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第3話
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見事に女の子の体になってしまった俺。
とはいえ、元の姿に戻ることは可能らしい。
なのでこの姿が嫌なら、「変身」をしなければいいだけの話ではある。
が、元の姿に戻るのはいいとして、その前に確認しておくべきことがある。
まず俺は魔法少女カードを操作し、自分の「ステータス」を表示した。
現在の──つまり変身後の俺の姿と同時に、能力値の数値が画面に表示された。
***
魔法少女アルト
職業:魔法少女
レベル:1
HP:750
MP:49
攻撃力 :50
防御力 :50
魔力 :50
魔法防御:50
敏捷力 :50
***
先に見た説明の通り、一般人状態の俺と比べてMP以外の各能力値が綺麗に五倍になっていた。
ちなみに魔法少女カードに記されていた情報によると、この世界の一般人の能力値基準が、攻撃力、防御力、魔力、魔法防御、敏捷性とも10程度ということらしい。
それと比べると、これらの能力値オール50というのがまあまあ? かなり? 凄い値だというのは分かるのだが──
どうも数字で表示されても、実感が湧かない。
そこで俺は、魔法少女の姿で実際に、軽く運動をしてみることにした。
まずはジャンプ力の実験。
垂直跳びで、腕を振って反動をつけて、いっせーの──とうっ!
「──うおっ!?」
思いきり真上にジャンプすると、信じられない高さまで跳びあがった。
具体的には、今の俺の背丈の二倍以上ぐらい軽く跳んだ。
格闘ゲームのキャラクターもびっくりのジャンプ力だった。
「すっげぇ……」
俺はだいぶ高いところにある木の枝に片腕で捕まりながら、眼下の地面を見る。
家の二階から、外の道路を見下ろすぐらいの高さだ。
つまり家の二階ぐらいの高さなら、ジャンプでひょいと上れてしまうということ。
ちなみにだけど、片腕で木の枝にぶら下がっていても全然余裕で体重を支えられる点も驚きだ。
体重が軽いってこともあるだろうけど、それ以前にそもそものパワーが凄いのだということが、これだけでも分かった。
第一の検証を終えた俺は、木の枝を放して飛び降り、着地する。
そして、次。
近くにある木を、思いきりパンチしてみた。
「──はっ!」
──ズドォンッ!
とてつもなく重たい音がして、太い木がみしみしと揺れた。
葉っぱやら木の実やらがバッサバッサと落ちてきて、ついでにリスに似た小動物が一匹落ちてきた。
小動物は俺と目が合うと、慌ててちょろりと逃げていく。
……いやまあ、小動物の話はいいとして。
重要なのは、この凄まじいパンチ力だ。
よく分からないけど、ヘビー級プロボクサーのパンチってこんな感じなんだろうか。
それがこんな小さな体と小さな手から放たれる幼女パンチの威力だというのだから、ちょっと何言ってるんだか分からない。
ちなみに、わりと思いきり木をぶん殴ってみても、拳は痛くならなかった。
手に身につけているグローブの防御効果なのか、本来の身体能力なのかは分からないが、強く殴りすぎてこっちが手を痛めるような心配はしなくて大丈夫そうだ。
その後も俺は、走ってみたり、木に向かって蹴りを放ってみたりしたけど、いずれも人間離れした凄まじい能力が発揮された。
完全に超人気分である。
これはヤバい。
魔法少女という姿はいただけないが、この恐ろしいまでの力そのものは、男子的にぞくぞくするものがある。
なんかもう、この力を振るえるんだったら、こんな可愛らしい女の子の姿になっても構わないと思ってしまうぐらいだ。
とはいえ、この姿でずっといるとMPを消費してしまうらしいので、あまり不必要に無駄遣いするのもよろしくない。
そんなわけで、俺はひとまず変身を解除した。
全身が光に包まれ、元の俺の体──男子高校生の制服姿へと戻った。
「……ふぅ」
ホッと一息。
やっぱ男の体のほうが、落ち着くは落ち着くよな……。
さて、これで能力に関しては、だいたい把握した気がする。
ここからどうしようか。
なんか手持ちの能力をうまいこと使えば、生存ぐらいは問題なくできそうな気もするのだけど……。
