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春
入寮式3
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「まったく、行くぞ」とアル先輩の首根っこを掴んで無理やり引き摺って行くグレンヴィル先輩。すれ違いざまに目が合ったが、とくに何も言うことなく舞台へと向かって行った。一瞬、眇められた目に何を言われるんだと身構えたぶん肩透かしを食らった気分だ。
ずざざざざ、と有無を言わさず引き摺られるアル先輩は段差のたびにごつごつ膝をぶつけているみたいで「いだだだだだっ!」と悲鳴を上げている。とりあえず合掌しておいた。
「アルも怒られるって分かってるのに懲りないんだからなぁ」
仕方ないなぁ、とでも言うかのように苦笑をこぼすノエル先輩。なんとなくわかっていたことだけど、アル先輩のあのサプライズ? は日常茶飯事のようだ。……日常茶飯事で起こるサプライズはサプライズじゃないと思うのは僕だけかな。
嬉しくないことに僕はアル先輩に気に入られてしまったみたいだし、ノエル先輩いわく「毎日がサプライズだよ!」とのことだ。非常に嬉しくない。何度でも言うが、嬉しくない。僕は闇落ちフラグを回避して、お兄様と幸せに平々凡々な日常を過ごせたらそれで満足なんだよ。声を高らかにして訴えたい。僕はお兄様と一緒にいたいだけなんですッ!
「……またオールブライトのこと考えてる?」
ひぇっ。また、あの昏い瞳だ。怖い怖い。この先輩がよく分からない。ヒロインお姉様との絡みのときは逆にノエル先輩がヒロインみたいだったし、お姉様超かっこよかった。そこらへんの男よりも男前でイケメンでした。
クリスティアンっていう異物が混入したことによる『ズレ』なのかな。今後、ヒロインお姉様がノエル先輩ルート入ったらこの『ズレ』は修正されるのかな。そこだけが心配。原作崩壊とかそういうのはもう諦めてる。だって、僕がモブキャラならまだしも、ヒロインお姉様の弟でなおかつ二作目のキーキャラだぜ……? 傍観主目指すとか言えない。そもそも傍観主目指したらお兄様は死んでしまうし僕は闇落ちまっしぐらだ。
「そうですよ。僕はヴィンスお兄様のこと大好きですからね」
「……羨ましいなぁ」
目を瞬かせた。ふと、見ればノエル先輩自身も口にしたことに驚いている様子だ。羨ましい? 何が?
あ、とか、う、とかまともな言葉を紡げないでいる僕を気遣ってなのか、ふんわり笑って「気にしないで」と言うけれど、物凄く気になる。何が羨ましいの。けど、気にしないでと言われた手前尋ねるに尋ねることができない。
もやもやしたものを胸に抱えたまま口を噤むしかない。
「あぁ、そろそろ始まるみたいだね」
「ほら、大好きなお兄様がいるよ」と揶揄われた言葉に眉根を寄せるが、反論はしない。いつのまにか講堂内は人に溢れ、しんと静まり返っていた。舞台の前にはヴィンスお兄様と、アル先輩、グランヴィル先輩が並んでいる。
お兄様はにこにこ麗しい微笑みだし、アル先輩は何やら企んでいそうなニヤニヤ顔で非常に残念な美人だし、グランヴィル先輩は眉間に皺を寄せた仏頂面。あそこまで種類の違うイケメンもなかなか揃わないんじゃないかと思う。入学するための項目に『美形であること』ってありそうなくらい顔面偏差値の高い学校だからね、イケメンカタログ見てる気分。
「それではこれより、入寮の儀を執り行う!」
凛と、よく通るグランヴィル先輩の声が講堂内に響いた。
「まずは新入生の諸君、入学おめでとう。俺はサラマンダー寮寮長のカーティス・グランヴィルだ」
「ノーム寮寮長のアラステア・グリッター!」
「ウンディーネ寮寮長のヴィンセント・オールブライトだよ」
あれ、シルフ寮は? 首を傾げれば、僕だけじゃなく他の新入生も不思議に思ったみたいでちょっとしたざわめきが広がっていく。シルフ寮所属のノエル先輩を見れば、眉を下げて困った笑みを浮かべていた。
「シルフ寮寮長はそこに座ってへらへらしてるノエル・シューリスだ。代理だとか言っているが実質寮長と変わらん。寮長と認識して構わない」
