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春
愉快犯な先輩
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「やぁクリスティアン!」
パァンっ、と軽い破裂音と共に頭の上から色鮮やかな花が降ってくる。ぐわっと目を見開いて全身の毛が逆立った。猫だったらぶわっと毛が逆立つくらい驚いた。寿命も縮んだ。
「んん? おーい? 生きてるか?」
「し、」
「し?」
「死ぬかと思った……」
「そりゃよかった!」
何がよかった、だよ! 全然良くない! ていうかやっぱりアル先輩かよ! 分かってたけどな!
「やっぱり君は猫のようで可愛いなぁ」と無遠慮に頭をぐりぐり撫でまわされる。やめろっ、せっかく整えた髪がぐちゃぐちゃになるじゃないか。
「ふむ、それで君はこれからどこへ行くつもりだったんだ?」
ひとしきり撫でまわして満足したらしい先輩は上機嫌に満面の笑みで訪ねてくる。僕は寿命が縮むし、髪は乱されるし散々である。
「……次の授業まで時間が空いたのでお兄様のところへ行ってみようかと」
「ヴィンセントのことが大好きなのだな!」
「大好きです」
「……お、おう。面と向かって言われるとなんだか恥ずかしいなぁ」
いやアナタに言ったわけじゃないんですけど。
「しかし、ひとつ気になったんだが」
「何でしょうか」
「君は友達はいないのか? こないだもノエルといただろう」
ぴき、と油の切れたロボットの如く固まった。え、友達いないって、えぇ、僕、そう見えるの?
「と、友達くらいいます」
「その友達はどうした?」
「メル君はお兄さんに拉致られて、バルト君は知り合いのところに行くって……」
ほんの数秒だけど沈黙が落ちる。緑の妖精さんが間を横切っていったのを目で追いかける。キラキラと鱗粉が舞う。
あれ、僕、友達少ない? い、いやいや、まだ入学して一週間も経ってないし、これから友達作っていけばいいだけだもんね。ぶっちゃけ、友達を作る暇があるならお兄様の死亡フラグ回避のために奮闘するけど。わぁい、ぼっちフラグだぁ!
「……そういやぁ、ヴィンセントの奴、研究に必要な花を取りに行くとか言ってたな」
「えっ」
「よし、俺と来い、クリスティアン。いいところへ連れて行ってやろう」
にやりと口角を上げて笑ったアル先輩は何か企んでいる様子で酷く楽しそうである。
一体僕の何を気に入ったのだろう。自分で言うのもなんだけど、面白げのある人間だと思わない。表情は硬いし、可愛げある性格でもない。話題性に富んでいるわけでもない。アル先輩も、ノエル先輩も、僕なんかのどこが気に入ったんだろう。
「可愛い顔が台無しだぞ」
「……可愛くなくて結構です。僕は男ですから」
「でも魂は女だろう?」
先輩に連れられて勝手に動く足を見つめていた目を上げる。強い光を灯すエメラルドの瞳がこちらを見ていた。心の内側を、思考を溶かすような甘い碧の瞳はよく見るとキラキラと星が降っている。
――てんしさまはほしのふるひとみをしているのです。
いつか読んだ御伽噺を思い出した。性別を感じさせない美しい容姿も相まって、アル先輩は天使様のようだ。
「――……君」
かすかにエメラルドを見開いた先輩は何か言いたげに口を開いたが結局それは音になることはなかった。
白磁の肌に、透けるような白金の髪と、キラキラと瞳の奥で星を降らせる碧眼。一度天使様と思ってしまえばもう天使様にしか思えなくなってしまった。あまりにもピッタリだったんだもの、仕方ないだろ。
手を引いてどんどん先に進むアル先輩に不安を抱く。何処に連れていかれるんだろう。入学仕立ての僕が校内地図を把握してる訳がなく、すでにここが何処なのかわからない。自分ひとりで行ける場所なんて使う教室と寮くらいだ。自信を持って言える、ここで放置プレイされたら確実に迷子だね!
まさかアル先輩がそんなことする人だとは思えない、とよく考えたら人に驚きを与えることに命をかけてる愉快犯だ。有り得なくない。どうしよう、今すぐこの手を振り払いたいけど、振り払って置いて行かれたら帰れる自身は皆無である。そもそも授業までに先輩は僕を解放してくれるのか。
つくづく馬鹿だと思う。当たり前のように手を差し伸べられたから取ってしまったけど、迂闊すぎる。もっと他人を警戒して行かなければ。
「よし、ここらへんでいいか」
ふと足を止めた先輩はきょろきょろ周りを見回して人がいないのを確認してから窓を開けた。
「ちょいと失礼」と断りを入れてから抱き上げられる。抱き上げられる? 僕をお姫様抱っこしたまま、窓枠足をかけた。嫌な予感しかしない。ぞわぞわと背筋を冷たいものが走る。
ひとつ言うことがあるとすれば、ここが五階ってことかな!
