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第23章 幻の英雄
第553話 上陸(っていう言い方でいいのかどうか)前夜
しおりを挟む宇宙を旅すること、およそ二週間。
ようやくこの移動時間も終わりが見えて来たところである。
もうすでに『渡り星』を肉眼でばっちり見ることができる位置にまで来ている。
けど今日はもう時間も夕方なので、ひとまず船でもう一泊し、明日の朝になってから。『渡り星』に降りる予定だ。
待ちに待った新ダンジョン(笑)へようやく到着するってことで、母さん達はもう今からワクワクしっぱなし。遠足前の子供みたいにそわそわして落ち着かない様子である。
そして、今日は突入前最後の夜ということで、景気づけも兼ねて、皆で一緒に豪華な夕食ということになった。
「はーい皆、お待ちどおさま! ガッツリ食べて体力つけるんニャよー!」
厨房に立ってくれたのは、『女楼蜘蛛』の料理担当だったエレノアさんである。
相変わらずの料理の腕。しかも、大人数の料理も難なくささっと作ってしまう手際の良さも合わせて披露してくれた。食堂の大テーブルに、所狭しと料理が並んでいる。
厨房手伝いのメイドロボ達も、的確に指示を出して上手く使って、ものの数十分で作っちゃうんだから……ほんとにすごいよなあ。
そうして作ってくれた料理の数々を、皆我先に取り皿にとって、あるいは大皿から直接取って食べていく。身内の食卓だから、多少のマナー違反はまあ、ご愛嬌ってことで。
明るくて楽しい雰囲気の中で進む食事……まるで大家族の食卓みたいである。いいなあ、こういう雰囲気。
……つくづくとても、前人未到のダンジョン(という名の他の惑星)に乗り込む前日だとは思えないお気楽ップリだよな……まあ、緊張でガチガチよりかいいかもしれないけどさ。
「いやあしかし……何というか、我ながら随分と遠くまで来ちゃったもんだなあ……」
と、食事しながらふと思いついたように、ザリーが横でそんなことを言っていた。
その視線は、食堂の窓から見える外の景色に向けられている。ちょうどそこには、宇宙空間の他にも……明日上陸する『渡り星』が見えている。
その見た目は、本物の月とかと同じような荒野……かと思いきや、実は全然そんな感じじゃなかった。
むしろ、どっちかって言うと地球に近いと言えるくらいの見た目だ。
何せ、宇宙空間からでも、緑や青といった色鮮やかな色彩がはっきり見える。月みたいに荒野じゃなくて、きちんと水も、緑もある惑星なのだ。
陸地と海の割合は半々くらいで、陸地の部分は緑だったり茶色だったり、灰色だったり。
事前にテオに聞いていた情報だと、環境なんかは地球とは大きくは変わらないらしい。
空気とか水もほとんど同じ感じ。重力その他の環境も地球とほとんど変わらないらしい。まあ、さすがに生息している動植物の種類なんかは違うようだけど。
あと、地球との大きな違いとしては、1日が24時間じゃなくて、40時間くらいあることだろうか。自転速度が地球より遅いみたいで、昼夜それぞれ20時間くらいあるそうだ。……時間間隔が狂いそうだな……。
まあ、それも含めて母さん達は楽しみにしてるようだけど……ザリーはそんな星を窓の外に見ながら、ふぅ、とため息をついていた。
「危険度AAのエリアや、前人未到の火山島なんかに行っただけでも十分『大冒険だなあ』なんて思ってたもんだけど……まさかこんな空の果てまで来ることになるとは。予想もしなかったよ」
「ホントよね。普通に生きてたんじゃ絶対経験できない……それどころか話に聞くこともない、知りもしないような世界をいくつも見る羽目になったわ」
「他の人に話しても信じてくれなさそうなレベルの話ですよね、もう」
ザリーに続けて、エルクとナナもそんな風に言う。感嘆半分、呆れ半分、って感じで。
さらに続けて、シェリーも、
「私達間違いなく、冒険者ギルドの歴史上一番とんでもない冒険してるわよね、今」
「それについてはボクも同感だねえ。元ギルマスとして、ギルドの資料にはほぼほぼ目を通してあるけど、こんな突拍子もない冒険の記録なんて間違いなくなかったからね」
「それどころか、そもそも思いつきもしないんじゃないかしらね? 空の果てまで飛んで行って、そこに未だ誰も見たことがない土地があるなんて。もうそれ子供の夢物語のレベルよ?」
「その夢物語が現実になってるんだけどニャ。そんな夢みたいな冒険が明日から始まると思うと……ううん、リリンじゃニャいけど、確かに心躍るってもんニャね」
