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第13章 コード・オブ・デイドリーマー
第244話 ミナトの『力』・後編
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年度末忙しい……人事異動嫌い……引っ越し大変……
あ、それと、あとがきで報告があります。
お手間ですが、読んでいただければ幸いです。
********************************************
僕はあの日……突如として引き込まれた『幻想空間』の中で……1人目の生みの母に会った。
名前は、アドリアナ・ベネビュラスカ・ベイオリウス。
元・ベイオリア王国第二王妃であり……彼女もまた、ベイオリアという国の被害者だった。
……はい、じゃあちょっとここから回想シーン入ります。
☆☆☆
「……?」
そこは、何もない……暗黒の空間だった。
暗い、という表現はいささか正しくない。ただひたすらに、上下左右前後、どこを見ても『黒い』のだ。しかし、視界が阻害されているわけではなく、目の前にあるものは、きちんと見える。
ミナトは、そんな空間で目を覚ました。
その瞬間、ここが『幻想空間』であることを、直観的に理解した。
そして同時に……自分の状態に気づいた。
今、自分は、見知らぬ女性に……なぜか、膝枕されている、と。
(……いや、ちょっと待て……この人、どこかで……?)
自分を見下ろしているのは……明るい茶色の髪の、優しそうな女性だった。
年のころは、20を過ぎたくらいだろうか。肌は色白で、しわ一つなく瑞々しい。
ミナトの髪をなでたり、前髪をすいたりする時に見える手の指は、白魚のように細く美しい。
独特なデザインの、どこかの部族の民族衣装のようなものを身にまとっている。露出は控えめで……法衣か、巫女装束のようにも見える服に、銀細工らしいアクセサリー。
一般的な礼装とも、戦闘服とも違うその趣は……ミナトは初めて見るものだった。
「……そのままでいいわ、ゆっくり、休みながら聞いて……ミナト。私の……可愛い子」
(……え……?)
寝ぼけ眼のミナトに、寝物語を聞かせるように……その女性・アドリアナは、ゆっくりと語り始めた。自分のことや、今までミナトが知らなかった『真実』を……順番に。
内心『いや、今あんまりゆっくりしてる暇ないんだけど……』と思っている僕の心の内は、恐らく知らないまま。
アドリアナは……今はもう存在していない、辺境の集落に住む、ある部族の出身だった。
その部族は、外界との交流を好まず……最低限にとどめていたらしいが、当時、その部族だけが持つ『ある能力』を欲していたベイオリア政府により……その部族は、縄張りごと『ベイオリア』に吸収されることになった。
その際、部族の同胞たちの身の安全の保障を条件に……その部族の『巫女』であり、ひときわ強力な力を持っていたアドリアナは、当時の王家に嫁ぐことになった。
表向きは……友好を深めるためという、いかにもな建前を掲げて。
アドリアナ自身は、条件に納得し、自分の役目としてそれを受け入れた。
その数年後、アドリアナの妊娠が発覚する。
政略結婚の末の妊娠だったが、当時のベイオリア王は、アドリアナのことを、道具として扱うようなことはせず、1人の妻として、誠実に向き合っていた。
それゆえに、アドリアナは夫のことをそれほど悪くは思っていなかったし……彼との間にできた子のことも、喜びをもって受け入れることができた。
しかし、彼女が宿した小さな命は……それから間もなくして、唐突に失われてしまう。
原因は……わからない。
しかし彼女には、それが……腹の中の子供の死亡が、間違いなくわかってしまった。
彼女の部族にのみ生まれる特殊な力の持ち主……『霊媒師』の力の1つである、人の魂の波動を感じ取る力によって……彼女は、赤子の死を知ってしまった。
それを深く悲しんだ彼女は……我を忘れ、1つの『禁忌の術』を実行に移した。
その術の名は……『死者蘇生』。
その名のとおり、死者をよみがえらせる秘術。『霊媒』によって、死者の魂を冥界から呼び戻し……それを肉体に定着させることにより、神の定めた理に反逆する、外法の業。
彼女は、倫理も掟も何もかも捨てて、それを実行した。
施術した対象が、まだ体が出来上がってすらいない、未熟な胎児だったことが幸いしたのか……禁忌以前に不可能だと言われていた術を、彼女は成功させてしまったのだ。
しかし、その時彼女は……同時に、儀式の失敗をも知る。
彼女は、無事に魂を肉体に定着させるため……呼び寄せた魂を、別な術で強化していた。
彼女自身の魂の一部を引きちぎり、それを材料にして。
それにより、赤子と彼女との間に、魂そのものの強力な『縁』ができていたのだが……それを通して、彼女は知った。
呼び寄せた魂が……明らかに、強力な自我というか、自己を持っていたからだ。まだ己の意識すら芽生えていないはずの胎児には、ありえないほどに。
胎児の肉体は、確かによみがえった。
ただし……別の魂をその身のうちに宿して。
こことは違う、別な世界で死んだ少年……春風湊の魂を。
その際にアドリアナが試みた、魂との『対話』により、かろうじてその名……『ミナト』という名前を、アドリアナは知ることができた。
そして彼女は、これも自分の行動の結果だとして受け入れ……異世界の少年の魂を宿した我が子を、愛情を注いで、いつくしみながら、お腹の中で育て上げた。
そして、その数か月後……出産の時。
アドリアナは難産で命を落とし……生まれた赤ん坊には、母親が事前に言い残していた……『対話』によって知られた、魂の名前が付けられた。『ミナト』と。
しかし、その直後にミナトは、『ある理由』から、忌み子として殺されることになった。
それを憐れんだのは……1人の侍女。
アドリアナの一番近くにいた彼女は、ひそかにミナトを連れ出して逃がし……信用のおける相手に託した。せめてこの子だけは、大切に育ててくれ、と。