うーん……大自然の中で野生児をやるっていうのも、現代日本で都会っ子をしていた身としては、ちょっとしんどいものがあるんだよな。
となれば──
「とりあえず、街道のあるほうに行ってみるか」
俺はつぶやきつつ、魔法少女カードのマップ機能に従って、街道のある北方向へと歩みを進めることにした。
大なり小なり整備された道があるということは、そっちに行けば人に出会える可能性が高いのではないだろうか。
いや、仮に人がいたとして、それが俺に対して友好的な人だとは限らないんだけど……。
そう考えると異世界って、意外と難儀だな。
ちなみに、どっちに進むと北なのかが分かるのも、マップ機能のおかげである。
魔法少女カード様々だ。
***
そんなわけで未知の大地を歩き回ることにした俺だったが、さすがにそう思い通りにばかりは、事は進まなかった。
俺が森の中を進んでいくと、街道に出るよりも前に、この異世界で初めての敵対生物に出遭うことになったのだ。
「キシャーッ、キシャーッ」
「キヒヒヒッ」
「コフーコフーッ!」
三体の生き物は人型で、子供のように小さかった。
肌は緑色で、衣類は腰布だけを身につけていて、目はぎらぎらと血走り、口は大きく裂けて、だらだらと唾液を垂らしている。
異様なまでに細くて節くれだった腕と脚。
その手には、それぞれいい感じの木の棍棒や、尖った石のナイフなどを持っていた。
俺が向かう先から現れたその生き物たちは、俺を見つけると、ニタニタしながらこちらに向かってくる。
まだ数十歩分ぐらいの距離はあるが──
ところで、その生き物には、俺はアニメやゲームなどで見覚えがあった。
「ゴブリンだよな、あれ……?」
俺はつぶやく。
遭遇したその生き物は、ファンタジー系のRPGやアニメなどでよく登場する、「ゴブリン」に酷似していたのだ。
ゴブリンはファンタジーRPGなどで、最弱クラスの雑魚モンスターとして登場することが多い、やられ役モンスターであるのが一般的だ。
しかし最近のアニメなどでは、意外に強くて主人公たちが苦戦したり、駆け出し冒険者がゴブリンに群がられてひどい目に遭ったりするケースも珍しくなくて、どうにも侮りがたい。
というか実際にこうして目の前で見てみると、姿形が怖い。
緑色の肌も不気味だし、黄色い眼球も異様だし、その目の剥き出し方とか、涎だらだらのところとかも、ヤバいクスリをヤってる感が半端ない。
強いとか弱いとかいう以前に、本能的に怖さを感じるビジュアルだ。
いかにもモンスターだなって感じだけど──
さて、どうするか。
いろいろと気になることもあるけど、今最も考えなければいけないことは、あいつらをどう切り抜けるかだろう。
いずれにせよ、あまり友好的な相手には見えない。
というか、今にも襲い掛かってきそうだ。
それでも試しに声をかけてみてもいいけど──
その前に、身の安全のためにこれはやっておいた方がいいだろう。
どう見ても命懸けの状況になりそうなときに、恥ずかしいなんて言ってもいられない。
俺は魔法少女カードを天に掲げ、叫んだ。
「──変身!」
魔法少女カードから光が降り注ぎ、俺の姿が魔法少女のそれへと変わった。
可憐な衣装を身にまとった小さな女の子姿になった俺は、全身に力があふれ出すのを感じる。
正直、あの仮称ゴブリンどもと殴り合っても、負ける気はさらさらしない。
突っ込んでいってワンパン×三で終了だと思う。
でも──
一方、仮称ゴブリンどもはというと、光って姿を変えた俺に一度は怯んだようだった。
しかしそれから、新たな俺の姿を見た仮称ゴブリンたちは、三体で何か盛り上がってから、喜び勇んだ様子で俺に向かって駆け寄ってきた。
ちょっと怖い……なんかいろんな意味で。
でも俺は、すぐにぶん殴りにいきたくなる気持ちを抑えて、仮称ゴブリンに向かって声をかけた。
「お前たちは何者だ! 俺の言葉分かるか!? 俺はなるべくならお前たちと戦いたくはない! 言葉が分かるなら返事をしてくれ!」
俺の口から、可愛らしい声が張り上げられた。
それは確かに、仮称ゴブリンどもに聞こえたはずだ。
でも仮称ゴブリンどもは、さらに盛り上がった様子で俺のほうに向かって駆けてくるばかり。
その口から発せられる声も、俺には意味をなさない奇声にしか聞こえなかった。
「チッ……!」
あの女神、自動翻訳機能がどうとか言ってなかったか……?
