魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第360話 明かされるその存在

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「取り乱してしまい、申し訳ありませんでした……」

「いえ、無理ないですよ……あんなこと聞かされたら。こちらこそ、配慮が足りなかったかもしれません……すいませんでした」

「ミナト様に謝っていただくようなことはございません! 此度のことは、私の不徳と考え足らずゆえのことで……そもそも、奴ら『はいえるふ』共に狙われたのも、私だけだったのですから」

「そのようなことをいうものではありません、カグヤ様。もともとあなたが狙われる道理などなかったのですから……それに、どの道オサモト様や我らは、奉行所の官吏として、人さらい共の摘発には動いていたでしょうから、貴方が気に病まれることはないのです」

 どうにか落ち着いたカグヤさん。
 ロクスケさんが部下に命じてお茶を入れ直させ――宿の人とか部外者に聞かせられる話じゃないという理由で、人払いしてある――それを飲みながら、話を続けることになった。

「……ロクスケ様がそう言って下さるのはありがたく思います。しかし、私は己の罪から逃げるつもりはありません……全てを最初から正直に話していれば、まだ救えた命もあったかもしれないのですから……下される罰は受けます。それだけ、オサモト様にもお伝えください」

「……わかりました。そこまでのお覚悟でしたら。判断するのはオサモト様や、もしかしたらさらに上の方々でしょうが……報告だけはいたします」

 真っ直ぐ、ロクスケさんの目を見てそう言うカグヤさん。
 ロクスケさんも、その覚悟に応えるつもりのようで、今言ったことを紙に書き留めていく。

 ……なんか、僕とエルクが初めてであった時にも似たようなことがあったな。

 思えばあの時、エルクって僕のこと嵌めようとしてたんだよね。金目当てで。
 けど、その後罪悪感やら何やらに耐えきれなくなって、自分がどうなっても構わないからって、借金取りに自分の身を差し出したり、軍の人に包み隠さず自白したりして……

 その真摯な心の持ち方が、信用できるって思ったのが……僕がエルクを好きになった、最初の一歩だったような気がする。

 見ると、エルクも当時のことを思い出してるのか……ちょっと顔が赤い。かわいい。
 ただし、彼女にとっては同時に黒歴史でもあるから、微妙な顔色も混ざってるけど。

「では、この件について、以降の対処は我々が行うこととさせていただきます。無論、かの悪逆非道なる『はいえるふ』共には、必ずや厳正な裁きが下ることでしょう……残る問題は……」

 そう言って、ロクスケさんはカグヤさんの方を見る。

「……今のお話の通りなら、カグヤ様はもう、長くは生きられない身、ということですが……」

「ああ、それなら大丈夫ですよ? 手はありますから」

「? どういうことですか、ミナト殿?」

 と、割り込むようにして言った僕に、全員の視線が集まる。

 その中の1人に、カグヤさんもいるが……その目というか態度は、幾分落ち着いている。

 彼女は知ってる……というか、すでにその処置を受けてるからね。
 城に殴り込みに行く前に、ネリドラに対処を既に頼んであったから。

「それは……これの事でしょうか?」

 そう言ってカグヤさんが懐から取り出したのは、手のひらに乗るくらいのサイズの、金属の缶。
 円筒形で、200mlサイズのジュース缶みたいな見た目だ。

 ふたを開けると、中には、ビー玉みたいな見た目の、指でつまめるサイズの、琥珀色の半透明の球体がいくつも入っている。

「カグヤ様、それは?」

「昨晩、そこにいるネリドラさんにいただいたものです。飴玉のようで、実際、甘くてとても美味しいのですが……聞けば、私が懸念していた、『生まれ故郷の森』からしか得られない生命力の欠乏を補ってくれる薬である、とのことで……」

「な、何ですと!? そのようなものをお持ちだったのですか、ミナト殿!?」

 驚いた様子で聞き返してくるオサモトさん。
 鬼と猫又の2人も同様だ。そんな薬があるなんて、効いたこともなかったらしいな。

 他に解決策がないからこそ、『コロポックル』なんかの精霊種はあそこで暮らしてたわけだし……それを間近で見てたから、余計に寝耳に水だったんだろうな。

「1日1粒、朝食後にでも舐めるだけでいい、と聞きまして……実際にこれをいただいてから、とても体の調子がいいのです。まさか、こんな薬があったなんて……美味しいし」

「な、何味ですか?」

「リンゴ味です」

「おいミケ、何を聞いておる」

 と、鬼の人が猫又の人をいさめて……え、あんた名前『ミケ』っていうの? 安直。
 名前のセンスはもちろん……見た目、三毛猫じゃないんだけど、いいのかな?

