あかねいろ

杏子飴。

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昨日の殴られた頬が青く腫れていた。マスクで何とか隠せるほどの大きさで終わっているのが奇跡だった。現在進行形で授業が行われている中、海斗は爽やかな風に当たっていた。
『孤独死がいいよなぁ。誰もいない部屋で死ねたらそれ以上のことは無いよなぁ。』
屋上で授業をサボるのだけが好きだった。くだらないことを言いながら空を見上げてぼーっと息をする。それが生きていると実感できた。孤独ではあったが別にそれで死ぬ訳ではなかった。孤独死は死因ではないから。
『死ぬなら飛び降りか、いや、毒がいいな。どうせなら寝てる間に死にたいよなぁ。』
そんなことを呟いていると不思議と気持ちが楽になる。この時間がずっと続けばいいのにと毎日思う。そうして時間が過ぎて帰宅時間になる。
『五十嵐くん!どこにいたの?先生が呼んでたよ。』
『…っ!あ、ありがと。』
『う、うん。じゃあ。』
生徒が帰宅していく中ようやく教室に戻った海斗に、クラスの女子がわざわざ残って連絡を伝えてくれた。ぎこちない会話をして言われた通り職員室へ行った。
『五十嵐くん、今日どこにいたの?ずっと探してたのよ。』
『すいません。』
『家の方に連絡したいけれど誰かいる?』
『家はっ!やめて!』
急に大きな声を出したからか、先生は目を丸くして海斗を見た。
『あ!やめて、ください…。』
『…。わかった。どうしたの?なにかあるの?』
これ以上話すと余計なことを話してしまいそうだ。
『いや、なんも無いっす。妹が小さいんで多分今の時間だと保育園の迎えに行ってるかなって…。』
『…そう。じゃあ明日はちゃんと授業に出なさい。帰っていいよ。』
『はい。』
そう言って職員室を出た。保育園なんて、行かせてもらったことなどない。今電話したところで父が電話に出て、それで…。嘘はついたが保身のためには仕方なかった。教室に戻り、自分のカバンを持って玄関へ向かう。階段の踊り場には鏡があってそれを見ると、体のそこら中に絆創膏が貼ってあり、治りきらなかった傷が何個も残っている自分が映る。
心底鏡を、叩き割りたかった。
そしてできることならその鏡の割れた破片で、首を掻っ切ってそのまま空になりたかった。そんなことを考えながら、玄関で内履きから外履きに履き替える。一瞬、担任の先生が見えた気がしたが何事もないように校門を出た。
毎日毎日通っている登下校の道も今日はなんだか少しだけ、いつもよりも色を失ったように見えた。だんだんと自分の目に映る景色から色が無くなっていくのがわかる。それが嫌だった。現実ですら海斗を必要としていないような、そんな気がしたから。
中学校から家までの距離が日に日に長く感じるのもこのせいなのだろうか。それとも自分がただ単に帰りたくないと思う気持ちが強くなっているだけなのだろうか。後者であるのならば、この気持ちはすぐに捨てなければならない。その気持ちが強くなればなるほど、海斗は自分の首を絞めるだけだと知っている。
夕暮れの嫌な温かさを体全体に焼き付けながらゆっくりと息を吐いては吸うを繰り返す。そうしながら、家へと帰る。
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