その相手は、侍女の知り合いの平民の夫婦だったが、長らく子供に恵まれなかったその2人は、大切に育てることを約束し……事実、引き取ってからは愛情を注いで世話をした。
しかし、その直後に起こったクーデターにより、国内は荒れた。
激しい戦闘、続く内紛……それらによって、住んでいた町を追われることになった夫婦は、難民となってネスティアへ逃げ延びたが……途中、どうしても連れていく余裕がなくなったことで……ミナトを捨ててしまう。
……死んだ後のことなのに、なぜアドリアナがそこまで知っているのか、といえば……彼女がミナトに施した、『魂の欠片による強化』によってできた縁により、死後、彼女の魂がミナトの魂に引き寄せられて取り込まれ、意識だけの状態で、ずっとミナトと共にあったからだ。
しかしそれも、徐々に薄れていき……捨てられ、飢え、凍え、弱り……二度目の死を迎えようとしている我が子に対し、何もできない自分を嘆いていた。
……そして、ミナトの命と共に、彼女の意識がとうとう消えようとした時になって……彼女は、ミナトの目を通して、赤ん坊を拾い上げる、1人の女性の姿を見た。
金髪に、緑色の瞳を持つ……リリン・キャドリーユという名の女性を。
それを最後に、アドリアナの意識は……ミナトの中で、長い眠りについた。
次にアドリアナが目を覚ました時、ミナトは……ミナト・キャドリーユとして育っていた。
そして、ベッドの上で……傷だらけになって眠っていた。
それは……リリンが、ミナトに対して行った、2度目の『テスト』の直後。
後になって分かったことではあるが……テストの中で、怒りという感情を爆発させたミナトは、その際、なんと『ザ・デイドリーマー』を一時的に覚醒させていた。
ミナトが、『サタンポイズン』という名の毒によって、リリンを追い詰めることができたのは……実は、ここに起因しているのである。
魔力性の毒というだけでは、リリンの強力な魔法耐性に阻まれてしまっていただろうが……母の仇を討つという爆発的な感情に後押しされた『ザ・デイドリーマー』が、それを貫いた。
そして、その覚醒の余波によって……長い間、ミナトの中で眠っていたアドリアナの魂が、たたき起こされることになったのである。
その後、クローナとリリンが協力してかけた魔法によって、ミナトは記憶ごと『ザ・デイドリーマー』をも封印されることになるのだが……その際、アドリアナの意識は消えなかった。
再び我が子のもとに戻ってこれたリリンは、その日から……陰ながらミナトのことを見守りつつ、人知れず、色々と手助けをしていくことにした。
具体的には……リリンとクローナがかなり強引に記憶を封印したことにより、精神にかかっている負荷を、彼女の力で中和したり……その封印の中で、時折暴れだし、あふれ出そうになる『ザ・デイドリーマー』の力を、封印に少し手を貸す形で抑え込んだり。
(この力は、まだこの子には早い……せめて、時が来るまでは……)
それを続けつつ、ミナトを通して周囲のことを知っていったアドリアナは、エルクたちとの交流をほほえましい気持ちで見守ったり、たくましく否常識に育ったミナトの戦いに唖然とさせられたり、同じくらいぶっとんだ兄弟姉妹たちにまた唖然とさせられたりしつつ……ミナトと、いつも共にあった。
精神体である上、不安定な存在であるがゆえに、いつも見守っていられたわけではない。時には、休眠状態だった時と同様、ある程度は眠りについて休む必要があった。
しかし最近になって、アドリアナはほとんど常に意識を保てるようになっていた。
それは……ミナトの中で、アドリアナに由来する『力』が、徐々に育ち始めている証拠。
だがその力もまた、封印の術式によって表に出てこられない。
そんな状態のまま、長い月日が過ぎていったが……とうとう、それが破られる日がやってきた。
話を聞いているうちに、いつの間にか、意識もはっきりしてきたミナトに……アドリアナは、優しくほほえみながら、ゆっくりと告げる。
「ミナト……本当に、大きくなったわね……。今、大切な仲間のために戦うあなたに、私がしてあげられることなんて、このくらいだけど……少しだけ、力を貸してあげる。あなたの『母さん』がくれた力と一緒に……よかったら、コレも持って行って」
そう言って、アドリアナは……ミナトの額に、ぽん、と優しく手を置いた。
その瞬間……ミナトの体の中から、一気に力が膨れ上がり、あふれ出し……クローナとリリンが施した封印が、粉々に砕け散った。
そして、ミナトは手に入れた。自分の中に眠っていた、本当の力を。
リリンから受け継いだ、『夢魔』の力と……その究極系『ザ・デイドリーマー』。
アドリアナから受け継いだ、『霊媒師』の『霊媒能力』。
奇しくもそれらは、どちらも『相反する2つ』を超越して力を得る、という力だった。
『夢』と『現』を超える力と、『死』と『生』を超える力。
よく似た2つは、ミナトの中で同時に目覚め……相互に干渉し、高めあい……結果、疑似的な、しかし規模としては決して劣るものではない形で、『アーク化』が発生。
相乗効果により、リリンはもちろん、アドリアナにも想定外の爆発的な力となった。
その変化は、ミナトに凄まじき力をもたらし……瞬く間に戦いを終結させた。
☆☆☆
「……とまあ、これが、僕が経験した……っていうか、僕の『お母さん』から聞いたこと全部。それ以来、なぜか……その『お母さん』には、会えなくなっちゃったんだけどね」
「はー……そんなことがねー……」
『幻想空間』での出来事についての説明を終えると……皆さん、何とも言えない表情。
感心と驚愕が3:7ってとこだろうか。あ、でもちょっと微妙に呆れも入ってる気がする。
「ところでそれだと、あんたその、1人目の……『お母さん』から受け継いだ力も、あの時覚醒させた、ってことでいいの? 『ザ・デイドリーマー』とは別に」
「うん。『霊媒師』の能力」
『霊媒師』。日本で言うと、『イタコ』とか言うのかな?