 え、何、甘いものに目がない? ハイエルフの奴隷だった頃は、甘味の類なんて滅多に食べられないから飢えてる? あーはいはい、後で何かあげるから。

 ちなみにこの薬は、僕が前に開発した『ポーションキャンデー』の類型であり、今言った通り、『生まれ故郷の森』から受け取る生命力を補ってくれる効果がある。

 けどコレ、実は薬として作ったわけじゃないんだよね……見た目そのまんま、お菓子として、おやつとして食べるために作ったものだ……厨房で甘味担当のコレットに頼んで。
 薬効も含まれてるから、食べると一気に疲れも取れて傷も治って、元気になるけども。

 何せコレ、ネールちゃんが管理してる『世界樹』に成る、『禁断の果実』の果汁が材料だから。

 植物系精霊の生命力に満ち溢れてる果実を材料にして作っただけあり、美味しい上に様々な特殊効果がある。その中の一つに、今回利用した延命効果があったわけだ。

 なので僕としては、持ってきてたおやつをおすそ分けしただけなんだよね。
 まだまだあるから、そんな缶1つ分くらいなら普通にあげられる。

 しかしながら、これは『生命力』を補充できると言ったところで、その場しのぎでしかない。
 もっと根本的な所を解決しないと、結局はこの飴玉に依存しなければ彼女が生きていけない、という事実があるのみなのである。

 そしてもちろん、その方法も用意できるものの……ちょっとばかり時間がかかるんだよね。
 いや、時間だけじゃなくて、色々と許可貰ったりする必要もあるかもだ。

(何せ、多少なり環境そのものを書き換えるからなあ……)

 なのでそれは、色々と準備ができたらやることになると思うんだが……

「ロクスケ様、申しわけありません、緊急のお知らせがございます!」

 と、その時、広間の外、ふすまの向こうから、そんな声が聞こえた。

「ん? 何だ……今は重要な話の最中ゆえ、よほどのことでない限りは後に回すように申し付けたが、それに類することか?」

「はっ! 今しがた、キョウの都より使者が到着いたしました! 帝の名でしたためられた書状をお持ちです!」

「なっ……帝からだと!?」

 驚いたロクスケさんは、僕らに『失礼』と一言言って頭を下げ、廊下に出た。
 ……驚いてるのは僕らも同じだが。

 『帝』って……話に聞いてた、この国の最高権力者だよな? 何でそんな超大物から、いきなり書状が届いたりなんかするんだ?

 数分後、戻ってきたロクスケさんは……出ていくときにはいなかった、1人の女性と一緒だった。

「……申し訳ない。緊急の要件ゆえ、直接お話したいとのことで、こちらにお連れしました。帝のご意思なれば……ご容赦願いたい」

「…………(ぺこり)」

 無言のまま、頭を下げるその女性は……一言でいえば、穏やかそうな和服美人だった。

 前髪を切りそろえてて……パッツン、って言うんだっけ? こういう、おでこが広く見える髪型……少し童顔だが、かなりの美女である。ストールみたいな羽衣を羽織ってて、着物から何から、かなり上等な品物ばかりだ。見た目一発、貴人だってことがわかるな。

 しかし、それらを見せびらかすような卑しい態度はなく、静かに、大人しくそこに立っている。自分から目立とうという意思は、ほぼ感じない。

 ……だというのに、僕らはこの人――人間、とは限らないが――から目が離せない。

(……この人、多分……強いな)

 おしとやかで穏やかそうな美人さんだが……感じとれる空気は、『本物』のそれだ。
 具体的にどのくらい、ってとこまでは流石にわからないけど……間違いなく只者じゃない。

