魔拳のデイドリーマー

osho

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第16章 摩天楼の聖女

第315話 顛末と提案

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さて、その後の顛末みたいなことをとりあえずまとめてみよう。

あの事件……『謎の魔物・アバドン大量発生』及び『聖都シャルクレム大規模崩落』の2つが起こって、同日解決してから、今日で1週間が経った。

当然ながら、この大事件はまたたく間に『シャラムスカ皇国』全体へ知れ渡り、聖都のみならず国全体が上へ下への大騒動…………とはならなかった。

なぜなら、こんな時代である。電話もネットもない。
イコール、情報伝達が遅い。

まあ、早馬とか伝書鳩的な鳥とか使って連絡飛ばしてるみたいだから、周辺の主要都市とかにはもう知らせが言ってると思うが。
時間差で国中が大騒動になるだろう。

というかしかし、この国の暫定政府は、逆にこの情報伝達速度を利用して、この問題をどうにか混乱を小さく収めようとしているようである。

この『シャラムスカ皇国』は宗教国家だ。
ゆえに、政教分離なんぞしったことかと言わんばかりに、政治と宗教……『シャルム教』の教会が密接にかかわっていた。
というか、思いっきり宗教家が政治的な権力・影響力を持っていたし、執政に関わってもいた。

それが今回、悪い方に働いた。
『シャルム・レル・ナーヴァ』最終日程、宗教関係者のみを招いて行われるそこに、この国の政治のかじ取りをしている人たちも大勢そろっていた。

イコール、巻き込まれて死んだ者が大勢……ってことだ。

日本で例えれば、いきなり内閣閣僚が災害か事故に巻き込まれて全員死んだくらいのヤバい状態である。国のかじ取りをできる人が……まあ、全くいないわけじゃないけど、少ない。
国政運営においてやるべき仕事の量と比較して、絶望的なまでに少ない。

これをどうにかするために、臨時の行政府は、苦渋の選択として『リアロストピア』の時と同じ手を使うことを選択した。
他国の政府の手を借りての政権運営である。

政治的な能力を持つ指導者の不足は、野戦任官みたいに、下から上にただ引っ張ってきて人材を用意すればいい、ってことにはならない。普通の事務職とかならともかく、国家運営レベルになるとそれはさすがにできない。
なので、人材その他の支援を他国から、っていう形になった。

内政に干渉するわけだから、平時ならNGもNG、言語道断なんだけど……そうでもしないとこの国は、国としての形を保つこともできなくなって空中分解するしかなくなるから。
『リアロストピア』の革命の時みたいに、あらかじめ『滅んだ後はこれこれこうして統治しよう』っていうプランがあったわけじゃなく、ホントに事件ないし災害の結果として滅んだから。

周辺国……特に、国境を接しているジャスニア、フロギュリア、ニアキュドラからすると、シャラムスカほどの規模の国が無政府状態で荒れるとなると――今も大丈夫な状態であるとは言い難いけども。南北問題的に――発生した賊やら何やらが流れ込んできたり、難民が発生して流れ込んできたりというマイナスの影響がこれでもかと懸念される。
打算もないとは言わないが、ホントにさっさとある程度まで立て直さないと困るのだ。

当然、国境こそ接していないとはいえ、その3国と同盟関係にあるネスティアにとっても他人事であるはずがなく。大至急この事柄について対応を協議しないといけないわけだが……

「……こんなとこですかね」

「うむ……うむ。問題ないな」

と、僕が作った『報告書』を見て、満足げにイーサさんはうなずいている。

さっきから、作ってはそのたびに、赤ペン先生のごとくチェックして添削していくれており、3回目の手直しで合格をもらえたようだ。

……というか、何で僕が『報告書』なんてものを書いてイーサさんに添削してもらっているのかというと、さっき言った内容の他、この国で興った事件の内容を、ネスティア他の国に報告する、というか確認してもらうための資料として用意しているのである。

もちろん、それぞれの国の代表者……ネスティアならイーサさんとリンスが、ジャスニアならルビスやドロシーさんが、フロギュリアならオリビアちゃん、ニアキュドラならレジーナが、それぞれ国に報告するための報告書を作っている。