まあ別に、死んだ人の霊だけを相手にするわけじゃなさそうなんだけどね。
『精神世界』でお母さんに聞かされた内容によれば、『霊媒師』は……自然界の精霊とか、古いものに宿る付喪神的な意思と交信したり、その力を借りて、普通の魔法では不可能な現象を、特殊な術を用いて発生させたりするらしい。
俗に言う『精霊魔法』とか、そういう類のようだ。
代表的なのだと、前に、元『ドライアド』、現『フェスペリデス』のネールちゃんが使ってた魔法なんかはその1つだ。そもそも、ネールちゃん達自身も『精霊種』だけども。
本来、種族的に相性がいい種類のそれしか使えない……というか、そもそも使えない種族が大半であるその魔法や、そのさらに上位互換とも呼ぶべき術をいくつも使える。
万物に宿る力に干渉し、その力を借りる。それが、『霊媒師』。
ただ、よく霊能力者がやるような、『死んだ人の例を降ろして取り憑かせる』とかいうようなことは基本しないし、できないそうだ。そもそも、あるかどうかもわからない冥界から狙った魂を呼び出すとか、無理らしい。
実力のある者なら、自我の強い精霊とかを一時的に自分に取り憑かせる、みたいなことはできなくもないそうだけど。
『死者蘇生』の時は……死んで間もない時期だった上に、魂の痕跡が手元の胎児の亡骸に残っていたため、それを手繰り寄せて『引っ張り戻す』形でお母さんは実行したそうだ。
結果、なぜか僕が巻き込まれて来ちゃったわけだけど。
まあ、それを抜きにしてもこの能力……十分強力なんだけどね。
精神世界での説明で、なんとなくだけど理解できた。
精霊魔法……一部の亜人や精霊種の類が使う固有魔法ってのは、自然の力を借りるものだ、ってのはさっき話したけど……より正確に言うと、10割自然由来の力を使えるわけじゃない。
精霊魔法ってのは、大きく2つにわけることができる。
1つは、自分の魔法に自然の力による補助を取り込むことで、効力を強化するもの。これには、先にちらっと説明した精霊の類の憑依・降霊とかも含まれる。
で、もう1つは……自然現象とか、自然界にある大きな『力』に自分の力を少し加えることで、大きな力を制御して利用したりするもの。
結局は自分の力も必要になるわけだけど、それを差し引いてもとんでもなく強力である。
師匠のところの資料では……その類の精霊魔法には、色々と制約は厳しけれど、時に大規模な自然災害すら完全に支配する魔法もあるとかないとか、それができる種族がいるとかいないとか……そんな記述もあったはずだし。
ちょっと大げさな言い方かもしれないけど、言わば……大なり小なりの『自然の摂理』そのものを味方につける技。それが、精霊魔法というものなのだ。
そんな『シャーマン』の能力を受け継いだ僕は、あの場で……早速その力を使ってパワーアップすることに成功したのである。
まだ未完成だった『CPUM』3体……『ワルプルギス』『ゲオルギウス』『ウロボロス』を取り込み、吸収することによって。
あの3つは、単なる人造モンスターではなく、必要に応じて使い手の補助をする能力を持ったモンスターとして作成を進めていた。
『ワルプルギス』は、魔法発動の補助や、演算の補助。および、インストールしてある多数の魔法を使用者に使用させることができるデバイスとしての力を。
『ゲオルギウス』は、単純な戦闘力の強さはもちろんのこと……様々な武器・兵器を搭載させ、切り込み隊長からサポート、盾役までこなす戦闘分野のエキスパートに。
『ウロボロス』は、それ自体の戦闘能力はある程度無視して……使用者の強化、それも、身体能力や治癒力のブースト&コントロールに特化した存在として。
それぞれ開発を進めていたが……どうも、持たせた機能性と素体の釣り合いを取るのが難しくて、未完成のままだった。そのため、暫定的に、半実体であるエネルギー体で代用していた。
あの時点でも、単体での使用はできたけど……もって10秒かそこらだったし、必要な魔力が膨大すぎて使えなかった。僕が、船でアレを持ち出した時に『多分使えない』って言ってたのは、ここに起因する。
それを利用して僕は……術式『だけ』はきちんと完成していた3つを、疑似的な意思を持っているだけのエネルギー体……言ってみれば、『精霊』とか『霊魂』に近い状態であることを利用して、そのまま体内に取り込んで吸収した。
その結果、術式としてあれらが持っていた力――機能を取り込むことに成功した。
今思うと、アレって一種の『降霊術』だよね。
その上で、それを発揮するのに最も適した形に変容した装備によって『アルティメットジョーカー』を発動し、さらにそこから変容の延長で出現させた3つの武器……『ワルプルギスのマント』『ゲオルギウスの剣』『ウロボロスのベルト』を駆使して戦った、というわけ。
おまけに、未実装だった『魔法式縮退炉』も使うことができたので、ホントに何でもありの戦いができた。
「はー……そりゃとんでもないことになったわね。ガチで」
「似通った力で疑似的に『アーク化』しただけでもたまげたっつーのに、精霊魔法とは……しかも、種族に縛られず使用可能な……。確かに、そういう部族がどこかにいるってのは聞いたことあったが……まさか、おめーがその血を継いでたとはな……」
母さんに加え、師匠も普通に驚いている。珍しい光景だ。
まあ、無理もないだろう……今師匠も言ってたけど、精霊魔法ってのは、本来その種族に適したものしか使えない。
エルフ系なら植物系や風属性、人魚なら水属性や氷属性の精霊魔法が得意で使えるけど……他は無理だ。エルフ系の種族が、水とか火の精霊魔法を使うことはできない。
これは、努力とかでどうにかなる範疇ではない。人間に鰓呼吸しろって言ってるようなもんだ。
しかし僕は――というよりも、僕の母さんの種族は、出力では専門の種族には大きく劣れど、修行と個人の素質次第で様々な種類・属性の精霊魔法を使える。
ゆえに、本来は不可能な、火と水と風の精霊魔法を同じ人が使う、なんてこともできた。
また極端な例になるが……これは言ってみれば、翼もないのに鳥のように空を飛び、魚のように水の中で息ができ、蝙蝠のように真っ暗闇でも見えて、蛇でもないのに体から毒を出せる人間……ってくらいありえない存在なのだ。
「……あんた全部できたわよね?」
エルクうるさい。
「しかし……ということは何か? この童は、もともと強かったのに加えて……『理』を気合いでぶち抜ける『ザ・デイドリーマー』を開眼したばかりか、さらにその『理』そのものをも味方につける『シャーマン』の力も開眼し、挙句の果てにそれら2つが相乗して強化されとる……ってことでよいのか?」
何か、感心しつつも呆れたような疲れたような調子で、テーガンさんがそうまとめた。
と、エルクが何か思い出したような仕草をして、
「そういえば……さっきあんた、『CPUM』取り込んだって……じゃあ、あんたの中には、その『機能』が今も? それって、弱点だった魔法不器用を克服した、ってことじゃ……?」
「いや、そううまくはいかなかったみたい。戦いの後……ほら、こんな風に分離しちゃったし」
言いながら、僕は帯から3枚のカードを取り出して見せる。
そこには、あの夜取り込んだはずの『ワルプルギス』『ウロボロス』『ゲオルギウス』が……データが一部欠落した状態になって、封印されている。
「力の一部は吸収できたから、前よりはマシだけど……もう一回同じようなことをするなら、再度この3つを取り込む必要があるみたい。だから今、どうせならと思って……コレ3つを1つにまとめたCPUMか、あるいはマジックアイテムにできないか研究中」
完成した暁には、完全な『変身アイテム』になるな、と今から予想していたりする。
そんな感じのことを説明し終えると……聞いていただけでだいぶ疲れたらしい一同から、『はぁ……』といった、溜息の大合唱が起こった。
しかし、いつも僕が『否常識』シリーズを披露した時のそれとはちょっと感じが違う。
例えるなら……映画を1つ見た後みたいな……そんな、『疲れたけど有意義な時間だった』的な感じの溜息に聞こえた。気がする。
……やっぱり、お母さんのエピソードが混じってたからだろうか?
