魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第345話 黒船(で)来航

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 その日『ヤマト皇国』は、ひとつの時代の転換点を迎えようとしていた。

 『ヤマト皇国』は島国である。周辺にいくつも大小の島々が飛び地として存在しているものの、そこを超えてしまえば、ただひたすらに果てしない海が広がっている。
 国土全てがそういった条件下にあり、どこをどう進んでも、『外側』を目指す限り、最終的には海に行き着いてしまう。そんな環境である。

 海と言えば、ごく一部の例外を除けば、船に足を任せて進むしかない領域だ。海岸から少し歩いて進むだけで、容易く人間の足がつく深さは終わってしまう。

 文字通り『地に足がつかない』状況は、それだけで人間がその先へ進むことをあきらめさせる。

 加えて、『蛟』や『海坊主』といった、海ないし水中を根城にする『妖怪』も存在し、大型の船で出ようとも、その旅路は決して安全なものではないとなれば……この国に住む者達が、その海の向こうに行く、ということを考えすらしないという風潮も、当然のものだった。

 せいぜい『船』の出番は、漁師たちが魚を取る時や、飛び地となっている島々に、何か用があって行く時くらいのものだ。そうでない者は、一般の民にせよ都にすむ貴人にせよ、そもそも船とは好んで乗るようなものではない、というのが共通認識だ。

 例外的に、遠隔地から大量の荷物を一度に運ぶ際、陸路を何台もの馬車や牛車を使うよりも早く済むという理由で、海運が行われたりもするが、それもなるべく外洋には出ず、船が航行可能な深さで、なおかつ陸地にすぐにでも移動できるようなルートが使われる。

 まして、船に乗って海に出て、その向こうにいる――そもそも、いるかどうかもわからないわけだが――何者かと交流を持ちたいなどと考えるのは、地球で言えば『ロケットに乗って宇宙人に会いに行きたい』と言うような、現実的でない夢物語としか言いようのないことだった。

 仮に人前で口に出してしまえば、よくて失笑されるか心配され、悪くて正気を疑われる。

 ……実際には、過去にそういった例が全くないわけではないのだが、今を生きる者達がそれを知るはずもなく、現在はとある理由でそれも不可能になってしまっていることもあり、長らくこの国は、外界から完全に隔絶された状態で存在してきた。



 そして、その歴史が……唐突に、終わりを告げようとしていた。



「おい、アレが例の奴か?」

「みてえだ。外の海の、そのずっとずっと向こうからやってきたっていう船だとよ」

「あれまあ、随分と大きいんだねえ……数も多いし、聞いてた通り黒い」

「戦にでもならなきゃいいんだが……そもそも、乗ってるのは本当に人なのか?」

「妖が化けてるんじゃねえかってことか? やめてくれよ、そうだったらと思うとおっかねえ」

 その町の名は『サカイ』。
 『ヤマト皇国』における、特に大きな港町の1つであり、同時に海運が発展した、極めて大きな商業都市だ。

 『キョウ』の都にも近いということもあり、皇国全体でも屈指の大都市として栄えており、全国各地から運び込まれる貨物は一度ここに集まり、そして都に運ばれるというラインすらできている。

 そんなサカイの町から見える、海の上。
 そこにある日、常にはないある物体が姿を見せていた。

 黒塗りの、大型の船だ。それも、一度に6隻。

 サカイは港町である。船が姿を見せることなど、珍しくもないどころか、日常茶飯事だ。
 少々変わった形の船も中にはあるし、大荷物を運ぶ複数の、大型の船からなる船団が来ることも、流石に珍しい部類には入るものの、ないわけではない。

 しかし、流石に『海の向こうの大陸』から来た船など、前代未聞のことだった。

 それらが現れる、そのさらに数日前、海の向こうから飛んできた『式神』により、市井を飛び越えて、政に携わる者達には、その存在と来訪(の予定)が既に伝えられている。

 既に報告は『キョウ』の都にまで上がり、どう対応するかの話し合いは進められていた。

 その情報の一部が市民の間に流れた結果として、民達は船の存在と正体を知った。

 今、『サカイ』の港町は、この話題で持ちきりになっている。

 市民たちはその姿を一目見んと、我先に港や、海の見える場所に出て、洋上に浮かぶ6隻の黒い船を見物していた。

 突如として現れた異国の黒い船に、彼らはそのままの呼び名をつけ、それがそのままこの騒動の名前になって、後々まで語られることとなった。



 ――『黒船来航』と。



 ☆☆☆


「浦賀じゃなく堺、か」

「うん?」

「いや、こっちの話」

 どの船も黒いし、ひょっとしたらそうなるんじゃないかな、とは思ってたけど、実際に僕らが来たことが『黒船来航』という広まり方をしていると聞いて、なんというか微妙な気分だ。