 最低でもAAAランク相当、いや、もっと上か? うちのメンバーでも、装備とか次第では下手したら危ないかもしれない、ってレベルかもな……何者だ?
 まあ、国家元首の使者というか直属なんだから、そのレベルの人が出てきてもおかしくないのかもしれないが……ただの『使者』じゃなさそうではあるな。

「突然押しかけてしまって申し訳ありません~。私、ヒナタと申します~。以後、お見知りおきのほどを~」

 何か、若干間延びした感じの話し方が特徴的な彼女……ヒナタさんは、『早速ですが~』と、懐の中から1通の書状を取り出した。

 封筒……ではなく、式典とかで使われるような、包み紙に入れられたそれを取り出し、広げて読み上げる。

「此度の『月の使者』を騙ってのかどわかし集団の一件につきまして~、この件の以後の捜査及び尋問等の一切につきまして、『キョウ』の都にある帝直属の特務部門が引き継ぐことに決まりましたことを~、こうしてお伝えしにまいりました~。つきましては~、下手人である『はいえるふ』達の身柄は元より~、この件にかかる参考人であるカグヤさんや、奴隷として捕らわれていた皆さんにつきましても~、こちらで引き取らせていただきます~」

「なっ!? ハイエルフ達と、カグヤ達を引き渡せと!? し、しかし、そのように急に申されましても……こちらもまだ予定や、準備というものが……」

「ご安心を~、すぐにどうこうという話ではありません~。浅くない心の傷をお持ちの方もいらっしゃるでしょうから~。けど~、皆様の安全を考えればこそ~、早急に準備の方を整えていただければ幸いです~。なお~、大江山の方には~、既に手の者が向かっておりますので~」

 ……何か、急展開だな……。
 知らせが届くや否や動いた、って感じがする。それも、とんでもなく迅速に。

 早馬を出して『キョウ』に報告を上げたとは聞いてたけど、そこで即、こうするって決断しなきゃ、ここまで早くは動けないと思うんだが……まるで……

(また……鶴の一声、か?)

「少なくとも~、下手人である『はいえるふ』達に関しては~、一両日中には引き取らせていただきます~。ご安心を~、万が一暴れ出したとしても~、私が対処いたしますので~」

「……『陰陽寮』の長老の1人であるあなたが使者としていらしたのは、それゆえでしたか」

「はい~。何かあっても確実に対処できるようにということで~、帝より勅命を受けました~」

 ……専門用語とか固有名詞は正確にはわからんけど、結構な大物みたいだな、このヒナタさん。

 『陰陽寮』の『長老』って言ったか? 何か聞いた感じ、陰陽師の総本山か、それに近い大組織に聞こえるが……そこの幹部クラス、ってことだろうか。
 なるほど、そんな大物なら、この気配もうなずけるかもだな。

 ……そんなに年食ってるようには見えないんだが……長老っての、役職名だけか?
 それとも、妖怪ないし亜人だから、見た目と年齢が一致しないだけ……ん?

 ……あれ、今一瞬目が合ったような……?

 何か、偶然目があったにしては……何かもの言いたげな、ジト目だったような……え、口に出してないよな? 顔に出てた? 心読まれた?
 ははは、んなわけないか。

「……わかりました。帝の勅命とあらば、我らに否はありません……ただ、お察しいただきました通り、保護した者の中には、心に傷を負っている者もおります。かくいう、そこなカグヤ様も……さればこそ、そのあたりにはご配慮のほどを、どうか」

「心得ております~。此度の一件は、内容が内容ですので~、帝も迅速なる解決と究明をお望みゆえに、このような対応となりまして~。もちろん、皆様にはきちんと、安らげる寝床も十分な食事もご用意いたしますし~、無理な聞き取りや、捜査協力の強要も行わないと確約いたします~。今言った内容は、この書状にも記載されておりますので、後程お確かめください~」