自分で言うのもなんだけど、それ以外のところだけ見てみると、また僕の発明品がとんでもない活躍をした挙句、それ使って僕が自分で自分を魔改造した的な内容になるんだけど。
……まあ、いいか。
……あ、そうだ。忘れてた。
『お母さん』のことに関連して……もう1つ、話とかなきゃいけないことがあったんだ。
「あのさ、さっきの話の中で一緒に伝えられれば良かったんだけど……もう1つ、一応報告しときたいことがあるんだけど、いい?」
と、母さんの膝の上で、みんなに問いかける。
「うん? 何か言い忘れでもあった?」
母さんがそう尋ねてきた。
「あー、まあ、一応なんだけどね……コレ話したから何かをどうこうしなきゃいけない、って類の話でもないんだけど……話さないでおくのもどうよ、って内容だからさ」
「ふーん……で、何なの?」
「うん。あのさ……僕の『最初の』誕生の時に、お母さんが亡くなったってのは、今話したじゃん? その時生まれてたの……僕の他に、もう1人いたらしいんだ」
「「「…………は?」」」
食堂から、音が消えた。
室内に満ちる、『こいつ今何言った?』的な空気の中で、僕は……再度、はっきり言った。
「だからさ。僕、双子の兄弟がいたらしいんだよ……ベイオリアの王子としての」
「「「…………えええぇええええ―――っ!?」」」
巻き起こる、驚愕の大合唱。あ、やっぱそういう反応になる?
まあ、確かにかなり驚愕の事実だしね……僕も、最初はびっくりした。
しかし、どういうテンションで伝えるべきかと考えると、パッと浮かんでこなかったので……あえてこう、普通に言ってみた。
だってほら、僕は運よく生き延びたけど……もう1人の方(『兄』になるらしい。僕が弟)は、今もどこかで生きている、とは限らないわけで。
まあ、生きてたら興味はそりゃあったけども、それを調べる術もそもそもないわけで。
聞けば、お産の時に取り上げられた2人の子は、それぞれ別々の平民の夫婦に引き取られ、それ以降の消息は『お母さん』も知らない。
クーデターで荒れた時代を生き延びたかどうかも、たとえそうだとしても、今どこにいるかなんて、わかりようがないのだ。
お母さん自身、それを理解して……探すのは普通に諦めていた。
何せ、手がかりはホントに何一つないんだから。
顔も名前も容姿も、その他の特徴も一切わからない相手を探すことなんて不可能だ。
現代日本みたいに、指紋やDNA鑑定なんかがあればまだ違ったかもしれないけど……いや、それでもほぼ不可能だろうな。そもそも、死亡してる可能性も高いんだ。情勢を考えれば。
それに、そのために今の僕に迷惑をかけるつもりもないから、ってさ。
……まあ、手がかりにもならない手がかり、なら、ないこともないんだけど。
僕の名『ミナト』は、お母さんは出産の時……遺言じみた感じで言い残し、その通りに名付けられたわけなんだけど……その際、僕の『兄』の方にも名前を付けたらしい。
こちらは、おそらくお母さんが正真正銘、自分で考えた……『アガト』という名前を。
もっとも、僕と同様に……その名前が赤ん坊につけられたかどうかはわからない。お母さんの意思はそうだったろうけど……結局は、引き取った平民の夫婦次第だろうから。
だから、コレも手がかりになるかどうかは微妙、なのだ。
とりあえず、そのへんは今何か考えてどうにかなるもんでもないから、置いとくとして……まずはこの、騒然としてる感じの食堂の空気をどうにかすることから始めないと、だね。
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さて、報告をば。
『魔拳』7巻、発売になりました。早いところだと、23日(水)から売られてるみたいです。
気が向いたら手に取ってみてください……。
それともう1つ。
その7巻のオビにも書いてあるんですが……このたび、アルファポリス様より、『魔拳のデイドリーマー』のコミカライズが決まりました。
まだ製作中の段階のようですが、もし始まりましたら、気が向いたときにでも見に来ていただければ幸いです。
……いや、趣味で始めさせていただいたコレがこんなところまで来るとは……今、割とガチで泣きそうです。
これもすべて、感想などで応援いただいた読者の皆様のおかげです。時に励まされ、時に反省し、1つ残らず執筆の肥やしにさせていただいております。
勢いだけで突っ走るまだまだ拙い作者ではありますが、今後とも精一杯&楽しく頑張りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
あ、それと、あとがきで報告があります。
お手間ですが、読んでいただければ幸いです。
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僕はあの日……突如として引き込まれた『幻想空間』の中で……1人目の生みの母に会った。
名前は、アドリアナ・ベネビュラスカ・ベイオリウス。
元・ベイオリア王国第二王妃であり……彼女もまた、ベイオリアという国の被害者だった。
……はい、じゃあちょっとここから回想シーン入ります。
☆☆☆
「……?」
そこは、何もない……暗黒の空間だった。
暗い、という表現はいささか正しくない。ただひたすらに、上下左右前後、どこを見ても『黒い』のだ。しかし、視界が阻害されているわけではなく、目の前にあるものは、きちんと見える。
ミナトは、そんな空間で目を覚ました。
その瞬間、ここが『幻想空間』であることを、直観的に理解した。
そして同時に……自分の状態に気づいた。
今、自分は、見知らぬ女性に……なぜか、膝枕されている、と。
(……いや、ちょっと待て……この人、どこかで……?)
