魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第346話 『サカイ』の町にて

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「~~~! ~~~~~~! ~~~~~~!」

「……何です、アレ?」

「全方位360度が面白そうなもので埋め尽くされてるのが嬉しくて、わくわくしてたまらないんでしょうね。……初めてあいつが『ウォルカ』の町に来た時もあんな感じだったわ」

「ああ~……言われてみれば確かに、初めて大都市に来たお上りさん、って感じね」

「ここよりよっぽど刺激たっぷりの場所に住んでると思うんですけどねえ……いやまあ、この町、というか国も、独特な雰囲気がありますし、わからなくもないですが」

「ま、こうなるって予想はできてたけどね、長い付き合いだし。にしても……そうか、あの時からもう3年近くになるのね……ずいぶん遠くまできちゃったもんだわ、色んな意味で」

 何か向こうでエルク達がごにょごにょ話してるのは聞こえてるけど、正直言ってそれどころじゃないので無視してます。ごめんね。

 でもそれも仕方ない。目の前に広がるこのとんでもない、心躍る光景を見ていたら、もう何もかも放り出してあっちこっち突撃していきたくなる。

 時代劇のセットのような、しかし紛れもなく本物である街並みを……ついに上陸した『サカイ』の町を前に、僕はそんな気持ちを禁じ得ない。 

 さっきから、心臓がばくばくいってるのがわかる。もう何て言うか……辛抱たまらん。
 比喩も誇張も抜きの、正真正銘の『新天地』が目の前に! あー、早く色々楽しみたい!



 事態が動いたのは、『ヤマト皇国』は『サカイ』の町が見える位置に到着してから、2週間と少し経ってからだった。

 このタイミングが早いのか遅いのかは、政治には素人で、そもそもこの国の通信網や地理を知らない僕にはわからないが……ともかく、一昨日のことだ。

 陸から来た小舟に乗って、『代表の船』として向こうに知らせているフロギュリアの軍艦に、ヤマト皇国側の使者を名乗る人たちがやってきた。
 『上陸を許可する』という、この国の政府からの返事と、今後の方針を携えて。

 細かく話そうとするとめっちゃ長くなるので簡潔に。あ、以下、意訳ね。


・『フロギュリア連邦』からの使節団及びその護衛等付き添いの者達について、上陸及び『ヤマト皇国』国内での活動を許可する。ただし、互いの文化等の違いを考慮し、無用な諍い等を起こすことを避けるため、外出等の際は最低1名の『案内役』をつけ、またその前後に報告を行うこと。

・『フロギュリア連邦』からの政治的な交渉の一切は、『サカイ』の町を管理する『大名』の屋敷で行う。なお、交渉の経過は双方の書記官が記録し、会談等終了後に毎回内容の齟齬がないか確認を行い、互いに会議録を複写して保管する。

・『フロギュリア連邦』使節団及びその護衛等付き添いの者達の、『サカイ』の町にいる間の滞在先は、サカイ藩指定の御用達宿を貸し切りにすることで対応する。外出は自由だが、前述の注意事項を厳守すること。

・その他、滞在中に発生する問題・事案等については、原則としてこちらからどう対応するか指示する。その対応内容に異議等ある場合はその旨申し出、協議の上決定することとする。

・なお、今回、遭難し貴国に流れ着いた我が国の民を護送してくれた件については、別途礼をする。


 要するに、『漂流者助けてくれてありがとう。国交とかの交渉のテーブルには就くし、この国を見て回ってもいいけど、一応監視はつけさせてね。あと、いらんトラブル起こさないように、何かあったらこっちの監視役の指示に従ってね』って感じだ。

 それ以上の小難しい話は、ドナルド達の領分であり、僕らは理解しなくていい……あるいは、突っ込んじゃいけない、って言った方がいいかもわからないな。

 ともあれ、こうして僕らは『ヤマト皇国』上陸の許可をもらい、指定された滞在先に拠点を移して活動することになったわけだ。

 まあ、それでもきちんと船に、船番とかの乗員は残しておかなきゃいけないから、『全員』じゃないんだけどね。
 軍艦ではローテーションを組んで、一般兵その他を順次陸に降りられるようにするそうだ。