 そう言ってヒナタさんは、書状を折りたたんで包み紙に戻し、ロクスケさんに渡した。

 ロクスケさんはそれを、宝物を扱うように丁寧な所作で受け取ると、大事そうに懐にしまった。
 そして、一礼してから振り返り……カグヤさんに向き直る。

「カグヤ殿、そういうことです……申し訳ないが、私共が関われるのはここまでのようです」

「わかりました……私のようなもののために、ここに至るまで尽くしていただけましたこと、感謝いたします、と、オサモト様にもお伝えください」

「は……ご安心召されませ。事件が事件ゆえ、取り調べなどあるかもしれませぬが……ヒナタ様は朝廷の内外に置いて、人格者で通っており、信頼も厚いお方です。悪いようには……」

「怖がらなくても大丈夫ですよ~」

 ……まあ、怖そうには見えないし、大丈夫だとは思いたいけど……と、思ってたら、

「それと、ロクスケ殿~、少々この後お話ししたいことがありまして~、人払いをお願いできますでしょうか~?」

「は、承知いたしました。では、申し訳ないミナト殿、カグヤ様方も、しばし部屋を……」

「ああいえ、そうではなく~」

 と、なぜか言葉を遮り、

「そちらの、異国よりいらっしゃった使者の方々と、その護衛の方々に、事情をお聞きしたいとのことでしたので~」

 …………え?


 ☆☆☆


 その数分後。

 『何で?』という表情を顔に張り付けつつも、指示通り、カグヤさん達と一緒に退出したロクスケさん達。
 そして、室内に残されたのは……ドナルドとオリビアちゃんの外交責任者コンビと、その護衛としてついてきた僕ら『邪香猫』及びそのスタッフ・関係者一同。

「そんで、話ってのは一体何なのか、さっさと聞かせてもらおうか?」

 と、どかっと胡坐をかいて座り、まんじゅうとお茶をぱくついてる師匠のお言葉。
 緊張ゼロ、遠慮なし。ザッツ、いつも通り。

「……あの、師匠、いちおう国のお偉いさんですんで、もうちょっと……」

「あん? 知らねーよ、こいつが俺が帰ろうとした時にわざわざ呼び止めたんだろーが。そっちが話があるってんなら、それ聞くのに態度なんぞこっちが気にしてどうする」

 その理屈?の是非はともかく……そうなのだ。
 さっき師匠は、カグヤさん達の事情聴取も終わったし、政治がらみの話に付き合うつもりはないからって、ロクスケさん達と一緒に退散しようとした。

 しかし、なぜかヒナタさんが待ったをかけたのだ。ここで一緒に話に参加してほしい、と。

 一応それを聞いて、師匠は残ったんだけど……その理由は、まだ聞いてない。
 ただ、これから話すことに関係がある、としか。

「それでは皆様~、まずは改めてご挨拶させていただきますね~。『キョウ』の都は『陰陽寮』より、帝の命を受けて参りました……と、いうことになっております、ヒナタと申します~」

「……あん?」

 ? 今何か、変な言い方したな……『と、いうことになってる』って?
 それじゃまるで、実際には『帝』の命令じゃないような言い方だけど……

「それはどういうことでしょう? あなたが『帝』の勅命を持ってきたというのは、事実と異なるということですか?」

 オリビアちゃんが、僕と同じところをすぐさま指摘して……心なしか、強い口調で問いかける。
 もしそうだとしたら、コレ確かに見過ごせない案件だもんな。失礼云々もそうだけど……国家元首からの公的な命令を偽造とか、大問題だろうし。

 見ると、程度は違えど、ここにいるほぼ全員が、探るような、あるいは責めるような視線を向けている。
 しかしそんな中でも、ヒナタさんは顔色1つ変えず、

「いえ~、そこに偽りはございません~。ただ、その命令は、あるお方のご指示を受けた上で、帝が出されたものですので~、帝の命令ではありますが、帝だけの意思で出たものではないのです~」

「……どういうことです? その『帝』という方が、この国における最高権力者ではないのですか?」

「表向きにはそうなっております~。ただ、政治や軍統制等につきましては、お側について色々と『助言』をなさる立場の方がいらっしゃいまして~、此度の対応等も、そのお方の決定によるものとなっております~」