「だから、断ったって言ってるのになぁ」と困り顔のノエル先輩をぎょっとして見る。舞台前のお兄様が、ノエル先輩の隣に座っている僕を見てぎょっとしていたのは気のせいだ。
しかし、ノエル先輩がシルフ寮寮長代理? 確かメインキャラのメレディス・タナ―の兄がシルフ寮の寮長だったと記憶しているのだが、違ったっけ……? あぁもう、朧げな記憶にイライラする。もしかして老化でも始まったんじゃないの。身体年齢は十四歳、正確に言うなら十三歳と五カ月、精神年齢は(規制音)歳。精神年齢的には老化が始まっても可笑しくない。見た目十代の美少年の中身が老成しきってるとかなんだか嫌だ。夢が壊れる。
――僕が思っているよりも『ズレ』は深刻なのかもしれない。
「静粛に!」とまさに鶴の一声。グランヴィル先輩の掛け声ひとつでざわついていた空間は静まり返った。
「入寮の儀とは言っても、そう構えることもない。ただ舞台上の椅子に座り、宣託を受けるだけだ。数秒で決まるかもしれない、もしかしたら長時間かかるかもしれない。しかし、希望することもできる。まぁ、希望が通らないこともあるがな」
「これからの学校生活で関わることだからね。しっかりと考えて、希望を出したらいいよ」
「寮それぞれで特色が違うから面白いぞ。そうだなぁ、例えばノーム寮! オレンジ色がチームカラーで、寮生には明るくムードメーカーな奴らが多いな。問題児も多いけれどな!」
「お前が言うなー」とオレンジ色の集団からヤジが飛ぶ。
「ま、退屈な日常は望めないな! 面白おかしい毎日を過ごしたい奴、大歓迎だぜ!」
「あはは、なんだかアピールタイムみたいだね。ウンディーネ寮はそうだなぁ、静かで落ち着いた雰囲気、っていうのかな。体を動かすよりは魔法を考えたりとか、そういうのが得意な生徒が多いと思うよ」
「文系だなんだと言いながら手や足が出るのが早いのも特徴だな」
「何か言ったかい?」
「さて、我がサラマンダー寮はウンディーネ寮とは反対に体を動かすことが得意な生徒が集まっているな。熱い炎を宿した寮生が多いとも言うか」
「堅物がいっぱいだ! ノーム寮を希望する新入生諸君、サラマンダーの寮生には気を付けるんだぞ!」
至極真面目な顔で注意を促すものだからつい笑ってしまった。アル先輩のそれはきっと日頃の行いから目を付けられていることがわかるんだもの。ついでに、シルフ寮については三人が三人とも「変人奇人の巣窟だ」と声を揃えたのもまた笑いを誘った。
ずざざざざ、と有無を言わさず引き摺られるアル先輩は段差のたびにごつごつ膝をぶつけているみたいで「いだだだだだっ!」と悲鳴を上げている。とりあえず合掌しておいた。
「アルも怒られるって分かってるのに懲りないんだからなぁ」
仕方ないなぁ、とでも言うかのように苦笑をこぼすノエル先輩。なんとなくわかっていたことだけど、アル先輩のあのサプライズ? は日常茶飯事のようだ。……日常茶飯事で起こるサプライズはサプライズじゃないと思うのは僕だけかな。
嬉しくないことに僕はアル先輩に気に入られてしまったみたいだし、ノエル先輩いわく「毎日がサプライズだよ!」とのことだ。非常に嬉しくない。何度でも言うが、嬉しくない。僕は闇落ちフラグを回避して、お兄様と幸せに平々凡々な日常を過ごせたらそれで満足なんだよ。声を高らかにして訴えたい。僕はお兄様と一緒にいたいだけなんですッ!
「……またオールブライトのこと考えてる?」
ひぇっ。また、あの昏い瞳だ。怖い怖い。この先輩がよく分からない。ヒロインお姉様との絡みのときは逆にノエル先輩がヒロインみたいだったし、お姉様超かっこよかった。そこらへんの男よりも男前でイケメンでした。
クリスティアンっていう異物が混入したことによる『ズレ』なのかな。今後、ヒロインお姉様がノエル先輩ルート入ったらこの『ズレ』は修正されるのかな。そこだけが心配。原作崩壊とかそういうのはもう諦めてる。だって、僕がモブキャラならまだしも、ヒロインお姉様の弟でなおかつ二作目のキーキャラだぜ……? 傍観主目指すとか言えない。そもそも傍観主目指したらお兄様は死んでしまうし僕は闇落ちまっしぐらだ。
「そうですよ。僕はヴィンスお兄様のこと大好きですからね」
「……羨ましいなぁ」
目を瞬かせた。ふと、見ればノエル先輩自身も口にしたことに驚いている様子だ。羨ましい? 何が?