なのになぜ僕の報告書が必要なのかと言えば、まあ、参考資料程度の意味しかない。

ないが、僕の身分というか立場はSSランクの冒険者である。
荒事、戦闘においては専門家と言ってもいいくらいだし、色々と経験も積んでいる。それこそ、公の要職についているような人ではしていようもないような経験も、知識も。

加えて僕の場合、その他の色々な分野でも『専門家』と言えるだけの知識や経験を積み重ねている自負・実績があり、それを各国の上層部も理解している。

なので、思っても見なかったことではあるんだけども、僕が作った、見識や意見をまとめた報告書って、専門分野の引用論文とか正式資料みたいな形で十分使えるらしく、現場にいた者としてぜひそういうのを作ってほしい、って言われたのだ。

正直手間だったが、まあ、事件が終わってからはそうそうやることも多くなく、時間はあったので引き受けて……今に至る。
というか、ついさっき完成したところだ。2種類の『報告書』が。

何で2種類かって? 簡単な話だ。

1つは、公にも発表される内容について主に言及し、現場での調査・解析を担当した専門家としての結果や見識を報告するもの。いつどこで何が起こったとか、戦闘の規模はどんな感じで、どういう経緯を経てそうなって……って感じで。

で、もう1つは……表には出せない話をまとめたもの。
各国の上層部や、国家元首とその側近クラスのみで情報を共有するような、表舞台に出すと大変なことになってしまうような情報や、それに関する識解をまとめた報告書。

例えば今回で言うと、あの獣……アバドンの生育環境とか、それを生み出したシャラムスカ上層部の吐き気を催す邪悪とか、ダモクレス財団の悪の秘密結社を彷彿させるあれこれとか。
そのへんに関する情報をまとめ、秘密裏に仕入れておくための報告書。

恐らくは、僕が手掛けたこっちの報告書は、ドレーク兄さん達が本当に信頼する人の目にしか触れることはないだろう。

そして、そのへんの……各国で示し合わせて、『どこまで公表するか』を決めるため、っていうのも、未だに帰国せずにここシャラムスカに残っている理由の1つでもある。

なお、さっき僕がイーサさんに添削してもらってたのは、『表向け』の報告書である。
そもそも添削の内容も、言葉遣いがどうこうじゃなく、に載せても問題ない事柄かどうかだけのチェックだ。それ以外の、解析結果や意見にはもちろんノータッチである。その辺弄ると、専門家の資料としてダメになるからね。

「しかし、この……『ぱそこん』じゃったか? 傍から見ておったが、便利なもんじゃのう」

と、論文から僕のついているデスクの方に視線を移したイーサさんが、感心したというか、興味深げにそう言って来た。

「この『きーぼーど』とやらで打ち込むだけで文字が出せて、しかも途中でいくらでも書き直し出来て、最終的に修正の跡もなくきれいに仕上がるのじゃろ? 仕事の効率が上がりそうじゃな」

イーサさん、現代の事務仕事の水準に興味を示す。
うんまあ、実際にコレ使えればヤバいぐらいに事務仕事の効率上がるけどね。

その体現者が、うちでまさにコレを使って仕事をしている面々である。
師匠とかネリドラを筆頭に、リュドネラ、エルク、ナナ、クロエ、ザリー、オリビアちゃん……あとアイドローネ姉さんもだな。最近、スウラさんとギーナちゃんも使い方覚えだしたっけ。

なので、『キャッツコロニー』における事務仕事は、さながら現代日本のオフィスみたいな環境下で行われている。オフィス用品として、効率的に仕事するために使えそうなもん、片っ端からマジックアイテムとして僕が作ったから。

なお、僕や師匠やネリドラが使うものは、オフィス用品を通り越して近未来チックである。
前にも横にも上にも、画面やら何やらのギミックがついて、色々な専門的作業を行えるようになっているので、適度な狭さも手伝って、コクピットみたいなデスクである。