さらにはアイリーンさんをはじめ、『女楼蜘蛛』の皆さんまでそんな風に。
伝説と言われた冒険者である彼女達からしても、この旅はまた段違いに『とんでもない』と言えるレベルのものらしい。
まあ、自分達の星を飛び出して宇宙に出て、さらに他の惑星まで行くってんだからな……そりゃいくら彼女達でも、そんな冒険、したことどころか考えたこともなかっただろうしな。
そもそも、宇宙だの惑星だのって概念すらなかったんだから。
想像すら及ばない場所での冒険。不安も当然だが、それ以上に楽しみなんだろう。色々と。
「しかしお前って奴は、ホントによくこんなこと思いつくよなあ……若い奴の柔らかい脳みそっていうのは、年寄りから見るとうらやましいもんだわ」
「ねえ、クローナ。どうしてそういう話をしながら私の方を見たのかしら?」
「見てねえよ、俺が今見たのはお前の目の前においてあるローストビーフだっつの。あんまり若返ると自意識過剰でかえって気にしてるのわか危っっぶねえなおい!!」
喋ってる師匠のおでこに、テレサさんが『こ~いつぅ♪』みたいな感じで人差し指でつん、と突こうとしていて、それを師匠が割と必死になって避けていた。
単なるじゃれ合いのように見える一コマだったけど、その一瞬、テレサさんの指先には厚さ1㎝の鉄板も余裕で貫通できそうなくらいのえぐい魔力が凝縮されていた。
あのまま師匠の額に命中していたら、割とやばいことになっていた気がする。相変わらず年齢でいじるとこの人は怖待ってテレサさんなんで一瞬でこっち見るのやめて心読まないで笑顔が怖い。
「ちょっとテレサぁ、食卓で物騒な技使うのやめてよね。クローナもさあ、一言多いのよ毎度毎度」
「クローナが悪いのよ。まったくもう……それこそ毎度、顔合わせるなりいじってくるんだもの」
「お前が気にしすぎなんだよ。見た目的に……つか俺ら全員そうだけど、別に年齢気にしなきゃいけねえような見た目じゃねえだろ。種族もあるし……あと、逆に年齢の方に関して言えば、今更考えても別に仕方ねえレベルだろーが。一番年下のエレノアでも300手前なんだからよ。400だろうが500だろうが五十歩百歩だそこまで行ったら」
「え? エレノアってまだそんなもんだっけ? あーそうか、ボクらが活動してたのがだいたい150~200年前くらいで、加入当時エレノアって80ちょいだったから……」
「年は一番若くても、所帯を持つのが早かったから、家族の多さや世代の厚さはリリンに次ぐからのう。確かこの間孫が生まれたんじゃったか?」
「いや何年前の話してんのニャ。もうひ孫がそろそろ2歳になるとこニャよ」
「何、そうか……ふむ、年をとると細かい時間の感覚もあいまいになるな。まあ、わし自身に家族がいないから意識する機会がないというのもあるか」
「そのあたり私としては、おせっかいかもだけど気になるところなのよね。私達引退して150年以上経つのに、6人中4人が独身って何!? 私、いつ皆の子供や孫を抱けるのかずっと楽しみにしてたんだけど……」
「「「だって興味ないし」」」
4人分の声がきれいにそろった。
「所帯なんぞ持ってもめんどくせーだけだろ。俺はやりたいことだけやって趣味に生きる。つか、わざわざ他人を家の中に招き入れるとか邪魔だとしか思えねえし」
「教会で運営している孤児院の仕事や、そこにいる子供たちの面倒を見ていれば、寂しくもないし……特定の誰かと親密になりたい、って思ったことはないわね」
「旅好きのわしとしては、1人の方が気楽で身軽でいいからの。それに、仮に嫁ぐならわしより強い男、と決めておるんじゃが、いかんせん1人もそういうのに会わんでな」
「わかるわかる、独り身は気楽でいいよねえ……ギルマス時代には権力その他目当てに見合い話とか雑なハニートラップとかも来たから、余計にそういうの敬遠するようになった気もするかも」
「これだもんなー……全く、もうちょっと『将来の夢はお嫁さんです!』っていうような純粋な女の子としてのメンタルとか残っててもいいんじゃないかって思うわ。あと、テーガンのそれは結局生涯独身宣言と同じだと思うんだけど」
「まあまあリリン、価値観は人それぞれニャよ。私達だってほら、現役時代は『恋愛? 何それ美味しいの?』って感じだったわけだし……あの頃の私達からすれば、今の私やリリンの状況の方が驚きなんじゃないかニャ? 特にリリンなんか、子供26人もできたわけだし」