詐欺だ詐欺、訴えてやる。
が、そんな風に愚痴っていてもしょうがない。
俺はひとまず、走った。
ただし、仮称ゴブリンどもから遠ざかる方向にだ。
魔法少女になった俺のほうが、仮称ゴブリンどもより圧倒的に速い。
俺は人間離れした俊足で木々の間を駆け抜けて、ぐんぐんと仮称ゴブリンどもを引き離していく。
その途中、俺は思い立って魔法少女カードのカメラ機能を起動。
追いかけてくる仮称ゴブリンどもの一体を撮影した。
その後さらに走り、ゴブリンどもの視界外まで逃れたタイミングで、一本の大木の根元でジャンプする。
そして高いところにあった木の枝をつかんで、鉄棒の要領でくるんと逆上がりすると、そのまま木の上で待機した。
やがて仮称ゴブリンどもが、俺が潜んでいる木の下まで来た。
でも俺が木の上に潜んでいることには気付かずに、周囲をきょろきょろと見回してから、三体の仮称ゴブリンはまた闇雲な方向へと走っていく。
そのまま仮称ゴブリンたちは、俺の視界の外へと消えていった。
「ふぅ~……」
俺は木の上で一息つく。
胸に手を当てると、ほんの少しだけ膨らんだ胸の奥がドキドキと鼓動していた。
どうにかやりすごせたようだけど──
一応、こう、アレだ。
よく分からない相手に、いきなり暴力は良くないと思うんですよ。
いや、どう見ても向こうは俺を殺そうとしていたか、あるいは別の意味でこの姿の俺を襲おうとしていたようだったし、やっちゃっても良かった気もするんだけど。
まあでも、暴力沙汰をせずに済むなら、それに越したことはない。
右も左も分からない異世界だし、善も悪も、常識も非常識も分からないんだから、穏便に済ませられるなら、そのほうが望ましいだろう。
「さてと──」
俺は魔法少女カードを見る。
そこにはカメラモードで撮影した、仮称ゴブリンの姿が映っている。
俺はその仮称ゴブリンに「鑑定」をかける。
鑑定機能は、俺の予想通りにヒットした。
***
ゴブリン
モンスターレベル:1
HP :100
MP :30
攻撃力 :6
防御力 :7
魔力 :4
魔法防御:6
敏捷力 :9
***
……ふむ。
名称は、やはりゴブリンだった。
能力は一般人状態の俺と比べても、全般的にやや低め。
やっぱり戦って負けるような相手じゃなさそうだが──
「ま、いいや」
ひとまずは凌げたんだから、結果オーライでいいだろう。
平和主義は大事だ。
最後の手段は、最後の手段を取らざるを得ないときだけでいいよな。
「よっ、と」
俺はシュタッと木の上から飛び降りる。
それから変身を解き、再び街道の方角へと向かって歩き始めた。
とはいえ、元の姿に戻ることは可能らしい。
なのでこの姿が嫌なら、「変身」をしなければいいだけの話ではある。
が、元の姿に戻るのはいいとして、その前に確認しておくべきことがある。
まず俺は魔法少女カードを操作し、自分の「ステータス」を表示した。
現在の──つまり変身後の俺の姿と同時に、能力値の数値が画面に表示された。
***
魔法少女アルト
職業:魔法少女
レベル:1
HP:750
MP:49
攻撃力 :50
防御力 :50
魔力 :50
魔法防御:50
敏捷力 :50
***
先に見た説明の通り、一般人状態の俺と比べてMP以外の各能力値が綺麗に五倍になっていた。
ちなみに魔法少女カードに記されていた情報によると、この世界の一般人の能力値基準が、攻撃力、防御力、魔力、魔法防御、敏捷性とも10程度ということらしい。
それと比べると、これらの能力値オール50というのがまあまあ? かなり? 凄い値だというのは分かるのだが──
どうも数字で表示されても、実感が湧かない。
