闇落ちフラグ乱立注意報、僕はただの弟です!

白霧雪。

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入寮式2

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 後ろ向きな思考にモチベーションがどんどん下がっていく。お兄様に会いたい。抱きしめてもらって、頭を撫でてもらいたい。優しくべたべたに甘やかしてほしい。まるで、我が儘で甘えたな子供だ。一層、表情が険しくなる。

「あぁ、ほら、そんなにしわを寄せるんじゃないよ。せっかくの綺麗な顔なんだから」
「……僕はかっこいい方がいいです」
「クリスがかっこいい、かぁ。うーん、難しいんじゃない? オールブライト、……クリスの兄だってかっこいいと言うよりは綺麗な顔立ちじゃないか。綺麗って言われるのは嫌?」
「綺麗だと言われて嬉しい男はいないと思います」
「そうかな? でもやっぱり、クリスはそのまま成長してほしいなぁ。数年後が楽しみだよ」

 そう言ってふわふわ微笑うノエル先輩が僕の頭に手を伸ばした瞬間――ばぁん! と大きな音が鳴り響き、ふっと灯りが消えて講堂内は暗闇に包まれた。至る所から小さな悲鳴が上がる。
 急な暗闇に身を竦ませた。暗闇はあまり得意じゃない。そっと、隣に伸ばした手をぎゅっと掴まれる。悲鳴を漏らさなかった自分を褒めたい。心臓がどくどくと鳴っている。

「怖い?」
「べ、っつに」
「そう。じゃあ手離してもいいよね」

 パッと掴まれた手を離されて、つい離れていく手を追ってぎゅっと握りしめてしまった。だって、急に離れていくから!

「やっぱり怖いんだじゃないか」
「……」
「大丈夫さ。きっと、いつものサプライズだよ」
「サプライズ……?」

 ほら、舞台を見てごらん、と促され、手を握りしめたまま顔を向ける。
 パンッ、パンッと二回破裂音がして、講堂の天井近くで光の花が咲いた。『前』で見た花火みたいだけど、特有の火薬や硝煙の匂いはしないし、ひらひらと落ちてくる光は触れると逃げるようにひゅんひゅんと宙を舞った。暗闇に光が流れる様子はまるでプラネタリウムみたいだ。

「――綺麗」
「お、気に入ってくれたか?」
「っ!」

 茫然と、偽物の空を見上げて呟いた声に言葉が返ってきた。お、驚いた。心底驚いた。心臓が口から飛び出してしまうんじゃないかと思った。
 声の聞こえた隣をバッと見れば、キラキラと透けるような白金の髪に、宝石みたいな碧眼の美人がいた。え、女? いや、男? え、どっち!?
 白磁の美貌に、白い睫毛がバサバサと碧を縁取って、幸薄げな美人は、パッと見の第一印象とだいぶ離れた明るい笑顔を浮かべている。声は低いし、暗闇だけどよく見れば喉仏がある、よね……?

「あ、の……?」

 誰だよお前、と困惑を前面に押し出した問いかけに幸薄美人は「おお、そうだったな!」とひとつ頷いた。
 ノエル先輩も美人だが、柔和で柔らかい雰囲気の美人でありちゃんと男の人だってわかるんだけど、この人はなんだかすごく曖昧だ。男性にも、女性にも見える中性的な人。ゲームには出てこなかった、と思う。いや、出てきてたっけ?

「俺はアラステア・グリッター。ノーム寮六年の寮長を務めている。君がヴィンセントの弟だな!?」
「え、あ、はい」
「名前はなんて言うんだ? あぁ、そうだ、入りたい寮は決めたのか? 決めてないんだったらノームへ来い! 俺は残念ながら今年で卒業だが、ほかにも面白いやつらはいっぱいいるからな! 退屈させないと約束しよう!」

 矢継ぎ早に言葉を紡ぐグリッター先輩に目を白黒させる。戸惑いながら「グリッター先輩」と呼びかければ、きょとんとしたあと頬を膨らませて「名前で呼んでくれよ」と言われた。……お前もかブルータス!
 げんなり(もちろん表情には出さず)して「アラステア先輩」と呼ぶが、これまた何か気に入らないことがあるのかむすっとしている。

「アルと呼んでほしい」
「……アル先輩。これでよろしいですか」
「おお、いいな! うん、ますます気に入ったぞ!」
「よかったねクリス。アルに気に入られちゃったら毎日がサプライズだよ」

 なんだそれ嬉しくない。ノエル先輩も分かってるのか苦笑いだ。アラステア、は確か女性名だったはずだけど、アル先輩は女性でいいのかな。アル先輩、性別・アル先輩みたいな感じでいい気がしてきた。
 僕を挟んで会話をする先輩ふたりだけど、気さくでフレンドリーな関係のようだ。なんとなく、違う寮同士だと仲が悪い印象だったからちょっとした驚きである。五年生と六年生、だよね? そのわりには学年の隔たりを感じさせない軽さに首を傾げる。ノエル先輩はアル先輩のことを呼び捨てであるし、そういえばお兄様のことも呼び捨てだった。そのことに関してお兄様もアル先輩も気にしていないようだ。

「アル! 貴様また悪戯をしおって……!」

 怒号に近い大声がした。びっくりして腰が浮いた。なんだか今日一日で寿命が縮みまくってるんだが、こんな感じだとまだまだ驚くことがありそうで嫌になる。
 ばちんっ、と音がして講堂内に灯りが燈る。白に近い炎は明るくシャンデリアに光を灯してキラキラと粒子を振らせた。

「お、やっと来たのかカーティス」

 にやり、と口角を上げたアル先輩が振り返った先にはスカーレットの髪を乱した美丈夫――もとい正統派イケメンのカーティス・グランヴィルがいた。ローブの裾をバサバサと羽ばたかせながら、眉間に皺を寄せたイケメンにあるまじき形相で早足に迫り近づいてくる。近づいてくる、だと……?

「貴様、人形遊びもいい加減にしろよ……! 打ち合わせを貴様はすっぽかすし、ヴィンセントの野郎はクリスクリスとうるさいし、そもそもノエルは来やしない! 寮長職を舐めているのか貴様ら!」

 ……わぁ、鬼の形相とはまさにこういうのを言うんだろうね。というか、お兄様、何をなさっているんですか。
 ゲームだと、我の強い俺様で頼りになる男前だったけど、なんだか苦労人臭がするぞ。

「はっはっは、せっかくの池面がまるで般若のようだぞ!」
「ハンニャ?」
「あぁ、そうか、わからないか。ふむ、端的に言えば、モンスターのような顔だぞってことだ」
「俺はモンスターじゃない!」
「そんなことわかってるさ。お前は何を言ってるんだ」

「これ、俺が悪いのか……?」と小さく呟いたグランヴィル先輩の顔はとても悲壮感に溢れていました。
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