魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第351話 リアルかぐや姫

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 結論から言うと、竹林で会った彼女……『カグヤ』さんは、僕らと一緒に行くことになった。
 進行ルート上に『ムコー』の村もあるので、そこまで一緒に、っていうことで。

 いや、名前から『まさか』と思って、スマホを使って馬車にいるメンバーに映像を飛ばし、ロクスケさんにそれを見せて確認してもらったんだけど……

 『か、カグヤ様!? 間違いない、彼女です……なぜこのような所に……』

 ビンゴだったってわけだ。
 マジかよ……ほぼ完全に、カンというかこじつけみたいな感じだったのに。ロクスケさんの話を聞いて、それっぽかったから。

 そのカグヤさんは、ロクスケさんの用意した馬車の1つに乗せてもらって、この馬車隊に同行しているので、ここにはいないが。

 その際、ロクスケさんも『ことここに至っては隠しておく理由もありませぬ』『どの道調べればわかること』って言って説明してくれたことがあるので……順序だてて整理しよう。

 遡ること、およそ1時間前くらい。


 ☆☆☆


「つまり、カグヤさんはその……ロクスケさんの主がご求婚なされている……ええと、婚約者?」

「いえ、その前段階……候補、といったところでしょうか。カグヤ様は我が主をはじめ、幾人もの貴公子から思いを寄せられているお方ですゆえ、そう簡単にお相手もお決まりにならず……」

「は、はあ……私も私の家も、あくまで無位無官の平民なのですが……その、光栄と申しますか、過分なご評価をいただいております」

 いつも通りと言うか、気さくな感じで話すロクスケさんの隣で、ちょっと恐縮しているカグヤさん。

「何を申されますか。カグヤ様の美貌と人気は『キョウ』の都でも広く知られているところです。それに容姿のみならず、礼儀作法や教養、事務仕事や華道まで全てそつなくこなす多才さをお持ちだ。我が主も含め、平民の出であることを気にする者などいませんよ。我が主は違いますが……求婚者の中には、正室として迎えたいと言う者までおられるではないですか」

 そういう言い方をするってことは、カグヤさんに言い寄ってる貴公子達の中には、側室とか妾として欲しがってる人もいるってことか。ロクスケさんの主も、恐らくそう。
 まあ、貴族社会だし、そういうこともあるのかね。大陸とそう違わないな。

「わ、私のような者が正室にだなんて……人間ですらないというのに、それはあまりに……」

「? 人間じゃない?」

 と、呟くようにカグヤさんが言った言葉に、僕らが『ん?』と反応した。

「ああ、ミナト殿たちはご存じなかったのですね。確かに、カグヤ様のご出自は少々特殊でして……ええと、カグヤ様は今年……」

「あ、はい、その……4歳になりました」

「「「…………え゛!?」」」

 4歳!? え、どう見ても高校生くらいにしか見えないその姿で、4歳!?

「えっ、あ……す、すいません、さすがに少し驚きまして……」

「いいえ、お気になさらず。初めて聞いた方は、皆様だいたい同じ反応をなさいますもの」

 そうくすりと笑って、カグヤさんは最初から1つ1つ、順序よく説明してくれた。
 後からあっちこっちに話が飛ぶよりわかりやすいからって、本当に最初から。



 まずカグヤさんは、本当に『竹取物語』そのものといった出自の持ち主だった。

 カグヤさんの家は、さっき言っていた通り、結構な大きさの商家だったんだけど、ある日その家のおじいさん(商会の大旦那様、だそうだ)が、趣味のタケノコ堀りに裏山に行ったところ、光を放っている竹を見つけた。

 おじいさんがそれに近づくと、竹は光っている部分から上がひとりでにパカッと二つに割れて、中から女の赤ちゃんが出てきて……その女の子を、おじいさんは連れ帰って育てた。
 それが、後のかぐや姫もとい、カグヤさんである。

 ……『竹取物語』とは随所に差があるな。おじいさんが最初からお金持ちだったり、山に行った理由がタケノコ堀りだったり、竹が勝手に割れたり……まあ、気にしても仕方ないけど。

 で、その後すくすく育ったカグヤさんなわけだが……その成長速度は明らかに人間のものではなかった。

 生後(って言っていいのかな、竹からだけど)1週間でハイハイをはじめ、1ヶ月で立ち上がり、半年で歩くようになり、同時に言葉も覚え始めた。1歳になるころには、小学生くらいの体の大きさになっていた。その頃から、才女としての能力の片鱗は見せていたそうだ。

 2歳半には今の姿になっていて、それ以降は逆に成長らしい成長はしていないらしい。

 誰がどう見ても人間の成長速度じゃないわけだが、本人の人格やら能力には何も問題なかったため、友好的な『妖怪』の類であるとしてとらえられているらしい。

 なるほど、『化け狸』のゴン君もそうだったが、この国でも友好的な相手であれば、妖怪だろうと普通に交流を持っていたり、協力するのは珍しくもないんだな。差別感情がないのはありがたい。アルマンド大陸との国交が始まれば、そういう『亜人』系とも多く関わるだろうから。
 というか、僕らの中にも、シェリーとかそれっぽいのいるしな。