 単なる偶然だとは思うけど、小学校の教科書にも載ってるような歴史上の出来事の場に自分が、しかも当事者として立ち会ったみたいな心境になってる。

 ……ただこの場合、僕は黒船で来航する側であって、日本……というか、ヤマト皇国は、僕の故郷でもなんでもないわけだから、そこんとこちょっと微妙な気分なわけである。

 ま、そのへんは置いといて、だ……現在の状況を整理しよう。

 現在僕らは、『サカイ』という名前らしい港町の沖合数kmの場所に停泊している。
 接岸せずこの状態で、向こうから接岸と上陸の許可が下りるのを待っているわけだ。

 向こうからしてみれば、突然外国からやってきた船が現れたってだけで驚いてるだろうし、そこに僕らが勝手に上陸なんてしちゃったら、どう考えてもいらん騒動を招き寄せる。
 見方によっては不法侵入……いや、普通に不法入国か。

 漂流してきたとか緊急事態なわけでもないし、無難にいくには、まずきちんと上陸自体に許可を取ってから地に足をつけるべきだ、というドナルド達の判断である。
 食料もまだまだ余裕あるし、停泊して待ち続けるくらい、楽なものだ。

 ……退屈だけは相変わらず敵だけど、数日前までいた海の上と違って、ここは地平線まで水しか見えないような環境じゃないため、いくらかマシである。

 具体的には、数km先の陸地に……恐らく見は物人だろう、様々な恰好の人たちが集まってるのが見える。
 さらにその向こうには、『サカイ』の街並みも。

 恐らく向こうの彼らは、海に浮かぶ6隻の『黒船』を見て騒いでいるだけだろうけど、僕の視力ならその向こう側の街並みまではっきり見えるのだ。
 いや、僕じゃなくても、望遠鏡を使えば、普通の人たちでも十分見えるけどさ。

(しかし、街並みといい、市民(多分)の服装といい……ホントに時代劇みたいだな)

 そこに見える景色は、僕がいつも、テレビの向こう側に見ていたものそっくりだった。

 誰も彼も、浴衣とも着物とも言えそうな、しかし洋服では絶対にない『和装』に身を包み、足には革靴やブーツではなく草履をはいている。
 中には、腰に刀をさしている人もいた。

 その向こうに見える街並みは、木造の日本建築っぽい家が数多くあり、屋根には瓦が乗ってるものも多く見られる。軒先に提灯や、暖簾が出ている店?もそこらにあった。

 ……時代劇で見る町人や農民、侍そのものだな。その奥の街並みは、撮影セットか映画村か。

 僕にとっては、どっちかっていうと『懐かしい』とまでは言わずとも、前世を思い出す景色だが……エルクたちにとっては、さぞかし異質な街並みといでたちに見えることだろう。

 さて、そんな国に上陸する許可を、現在こうして待っているわけだが……僕らが送ってきた、漂流者である漁師さん達と、海の上で保護したロクスケさん達については、小舟を出して先に戻してある。無論、これも許可をもらった上でだ。

 望遠鏡の向こうに懐かしい故郷を見て(その前に望遠鏡自体に驚いてたけど)、ほとんどの人は涙を流して喜んでいた。もう二度と戻って来れないと思っていた祖国に戻って来れて、本当にうれしかったようだ。
 見慣れた街並みを見て、半信半疑だった『帰れる』ってのが現実味を帯びて、安心したせいもあるかもしれないな。

 ただ、さっき述べた全員が帰ったわけじゃなく、あえて2人、この船に残っている人がいる。
 いや、人は1人で、もう1人は厳密には『妖怪』だけど。

 1人は、ロクスケさんの同僚である『ツノヒコ』さん。
 ロクスケさんと同じ主に仕える『陰陽師』で、今回はこの船と『ヤマト皇国』側……陸の上の連絡役として、望んでこの船に残ってくれているのだ。

「しっかし、世の中にはまだ色んな知らないことがあるもんだな……。『式神』だったか? ただの紙に書いた手紙が、ちょちょっと呪文唱えると、鳥に変身して飛んでいくとは……」