 一方僕らはどうするかと言うと……この新天地を前に、誰か1人とか2人を仲間外れにするなんてありえません。全員で下ります。

 そしてその後、『オルトヘイム号』自体をミュウに頼んで『送還』します。

 最近忘れがちだけど、あれ一応、ミュウの『召喚獣』だからね。
 元は魔物だからね、『幽霊船』と言う名の。ついでに言うなら、シェーンんちの元・海賊船。

 改造しまくってるから、ほぼ面影なくなっちゃってるけど。

 だから、船内に生命体が1つもいなくなっていれば、他の召喚獣と同様に『送還』できるし、いざとなれば、他の場所にいる時に自在に呼び出したりすることもできるのだ。
 それを利用して、今回はそもそも船番が必要ないように、しまっちゃうことにした。

 だが、6隻あったはずの船がいきなり5隻になったとなれば、騒ぎになることは間違いない。

 なので、あらかじめ用意した『ダミー』を置いておく。
 こういう時を想定して事前に作っておいた、ガワだけ似せたオルトヘイム号のレプリカを。

 レプリカと言っても、そのまま船として運用可能なスペックは持っている。
 『オルトヘイム号』には遠く及ばないが、そこらへんの軍艦とかとなら比べてもそん色ないレベルだ。武装も一通りついてるし、食料とかの積荷もそろえてある。なんならそのまま動かせる。

 言ってみればコレ、本物の軍艦を一隻用意したのとさして変わらないんだよな。
 作ってるうちに興が乗ってきて、割と本気で作りこんじゃったよ。

 だから、万が一『中を調べさせろ』って誰かが乗り込んできても、何も不審には思わないだろう。

 ……むしろ、本物の中身がぶっ飛んでるんだもんな。

 そしてそのダミーの船に、特別製の『デストルーパー』を20人ばかり用意して番をさせる。モンスターに見えないように、甲冑等で武装した兵士にしか見えないように偽装した奴を。
 交代交代で見張って見回って、警備についている……ように見せかける。

 そしてもし船内に侵入者が入ったりした場合は、セキュリティもきちんと作ってあるから即座に僕らがわかるようになってるし、中にはミシェル兄さんと協力して、多数のアンデッドと『CPUM』を仕掛けてある。もちろん、許可を経て入ってくる人には見つからないようにするが。

 きちんと許可取って入っても何も怪しいところはなく、無許可で入れば殺人トラップがいくつも待ち受ける上、、アベレージAAAのアンデッドと人工モンスターの軍団に襲われる。余程の実力者でも生きては出られまい。

 これで偽装は完了。
 僕らは全員揃って、この国の観光を楽しむわけだ。護衛もちゃんとするけどね?



 というわけで、僕らは部屋に荷物を置いたら、すぐにこうして表に出て来たのだ。
 
 オリビアちゃんも一緒である。『どうせ護衛していただくのですから、一緒にいれば観光もできて一石二鳥ですし』って。わかってるじゃん。

 なお、宿はさっきも言ったように、藩御用達の高級宿だけあって、設備も一級品だったし、接客もきちんとしてた。僕らみたいな異国人に対しても、きちんと対応してくれた。

 畳の上で三つ指ついて出迎えて、挨拶してくれる感じだったから、『なんかすごい丁寧!?』って、エルク達は驚いてたけど……僕はむしろめっちゃ懐かしくなって感動しちゃったよ。

 宿って言うか、正確には純日本様式の『旅館』だったからね。どう見ても。

 あと、当然ながら、靴を脱いで畳に裸足、あるいは靴下で上がる様式だった。

 明治時代、日本文化になれてない外国人は、畳に土足で上がっちゃったりしてトラブルになることが多かったそうで……実際、フロギュリアの人たちは戸惑ってる感じだったな。
 事前にきちんとオリビアちゃんとドナルドが通知してたから、トラブルは避けられたけど。

 なお、僕ら『邪香猫』及びその関係者は、拠点にその様式の部屋が普通にあって利用してるので、すぐに理解して馴染んでいた。全く問題なし。

 そうして僕らは、早速『サカイ』の町の観光に乗り出そうってことになったわけだ。

 当然、さっきの条件の通り『案内役』という名の『監視役』が一緒なわけだが。

 その人は、どうやら僕らが敢行に出ると希望を出した段階で素早く手配されたようで、部屋を出る時に、部屋に来るところだったようで……っていうか、

「案内役って、あなただったんですね、ロクスケさん」

「はははは……ええ、数日ぶりですね、ミナト殿。その節はどうも、大変お世話になりました」

 海の上で僕らが助けた漂流者であり、どうやらこの国ではお役人、もとい公務員的な仕事についているらしい、『陰陽師』のロクスケさんが、僕らの担当の案内役としてついてきていた。
 今日だけなのか、明日以降もなのかはわかんないけど。

