何発も連射されたものの、普通に弾いて反らせる程度の威力だったので問題はない。僕は手刀で、ウェスカーは剣で弾き飛ばした。

すると今度は、手を手刀の形にして……その爪を剣みたいに長く、鋭く伸ばして襲い掛かってくる。指五本全部だ、見た目的にもかなり凶悪である。

「オレガ、オ゛レガァァアアァア!!」

「……中途半端に自我が残ってんのかな?」

「残留思念、とでも言った方がいいくらいには希薄ですね。いずれにせよ、意思疎通は無理そうだ」

「ア゛ア゛アァァア゛ァア゛アァ――――ッ!!」

縦横無尽にその両腕を振り回し、地面に、瓦礫に、傷を刻み込んだり、破壊したりしながら襲い来るアガトは、僕らが跳んでよけた直後……着地の瞬間、一瞬動きが止まったところに、自分は地を蹴って勢いをつけて突っ込んできた。

手を開き、ギラリと光る5本爪を掲げるようにして上から振り下ろした、その攻撃を……

「まあでも……想像の域を出るような強化じゃないな」

がきん、と、

硬質な音を響かせて……僕は、手甲でその一撃を受け止めた。

「姿が変わったからって、ちょっと様子見の姿勢でいたが……再三言ってる気がするけど、やることは変わらないんだった。……じゃ、さっさとやるか」

もう一度、ぎぃん、と音を立てて手甲で爪をはじくと同時に、もう片方の拳をアガトのみぞおちに叩き込む。その衝撃で、体は『く』の字に折れ曲がる。

しかし、常人なら一撃死確実、相当に鍛えていても、呼吸困難で悶絶レベルの一撃を受けても……ひょっとしたら痛覚があるかも怪しい状態のアガトは、すぐに体勢を立て直して、今度は僕の喉笛を噛みちぎろうと、ぐあっと口を開いて……

……その口の中に、僕の背後からウェスカーが放った魔力弾が着弾して、のけぞっていた。

たたらを踏んだアガトの腹にヤクザキックを決めてさらに後退させ……そこにウェスカーが、鋭く踏み込んで剣を振るう。

すれ違いざまに脇腹を斬りつけ……しかし、表皮か筋肉が頑丈なのか、がぎっ、という硬質なおとがして、さほど大きな傷はできなかった。

……が、ウェスカーの攻撃はそれで終わらず、そのまま通り抜ける……とみせかけて一瞬で踵を返し、振り向きざまに逆袈裟に一太刀、さらに文字通り返す刀で袈裟懸けにもう一太刀。

1発1発にかなりの魔力が込められ、剣の軌跡が光って見える。光熱で焼けたのか、流血する様子はない……いや、もともとそんな感じだったか。

常人なら余波だけで死ねる威力の斬撃を何度も浴びて生きてるってのは……まあ、頑丈さだけは評価していいものかね。いやでも、明らかにまっとうな生物やめた状態でだからな……。

「がああぁぁああぁあ!! オ゛マ゛エラガああぁぁああぁあ」

そして、やはり痛覚はないのかもしれない。深さにして体の3分の1くらいにはなるくらい切り裂かれてるのに、ほぼ影響ないくらいの動きでさらに反撃してくる。ざっくりいってる傷の分、多少動きづらそうではあるが、その程度か。
横に薙ぎ払うように腕を振るい、僕とウェスカーを上下に分断しようとするアガト。

が、それが振るわれる直前で、ウェスカーの金縛りで動きが止まり……その瞬間に踏み込んだ僕の拳が、顔面、鳩尾、顎、側頭部に裏拳、そしてまた顔面の順で突き刺さる。

最後の1発―――ひねりの入ったストレートパンチの威力で、アガトは牙を半分くらい砕かれ、きりもみしながら吹っ飛んでいった。

――が、矢のようなスピードで走り、そこに追いつくウェスカー。

「それではせっかくですし、新技の披露でも……『グランドクロス』」

一呼吸で素早く縦横、十文字に剣を走らせたウェスカー。
その軌跡がさっきと同じように……しかし数倍明るく、強烈に輝き、十字の光刃になる。周囲にやばいくらいの衝撃波をまき散らしながら飛んでいったそれは、アガトに直撃して大傷を刻んだ。