「ですね、師匠。こういうのを『東洋の神秘』とかいうんですかね」

「その言葉は聞いたことねーが、言いえて妙だな。こりゃ、これ以降触れるであろう『陰陽術』とやらも期待できそうだ……久しぶりに、知的欲求って奴がうずくな」

「……いや、似たようなのあんたもクローナさんも作ってるじゃない。私も使ったことあるし」

「『リビングメール』のこと? アレは最初からそういうものとして作った『マジックアイテム』だからだよ、エルク。ロクスケさん、こっちが渡したただの何の変哲もない紙を、手紙にして文章を書いた上で、それをそのまま、後付けで……何て言えばいいんだろ? 疑似的な魔法生物? 付喪神? ペーパーゴーレム……は、あんまりにもそのままかな。そういうのに変えちゃったんだよ」

「そもそも、魔力の動きや術の構築式からして、俺達が知っているものとは全く違ったからな、全く違う……俺たちからすれば『新しい』技術ってことだ」

 と、僕と師匠がエルクに開設して聞かせたわけだが……今言ったのが、僕らが目にした初めての『陰陽術』であり、同時に、ロクスケさんが陸地、ないし『ヤマト皇国』の行政府と連絡を取るために使った手段である。

 その名も『式神』。東洋系のファンタジー要素としては、結構メジャーな、聞いたことがある人も多いものになるんじゃないかな。現代日本でなら。

 普通の紙、あるいは特殊な加工をした紙に術をかけることで仮初の命を与え、動物に変化させたり、あるいは紙のまま形だけ変えて使役する術だ。

 ロクスケさんはまず、僕らが提供した1枚の、何の変哲もない紙を使って、行政府へことの次第を伝える手紙を書いた。
 そしてその手紙に何やら術をかけると、次の瞬間それが1羽の鳥になって飛んでいった。

 この『式神』を利用して、ロクスケさん行政府と手紙のやり取りをしていたのである。

 こちらの素性や事情を伝え、漂流者を保護して届けに来たことや、この機に正式に国交を持ちたいと考えていること、そのための使者も船に乗せているので、上陸の許可が欲しいことなどを書いてしたため、何度かのやり取りを経て、まずはロクスケさん達が『ヤマト皇国』に帰った。

 その際、ロクスケさんと同じ術が使えるツノヒコさんと、もう1人……

「なんだ、その割には『付喪神』については知ってるんだな、あんた?」

 そのツノヒコさんの護衛、という扱いで、ゴン君もこの船に残っている。

 あ、今更だけど、僕らは今、『オルトヘイム号』とは別な戦艦の甲板で、海の上から望遠鏡で陸地の様子を見たり、それを話題に雑談したりしているところだ。
 僕やエルクその他数名。それにゴン君と、師匠も一緒にいる。
 
 そのゴン君は、話には加わらず、さっきからこっちをちらちら見てたんだけど……今の僕の、不用意な一言が気になったからか、ふと思ったという感じで話しかけて来た。

「『付喪神』ってのは、この国で古くから使われてる言葉だって俺は教わってたから、てっきりこの国でだけ使われてる言葉かと思ってたけど……大陸にもあるのか?」

「? 私は聞いたことないけど……ミナト、あんたそんな言葉どこで覚えたの?」

「さー……忘れたよ。多分、いつだったか何かの本で読んだか、どっかで聞いたかだと思うけど……これって出来事はパッとは出てこないね。師匠から教わったんでしたっけ?」

「いや、俺はんなこと教えてねーよ。むしろ、言い方自体はお前から教わったぞ、最近」

「そうでしたっけ? じゃあ……最有力候補は『ネクロノミコン』で読んだか……あるいは、ひょっとしたら前世の記憶とかかもですね」

「前世の記憶ってあんたな……」

 ゴン君は、からかって言ってるのかと思ったようだけど、僕の出自――アドリアナ母さんが『死者蘇生』の時に作り出してしまったもう1つの魂による――を知っているエルクと師匠は、なんとなくその意図を察したようだった。

 僕の前世が『日本人』だってことは言ってないけど、僕の魂がその時にどこかから来た可能性があるってのは、皆知ってるからね。この言い回しでごまかすと、皆勝手に納得してくれる。
 ……騙してるようでちょっと罪悪感あるけど、半分はホントのこと言ってるしね。

