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第19章 妖怪大戦争と全てを蝕む闇
第406話 『何か』の片鱗を感じて
しおりを挟む少し前まで『イズモ』から『マツヤマ』に向かう途中だったところを、特大のアクシデントに見舞われて、一気に『キョウ』の周辺までワープさせられて……仕方ないので、そのまま僕たちは大急ぎで『キョウ』に向かった。僕が全員乗れる『CPUM』の乗り物モンスター出して。
乗り物には乗れないルールじゃなかったかって?
いや、こんなことが起こって『行脚』続けられるわけないじゃないの……中止だよ中止。
速攻で『キョウ』に戻って、皆と……タマモさんは部下の人たちとか、その他知らせなきゃいけない人達に対して情報共有したりしなきゃいけない大事件だよ、あんなの。
……まあ、残り日程3日切ってたのにこんなことになっちゃったのは残念だけどね。
『マツヤマ』と、あと『コーベ』にも行く予定会ったんだけどなあ……神戸牛食べたかったな。あるのか分かんないけど。
……こないだの『合同訓練』といい今回の『諸国行脚』といい、このところちょいちょい、やってたことが途中で打ち切りになるな……なんかこう、後味が悪い。
『合同訓練』の中止は理由も知らされずじまいだし、今回はゴール目前だったところだし、余計にこう……引っかかる感じがするというか……。
まあ、どっちも仕方ない、やむを得ない理由があってのことだってのはわかるけどさあ。
なお、『マツヤマ』で会談するはずだった隠神刑部狸のロクエモンさんについては、仕方ないから中止にするしかないか、とも思ったが、ドタキャンになるのはちょっとまずいかと思ったので、奥の手を使ってどうにかするそうだ。
なんでもタマモさん、遠隔地に声や映像を届けられるマジックアイテムを持っているそうで……それを使って、短時間ながら簡単な会談と、今回の件の説明を行って理解をしてもらうとのこと。
アイテムの名前が『双月の水鏡』って言うらしいんだが……今度見せてもらいたいな。興味深い。
まあ、テレビ電話くらいなら僕もすぐできるし、そもそも指輪に簡易的な通信機能持たせてあるんだけど……『ヤマト皇国』独自の、『陰陽術』絡みの術式が組み込まれた品って、見ていてどれも独創的で面白いんだよね。
それはまた今度として……
そんなわけで僕らは、『キョウ』に戻って着次第、皆を集めて今あったことを話したら……当然ながら全員唖然としていた。
まあ、無理ないよね、自分達でもとんでもないこと話してるって自覚はあるし……。
ちなみに、あの謎空間で『麒麟』(仮にだが、こう呼ぶことにした)を目撃したのは僕だけだった。
師匠もタマモさんも、その他のメンバーも……全員、空間の『ゆらぎ』みたいなのは感じ取れたそうだけど、それを感じた次の瞬間には転移していた、という話だ。
「…………つまり、まとめるとこういうこと? ミナト達が遭遇したその謎の転移現象……気が付いたらとんでもなく遠くに飛ばされてるっていうそれの正体は、ミナトが見た『麒麟』っていう魔物ないし妖怪が、何らかの……移動か何かを行うときに、周囲にあったものが巻き込まれて起こるものだ……という可能性があると。そして、それに今しがた遭遇したんだと」
「うん。今見て来たこと、感じたことを率直につなぎ合わせればね……感覚的なところが大きいし、何も物的証拠や検証材料があるわけじゃないから、断定はできないけど」
「ですけど、聞いている限りつじつまはとりあえず合っていますの。この映像を見る限り……ミナトさんの言っていることも本当でしょうし……挙動から予測すれば、おのずとそのような結論を出さざるを得ませんの」
そう言うミフユさんの視線の先には、僕が用意したノートパソコン型マジックアイテムがあり……その画面には、僕の記憶を転写した映像が繰り返し流れている。
映像って言っても、ものの数秒だけどね……僕が、水あめみたいにからめとられた空間の中でもがいて、その瞬間景色が変わって異空間を見て……そこにいる『麒麟』を見つけて。
その一瞬後には、『麒麟』は跳躍し、どこかを飛び去っていった。
たったそれだけ、時間にして1~2秒くらいの間の出来事だ。