あ、とか、う、とかまともな言葉を紡げないでいる僕を気遣ってなのか、ふんわり笑って「気にしないで」と言うけれど、物凄く気になる。何が羨ましいの。けど、気にしないでと言われた手前尋ねるに尋ねることができない。
もやもやしたものを胸に抱えたまま口を噤むしかない。
「あぁ、そろそろ始まるみたいだね」
「ほら、大好きなお兄様がいるよ」と揶揄われた言葉に眉根を寄せるが、反論はしない。いつのまにか講堂内は人に溢れ、しんと静まり返っていた。舞台の前にはヴィンスお兄様と、アル先輩、グランヴィル先輩が並んでいる。
お兄様はにこにこ麗しい微笑みだし、アル先輩は何やら企んでいそうなニヤニヤ顔で非常に残念な美人だし、グランヴィル先輩は眉間に皺を寄せた仏頂面。あそこまで種類の違うイケメンもなかなか揃わないんじゃないかと思う。入学するための項目に『美形であること』ってありそうなくらい顔面偏差値の高い学校だからね、イケメンカタログ見てる気分。
「それではこれより、入寮の儀を執り行う!」
凛と、よく通るグランヴィル先輩の声が講堂内に響いた。
「まずは新入生の諸君、入学おめでとう。俺はサラマンダー寮寮長のカーティス・グランヴィルだ」
「ノーム寮寮長のアラステア・グリッター!」
「ウンディーネ寮寮長のヴィンセント・オールブライトだよ」
あれ、シルフ寮は? 首を傾げれば、僕だけじゃなく他の新入生も不思議に思ったみたいでちょっとしたざわめきが広がっていく。シルフ寮所属のノエル先輩を見れば、眉を下げて困った笑みを浮かべていた。
「シルフ寮寮長はそこに座ってへらへらしてるノエル・シューリスだ。代理だとか言っているが実質寮長と変わらん。寮長と認識して構わない」
「だから、断ったって言ってるのになぁ」と困り顔のノエル先輩をぎょっとして見る。舞台前のお兄様が、ノエル先輩の隣に座っている僕を見てぎょっとしていたのは気のせいだ。
しかし、ノエル先輩がシルフ寮寮長代理? 確かメインキャラのメレディス・タナ―の兄がシルフ寮の寮長だったと記憶しているのだが、違ったっけ……? あぁもう、朧げな記憶にイライラする。もしかして老化でも始まったんじゃないの。身体年齢は十四歳、正確に言うなら十三歳と五カ月、精神年齢は(規制音)歳。精神年齢的には老化が始まっても可笑しくない。見た目十代の美少年の中身が老成しきってるとかなんだか嫌だ。夢が壊れる。
――僕が思っているよりも『ズレ』は深刻なのかもしれない。
「静粛に!」とまさに鶴の一声。グランヴィル先輩の掛け声ひとつでざわついていた空間は静まり返った。
「入寮の儀とは言っても、そう構えることもない。ただ舞台上の椅子に座り、宣託を受けるだけだ。数秒で決まるかもしれない、もしかしたら長時間かかるかもしれない。しかし、希望することもできる。まぁ、希望が通らないこともあるがな」
「これからの学校生活で関わることだからね。しっかりと考えて、希望を出したらいいよ」
「寮それぞれで特色が違うから面白いぞ。そうだなぁ、例えばノーム寮! オレンジ色がチームカラーで、寮生には明るくムードメーカーな奴らが多いな。問題児も多いけれどな!」
「お前が言うなー」とオレンジ色の集団からヤジが飛ぶ。
「ま、退屈な日常は望めないな! 面白おかしい毎日を過ごしたい奴、大歓迎だぜ!」
「あはは、なんだかアピールタイムみたいだね。ウンディーネ寮はそうだなぁ、静かで落ち着いた雰囲気、っていうのかな。体を動かすよりは魔法を考えたりとか、そういうのが得意な生徒が多いと思うよ」
「文系だなんだと言いながら手や足が出るのが早いのも特徴だな」
「何か言ったかい?」
「さて、我がサラマンダー寮はウンディーネ寮とは反対に体を動かすことが得意な生徒が集まっているな。熱い炎を宿した寮生が多いとも言うか」
「堅物がいっぱいだ! ノーム寮を希望する新入生諸君、サラマンダーの寮生には気を付けるんだぞ!」
至極真面目な顔で注意を促すものだからつい笑ってしまった。アル先輩のそれはきっと日頃の行いから目を付けられていることがわかるんだもの。ついでに、シルフ寮については三人が三人とも「変人奇人の巣窟だ」と声を揃えたのもまた笑いを誘った。
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