自分を見下ろしているのは……明るい茶色の髪の、優しそうな女性だった。
年のころは、20を過ぎたくらいだろうか。肌は色白で、しわ一つなく瑞々しい。
ミナトの髪をなでたり、前髪をすいたりする時に見える手の指は、白魚のように細く美しい。
独特なデザインの、どこかの部族の民族衣装のようなものを身にまとっている。露出は控えめで……法衣か、巫女装束のようにも見える服に、銀細工らしいアクセサリー。
一般的な礼装とも、戦闘服とも違うその趣は……ミナトは初めて見るものだった。
「……そのままでいいわ、ゆっくり、休みながら聞いて……ミナト。私の……可愛い子」
(……え……?)
寝ぼけ眼のミナトに、寝物語を聞かせるように……その女性・アドリアナは、ゆっくりと語り始めた。自分のことや、今までミナトが知らなかった『真実』を……順番に。
内心『いや、今あんまりゆっくりしてる暇ないんだけど……』と思っている僕の心の内は、恐らく知らないまま。
アドリアナは……今はもう存在していない、辺境の集落に住む、ある部族の出身だった。
その部族は、外界との交流を好まず……最低限にとどめていたらしいが、当時、その部族だけが持つ『ある能力』を欲していたベイオリア政府により……その部族は、縄張りごと『ベイオリア』に吸収されることになった。
その際、部族の同胞たちの身の安全の保障を条件に……その部族の『巫女』であり、ひときわ強力な力を持っていたアドリアナは、当時の王家に嫁ぐことになった。
表向きは……友好を深めるためという、いかにもな建前を掲げて。
アドリアナ自身は、条件に納得し、自分の役目としてそれを受け入れた。
その数年後、アドリアナの妊娠が発覚する。
政略結婚の末の妊娠だったが、当時のベイオリア王は、アドリアナのことを、道具として扱うようなことはせず、1人の妻として、誠実に向き合っていた。
それゆえに、アドリアナは夫のことをそれほど悪くは思っていなかったし……彼との間にできた子のことも、喜びをもって受け入れることができた。
しかし、彼女が宿した小さな命は……それから間もなくして、唐突に失われてしまう。
原因は……わからない。
しかし彼女には、それが……腹の中の子供の死亡が、間違いなくわかってしまった。
彼女の部族にのみ生まれる特殊な力の持ち主……『霊媒師』の力の1つである、人の魂の波動を感じ取る力によって……彼女は、赤子の死を知ってしまった。
それを深く悲しんだ彼女は……我を忘れ、1つの『禁忌の術』を実行に移した。
その術の名は……『死者蘇生』。
その名のとおり、死者をよみがえらせる秘術。『霊媒』によって、死者の魂を冥界から呼び戻し……それを肉体に定着させることにより、神の定めた理に反逆する、外法の業。
彼女は、倫理も掟も何もかも捨てて、それを実行した。
施術した対象が、まだ体が出来上がってすらいない、未熟な胎児だったことが幸いしたのか……禁忌以前に不可能だと言われていた術を、彼女は成功させてしまったのだ。
しかし、その時彼女は……同時に、儀式の失敗をも知る。
彼女は、無事に魂を肉体に定着させるため……呼び寄せた魂を、別な術で強化していた。
彼女自身の魂の一部を引きちぎり、それを材料にして。
それにより、赤子と彼女との間に、魂そのものの強力な『縁』ができていたのだが……それを通して、彼女は知った。
呼び寄せた魂が……明らかに、強力な自我というか、自己を持っていたからだ。まだ己の意識すら芽生えていないはずの胎児には、ありえないほどに。
胎児の肉体は、確かによみがえった。
ただし……別の魂をその身のうちに宿して。
こことは違う、別な世界で死んだ少年……春風湊の魂を。
その際にアドリアナが試みた、魂との『対話』により、かろうじてその名……『ミナト』という名前を、アドリアナは知ることができた。
そして彼女は、これも自分の行動の結果だとして受け入れ……異世界の少年の魂を宿した我が子を、愛情を注いで、いつくしみながら、お腹の中で育て上げた。
そして、その数か月後……出産の時。
アドリアナは難産で命を落とし……生まれた赤ん坊には、母親が事前に言い残していた……『対話』によって知られた、魂の名前が付けられた。『ミナト』と。
しかし、その直後にミナトは、『ある理由』から、忌み子として殺されることになった。
それを憐れんだのは……1人の侍女。
アドリアナの一番近くにいた彼女は、ひそかにミナトを連れ出して逃がし……信用のおける相手に託した。せめてこの子だけは、大切に育ててくれ、と。
その相手は、侍女の知り合いの平民の夫婦だったが、長らく子供に恵まれなかったその2人は、大切に育てることを約束し……事実、引き取ってからは愛情を注いで世話をした。
しかし、その直後に起こったクーデターにより、国内は荒れた。
激しい戦闘、続く内紛……それらによって、住んでいた町を追われることになった夫婦は、難民となってネスティアへ逃げ延びたが……途中、どうしても連れていく余裕がなくなったことで……ミナトを捨ててしまう。
……死んだ後のことなのに、なぜアドリアナがそこまで知っているのか、といえば……彼女がミナトに施した、『魂の欠片による強化』によってできた縁により、死後、彼女の魂がミナトの魂に引き寄せられて取り込まれ、意識だけの状態で、ずっとミナトと共にあったからだ。