「映像を解析した結果、躯体や筋肉のわずかな動きから、制動のモーション中にあったと思われる。その後すぐに、飛び跳ねてどこかへ去っていった」
と、ネリドラ。リュドネラもそれに続いて言う。
なお、ネリドラがいる場所はPCの中である。中で、解析の補助とかデータのまとめとか色々してくれている。
『つまり、この魔物……『麒麟』って呼ぶことにするけど、こいつは、どこかから飛び跳ねてきて、今まさに着地したところだった……ってことだね。その際の慣性の制御のためのアクションがわずかながら映像から検出できたわけ。こいつ恐らく、通常の空間にはいなくて……この、ミナトだけが認識できた異空間をずっと移動してるんじゃないかな?』
「……通常のというか、同じ空間にいなかったからこそ、クローナさんやタマモさんでも察知できなかった、ってわけか……でもミナトは認識して警戒できたんだよね? 何でだろ?」
と、クロエが訪ねてくるけど……
「……ごめん、わかんない。ホントに一瞬の出来事で、見える範囲での状況を把握することでいっぱいいっぱいだったから……ただ……」
「ただ?」
「もしかしたらこうじゃないかな、っていう予想をすることならできる。逆算的にだけどね」
どうしてあんなことが起こって、どうして僕だけがアレを感知できたのか。
それを調べるには判断材料が足りないし……その『材料』を入手しようがないんだよな。何せ、『麒麟』は今どこにいるのかなんて分かりっこないし……『転移』した直後にその場を調べてみたけど、もう既に空間の揺らぎも何も感じなくなっていたから。
けど、こう考えてみればどうだろう?
僕が感知できて、師匠やタマモさんでは感知できない領域ってのは何だ? と。
それも、空間系の技術ないし領域となると……自ずとそれは限られるってものだ。
「……恐らくは……『虚数空間』に関わりがあると思う」
「? それって確か、あんたオリジナルの、あんた以外は絶対に干渉できない謎空間よね? それを応用して属性にも反映させた、『否常識魔法』とかもいくつか作ってるし」
「うん。詳しく説明するとややこしくなるから省く。それでいいや。……でも、あの『麒麟』がいた空間そのものが『虚数空間』じゃなかったと思う。何かこう、感じが違ったし……多分、僕が『虚数空間』っていう別な空間に干渉する力を持ってたから、あの中で唯一、またさらに別な空間を認識して、干渉できたんじゃないかな」
おそらく……本来ならあの謎の空間や、そこにいた『麒麟』は、あの転移事故に巻き込まれた当人ですら、干渉も感知もできないものなのだろう。
あの現象が、タマモさんやハイエルフ共、その他、色々な人やモノが大陸とヤマト皇国を行き来している原因だと仮定して……その生き証人であるタマモさんやハイエルフが、『何が起こったかはわからない』と言ってるわけだから。
けど、僕はそれに当てはまらなかった。
『虚数空間』を認識して干渉できる僕は、あの時、わずかに空間に発生した『歪み』と、そこから漏れ出たあの『麒麟』の気配を感じ取って……それが、あのとんでもない寒気だったんだろう。
そしてここからは推測だけど、僕が『アルティメットジョーカー』に変身し、周囲の空間を破壊して抜け出たことにより、空間の『ゆらぎ』に巻き込まれて転移しそうになっていた皆も一緒に、通常空間に復帰した。
もしあの時そうしなかったら、もっとひどいことになってたかもね……数百キロと言わず、もっとずっと遠くまで飛んでたかもしれない。あるいは、まともな場所に出てなかったかもしれない……海の上とか、土の中とか。怖いなおい。
そんなことを考えていると、ふと思いついたように、イヅナさんが言った。
「……空間を歪ませて跳ぶ、か……『縮地』に似ているでござるな」
「? 縮地ってあの……こないだ模擬戦で使ってた、超高速移動のこと? 転移みたいな」
「うむ。そう言えば、まだアレの仕組みについてミナト殿に話していなかったでござるな……あれはな、術によって空間をわずかに震わせて歪ませ、そこに道を通すことによって、間にある距離を一時的に縮めることによって一瞬で移動する……というものなのでござる」
へえ……じゃあ、ホントに『転移』に近い技法なんだ?