「いや、考えてみりゃ『ネクロノミコン』じゃなくても、お前がどこかで聞いたか、あるいは何かの本で読んだ可能性も普通にあるか。恐らくだが、『ヤマト皇国』と『アルマンド大陸』との間には、全く交流がなかったわけじゃないだろうからな」

「……師匠もそう思いますか」

「? どういうことだよ、あんたら、その大陸から初めてこの国に来た、って自分で言ってたじゃんか。違うのか?」

 と、今の師匠と僕の言葉に、不思議そうにして聞き返してくるゴン君。

 当然だろう。何せ、彼自身は今まで『海の向こうに大陸がある』なんて話は聞いたこともなかっただろうし、こっちもその前提で動いてきた。同じく、聞いたこともないから。
 せいぜいが伝承レベルで……それも『黄金の国』なんて変な名前がついてた程の正確さだ。

 だが、有史以来全く交流がなかった、とは思わない。思えない。

「……ゴン君は、『刀』って知ってる?」

「? 知ってるも何も、その辺歩いてるお侍が、腰に差して持ってるアレだろ? 値は張るって聞くけど、別に珍しいもんでもないぞ?」

「そっか……エルク、こっちの大陸での『刀』って、武器としてはどういう扱い?」

「……かなり珍しい部類の武器よ。そもそも扱ってる工房が少ないし、作るのに高い技術が必要だって言われてるし。武器として使うにも扱いが難しいから、数打ちの剣とかに比べると不人気で、マイナーな部類の武器ね。貴族が美術品として買い求めることもあるみたい」

「は? 『まいなー』ってのはよくわかんないけど、そうなのか?」

 どうやらゴン君は、大陸と祖国の見方の違いに驚いたようだ。

 しかし、エルクもそれは同様だろう。事前に漂流者の人たちから聞いてるから、今は特に驚きを見せなかったけど……アルマンド大陸の人間にとって、『刀』ってのは扱いづらい武器の代表格だ。
 使いこなせれば強いが、普通の兵士が戦場で振るうようなもんじゃ絶対にない。

 僕も、刀を使ってる冒険者なんてのはほとんど見ない。使いこなしている人はさらに少ない。

 僕の知る限り、その筆頭はノエル姉さんだろう。
 彼女の愛刀である、妖刀『朱星あかぼし』の切れ味と、それを使いこなすノエル姉さん自身の技量は、僕もよく知ってる。

 使う人が使えば恐ろしく強いが、そうでない者が使ってもただのおもちゃ同然。
 変な斬り方をすると、簡単に欠けたり曲がったり、折れたりすらしてしまうデリケートな武器。それが、アルマンド大陸における刀の共通認識だ。

 しかし、問題は『評価の違い』ではなく……なぜそんな扱いづらい武器が、こうして大陸に存在しているのか、ってことだ。それも、その製法ごと。

 使いづらい武器なんか、作っても意味はない。
 例え一握りの達人ならば使いこなせるとしても、それだけのためにゼロから、それこそ技術すらない時点から、そういう武器を作り出すなんてことがあるんだろうか?

 メジャーな武器である『剣』とは、似てるようで全く違う過程を経て作り出される『刀』は、いつどうやってアルマンド大陸に誕生し、今日まで受け継がれてきたのか、僕はちょいちょい、機会があれば程度にだけど、ずっと考えてた。

 そしてそれは、こないだロクスケさん達を助けた際、念のために武器として船に積んであった、1本の刀を見せてもらった時に、一つの解にたどり着いた……と、思う。

 アルマンド大陸で見ていた刀と、ヤマト皇国の刀。
 この2つは、錬度なんかの細かい差はあれど、同じ製法で作られたものだ。偶然であそこまで製法が被るとは、到底考えにくい。

 ということは、アルマンド大陸とヤマト皇国で使われている刀、およびその製法は、元は同じ起源を持つものだ。恐らくは、その普及規模の差から考えて……それはヤマト皇国だろう。

 すなわち『刀』は……大昔に『ヤマト皇国』から『アルマンド大陸』に伝わったものだ。

 『刀』だけじゃない。

 ローザンパークに伝わる日本様式(もどき)の建築物や料理といい、そこで出会ったナズナさんやカスミさんといい、その他にもあちこちに『日本っぽい』ものはいくつもあった。そしてそのほとんどが、『いつ、どこから来たかわからない』『気が付いたらあった』というものだった。

 このことから、僕は、今よりずっと昔……師匠が知らないってことは、数百年規模で昔のことだろう。アルマンド大陸には、かつて『ヤマト皇国』との間につながりがあったのだ。