「それは確かにね。そう言われてみれば……リリンって別に、子供が好きなわけでも、愛に飢えてるわけでもなかったわよね? なんでそんな風に、引退した後、あっちこっちで旦那と子供作って家族だらけになっていったんだったかしら? 何かきっかけでもあったの?」
「んー、多分だけどそれは……」
と、母さんが昔の記憶を掘り起こそうとしていたその時、
電子音を響かせて、僕の服のポケットに入れていたスマホが鳴った。
何だろうと思って画面を見てみれば、船のメインコンピュータから自動で送られてきたアラートの情報だった。
ちなみに今、『オルトヘイム号』は『渡り星』の近海宙域で停止しており、一時的にレーダー機能で自動的に周囲をサーチして警戒するように設定してある。
オペレーターであるクロエも一緒になって、食堂には船に乗っている全員が集まっていて、一緒に食事をとっているからだ。
まあもっとも、この宇宙空間で襲ってくる魔物なんていないだろうとは思っていたんだけど、念には念をってことで発動させていたレーダだったんだが……それが、何かをとらえたらしい。
スマホで遠隔でその結果を確認してみると、
「どうした、弟子?」
「なんか、船のレーダーが魔物を見つけたみたいで……ああでも、宇宙空間にまで上がってきてる感じじゃないですね。大気圏内……いやでも、それでも今感知できるレベルの高度?」
スマホから詳しく情報を閲覧してみると、大気圏の中でもかなり上の方……地球で言えば成層圏のあたりを、何匹かの大型のモンスターが飛んでいるっぽいという結果が。
さすがはドラゴン達の本拠地『渡り星』……そんな場所を住処にしてるモンスターもいるんだ。宇宙怪獣ぽさというか、多様性ってすごいなと思う。
……と思ってテオに聞いてみたら、しかし、
「……そんな種族いませんけど。少なくとも、私は知らないです」
「え。そうなの?」
「そのあたりまで生身で飛べる種族はいくつか知ってますが……そんな高さに住むどころか、生活圏内にしている種族なんていないはずですよ。高高度は気温が低いですし、風も強いし雷雲とかもあるから、龍にとっても相応に過酷な環境ですし……そもそも餌もないですし」
たまに度胸試しやら何やらでそのあたりまで飛び上がる馬鹿はいるけど、そういうのだって頻繁にじゃないし、そもそも群れを成してそのあたりに長いこととどまっているような種族は、どんな目的であれ聞いたこともないという。
……ログを見てみると、今感知できてるこいつら、さっきから結構長い時間飛んでるような感じに見えるな……しかも、同じ場所を何度もぐるぐると……。
まるで、何かを探しているみたいに……
……ひょっとして……僕らか? 狙ってんのは。
そもそも『神域の龍』達にとっても、ただでさえ用のない場所、というか高さ。であれば逆に、何か確実に理由があるからこそそこにいるんだろう。
普段は理由、ないし用はない。しかし、今はある。
それはもしかしたら、僕らがこうしてここに……『渡り星』にきている今だからこそ、なのかもしれない。普段と比べて特に違うところと言えば、それはまあ、こうして僕らが来ていることくらいだろうと思うし。
仮にそうだとして、誰が何のためにそんなことをしてるのか。
ジャバウォックの手下だった奴らが、敵討ちのために僕らを待ち受けている? まあ、なくはないかもしれないけど……主だった手下達は、地球での戦いで大方狩ったみたいだし……
だとすると、出てきているのは龍だけど、その理由のところ……というか、僕らをああして待ち受ける理由がある、理由を持っているのは、龍達以外、ということになる。
……そして、この『渡り星』には今、あくまで推測の段階ではあるんだけども……『神域の龍』以外に、潜伏している可能性が高い連中の存在がいたはずだ。
そいつらの差し金で、宇宙からこうしてやってくるであろう僕らを警戒しているのだとすれば……なるほど、つじつまは合う。
どうやら、明日の朝の大気圏突入……いきなりというか、『渡り星』到着早々に、手洗い歓迎を受けることになりそうだ……あちらさんもさすがに、ここまで来たら本気で相手をしてくれるつもりなのかもしれない。
地の果て、空の果てまで逃げて隠れていても追い詰められた形になるわけだからな。連中に……『ダモクレス財団』にしてみれば、正真正銘、もう後がないと言ってもいいような状況だろう。
まあ、こうなるかもとは元々思ってたわけだし、さして驚きもないが……ひとまず、皆には事前に話して、作戦練っておくとするか。
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