 で、そのカグヤさんだけど、家が結構大きな商会を営む名家だってこともあり、色々習い事とかをしてたようなんだが、そのほとんどすべてで類稀なる才能を発揮。
 さらに礼儀作法も完璧て、社交の場での評判もいいことから、一躍有名人に。

 ついには、『キョウ』の都の貴族達から求婚されるまでになったそうだ。

「私としましては、私のようなまだまだ未熟な小娘が、貴族の方々に嫁ぐなんて、恐れ多かったですし、ようやく実家の仕事も少しずつ任せてもらえるようになって、祖父と祖母に恩返しできると思っていたところですので、全てお断り申し上げたのですが……」

「それで諦めた者は1割もおりませんでした。かくいう我が主も、未だ諦めぬうちの1人で……家の面倒も何もかも見て差し上げる、とたびたびお伝え申し上げているのですが、お返事は芳しくなく……ああ、決してカグヤ様を責めているわけではないのですが、私も主君に使えるものとして、主の望みをかなえるこをと考えますれば」

「わかっております。それでも私は……」

「ええ、心得ておりますとも。……しかしそんな中、風のうわさで、今、カグヤ様が興味を持っているものがある、という話を耳にしましてな。もしそれらの品を送りものとして彼女に渡すことができれば、お心をつかむ……には至らずとも、きっかけくらいにはなるのではないかと、主をはじめとした複数の貴公子たちは考えたのです。それが、ミナト殿にお伝えした5つの『宝』ですな」

「あー……カグヤさんが欲しがったわけじゃなかったんですね」

「そ、そのようなこと、恐れ多くてできません。私のような無位無官の娘が、貴族の貴公子様方に贈り物をせがむような! 本当にその……本で読んで、気になっただけでして」

 ここでも『竹取物語』との相違点を発見。
 5つの『無理難題』は、彼女の気を引くために、貴公子たちが自発的に探してたのか。

「ははは、存じておりますとも。我が主も、思い人を射止めたい男の見栄だ、と言っていました」

 恐縮している感じのカグヤさんに、あくまで気さくな感じのロクスケさん。

 その見栄のために割と死ぬ目にあってたっていうのにね。それだけ忠誠心強いのかな?

 とまあ、そういう感じで、カグヤさんのバックグラウンドや、ロクスケさんの主との関係性が説明されたわけだけど……

「しかしカグヤ様、何ゆえ伴も連れずにあのようなところに? 聞けば、道に迷っていたとまで言うではありませぬか……ご実家からさほど遠くもないとはいえ、この辺りには妖怪も出ます。決して女子おなごが1人でいて安全な場所とは言えませんよ?」

「それはわかっています。ですが、どうしても……ゆえあって、訪れておきたかったのです」

「この竹林をですか? ……どのような理由かはわかりませぬが、せめて供回りくらいお連れなさいませ。御身を心配される方も大勢いらっしゃるでしょう」

「……そう、ですね。軽率でした……申し訳ありません」

 ……? 何か理由があってこの竹林に、しかも1人で訪れたみたいだな。
 けど、その理由はどうも話したくないようで……ロクスケさんも、主の思い人だからだろう、そんなにしつこく、深くは聞けなかったようだ。

 で、その後しばし話して、ロクスケさんが手配した馬車の一つに乗ってもらって、このまま行く途中にある『ムコー』まで乗せていくことにしたわけだ。

 そこまでの付き合いではあるけど、出会いやら名前やら状況がアレだから、妙に印象に残るな……。とはいえ、これ以上関わるかどうかって聞かれたら、そういうわけでもないんだけど。
 公職についてるわけでもなく、ロクスケさんやその主とも、あくまで『求婚相手』でしかない。少なくとも、今は。

 僕らの仕事は外交であり、その護衛だ。そこに彼女が関わってくることはないだろう。
 彼女の今後は気にならないわけじゃないが、別にこっちから積極的に関わることでもない。

 ってことで、この話はここまで、だな。

 …………ああでも、最後にもう1つ、気になったことがあったっけ。

 話してる最中、ふと気づいたので、ちょっと彼女に聞いてみたことなんだけど……



『あの……カグヤさん? 差し出がましいと言うか、もしかしたら失礼ないし、余計なことをお聞きするかもなんですけど……』

『? はい、何でしょうか……ええと……ミナト様?』

『その、ですね……どこか、お体の調子が悪いとかはないですか? なんとなく、なんですが……魔力とかが淀んでるような気がして、少し気になって』

『…………っ!』

『そう言えばカグヤ様……少し御痩せになられましたか?』

『い、いえ……そんなことはありませんよ? 健康そのものですし、細いのは元からですから!』



 ……あの反応は、いっそあからさまだったよな……ちょっと気になる。

 ロクスケさんも同じように感じただろうから、彼女の健康云々については、主人に報告するなり、そこから彼女の家に伝えるなりして、配慮してくれるだろうけど……。



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