そこで俺は、魔法少女の姿で実際に、軽く運動をしてみることにした。
まずはジャンプ力の実験。
垂直跳びで、腕を振って反動をつけて、いっせーの──とうっ!
「──うおっ!?」
思いきり真上にジャンプすると、信じられない高さまで跳びあがった。
具体的には、今の俺の背丈の二倍以上ぐらい軽く跳んだ。
格闘ゲームのキャラクターもびっくりのジャンプ力だった。
「すっげぇ……」
俺はだいぶ高いところにある木の枝に片腕で捕まりながら、眼下の地面を見る。
家の二階から、外の道路を見下ろすぐらいの高さだ。
つまり家の二階ぐらいの高さなら、ジャンプでひょいと上れてしまうということ。
ちなみにだけど、片腕で木の枝にぶら下がっていても全然余裕で体重を支えられる点も驚きだ。
体重が軽いってこともあるだろうけど、それ以前にそもそものパワーが凄いのだということが、これだけでも分かった。
第一の検証を終えた俺は、木の枝を放して飛び降り、着地する。
そして、次。
近くにある木を、思いきりパンチしてみた。
「──はっ!」
──ズドォンッ!
とてつもなく重たい音がして、太い木がみしみしと揺れた。
葉っぱやら木の実やらがバッサバッサと落ちてきて、ついでにリスに似た小動物が一匹落ちてきた。
小動物は俺と目が合うと、慌ててちょろりと逃げていく。
……いやまあ、小動物の話はいいとして。
重要なのは、この凄まじいパンチ力だ。
よく分からないけど、ヘビー級プロボクサーのパンチってこんな感じなんだろうか。
それがこんな小さな体と小さな手から放たれる幼女パンチの威力だというのだから、ちょっと何言ってるんだか分からない。
ちなみに、わりと思いきり木をぶん殴ってみても、拳は痛くならなかった。
手に身につけているグローブの防御効果なのか、本来の身体能力なのかは分からないが、強く殴りすぎてこっちが手を痛めるような心配はしなくて大丈夫そうだ。
その後も俺は、走ってみたり、木に向かって蹴りを放ってみたりしたけど、いずれも人間離れした凄まじい能力が発揮された。
完全に超人気分である。
これはヤバい。
魔法少女という姿はいただけないが、この恐ろしいまでの力そのものは、男子的にぞくぞくするものがある。
なんかもう、この力を振るえるんだったら、こんな可愛らしい女の子の姿になっても構わないと思ってしまうぐらいだ。
とはいえ、この姿でずっといるとMPを消費してしまうらしいので、あまり不必要に無駄遣いするのもよろしくない。
そんなわけで、俺はひとまず変身を解除した。
全身が光に包まれ、元の俺の体──男子高校生の制服姿へと戻った。
「……ふぅ」
ホッと一息。
やっぱ男の体のほうが、落ち着くは落ち着くよな……。
さて、これで能力に関しては、だいたい把握した気がする。
ここからどうしようか。
なんか手持ちの能力をうまいこと使えば、生存ぐらいは問題なくできそうな気もするのだけど……。
うーん……大自然の中で野生児をやるっていうのも、現代日本で都会っ子をしていた身としては、ちょっとしんどいものがあるんだよな。
となれば──
「とりあえず、街道のあるほうに行ってみるか」
俺はつぶやきつつ、魔法少女カードのマップ機能に従って、街道のある北方向へと歩みを進めることにした。
大なり小なり整備された道があるということは、そっちに行けば人に出会える可能性が高いのではないだろうか。
いや、仮に人がいたとして、それが俺に対して友好的な人だとは限らないんだけど……。
そう考えると異世界って、意外と難儀だな。
ちなみに、どっちに進むと北なのかが分かるのも、マップ機能のおかげである。