しかし、それに耐えて見せたアガトは、後ろに弾いて反らすようにして、ウェスカーの『グランドクロス』から逃れる……が、その弾いた先に今度は僕が回り込んでいた。

そして、飛んできた十字の光刃を……

「ほいっ、と……って熱っ!? あ゛っっづっ!!」

手でキャッチし……まあ、予想はしてたけども、そのあまりの光熱に驚きつつ……それを我慢しながら、光刃をぶん投げる。

それはそのまま、弾いた直後の姿勢のアガトに背中からぐさっと突き刺さった。腹の方まで貫通し、体を中から焼かれるアガトの悲鳴が響く。

「あーびっくりした! 熱っついなーもー、火傷するかと思った。どんな熱量だよ」

「……普通は火傷どころではすみませんし、そもそもびっくりしたのはこっちですよ……というか、なんでエネルギー体の刃をキャッチして投げ返すなんて真似ができるんですか」

呆れ交じりのウェスカーのジト目の視線。……野郎のじゃせっかくのジト目も萌えねーな。

ラーメン食べる時みたいに、手をふーふー吹いて冷まし……てたんじゃ埒が明かないので、氷の魔力で一気に冷やす。

幸い、赤くなってるけど、火傷とかはしてないな。
『アルティメットジョーカー』の防御力・耐久性能なら、まあこんなもんか。

さて……そろそろ終わらせるか。

見ると、単に時間切れか、はたまたアガトが抵抗(レジスト)でもしたのか、手裏剣扱いでぶっ刺した光刃が消えるところだった。

しかし、さすがにダメージは大きかったようで、アガトはろくに動けそうにない。

長引かせる理由はないな、さっさと決めるか。

ふと隣を見ると、ウェスカーはさっきと同じように、剣に魔力を込めて刀身を白く輝かせていた。

しかし、そこから感じ取れる力は……さっきの『グランドクロス』と比較してなお別格だ。

単に光ってるだけじゃなく……まるで炎のようにゆらぐ光が刀身にまとわりつき、それが渦というか……螺旋を描くようになっている。光自体はさっきよりも弱い気がするが、こっちは、何だ、その……威圧感というか、底知れなさ、みたいなのが感じられる。

文字通り、底の見えない真っ暗で深い穴を覗き込んでるような……そんな感じだ。
いや、こっちはむしろ明るいんだけどね? ものの例えってことで。

おそらく、これでとどめの一撃にするつもりなんだろう。
あれなら……多分だけど、怪人態のアガトの頑丈さと再生能力をぶっちぎって消滅させるレベルの一撃を繰り出すのも可能そうだ。

……けどまあ、せっかくだ。ウェスカーだけにそうさせるのもアレだし……ここは、僕も出番をもらうとしようか。
丁度良く、こっちもできたばかりの新必殺技がある。試し打ちと行こう。

アガトを正面に見据え、体を半身に構えて、右足を一歩後ろに引く。
イメージとしては、下段に刀を構えるような感じで。

その状態で……ウェスカーが剣にそうしているのと同じように、こっちは足に魔力を収束させ、まとわせていく。僕の右足……膝上のあたりまでが、黒紫色の魔力で染まっていく。

こっちも螺旋状に。しかし、ウェスカーのそれが剣にまとわりつくようにスマートな見た目なのに対して、こっちは毎度おなじみ、ブラックホールを思わせる感じでだ。
半径2mくらいの大きな渦と、その中心に、より濃密な小さな渦の2つが重なっている。

似ているようなそうでもないような、光と闇、2つの螺旋を携えた2人。僕とウェスカーは……どちらから合図をするでもなく、タイミングを合わせ、呼吸を整える。

……特に理由はない。しいていうなら、こうした方がいい気がした。
多分というか、なんとなくだけど……ウェスカーも同じ理由でこうしている気がした。

そして次の瞬間、それぞれ、剣と脚を振りぬいた。
どちらも逆袈裟の軌道で……僕は右下から左上に。ウェスカーはその逆、左下から右上に。

「サンフレアー・スラッシュ……!」

「ダークムーン・セイヴァー!!」

どちらも、振りぬかれた軌道から、それぞれ純白と漆黒の光刃を形成して……ギュオッ!! と、空間ごと切り裂くような轟音とプレッシャーと共に放たれる。

2つは偶然か必然か、飛んでいく途中でちょうど交差し…………

――キュィィイイィイイン!!

その瞬間、甲高い音と共に……直前までの数倍にエネルギーを増幅させて、1つの黒白の『X』の形の斬撃になって……アガトに直撃した。

その圧倒的なエネルギーにさらされたアガトは、光刃に切断される……でもなく、威力そのものにあてられて、肉体自体が一瞬にして崩壊したのが見えた。
断末魔の叫びを轟かせながら、しかし何もできずに体が崩れ去り……チリ一つ残さず消滅した。

一瞬のことだったはずだけど、なぜかそれがやけに長い時間のことに思えて……アガトの断末魔がやたら耳に残った。



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