闇落ちフラグ乱立注意報、僕はただの弟です!

白霧雪。

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魔法薬学

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 一年生の必須科目は魔法薬学、飛行学(または浮遊学)、魔獣学、魔法歴史学、選択科目の芸術の五つだ。学年が上がれば科目も増えていくが、一年生の間は基本を学ぶ間である。上級生ともなれば先生と協力して新しい魔法や、薬を作ったりする生徒もいるらしい。ミコガミ先輩もその一人である。まだ四年生でありながら、最上級生並みの研究を抱えていると聞いた。

「ご機嫌よう一年生の皆さん。初めての授業で緊張していることでしょう。まずは道具の確認からいたしましょうね」

 しんと静まり返っていた教室内だったが、ミセス・エイジャーの柔らかい雰囲気は緊張で強ばり上がっていた肩をスッと下ろしてくれた。
 魔法薬学の教科書、羊毛紙、羽ペンとインク、薬を混ぜるのに必要不可欠な大釜、とは言ってもそこまで本格的なのじゃなくて僕のは授業に使う道具を入れて持ち運べるくらいの中釜だけど。お兄様が最初のうちはこのくらいの大きさでいいだろうって。メル君も違うメーカーの物だけど大体同じ大きさだ。魔法薬学を専攻するならこれから大釜買えばいいんだって。一年生のうちは一カ月に二回くらいしか実験はないらしい。
 魔法薬学の教室は入学の儀式を行った教室だ。僕たちウンディーネ寮が右側、隣にシルフ寮がいて、あとの二つの寮は違う教室で違う授業を受けている。下級生の内は基本的に二つの寮が一組になって授業をして、コミュニケーション能力を築こう、というらしい。僕は前から三列目、右にメル君、左にバルト君が陣取って、後ろにリード君たち第三部屋メンツ。前列はメル君の同室の子たちだとか。そっちに混ざらなくていいのかと聞けば、「きゃぴきゃぴしてて居辛い」とのこと。まぁ、中身男の子だし仕方ないのかな。

「はい、よろしい。皆さんきちんと準備しておいでのようですね。道具が揃っていなければ授業どころではありませんからね」

 それでは教科書の五ページ目を開いてください、と言う指示に従って薬学書・初級編の表紙を開く。目次、道具の説明とあり、五ページ目には魔法薬の成り立ちが書かれていた。
 六ページ目からは魔法使いが常に持ち歩き必要不可欠な魔法薬の作り方や説明書きがある。
 魔女の軟膏。調合する魔法薬、もとい秘薬の中でもよく知られているものだ。魔女が飛行する際に自身の体や箒に塗り込んだり、他の生き物に変身をする時にも使われたりする。主な材料は洗礼前の赤ん坊の脂肪――だが今の時代実際にそれを使ってしまえば大問題である。代用としてソラクロツバサウサギの血肉やアカミツメヘビの尻尾が使われたりする。

「一人前の魔法使いとなるためにはまず《魔女の軟膏》が作れなければどうにもなりません。作れないから他所の魔法使いに譲ってもらうなどご法度です。――では、ウンディーネ寮のミスター・ダニエルソン。分かりますか?」
「はい。材料に作り手である魔法使いの血があるから、です。魔女の軟膏は作った本人にしか効果を発揮しないので、譲渡ができない魔法薬だからです」
「はい、そのとおり。ミスター・ダニエルソンとウンディーネ寮にカードを一枚差し上げましょう」

 ぱちん、と指を鳴らしたミセス・エイジャーの手に青いカードが二枚。これがまた説明が面倒くさいんだけど、何かしら学園に貢献をしたり、テストで高得点だったり、授業で答えを当てたりすると貰える特別カードだ。年度末にカードを一番多く所持した寮が来年の学園内を一年間寮のカラーで染められる。ちなみに今年一年はサラマンダー寮のカラー、赤色に染まっている。
 生徒の所持するカードは集めれば枚数に応じて物と交換することができるし、換金することもできる。集めて損はないということだ。