 当然彼は『監視役』なわけだが、それはもう実質皆知ってるというか、理解してることだし、それをどうこう言う気はない。

 というか、そりゃいきなり来た異国人を、自国内で好き勝手に歩き回らせるのをよしとするはずもないからな、当然の措置と言えるだろう。もうちょっと相互理解が進んで、正式に国交とか結んだ間柄とかにでもなれば、また違ってくるんだろうけどね。

 まあ、そのへんは置いといて、今は観光だ観光!
 ロクスケさん、むしろそっちの案内役としての腕を期待してるんでよろしく!

「ご心配なく、私はこの町の出身ですからね、地理は頭に入っていますよ。ご満足いただけるように『案内役』を務めて御覧に入れましょう」

「あ、そうなんですか。もしかしてそれで僕らの案内役に選ばれたんですかね?」

「ええ、恐らくは。まあ、細かい理由も他に色々とあるでしょうが」

 ちなみに僕らは今、『全員』一緒に町を見て回るってことで、ひと固まりで動いている。
 普段はバックヤードのシェーンとかまで含めて、正真正銘の全員。邪香猫フルメンバーだ。こないだエルクに見せてもらった『メンバー表』に載ってた全員がここにいる。アルバも、僕の肩にとまってるし。

 それこそ、ネリドラの別人格であり、本来は実態を持たないリュドネラもだ。CPUM『バルゴ』に憑依して、しかし服装は無難なそれに設定して、実体化している。

 もっとも、無難って言っても僕ら基準と言うか、『アルマンド大陸』の基準だけどね。

 そして、僕らはロクスケさん以外全員、そういう『異国』丸出しの装いをしてるわけなので、そりゃもう目立つ目立つ……道行く人、すれ違う人がみんな、珍獣を見るような目で見てくるよ。

 見慣れないデザインの上、1人1人違う、バリエーションに富んだ服装だからねえ。

 僕やザリー、ミュウやシェーンの服装はまだ控えめっていうか、そこまで派手でもなく、比較的大人しめなそれだけど……

 エルクやシェリーの装備は、どちらもへそとか出てて結構露出多めだし……師匠のも似たようなもんだな。白衣羽織ってるけど。

 ナナやセレナ義姉さん、ギーナちゃんやクロエのは、制服とか軍服、あるいはそれっぽい装束だ。これはこれで、説明は難しいが、カチッとした感じと言うか、独特な雰囲気はある。

 ネリドラとリュドネラはナース服。外出用に上着来てるけど、これも独特な雰囲気。

 オリビアちゃんは、貴族としての正装なので、華やかで品のある服。オーラ的なものを感じる。

 そしてミシェル兄さんは、いつも通りの黒ずくめ。マント型の外套で足首あたりまで覆ってるから、ちょっと別な意味で異質に見えなくもない。

 こんな一行がひと固まりで歩いてたら、そりゃ目立つわ。見るわ。
 ……まあ、ちょっかいかけてこなければ気にしなくていいか。

「さて、まずはどこから見て回りますか? お決まりでしたら、お聞かせいただければ案内しますが」

 と、ロクスケさんから言われたので、張り切ってお言葉に甘えることに。



 まず最初に僕らが訪れたのは、両替商である。

 何をするにも、必要なのはお金だからね。
 前もって用意していた貴金属類を売却して、この国の通貨を入手することにした。

 案内された店の人たちは、今噂になってる異国の客人が来たってことで、当初は驚いていたようだけど……そこはプロ根性とでも言う奴なのか、きちんと丁寧に対応してくれた。

 しかもどうやら、出て来たのはここの『大旦那様』らしい。店長か、あるいはそれより偉い人かな? なるほど、肝が据わっている人だ。

「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。なにぶん私どもも異国のお方を相手にするのは初めてのことでして、勝手が違うことなどあるかもしれませんが、どうぞご容赦くださいませ」

 板張りの床に正座して、柔和な笑みと共にそう言ってくる、人のよさそうなおじいさん。
 またしても超丁寧に思える対応に、僕以外のメンバーはちょっと驚いていたけど、先に旅館で女将さんや中居さんがそうしているのを見ていたからか、そんなでもなかったな。