それも、慣れればめっちゃ機能的な仕事道具として使えるから便利なんだけどね。

ちなみに、このマジックアイテムとしての『パソコン』は、欲しいと言われれば兄弟姉妹にはあげてるし、その他、僕と仲が良くて信頼できる人にもプレゼントしている。オリビアちゃんとか、メラ先生とか。あとアイリーンさんにもあげたな。

ただ、今までの慣れてるやり方……普通にペンで紙に書く方がやりやすくていい、っていう人も少なくないけど。アクィラ姉さんやドレーク兄さんもその一人なのだ。

「なるほど、ネスティアの王宮や事務方でこの道具を見んかったのはそのせいか……しかし、ちと惹かれるのう、この性能……ミナト殿、国に帰ったらでいいので、1つ購入したいのだが?」

「はい? ええ、まあ……うん、イーサさんならいいかな。わかりました、後で届けますんで」

「うむ、頼む。わしもこの年で新しいものを覚えるというのは、まあ得意ではないのじゃが……それを差っ引いても、事務仕事がこれだけ効率的にできるというのは魅力的じゃの。近々より忙しくなりそうな気配もするし、その時に向けてコレに慣れておけば武器になろう」

「あー……まあ、色々ありましたからね。なるほど、イーサさんもその処理に回る側か」

「それもじゃが、連動してアクィラの奴の仕事も増えるじゃろうからの。少しでも早く、効率的にさばけるように、できることは全部やっておきたいんじゃよ」

「アクィラ姉さんがサボるか何かしてイーサさんに仕事が余計に流れてくる前提で話してますね」

言った後で思い出す。この人は、前の上司であるセレナ義姉さんの時代からそんな感じの日々を過ごしてきたのだったと。

少しでも日々の仕事を、それこそ2人分背負い込んでも大丈夫なように、ありとあらゆる手段で仕事を効率化する習性が身についているのかもしれない。
どうしよう、こんな時、何て声をかけたらいいのかわからない。

「……その表情で大体察せたから何も言わんでいいぞ」

「はい……ホントすいません。最新型の軽くてコンパクトで性能いい奴送りますんで」

「うむ、よろしく頼むぞ。そしてお主はくれぐれも、周りのものに自分の不徳で余計な気苦労をかけぬように気を付けてやれ」

「あ、すいません、そのへんは多分手遅れです」

「………………」

仕事サボるとかじゃなくて、マッド的に暴走して色々やらかす的な意味だけどね。
……いや、何の改善にも解決にもなってないってのは承知ですけども。

ともあれ、終わった仕事の成果……『報告書』をプリンタで印刷してイーサさんに渡す。
それを持って退出するイーサさん。人数分、というか国家数分コピーしたので、後で他の3か国にも渡してくれるそうだ。

さて……あとはもう、正真正銘僕に出番はないな。
ドレーク兄さん達曰く、ここからは正真正銘、政治が絡んでくる職場になるらしいから、一介の冒険者でしかない僕らが口をはさむ道理はないわけだし。あっても面倒だからやりたくないし。

……いや、まて、まだやることはあった。
なんか、いつの間にか巻き込まれてて……というか、この事件に介入するきっかけになった出会いの相手でもある、彼女達の処遇というか、今後について。

政治の分野でもあるにはあるんだけど……こればかりは、僕も無関係じゃいられないからね。

☆☆☆

と、いうわけで……ところ変わって、ここは、『オルトヘイム号』内部の牢屋。

以前、ルビス達も入っていたことがある、座敷牢的なスペースであり……あれから少し手を加えて、もうちょっと過ごしやすくなっている部屋である。

そして今ここに、あの3人……ネフィアット、ソニア、ソフィーが入っている。

一応、中にはメイドロボを常に待機させており、外に出られないことを除けば、不自由はないはずである。食事も出るし、ベッドやソファでゴロゴロするのも自由だ。

まあ、生活スペースが制限されてる時点でストレスかもしれないが……そこは飲み込んでもらうしかない。

で、今僕ともう2人、ナナとオリビアちゃんが、ここに来てその3人と話している最中だ。
内容は……今後どうするか、ないし、どうなるかについて。

「では……近々、私達はここを出て、再び表の舞台に立つことになるのですね?」

「そうなります。未だ御心の傷は癒えず、お辛いとは思いますが……何分、この国は今、滅ぶかどうかの瀬戸際と言っても過言ではない状況です。これ以上対応が遅れれば、国内の混乱が取り返しのつかないところまで大きくなり、大勢の犠牲者が出る可能性も否定できず……これを収めるには、ネフィアット殿……いえ、『聖女アエルイルシャリウス』にご協力をお願いするほかにないと」