魔法少女カード様々だ。
***
そんなわけで未知の大地を歩き回ることにした俺だったが、さすがにそう思い通りにばかりは、事は進まなかった。
俺が森の中を進んでいくと、街道に出るよりも前に、この異世界で初めての敵対生物に出遭うことになったのだ。
「キシャーッ、キシャーッ」
「キヒヒヒッ」
「コフーコフーッ!」
三体の生き物は人型で、子供のように小さかった。
肌は緑色で、衣類は腰布だけを身につけていて、目はぎらぎらと血走り、口は大きく裂けて、だらだらと唾液を垂らしている。
異様なまでに細くて節くれだった腕と脚。
その手には、それぞれいい感じの木の棍棒や、尖った石のナイフなどを持っていた。
俺が向かう先から現れたその生き物たちは、俺を見つけると、ニタニタしながらこちらに向かってくる。
まだ数十歩分ぐらいの距離はあるが──
ところで、その生き物には、俺はアニメやゲームなどで見覚えがあった。
「ゴブリンだよな、あれ……?」
俺はつぶやく。
遭遇したその生き物は、ファンタジー系のRPGやアニメなどでよく登場する、「ゴブリン」に酷似していたのだ。
ゴブリンはファンタジーRPGなどで、最弱クラスの雑魚モンスターとして登場することが多い、やられ役モンスターであるのが一般的だ。
しかし最近のアニメなどでは、意外に強くて主人公たちが苦戦したり、駆け出し冒険者がゴブリンに群がられてひどい目に遭ったりするケースも珍しくなくて、どうにも侮りがたい。
というか実際にこうして目の前で見てみると、姿形が怖い。
緑色の肌も不気味だし、黄色い眼球も異様だし、その目の剥き出し方とか、涎だらだらのところとかも、ヤバいクスリをヤってる感が半端ない。
強いとか弱いとかいう以前に、本能的に怖さを感じるビジュアルだ。
いかにもモンスターだなって感じだけど──
さて、どうするか。
いろいろと気になることもあるけど、今最も考えなければいけないことは、あいつらをどう切り抜けるかだろう。
いずれにせよ、あまり友好的な相手には見えない。
というか、今にも襲い掛かってきそうだ。
それでも試しに声をかけてみてもいいけど──
その前に、身の安全のためにこれはやっておいた方がいいだろう。
どう見ても命懸けの状況になりそうなときに、恥ずかしいなんて言ってもいられない。
俺は魔法少女カードを天に掲げ、叫んだ。
「──変身!」
魔法少女カードから光が降り注ぎ、俺の姿が魔法少女のそれへと変わった。
可憐な衣装を身にまとった小さな女の子姿になった俺は、全身に力があふれ出すのを感じる。
正直、あの仮称ゴブリンどもと殴り合っても、負ける気はさらさらしない。
突っ込んでいってワンパン×三で終了だと思う。
でも──
一方、仮称ゴブリンどもはというと、光って姿を変えた俺に一度は怯んだようだった。
しかしそれから、新たな俺の姿を見た仮称ゴブリンたちは、三体で何か盛り上がってから、喜び勇んだ様子で俺に向かって駆け寄ってきた。
ちょっと怖い……なんかいろんな意味で。
でも俺は、すぐにぶん殴りにいきたくなる気持ちを抑えて、仮称ゴブリンに向かって声をかけた。
「お前たちは何者だ! 俺の言葉分かるか!? 俺はなるべくならお前たちと戦いたくはない! 言葉が分かるなら返事をしてくれ!」
俺の口から、可愛らしい声が張り上げられた。
それは確かに、仮称ゴブリンどもに聞こえたはずだ。
でも仮称ゴブリンどもは、さらに盛り上がった様子で俺のほうに向かって駆けてくるばかり。
その口から発せられる声も、俺には意味をなさない奇声にしか聞こえなかった。
「チッ……!」
あの女神、自動翻訳機能がどうとか言ってなかったか……?