「して、本日はどういったご用件でありましたか?」

「あ、はい。こちらで現物と通貨の両替ができるということをうかがいまして……」

 そこで僕は、売却用に用意しておいた貴金属類を出して、買い取りのような形でこの国の通貨に換えてもらえるように頼んだ。

 出したのは、インゴットにした金や銀、翡翠、真珠、金剛石ダイヤモンドなど。
 細かく使えるように、砂金も用意しておいた。

 どれもこの国でも取れるし、流通しているであろうものばかりだ。事前に『漂流者』や、ロクスケさん達にも聞いて確認しておいたから。

 それらを手分けして、店の鑑定担当の店員たちに加え、『大旦那』さんも自ら品質を見ていた。

「これは……どれも素晴らしい品質ですな。お前達の方はどうだい?」

「はい、こちらもです。これほど見事に磨かれ、傷一つない宝石はなかなかないですよ……『キョウ』の都にでも持ち込めば、貴族のご婦人方がこぞって買い求めるでしょうね」

「こちらの金塊や銀も、混ざりものもほとんどない、最高に近い品質ですよ」

 そう聞いて『大旦那』さんは、ふむ、とその金のインゴットを手に取り、懐から音叉みたいな形の鉄の棒を取り出して、キィン、と軽くたたいて……目をつむってじっとその音を聞いていた。

「……確かに、ほぼ純金とまで言っていい純度だ。混ざりものがここまで少ないのに加え、形もここまで均一とは……腕のいい職人が作った鋳塊のようですね」

 ちなみに、インゴットは僕が自分で作ったりしたものも混じってるけどね。
 わざわざ言うほどのことでもないから黙ってたが、こうして褒めてもらえると嬉しいな。自分の技術が、こんな異国でもきちんと通用してるって実感できる。

 あと、こっちも面白いもの見れたな。あんな風に、音で不純物の有無や量を判別できるもんなのか……僕もできないことはないかもだが、精度とか不安だし、普段は魔法とかマジックアイテムでスキャンとかしてるからなあ。ああいう職人芸は、見ていて心躍るものがある。

 ともあれ、提出した貴金属類はおおむね高評価だったため、十分な量の通貨を手に入れることができた。大旦那さんも、大きな、しかも有意義な商いができたってほくほく顔だったな。

 そして、そうして入手したこの国の通貨だが……予想しないではなかったものの……

「これがこの国の通貨か……変わった形の金貨ね。薄いし……楕円形って初めて見たわ」

「銀貨は四角形だし……銅貨はコレ、何で真ん中に穴開いてんの? てか、ちっちゃ」

 エルクとシェリーがしげしげと眺めながら、そんな感じで感想を言っているが……その言葉通り、この国の通貨は、かなり独特な形状をしていた。

 というか、金貨っていうか……小判だコレ。時代劇でおなじみ。

 そして、銀貨はシェリーの言葉通りに四角形。時代劇とかでこれもよく見たな。

 そして銅貨というか銅銭というか……穴が開いてる貨幣って、地球でも珍しいらしいね。日本人にとっては、5円玉と50円玉で見慣れてるものだけど。
 この異世界でもそうだったってことだ。言われてみれば、大陸ではそんなもん見たことない。

 幸いと言っていいのか、単位とか数え方は、そこまで複雑じゃなかった。

 もしそんなとこまで時代劇とかに忠実だったら大変だったな……江戸時代とかの貨幣単位って、両だの貫だの匁だの、めっちゃ細かくてややこしかったっぽいし。
 詳しくは全然覚えてないんだけど……まあいい。よし、とりあえず一回整理しよう。

 まず、僕らの大陸の通貨をおさらい。


【アルマンド大陸 貨幣レート】

銅貨1枚=100円
銀貨1枚=銅貨100枚=10,000円
金貨1枚=銀貨100枚=1,000,000円


 んで、次にこの国の通貨だが……


【ヤマト皇国 貨幣レート】

銅1銭(銅貨1枚)=10円
銀1匁(銀板1枚)=銅100銭=1,000円
金1両(小判1枚)=銀100匁=100,000円



 色んなものの値段を聞いてみて推測した感じがだいたいこんなとこ。

 思ったよりわかりやすくて助かった。

 時代設定にリアルだと、とんでもなくややこしいからな……10枚区切りじゃなかったと思うし、さらには時期とか場所によって、挙句の果てに使われるシチュエーションや、取引する品物によって価値が違うなんてことまであったようで……もしそうだったらと思うとちょっと冷汗だな。