オリビアちゃんが、丁寧に説明する。

外交担当で広い権限を持ち、今回の、今後のシャラムスカの統治協力に関する話を進める上での権限も持っていて、なおかつこの『オルトヘイム号』に出入りを許可されているってことで、彼女達3人への説明役を買って出たのだ。僕とナナはその付き添いである。

「わかっています。それで少しでも苦しむ人々が減るのなら……喜んで協力いたします」

オリビアちゃんの話を聞いて、こくり、とうなずくネフィアット。

部屋の中で、非公式な場なので、宗教権威的なごてごてした装束ではなく、普通の部屋着であるが、そんな姿でも、力のない人々を救いたいと思うような、彼女自身の優しい心根が、不思議と伝わってきた。

ああ、今さらっと説明しちゃったけども……今回、『聖女』任命の式典の最中に大事件が起こり、式典自体が中断してしまったわけだけど、結局ネフィアットは『聖女』としてこの国をまとめていく立場に立つことを選んだ。

ただし、それはあくまで、国内の復興・立ち直りをより早く、よりスムーズに進めるためだ。
宗教国家という性質上、宗教的なわかりやすい象徴がいた方が、人々の心をまとめ、励まし、前を向いて歩ませるのに都合がいい。
それを最も効率的にこなせるのは、現時点では『聖女』だけである。

その『聖女』も、今回の事件で1人が死亡し、空位が2つある状態。これは、国内の安定を考えると好ましくない。というかむしろ、かなりまずい。

なので、俗物的な理由が絡んでいたとはいえ、もともと『聖女』に選ばれる予定であり、それにふさわしいだけの素質・能力を備えているネフィアットに、改めて白羽の矢が立ったのだ。
そしてそれを、ネフィアットも受けた。自らの意思で、この国をより良い方向に導くために、『聖女アエルイルシャリウス』として力を尽くす、と。

それを……同じソファ、彼女の両脇に座っている、ソニアとソフィーは、何と言うか、複雑そうな顔をして見守っている。

まあ、彼女が『聖女』として、欲の皮の突っ張った俗物坊主共に傀儡にされるのを嫌って、2人はネフィアットの誘拐計画を実行したんだもんな。

それが失敗し、彼女は結局『聖女』をすることになり……しかし、危惧されていた最大の問題点である、薬物で自我を喪失、っていうのは起こらなくなった。人助け自体はネフィアット本人も望んでやっていることだから、よかったけど何か複雑、ってところだろうか。

「では……ネフィアット殿には、不便をおかけしますが、今しばしここでお待ちいただくことになります。この機会を利用して、神殿内部におけるあなたを利用しようと画策する者を1人でも多く処分し、出来る限りの安全性・透明性を確保した上でお戻りいただく予定ですので」

「お願いします。私も……この国の民の皆さんのために、できるかぎりのことをしたいと思っていますので。そのためなら、苦にはなりません」

「全力を尽くします。……では次に、お2方……ソフィー殿と、ソニア殿についてです」

オリビアちゃんのその言葉に、ネフィアットも含めた3人全員が、わずかに身をこわばらせるような反応を見せた。
それには気づいただろうが、オリビアちゃんは話を続ける。

「2人は現在、式典を妨害し、『聖女』候補のネフィアット殿を誘拐した犯罪者という扱いになっていますが……その後ネフィアット殿に行われようとしていた非道に関しては、証拠付きで明らかになっておりますので、罪状自体はほぼ問わずに処理できるかと思います」

それを聞いて、ネフィアットはほっとしたように胸をなで下ろしたものの……残る2人は、眉間にしわを寄せ、険しい表情になっているのを崩そうとはしなかった。
少しして、ネフィアットもそれに気づく。