詐欺だ詐欺、訴えてやる。
が、そんな風に愚痴っていてもしょうがない。
俺はひとまず、走った。
ただし、仮称ゴブリンどもから遠ざかる方向にだ。
魔法少女になった俺のほうが、仮称ゴブリンどもより圧倒的に速い。
俺は人間離れした俊足で木々の間を駆け抜けて、ぐんぐんと仮称ゴブリンどもを引き離していく。
その途中、俺は思い立って魔法少女カードのカメラ機能を起動。
追いかけてくる仮称ゴブリンどもの一体を撮影した。
その後さらに走り、ゴブリンどもの視界外まで逃れたタイミングで、一本の大木の根元でジャンプする。
そして高いところにあった木の枝をつかんで、鉄棒の要領でくるんと逆上がりすると、そのまま木の上で待機した。
やがて仮称ゴブリンどもが、俺が潜んでいる木の下まで来た。
でも俺が木の上に潜んでいることには気付かずに、周囲をきょろきょろと見回してから、三体の仮称ゴブリンはまた闇雲な方向へと走っていく。
そのまま仮称ゴブリンたちは、俺の視界の外へと消えていった。
「ふぅ~……」
俺は木の上で一息つく。
胸に手を当てると、ほんの少しだけ膨らんだ胸の奥がドキドキと鼓動していた。
どうにかやりすごせたようだけど──
一応、こう、アレだ。
よく分からない相手に、いきなり暴力は良くないと思うんですよ。
いや、どう見ても向こうは俺を殺そうとしていたか、あるいは別の意味でこの姿の俺を襲おうとしていたようだったし、やっちゃっても良かった気もするんだけど。
まあでも、暴力沙汰をせずに済むなら、それに越したことはない。
右も左も分からない異世界だし、善も悪も、常識も非常識も分からないんだから、穏便に済ませられるなら、そのほうが望ましいだろう。
「さてと──」
俺は魔法少女カードを見る。
そこにはカメラモードで撮影した、仮称ゴブリンの姿が映っている。
俺はその仮称ゴブリンに「鑑定」をかける。
鑑定機能は、俺の予想通りにヒットした。
***
ゴブリン
モンスターレベル:1
HP :100
MP :30
攻撃力 :6
防御力 :7
魔力 :4
魔法防御:6
敏捷力 :9
***
……ふむ。
名称は、やはりゴブリンだった。
能力は一般人状態の俺と比べても、全般的にやや低め。
やっぱり戦って負けるような相手じゃなさそうだが──
「ま、いいや」
ひとまずは凌げたんだから、結果オーライでいいだろう。
平和主義は大事だ。
最後の手段は、最後の手段を取らざるを得ないときだけでいいよな。
「よっ、と」
俺はシュタッと木の上から飛び降りる。
それから変身を解き、再び街道の方角へと向かって歩き始めた。
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