 しかし、ここではわかりやすく、アルマンド大陸と同じ100枚区切りで……これらを『金貨』『銀貨』として見た場合、大陸のそれの10分の1の価値か。
 貨幣自体の大きさの違いはもちろん、貴金属の含有量の関係だろうな。

 なお、時代劇とかでよく見る、束になってる小判も出て来たのでちょっと感動した。
 25枚=250万円分が一束になっていて、紙でとめられている。コレ4つで1000万円か。

 さて、こうして僕らはこの国の通貨を無事手に入れたわけだが……これらのうち、3割をエルクに渡す。『邪香猫』の資金としてプールして管理しておいてもらうために。
 
 もう3割を皆で分ける。この国にいる間のお小遣いというか、活動資金というか。
 宿代とかは別に出るので、完全に私的なお金である。何に使ってもいいが、ご利用は計画的に。

 そして残り4割だが……この部分は、実は僕のポケットマネーで用意したものなので、100%僕の金だ。

 前にもちらっと話したと思うけど、僕は、研究素材やら文献やら、面白そうなマジックアイテムやらを見つけて買いあさる時、『邪香猫』の資金には手をつけず、自分が稼いだ金を使っている。新薬の特許料金とか、マジックアイテムの委託売却益とかで。

 今回もそれと同じだ。僕のポケットマネーで貴金属を用意した分が、この『4割』だ。
 『邪香猫』の資金は、さっき分配&プールした『3割+3割=6割』で全部である。

 その金を何に使うのかって? 決まってるじゃないか。
 色々な趣味だよ……全て、ね。

「よぉし……軍資金はできたな、弟子」

「はい師匠、お待たせしました。ミシェル兄さんにネリドラ、リュドネラもお待たせ」

「ん、待ってた」

『よーやくお買い物できるってわけね……ふふふ、楽しみ』

「歩きながら見てたけど、大陸には売ってないものばかりだったからねえ」

「…………あそこだけ空気が違いますねー……」

「完全に『触れるな危険』の領域よね。見るからに」

「………………?」

 マッド枠5人が不穏なオーラをまき散らしている(自覚はある)のを、あきらめた目で見ているエルク達と……よくわかっていないのか、ちょっと不思議そうにしているロクスケさんの視線は、最早僕らは何も気にしていなかった。


 ☆☆☆


 うん、大満足。

 いや、本音を言えばまだまだ回りたいところあるけど、流石に今日はこれで終わりにしよう……もう日が暮れるしね。

 さすがはこの国でも屈指の商業都市。半日かけても、2割くらいしか回れなかった。
 まあ、店1つ1つじっくり見てたのも原因だろうけどさ。

 とりあえず、今日1日分の成果としては、十分に大満足だと言える。

 まず、食べ物系。
 アルマンド大陸にはないものを楽しむために回ってたわけだが……探すとかするまでもなく、ほぼどれも大陸にはないものばかりだったな。うん。

 団子やおはぎ、きな粉餅やまんじゅう、お汁粉なんかの甘味系はもちろんのこと。

 うどん、そば、てんぷらといった、きっちり1食食べる系のものも美味しかったけど……僕以外のメンバーは、『箸』を使って食べるのに慣れてないから、ちょっと苦戦してたな。

 加えて、そばとかをずずずーっ、とすすって食べるやり方になじみがなくて、ぎょっとしてたりもした。特にオリビアちゃんとかが。パスタとかだと、音立てて食べるの無作法だもんね。

 ちなみに僕は、箸の使い方もすする食べ方も全く問題ない。元日本人だし、当然である。

 というか今更だが僕、マイ箸持ってる。持ち歩いてる。

 僕、ローザンパークに行くまでは、普通にナイフとフォークとかで食べてたんだけど、そこで『箸』という食器が存在するということを皆が認知した段階で、僕は自分用の箸を作った。

 当然、ただ木を削って作っただけとかなはずはなく……マジックアイテムである。

 希少金属『ヒヒイロカネ』をベースに、複数の種類の金属を組み合わせて作った超合金が原材料であり……魔力をよく通し、僕の意思をよく反映した働きができる多機能箸だ。

 料理を切ろうと思えばナイフより良く斬れるし、さして持ちあげようとすればフォークより抵抗なくサクッと刺さり、しかも持ちあげても抜けて落ちたりしない。麺類とかつるつるしたものや、豆粒みたいな小さなものをつかんでも、滑って落としたりしない、実にスペシャルな品である。