 …………要するに、アレか。
 黒幕、フィクサー、裏のボス……そういう類の立場の奴がいるってことか。

 この『ヤマト皇国』を裏から支配している……とまでは言わずとも、『帝』に指示を出して思いのままに操ることができるような誰かがいて……そいつがおそらくは、一連の『鶴の一声』の主。

 そして、その誰かさんが、なぜか僕らにこうして接触しようとしている、と。

「我が主は、皆様とは直接お会いして友好を深めたい、と思っておいでです~。つきましては、表向きの元首である『帝』との謁見の後、会談の場を設けたいとのことでして~、こちらに書状をお預かりしております~」

 そう言って、ヒナタさんは懐から……ではなく、何もない空中から、2通の書状を取り出した。
 収納系のマジックアイテムか……やっぱり、この国にもあるにはあるんだな。

「1つはこちら、外交特使の方々……ドナルド・トリスタン様、オリビア・ウィレンスタット様のご両名へ向けたものになります~」

 まず、片方を、ドナルドに渡した。
 若干イントネーションというか、発音おかしい気がしたけど。

 そして、もう片方を……

「もう1つ。こちらは、『冥王』クローナ・カーミラ・ジーラック・ウェールズ様へのものです~」

「…………何?」
 
 そう言って、師匠に………………師匠に?

(え、何で師匠に?)

 何でこの場面で……外交部門の関係者でもなければ、『邪香猫』の正式ないし、主要なメンバーとして登録・紹介されているわけでもない師匠に『書状』が出てるんだ?

 しかも、今何か、名前……

「……おい、お前……何で俺の本名やら、通り名まで知ってる?」

 クローナ・C・J・ウェールズ

 クローナ・カーミラ・ジーラック・ウェールズ。
 それが……略さないで言った、師匠の本名。

 僕も知らなかったそれを……何で、この人が知ってるんだ?
 『冥王』っていう、アルマンド大陸でしか知られてない……いや、それだって150年前、現役時代の通り名だから、知ってる人なんて大陸でももう限られてる。

 何でそれらの名前を……

「俺の略さねえ本名は、単に言う機会がなかったからだが、弟子コイツにだって教えてねえ……何でそれをお前が知ってる? 俺が会ったこともねえ、どころか、来たこともねえ国のお前が」

 あ、そんな理由だったんだ、教えてくれてなかったの。
 まあ、こっちから聞いたこともなかったからな……そんなもんか。

 それはさておき、師匠の……いつになく警戒心を前面に押し出したそんな問いに、ヒナタさんはどうこたえるのか。
 全員が固唾をのんで見守る中……

「私は確かに、クローナ様に会ったことはございませんけれども~、我が主はそうではありませんので~。忘れられていなければ、『タマモ』と言えばわかる、と言っておりました~」

「……あぁ!? タマモだぁ!? あいつ居んのかここに!?」

 と、突然、常にはない感じの驚き方をした師匠がそう聞き返した。
 何と言うか……素の反応、って感じがして新鮮というか……いや、待て、それより今ヒナタさん、何て言った?

 どうも反応を見るに、師匠の知り合いっぽいが、その人……その名前は、まさか……

(妖怪関連で『タマモ』っていうと、あまりに有名な奴に心当たりがあるんだけど……っ!?)

 え、何、もうフラグ回収されるの!? 『大江山』の城に攻め込んだ時に、ちょろっと考え付いちゃっただけのアレが?

 師匠が目を見開いて驚き、僕が師匠とヒナタさんの2人を交互にきょろきょろと見ている中、当のヒナタさんは、変わらぬほんわかとした笑みのまま、言った。

「覚えておいでだったようで何よりです~。我が主も喜びます~。お察しの通り、我が主『タマモ』……妖怪としての名を……『九尾の狐』」

「…………!」

「ヤマト皇国最強の妖怪『八妖星』の一角として『キョウ』の都周辺の妖怪たちを支配し、また、帝を通じて裏からこの国における政治・軍事・司法の一切を支配する、裏の帝とでも申しましょうか~。クローナ様と、そのお弟子さんであるというミナト様方の来訪を知って、是非にと会いたがっておいでなのです~。どうぞ前向きにご検討くださいませ~」



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