けどそれを聞くと……確かに、似てなくもないね、今回のこの状況と。
ただ、今の時点の目測では……おそらくあいつは、空間をゆがませて移動してるっていうより、移動した結果として空間にゆがみが起こってる、って感じだったな。
あいつはただ、あの謎の異空間を移動してただけ。
普段からあの空間に生息しているのか、移動中だけあの空間を使っているのかはわからんけども……とにかく、奴はただ移動してるだけで……その最中、何かのきっかけで、通常の空間にも影響が及ぶ『ゆらぎ』が起こり、それに周囲の何かがからめとられ、巻き込まれる。
個人的には、『跳躍』と『跳躍』の間……蹄が地面についた瞬間に周囲を巻き込むんじゃないか、と思ってるが……まあいい。
その『ゆらぎ』が、結果的に、『縮地』における空間の圧縮と同じ効果を引き起こし、超長距離の転移が発生……と考えると、つじつま合うな。
もっとも、繰り返すけど、ここまでほぼ全部推測だから、結論を出すって言い方はできないけどね……あくまで可能性の1つとして見ることはできるだろう、と思う。
……しかし、そうそうあることじゃないだろうとは思うけど……あんなのに巻き込まれた日にゃ、巻き込まれた側はたまったもんじゃないよなあ……。
今回やタマモさんの時は、そんなに大ごとにはならなくて済んだけど……いや、タマモさんの時の、『大陸』から『ヤマト皇国』に飛ばされたのって十分大ごとだけどさ、命に関わるような事態にはならなかったって意味でね?
加えて、今回僕らが巻き込まれたってことは……『邪香猫』のメンバーやスタッフに渡してる『指輪』による、転移妨害も突破されたってことだし。
ホントにもう……災害と同じだよ。そうそう出くわすとは思えないけど、巻き込まれたら何が起こるかわからない。あんな魔物がいるとはなあ……。
……帰ったら速攻ギルドに報告しなきゃいけない案件だよコレ。
いや、そんな悠長なこと言っていられないかも。最悪、一回『オルトヘイム号』に戻って、超長距離通信で拠点にいるアイドローネ姉さんに連絡して、ギルドに報告出してもらうことも考えなきゃかもしれないな……
……そして、だ。
今回のことで、ここ最近たびたび遭遇している『僕だけにしかわからない『何か』』について、その正体ないし共通点みたいなものがわかってきた、あるいはそのヒントが手に入ったかもしれない。
(ひょっとして……異空間系の事柄、か……?)
思えば……最近と言わず思い出してみれば、他の人にはわからず、僕にしか感じ取れない『何か』っていうのは、今までいくつかあった気がする。
海底都市『アトランティス』で、テラさんに案内されて目にした巨大墓地……の奥にあった『龍の門』。
誰が何をしても反応1つなかったそれが、僕が触った時にだけ一瞬光った。門、っていうくらいだから、こことは別の空間につながっていたのかもしれない。
もう既に数か月前になるけど、ジャスニアの『エルドーラ遺跡』に隠されていたのも異空間だった。しかもその中には、ランク測定不能の化け物が待っていたと来たもんだ。あれも、僕しか感知できなかったな。
しかもその化け物……『アスラテスカ』自身を金庫代わりにして、何かの資料らしきものが封印されていて……おまけにその数日後に、その資料は強奪され、遺跡の異空間も消滅したときた。
そしてごく最近、というか昨日……『凪の海』で、これまた僕以外には何1つ感じ取れない、あの『何か』……。あの時は、詳しく観測も何もする暇もなかったから、何もわからないままその場を後にしちゃったけど……
これら全て同一の要因、っていうのはちょいと暴論かもしれないが、もし仮に共通点か何かがあるとすれば……?
……どうすっかな……勘だけどこれ、放置しといたままにしたらまずい気がする。放置しちゃいけない気がする。
調べて、解き明かしておかないと……何か、ヤバいことが起こる前に……
……それはそれで、怖いけどね。
何かこう……とんでもない事が明らかにというか、ヤバい領域に踏み込んでしまいそうというか……知っちゃいけないことを知ってしまいそうな気配がして……
ははは、こんな知的好奇心を刺激する事柄を前に、マッドが何を今更怖気づいてるんだか。
気にせずいつもみたいに、『禁忌? 倫理? なにそれ美味しいの』みたいな感じで嬉々として踏み込んで研究していけばそれでいいだろうに。
……心ではそう思ってるのに、直感的に二の足を踏もうとしてる自分がいるなんて……一体僕は何を前にしようとしてるんだ……?
もうすぐ、それも明らかになるんだろうか……?
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