 なお、素材はどれも、武器を作った際のあまりの金属である。
 エルクの『オリハルコンのハリセン』と同じってわけだ。それでも贅沢な使い方だけど。

 食器自慢はおいといて、そんな感じで日本食を堪能しました。

 あと、一番驚かれてたのは、刺身だな。
 港町だけあって、新鮮な魚介がたくさん食べられたんだけど、魚の生の切り身を食べるっていうのは、大陸ではかなり珍しい部類の食べ方だからな。戸惑ってた人も多かった。

 カルパッチョとか、例がないわけじゃないんだけど……内陸育ちの人には、まず縁がない食べ方だからな。

 僕からすれば、マジックアイテムでこっそり安全性さえ確認してしまえば、日本人時代を思い出す、大満足の一品だったけどね。思わず船盛で注文してがっつり食べちゃったよ。

 ……明日は寿司とかも食べたいな。あるかな?

 あと、食べ物系以外も、もちろん存分に買い物を楽しんだ。

 雑貨屋、っていうくくりの店はなかったので、いろんな種類の小物を扱ってる店を回った。

 焼き物屋で、陶器の食器とか、味のある土鍋とか茶碗を見たり……夫婦茶碗とかもあったので、エルクと一緒に1セット買ってみたり。

 扇子とか番傘とか、旅行のお土産チックなものも買った。
 あと、和紙と障子紙を大量に買った。拠点に本格派の和室を作る。

 その後畳も……と言いたいところだけど、流石に畳はオーダーメイドになるので、後から作ってもらうことにした。

 それから、見事な漆塗りの小物や家具なんかも爆買い。いやあ……前世ではあんまり気にしてなかったけど、こうして自分も作る立場になってみると、この見事な……何て言うんだろう、趣の深さみたいなもんがわかる気がする。気のせいかもしれないけど。

 あと、呉服屋ってのにも行ってみた。

 当然ながら、和服や、その生地なんて、大陸には全くと言っていいほど売っていない――ローザンパークにかろうじてちょっとあるくらいだ――ため、ここではみんな、目を見開いて、1つ1つが芸術品と言っていいほど美しいその布地に魅せられていた。

 鶴とか、流れる川とか、桜とか……色々な模様が見事に織り込まれてて、それが職人技で見事な着物に仕立て上げられているという光景がまた……

 出来合いのものをいくつか買ってみたけど、やっぱぴったりフィットする着物を皆には着てもらいたいので、ここでも生地を爆買い。反物を何mとかじゃなく、コレとコレとあとアレも、みたいな感じで、反物単位で買っていった。
 加工は、出来合いのものを研究して自分でやります。

 ……当然、マジックアイテムにするけどね……ふふふふふふ。

 そして、武器屋。というか、鍛冶屋。

 刀があった。
 鎧兜もあった。

 しかし、最近どちらも品薄らしく、あんまり在庫はなかった。

 本来なら、もっと種類も数もあるらしいんだけど……どうやら、このところよく売れて、まだ次回の入荷がきていないため、現在品薄の状態ということだ。

 しかも、原因は僕たちだった。

 日本でも、『黒船来航』の際は、ひょっとしたら外国と戦争になるんじゃないかっていう懸念から、武器防具が飛ぶように売れて品薄になったって、前に何かの本で読んだな……なるほど、それと同じことが起こったのか。
 いくら『安全だ』って説明されてても、万が一の事態には備えたいと思っただろうしな。

 どっちみち、ここにはそこまで多くの種類の武器は置いてないようだった。
 せいぜい、槍とか薙刀くらいだ……そのどれも、見事な刃だったけど。

 鎖鎌とか手裏剣とか、忍者刀みたいなのは……このへんにはないのかな?

 まあ、いい。今は、本場『ヤマト』の刀が手に入っただけでも収穫だ。
 インテリアにしてよし、研究材料にしてよし……ふふふ、腕が鳴る。

 しかし、ただ1点、不満があるとすれば……『陰陽師』ないし『陰陽術』がらみについては、そういう物品どころか、扱ってるような店すらなかったことくらいかな。

 こないだロクスケさんが言ってたように『一門の秘伝』だとかで、やっぱり道具1つとっても作り方が伝わってない、独占されてると見るべきか……ううむ……

 どうにかして、勉強したいな……『陰陽術』。



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