「……それは、今回の騒動に関して……ですか?」

「はい、あくまでそうなります。ですので……ソフィーさんが、このまま聖騎士を続けること自体に問題はないでしょう。方針次第ではありますが、ネフィアット殿の専属護衛として就くこともできるかと。ただ……」

そこで、オリビアちゃんは一拍置いて。

「……ソニア殿につきましては、以前より『義賊・フーリー』として活動してきた事実がございます。それらの罪まで帳消しにするのは難しく……別途、裁判にかけられる見通しとなっています。生き残った貴族家や豪商からも、そういった要望の声が上がっております」

そう聞いて、ソニアとソフィーの表情がこわばり、ネフィアットはショックを受けたような表情に変わった。先程までの安心とは、正反対だ。

ソニアこと『義賊・フーリー』は、今までに何度も、悪徳貴族や悪徳商人の屋敷を襲撃して財宝を強奪しており、その筋の連中には恨まれまくっている。それらとつながりのあった政治家、権力者の類からもだ。

それらの事情もあって、仮にその罪で裁判にかけられるとなれば……軽い罰では済まないだろう。絶対にそいつらが口をはさんでくるし。より重い罰になるように。
監獄送りじゃ済むまい。処刑か、あるいは奴隷落ちか……。

いや、もっと悪い想像をすれば、裁判を待たずにアクションを起こすバカも出てきてもおかしくないんだけどね。

彼女が僕に預けられているのは、そのへんの理由もある。
このオルトヘイム号の牢屋であれば、相応の強度があるため、たとえ『スローン族』であり、驚異的な身体能力を誇る彼女でも、脱出は不可能だ。鉄製の手錠や、普通の牢屋の鉄格子程度じゃ、簡単に破壊して脱獄してしまえる彼女を、確実に閉じ込めておける。

が、それと同時に……裁判を待たず、強権を振りかざして彼女に何かしようとしてくる連中がいないとも限らないため、そういう連中からソニアを守る、という目的もある。

それなりの権力者であれば、牢屋の番をしている、あるいは罪人の管理をしている者に話をつけたり脅したりして、彼女を拘束している牢に入ることも可能だろう。
そしてそのまま、彼女に私的に罰を与えるようなことも。

恨みや憂さを晴らすためかもしれないし、あるいは……もっと下卑た理由で。

戦ったり、暴れている最中であれば、そんなところに注目する余裕はないだろうけど……彼女、普通に女の子としては可愛いからな。背も高いし、肌もきれいだし、スタイルもいいから……罪人として牢に繋がれ、無力化されているソニアを見て、よからぬことを考えるバカがでてこないとも限らない。

だから、権力だろうが強硬策だろうが跳ね返せる僕がここでかくまってる、ってわけだ。

ただ、いざ彼女を裁く段階になり、ここから出すことになれば、もう守ることはできない。
それ以前に、何事もなく裁判が進んだとしても、彼女には普通に刑罰が下る。恐らくは、その命か人生をもって償うレベルの、過酷な罰が。

義賊とはいえ、実際にそれだけの罪を犯しているわけだし、そこについては、誰も庇うことはできないだろう。他国はもちろん、たとえ、ネフィアット……『聖女』であっても。

「そんな……そんなのって……! な、何とかならないんですか!? それじゃ、あまりにも……」

説明を受けて狼狽えるネフィアット。
それに対して、ソニア自身は……眉間の皺は消えていないものの、落ち着いてそれを聞いていた。取り乱す様子もなく、まるで、覚悟はすでにできているかのようだった。

もしかしたら、こんな商売をしている時点で、いつかこういうことになってもおかしくない、と考えていたのかもしれないが……

しかしそこに、オリビアちゃんがさらに一石を投じる。

「しかし、正直に言って貴方は、このようなところで埋もれさせるには惜しい人材です。ですので……あなたに一つ、極秘裏に提案があります」

「…………?」

その言葉に、3人が不思議そうな表情になる中……オリビアちゃんは言った。



「もし、貴方さえ良ければ……その『義賊』、続けてみませんか? それも今度は、この国だけでなく……大陸全てを又にかけて」



「…………は?」



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