しかしそれも、徐々に薄れていき……捨てられ、飢え、凍え、弱り……二度目の死を迎えようとしている我が子に対し、何もできない自分を嘆いていた。
……そして、ミナトの命と共に、彼女の意識がとうとう消えようとした時になって……彼女は、ミナトの目を通して、赤ん坊を拾い上げる、1人の女性の姿を見た。
金髪に、緑色の瞳を持つ……リリン・キャドリーユという名の女性を。
それを最後に、アドリアナの意識は……ミナトの中で、長い眠りについた。
次にアドリアナが目を覚ました時、ミナトは……ミナト・キャドリーユとして育っていた。
そして、ベッドの上で……傷だらけになって眠っていた。
それは……リリンが、ミナトに対して行った、2度目の『テスト』の直後。
後になって分かったことではあるが……テストの中で、怒りという感情を爆発させたミナトは、その際、なんと『ザ・デイドリーマー』を一時的に覚醒させていた。
ミナトが、『サタンポイズン』という名の毒によって、リリンを追い詰めることができたのは……実は、ここに起因しているのである。
魔力性の毒というだけでは、リリンの強力な魔法耐性に阻まれてしまっていただろうが……母の仇を討つという爆発的な感情に後押しされた『ザ・デイドリーマー』が、それを貫いた。
そして、その覚醒の余波によって……長い間、ミナトの中で眠っていたアドリアナの魂が、たたき起こされることになったのである。
その後、クローナとリリンが協力してかけた魔法によって、ミナトは記憶ごと『ザ・デイドリーマー』をも封印されることになるのだが……その際、アドリアナの意識は消えなかった。
再び我が子のもとに戻ってこれたリリンは、その日から……陰ながらミナトのことを見守りつつ、人知れず、色々と手助けをしていくことにした。
具体的には……リリンとクローナがかなり強引に記憶を封印したことにより、精神にかかっている負荷を、彼女の力で中和したり……その封印の中で、時折暴れだし、あふれ出そうになる『ザ・デイドリーマー』の力を、封印に少し手を貸す形で抑え込んだり。
(この力は、まだこの子には早い……せめて、時が来るまでは……)
それを続けつつ、ミナトを通して周囲のことを知っていったアドリアナは、エルクたちとの交流をほほえましい気持ちで見守ったり、たくましく否常識に育ったミナトの戦いに唖然とさせられたり、同じくらいぶっとんだ兄弟姉妹たちにまた唖然とさせられたりしつつ……ミナトと、いつも共にあった。
精神体である上、不安定な存在であるがゆえに、いつも見守っていられたわけではない。時には、休眠状態だった時と同様、ある程度は眠りについて休む必要があった。
しかし最近になって、アドリアナはほとんど常に意識を保てるようになっていた。
それは……ミナトの中で、アドリアナに由来する『力』が、徐々に育ち始めている証拠。
だがその力もまた、封印の術式によって表に出てこられない。
そんな状態のまま、長い月日が過ぎていったが……とうとう、それが破られる日がやってきた。
話を聞いているうちに、いつの間にか、意識もはっきりしてきたミナトに……アドリアナは、優しくほほえみながら、ゆっくりと告げる。
「ミナト……本当に、大きくなったわね……。今、大切な仲間のために戦うあなたに、私がしてあげられることなんて、このくらいだけど……少しだけ、力を貸してあげる。あなたの『母さん』がくれた力と一緒に……よかったら、コレも持って行って」
そう言って、アドリアナは……ミナトの額に、ぽん、と優しく手を置いた。
その瞬間……ミナトの体の中から、一気に力が膨れ上がり、あふれ出し……クローナとリリンが施した封印が、粉々に砕け散った。
そして、ミナトは手に入れた。自分の中に眠っていた、本当の力を。
リリンから受け継いだ、『夢魔』の力と……その究極系『ザ・デイドリーマー』。
アドリアナから受け継いだ、『霊媒師』の『霊媒能力』。
奇しくもそれらは、どちらも『相反する2つ』を超越して力を得る、という力だった。
『夢』と『現』を超える力と、『死』と『生』を超える力。
よく似た2つは、ミナトの中で同時に目覚め……相互に干渉し、高めあい……結果、疑似的な、しかし規模としては決して劣るものではない形で、『アーク化』が発生。
相乗効果により、リリンはもちろん、アドリアナにも想定外の爆発的な力となった。
その変化は、ミナトに凄まじき力をもたらし……瞬く間に戦いを終結させた。
☆☆☆
「……とまあ、これが、僕が経験した……っていうか、僕の『お母さん』から聞いたこと全部。それ以来、なぜか……その『お母さん』には、会えなくなっちゃったんだけどね」
「はー……そんなことがねー……」
『幻想空間』での出来事についての説明を終えると……皆さん、何とも言えない表情。
感心と驚愕が3:7ってとこだろうか。あ、でもちょっと微妙に呆れも入ってる気がする。
「ところでそれだと、あんたその、1人目の……『お母さん』から受け継いだ力も、あの時覚醒させた、ってことでいいの? 『ザ・デイドリーマー』とは別に」
「うん。『霊媒師』の能力」
『霊媒師』。日本で言うと、『イタコ』とか言うのかな?