「ミスター・ダニエルソンの言う通り、魔女の軟膏は仕上げとして一滴、左手の小指から血液を垂らして完成です。どんなに上手くできていたとしても、完成された魔女の軟膏は他者の魔法使いに効果を発揮しません」

 ここらへんは魔法使いになりたいと思っている者なら当たり前のこと。だから隣で「そうなんだぁ」とぽやぽや言葉を零すバルト君が心配になる。本当に大丈夫なのかなこの子。

「くりすてぃーが、いるならおれ、がんばれる」
「僕もいるんだからね」

 忘れないでよ、とでも言うかのように割り込んできたメル君に苦笑いを零す。なんだかこの二人と一緒にいると感情を無理やり引っ張り出されているような感じがする。なんというか、メル君は『前』を知っているし、バルト君は心を読めるからほぼほぼ知っているから遠慮をしなくていいと言うのかな。お兄様とはまた別の感覚なんだ。

『もちろんわたしもいるからね』

 すぐ耳もとで聞こえた麗しい声にドキンと心臓が変な音を立てる。バッと後ろを振り向けば不思議そうに首を傾げるダニエルソン君と視線がかち合う。視界の端を黒い影がよぎった気がした。

「さて、それではシルフ寮のミス・エウレニウス。魔女の軟膏の材料はなんでしょうか?」

 主な材料となるモノの他に、という質問だろう。丁度開いたページに答えが乗っている。コウモリの血、毒ニンジンの根っこを乾燥させたもの、ベラドンナにマンドラゴラ。ベラドンナは「美しい女性」という意味も持ち、女の人が瞳孔を大きくさせるための散瞳薬さんどうやくとして使っていたことに由来をする。くすんだ紫の花を咲かせて、緑の実をつけるのだけど、黒く熟したそれは酷く甘いが猛毒を含んでいるため絶対に食べてはいけない――と教科書を読みながらバルト君を見る。おいしそうとか言って食べてしまいそうで不安だ。
 マンドラゴラに関しては説明も何もしなくても分かっているよね。逆に知らない人の方が少ないんじゃないかな。マンドラゴラ、マンドレイクって言った方がわかるかな。根っこが赤ん坊みたいになっていて、土から引き抜くと悲鳴を上げて、まともに聞いたら最悪発狂して死んでしまうっていうアレだ。
 シルフ寮の子も、教科書を見ながらだけど答えられたみたいで緑のカードをミセスがぱちんっと指を鳴らして出していた。呼び寄せの魔法、とかなのかな。

「ベラドンナとマンドラゴラは敷地内に畑があるので、次の授業の時にでも取りに行きましょうね。何事も鮮度が大事ですよ。ひとまず、今日の授業はここまでにしましょうね。初日からいろいろやっても頭に入らないでしょうし。残り時間は自由とします。あまりうるさくしなければお喋りをしてもかまいませんからね」

 なんというか、授業と言うものはこんなにも緩かったかな。だいぶ前の記憶だけど、高校とか時間いっぱい黒板に文字を書いて、休憩時間を使ってノートに写していたような気がする。

「くりすてぃー、まんどらごら、見たことある?」
「さすがにないかなぁ。ベラドンナはお母様のお庭にあるのを見たことがあるよ」
「まんどらごら、ちょーうるさいから、きをつけよ、ね」

 超うるさいで済ませてしまってもいいものなのかな。最悪死ぬんだぜ。やっぱりバルト君はどことなく目を離しちゃいけないと思う。世話焼きなダニエルソン君を振り向けば、無言でぐっと親指を出された後、ソッと両脇に目をやった。
 あっ、御察しですな。リード君、一回目の授業から半分寝てるし、シートン君は詰まらなさそうな表情で教科書に落書きしてる。マンドラゴラが美少女になってた。
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