 それが、単なる道、ないし物理的なつながり、行き来するための手段ということなのか、はたまた国家間の交流があったのかはわからない。

 僕が付き合いのある4国……ネスティア、ジャスニア、フロギュリア、ニアキュドラでは、過去を遡ってそういう話はないようだった。……ニアキュドラはここんとこ数十年で、ちょっと滅んだり立て直したりが何度もあった国なので、歴史資料とかが少ないんだけど。

 チラノースはどうなのかは、わからん。調べる手段がないし……そもそもあの国、数十年前に合併してできたとか前に聞いたな。

 そしてシャラムスカもわからん。ソニアやネフィアットに聞いてみたけど、彼女達が知る限りでは、そういうのは知らなかった。

 そして、気になっている最大のポイント。
 それは……言語だ。

 僕ら『アルマンド大陸』の人間と、ゴン君達『ヤマト皇国』の人間が、同じ言葉を話して普通に会話できてる点からしておかしいよね。全く別な文明から生まれて、今日に至るまで交流も何もなかったんだとすれば、言葉が全く違って通じないなんてこともありうるのに。

 そもそも、地球では国境を超えるだけで使う言語が違うのに……アルマンド大陸の中だけでも、多少なまりがある程度で、全体で共通の言語が使われてるだけで、考えてみれば驚きだ。
 普通に助かってるから、今までは触れなかったというか、気にしなかったけど。

 そしてその割には、たまに『関西弁』とか話したりする人に会ったりもするし……ホントどうなってるのかよくわかんないな、この異世界。

 その辺についても、もしかしたら今回の訪問の期間中に、わかることがあるかもしれないな。

 未だかつて誰も知らず、明らかにされてこなかった、アルマンド大陸の文化の一端、そのルーツ。
 きっとそれが解き明かされれば、双方にとってそれは、歩み寄りを進める上で大きな助けとなり、また歴史学上でも大きな価値のある発見になることだろう……



 そんなことより僕は、早いとこ上陸して『陰陽術』について調べたくてたまらないんですが。



「あんたはやっぱりそこに行くのか」

「え? え?」

「…………(何度もうなずいている)」

 シリアスモードから一瞬にして欲望を吐露した僕に対し、エルクの目は一瞬でジト目に変わり、いきなり変わった話題(と空気)にゴン君は困惑し、師匠は『全く同感である』とでも言いたげにこくこくと何度もうなずいている。

 いや、だって仕方ないじゃん! あんなん見せられたらそりゃ気になるじゃん!

 『陰陽師』だよ!? 『陰陽術』だよ!?
 日本におけるファンタジー要素の中でも、ぶっちぎりで有名なそれらの要素が、そこに至る道が今こうして目の前にあるってのに、そこで足踏みしなきゃいけないこのもどかしさ!

 あー、さっさと上陸して好き放題調べたい! 色々文献とか読み漁って勉強して研究したい!
 けど、国交もなければ冒険者ギルドもない国でそんなことしたら国際問題になるから我慢するしかないっていう……!

 それにだ! 『陰陽術』だけじゃなく、『妖怪』って名前の――こっちは呼び方が違うだけで単なる魔物とか亜人かもしれないけど――また別な研究対象まであるんだから!

 あ~~~~早く話纏まんないかな~!!

「まあ、こいつにしてはよくもった方か……」

「え、よくもった方って……え? こいついつもこんな感じなのか?」

「時と場合によるけど、大体コレが偽らざる本音と言うか、本性と言っていいと思うわ」

 呆れの視線と共に、エルクからは辛辣にそう説明されたが、まあいい。

 僕と師匠は今こうして、目の前にあるけど踏み入ることができない新天地を、宝の山を前にして、大変不本意な足踏みをさせられているわけで……ロクスケさん達が上層部に話を通して、上陸の許可が正式に出るのを、もう1週間以上も待っている。

 その間、僕は船に残っているツノヒコさんやゴン君から話を聞いていた。

 けど、ツノヒコさんは、陰陽術については『一応、一門の秘伝で、部外者に教えてはいけない決まりなので……』って、申し訳なさそうに断られた。全く教えてくれないわけじゃなかったけど、あまり深く突っ込んだ話はできなかった。

 ゴン君の方は、どうも感覚で使っている部分が大きい上、種族固有の能力っぽい部分も大きかったため、こちらも実入りは少なかった。

 僕も師匠も今、新たな研究対象を心待ちにしています。



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