まあ別に、死んだ人の霊だけを相手にするわけじゃなさそうなんだけどね。
『精神世界』でお母さんに聞かされた内容によれば、『霊媒師』は……自然界の精霊とか、古いものに宿る付喪神的な意思と交信したり、その力を借りて、普通の魔法では不可能な現象を、特殊な術を用いて発生させたりするらしい。
俗に言う『精霊魔法』とか、そういう類のようだ。
代表的なのだと、前に、元『ドライアド』、現『フェスペリデス』のネールちゃんが使ってた魔法なんかはその1つだ。そもそも、ネールちゃん達自身も『精霊種』だけども。
本来、種族的に相性がいい種類のそれしか使えない……というか、そもそも使えない種族が大半であるその魔法や、そのさらに上位互換とも呼ぶべき術をいくつも使える。
万物に宿る力に干渉し、その力を借りる。それが、『霊媒師』。
ただ、よく霊能力者がやるような、『死んだ人の例を降ろして取り憑かせる』とかいうようなことは基本しないし、できないそうだ。そもそも、あるかどうかもわからない冥界から狙った魂を呼び出すとか、無理らしい。
実力のある者なら、自我の強い精霊とかを一時的に自分に取り憑かせる、みたいなことはできなくもないそうだけど。
『死者蘇生』の時は……死んで間もない時期だった上に、魂の痕跡が手元の胎児の亡骸に残っていたため、それを手繰り寄せて『引っ張り戻す』形でお母さんは実行したそうだ。
結果、なぜか僕が巻き込まれて来ちゃったわけだけど。
まあ、それを抜きにしてもこの能力……十分強力なんだけどね。
精神世界での説明で、なんとなくだけど理解できた。
精霊魔法……一部の亜人や精霊種の類が使う固有魔法ってのは、自然の力を借りるものだ、ってのはさっき話したけど……より正確に言うと、10割自然由来の力を使えるわけじゃない。
精霊魔法ってのは、大きく2つにわけることができる。
1つは、自分の魔法に自然の力による補助を取り込むことで、効力を強化するもの。これには、先にちらっと説明した精霊の類の憑依・降霊とかも含まれる。
で、もう1つは……自然現象とか、自然界にある大きな『力』に自分の力を少し加えることで、大きな力を制御して利用したりするもの。
結局は自分の力も必要になるわけだけど、それを差し引いてもとんでもなく強力である。
師匠のところの資料では……その類の精霊魔法には、色々と制約は厳しけれど、時に大規模な自然災害すら完全に支配する魔法もあるとかないとか、それができる種族がいるとかいないとか……そんな記述もあったはずだし。
ちょっと大げさな言い方かもしれないけど、言わば……大なり小なりの『自然の摂理』そのものを味方につける技。それが、精霊魔法というものなのだ。
そんな『シャーマン』の能力を受け継いだ僕は、あの場で……早速その力を使ってパワーアップすることに成功したのである。
まだ未完成だった『CPUM』3体……『ワルプルギス』『ゲオルギウス』『ウロボロス』を取り込み、吸収することによって。
あの3つは、単なる人造モンスターではなく、必要に応じて使い手の補助をする能力を持ったモンスターとして作成を進めていた。
『ワルプルギス』は、魔法発動の補助や、演算の補助。および、インストールしてある多数の魔法を使用者に使用させることができるデバイスとしての力を。
『ゲオルギウス』は、単純な戦闘力の強さはもちろんのこと……様々な武器・兵器を搭載させ、切り込み隊長からサポート、盾役までこなす戦闘分野のエキスパートに。
『ウロボロス』は、それ自体の戦闘能力はある程度無視して……使用者の強化、それも、身体能力や治癒力のブースト&コントロールに特化した存在として。
それぞれ開発を進めていたが……どうも、持たせた機能性と素体の釣り合いを取るのが難しくて、未完成のままだった。そのため、暫定的に、半実体であるエネルギー体で代用していた。
あの時点でも、単体での使用はできたけど……もって10秒かそこらだったし、必要な魔力が膨大すぎて使えなかった。僕が、船でアレを持ち出した時に『多分使えない』って言ってたのは、ここに起因する。
それを利用して僕は……術式『だけ』はきちんと完成していた3つを、疑似的な意思を持っているだけのエネルギー体……言ってみれば、『精霊』とか『霊魂』に近い状態であることを利用して、そのまま体内に取り込んで吸収した。
その結果、術式としてあれらが持っていた力――機能を取り込むことに成功した。
今思うと、アレって一種の『降霊術』だよね。
その上で、それを発揮するのに最も適した形に変容した装備によって『アルティメットジョーカー』を発動し、さらにそこから変容の延長で出現させた3つの武器……『ワルプルギスのマント』『ゲオルギウスの剣』『ウロボロスのベルト』を駆使して戦った、というわけ。
おまけに、未実装だった『魔法式縮退炉』も使うことができたので、ホントに何でもありの戦いができた。
「はー……そりゃとんでもないことになったわね。ガチで」
「似通った力で疑似的に『アーク化』しただけでもたまげたっつーのに、精霊魔法とは……しかも、種族に縛られず使用可能な……。確かに、そういう部族がどこかにいるってのは聞いたことあったが……まさか、おめーがその血を継いでたとはな……」
母さんに加え、師匠も普通に驚いている。珍しい光景だ。
まあ、無理もないだろう……今師匠も言ってたけど、精霊魔法ってのは、本来その種族に適したものしか使えない。
エルフ系なら植物系や風属性、人魚なら水属性や氷属性の精霊魔法が得意で使えるけど……他は無理だ。エルフ系の種族が、水とか火の精霊魔法を使うことはできない。
これは、努力とかでどうにかなる範疇ではない。人間に鰓呼吸しろって言ってるようなもんだ。
しかし僕は――というよりも、僕の母さんの種族は、出力では専門の種族には大きく劣れど、修行と個人の素質次第で様々な種類・属性の精霊魔法を使える。
ゆえに、本来は不可能な、火と水と風の精霊魔法を同じ人が使う、なんてこともできた。
また極端な例になるが……これは言ってみれば、翼もないのに鳥のように空を飛び、魚のように水の中で息ができ、蝙蝠のように真っ暗闇でも見えて、蛇でもないのに体から毒を出せる人間……ってくらいありえない存在なのだ。
「……あんた全部できたわよね?」
エルクうるさい。
「しかし……ということは何か? この童は、もともと強かったのに加えて……『理』を気合いでぶち抜ける『ザ・デイドリーマー』を開眼したばかりか、さらにその『理』そのものをも味方につける『シャーマン』の力も開眼し、挙句の果てにそれら2つが相乗して強化されとる……ってことでよいのか?」
何か、感心しつつも呆れたような疲れたような調子で、テーガンさんがそうまとめた。
と、エルクが何か思い出したような仕草をして、
「そういえば……さっきあんた、『CPUM』取り込んだって……じゃあ、あんたの中には、その『機能』が今も? それって、弱点だった魔法不器用を克服した、ってことじゃ……?」
「いや、そううまくはいかなかったみたい。戦いの後……ほら、こんな風に分離しちゃったし」
言いながら、僕は帯から3枚のカードを取り出して見せる。
そこには、あの夜取り込んだはずの『ワルプルギス』『ウロボロス』『ゲオルギウス』が……データが一部欠落した状態になって、封印されている。
「力の一部は吸収できたから、前よりはマシだけど……もう一回同じようなことをするなら、再度この3つを取り込む必要があるみたい。だから今、どうせならと思って……コレ3つを1つにまとめたCPUMか、あるいはマジックアイテムにできないか研究中」
完成した暁には、完全な『変身アイテム』になるな、と今から予想していたりする。
そんな感じのことを説明し終えると……聞いていただけでだいぶ疲れたらしい一同から、『はぁ……』といった、溜息の大合唱が起こった。
しかし、いつも僕が『否常識』シリーズを披露した時のそれとはちょっと感じが違う。
例えるなら……映画を1つ見た後みたいな……そんな、『疲れたけど有意義な時間だった』的な感じの溜息に聞こえた。気がする。
……やっぱり、お母さんのエピソードが混じってたからだろうか?
自分で言うのもなんだけど、それ以外のところだけ見てみると、また僕の発明品がとんでもない活躍をした挙句、それ使って僕が自分で自分を魔改造した的な内容になるんだけど。
……まあ、いいか。
……あ、そうだ。忘れてた。
『お母さん』のことに関連して……もう1つ、話とかなきゃいけないことがあったんだ。
「あのさ、さっきの話の中で一緒に伝えられれば良かったんだけど……もう1つ、一応報告しときたいことがあるんだけど、いい?」
と、母さんの膝の上で、みんなに問いかける。
「うん? 何か言い忘れでもあった?」
母さんがそう尋ねてきた。
「あー、まあ、一応なんだけどね……コレ話したから何かをどうこうしなきゃいけない、って類の話でもないんだけど……話さないでおくのもどうよ、って内容だからさ」
「ふーん……で、何なの?」
「うん。あのさ……僕の『最初の』誕生の時に、お母さんが亡くなったってのは、今話したじゃん? その時生まれてたの……僕の他に、もう1人いたらしいんだ」
「「「…………は?」」」
食堂から、音が消えた。
室内に満ちる、『こいつ今何言った?』的な空気の中で、僕は……再度、はっきり言った。
「だからさ。僕、双子の兄弟がいたらしいんだよ……ベイオリアの王子としての」
「「「…………えええぇええええ―――っ!?」」」
巻き起こる、驚愕の大合唱。あ、やっぱそういう反応になる?
まあ、確かにかなり驚愕の事実だしね……僕も、最初はびっくりした。
しかし、どういうテンションで伝えるべきかと考えると、パッと浮かんでこなかったので……あえてこう、普通に言ってみた。
だってほら、僕は運よく生き延びたけど……もう1人の方(『兄』になるらしい。僕が弟)は、今もどこかで生きている、とは限らないわけで。
まあ、生きてたら興味はそりゃあったけども、それを調べる術もそもそもないわけで。
聞けば、お産の時に取り上げられた2人の子は、それぞれ別々の平民の夫婦に引き取られ、それ以降の消息は『お母さん』も知らない。
クーデターで荒れた時代を生き延びたかどうかも、たとえそうだとしても、今どこにいるかなんて、わかりようがないのだ。
お母さん自身、それを理解して……探すのは普通に諦めていた。
何せ、手がかりはホントに何一つないんだから。
顔も名前も容姿も、その他の特徴も一切わからない相手を探すことなんて不可能だ。
現代日本みたいに、指紋やDNA鑑定なんかがあればまだ違ったかもしれないけど……いや、それでもほぼ不可能だろうな。そもそも、死亡してる可能性も高いんだ。情勢を考えれば。
それに、そのために今の僕に迷惑をかけるつもりもないから、ってさ。
……まあ、手がかりにもならない手がかり、なら、ないこともないんだけど。
僕の名『ミナト』は、お母さんは出産の時……遺言じみた感じで言い残し、その通りに名付けられたわけなんだけど……その際、僕の『兄』の方にも名前を付けたらしい。
こちらは、おそらくお母さんが正真正銘、自分で考えた……『アガト』という名前を。
もっとも、僕と同様に……その名前が赤ん坊につけられたかどうかはわからない。お母さんの意思はそうだったろうけど……結局は、引き取った平民の夫婦次第だろうから。
だから、コレも手がかりになるかどうかは微妙、なのだ。
とりあえず、そのへんは今何か考えてどうにかなるもんでもないから、置いとくとして……まずはこの、騒然としてる感じの食堂の空気をどうにかすることから始めないと、だね。
************************************************
さて、報告をば。
『魔拳』7巻、発売になりました。早いところだと、23日(水)から売られてるみたいです。
気が向いたら手に取ってみてください……。
それともう1つ。
その7巻のオビにも書いてあるんですが……このたび、アルファポリス様より、『魔拳のデイドリーマー』のコミカライズが決まりました。
まだ製作中の段階のようですが、もし始まりましたら、気が向いたときにでも見に来ていただければ幸いです。
……いや、趣味で始めさせていただいたコレがこんなところまで来るとは……今、割とガチで泣きそうです。
これもすべて、感想などで応援いただいた読者の皆様のおかげです。時に励まされ、時に反省し、1つ残らず執筆の肥やしにさせていただいております。
勢いだけで突っ走るまだまだ拙い作者ではありますが、今後とも精一杯&楽しく頑張りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
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