「いざ、大空へ!」
「ひえっ」
まず人間は飛べないってことを抗議したかった。
パァンっ、と軽い破裂音と共に頭の上から色鮮やかな花が降ってくる。ぐわっと目を見開いて全身の毛が逆立った。猫だったらぶわっと毛が逆立つくらい驚いた。寿命も縮んだ。
「んん? おーい? 生きてるか?」
「し、」
「し?」
「死ぬかと思った……」
「そりゃよかった!」
何がよかった、だよ! 全然良くない! ていうかやっぱりアル先輩かよ! 分かってたけどな!
「やっぱり君は猫のようで可愛いなぁ」と無遠慮に頭をぐりぐり撫でまわされる。やめろっ、せっかく整えた髪がぐちゃぐちゃになるじゃないか。
「ふむ、それで君はこれからどこへ行くつもりだったんだ?」
ひとしきり撫でまわして満足したらしい先輩は上機嫌に満面の笑みで訪ねてくる。僕は寿命が縮むし、髪は乱されるし散々である。
「……次の授業まで時間が空いたのでお兄様のところへ行ってみようかと」
「ヴィンセントのことが大好きなのだな!」
「大好きです」
「……お、おう。面と向かって言われるとなんだか恥ずかしいなぁ」
いやアナタに言ったわけじゃないんですけど。
「しかし、ひとつ気になったんだが」
「何でしょうか」
「君は友達はいないのか? こないだもノエルといただろう」
ぴき、と油の切れたロボットの如く固まった。え、友達いないって、えぇ、僕、そう見えるの?
「と、友達くらいいます」
「その友達はどうした?」
「メル君はお兄さんに拉致られて、バルト君は知り合いのところに行くって……」
ほんの数秒だけど沈黙が落ちる。緑の妖精さんが間を横切っていったのを目で追いかける。キラキラと鱗粉が舞う。
あれ、僕、友達少ない? い、いやいや、まだ入学して一週間も経ってないし、これから友達作っていけばいいだけだもんね。ぶっちゃけ、友達を作る暇があるならお兄様の死亡フラグ回避のために奮闘するけど。わぁい、ぼっちフラグだぁ!
「……そういやぁ、ヴィンセントの奴、研究に必要な花を取りに行くとか言ってたな」
「えっ」
「よし、俺と来い、クリスティアン。いいところへ連れて行ってやろう」
にやりと口角を上げて笑ったアル先輩は何か企んでいる様子で酷く楽しそうである。
一体僕の何を気に入ったのだろう。自分で言うのもなんだけど、面白げのある人間だと思わない。表情は硬いし、可愛げある性格でもない。話題性に富んでいるわけでもない。アル先輩も、ノエル先輩も、僕なんかのどこが気に入ったんだろう。
「可愛い顔が台無しだぞ」
「……可愛くなくて結構です。僕は男ですから」
「でも魂は女だろう?」
先輩に連れられて勝手に動く足を見つめていた目を上げる。強い光を灯すエメラルドの瞳がこちらを見ていた。心の内側を、思考を溶かすような甘い碧の瞳はよく見るとキラキラと星が降っている。
――てんしさまはほしのふるひとみをしているのです。
いつか読んだ御伽噺を思い出した。性別を感じさせない美しい容姿も相まって、アル先輩は天使様のようだ。
「――……君」
かすかにエメラルドを見開いた先輩は何か言いたげに口を開いたが結局それは音になることはなかった。
白磁の肌に、透けるような白金の髪と、キラキラと瞳の奥で星を降らせる碧眼。一度天使様と思ってしまえばもう天使様にしか思えなくなってしまった。あまりにもピッタリだったんだもの、仕方ないだろ。
手を引いてどんどん先に進むアル先輩に不安を抱く。何処に連れていかれるんだろう。入学仕立ての僕が校内地図を把握してる訳がなく、すでにここが何処なのかわからない。自分ひとりで行ける場所なんて使う教室と寮くらいだ。自信を持って言える、ここで放置プレイされたら確実に迷子だね!
まさかアル先輩がそんなことする人だとは思えない、とよく考えたら人に驚きを与えることに命をかけてる愉快犯だ。有り得なくない。どうしよう、今すぐこの手を振り払いたいけど、振り払って置いて行かれたら帰れる自身は皆無である。そもそも授業までに先輩は僕を解放してくれるのか。
つくづく馬鹿だと思う。当たり前のように手を差し伸べられたから取ってしまったけど、迂闊すぎる。もっと他人を警戒して行かなければ。
「よし、ここらへんでいいか」
ふと足を止めた先輩はきょろきょろ周りを見回して人がいないのを確認してから窓を開けた。
「ちょいと失礼」と断りを入れてから抱き上げられる。抱き上げられる? 僕をお姫様抱っこしたまま、窓枠足をかけた。嫌な予感しかしない。ぞわぞわと背筋を冷たいものが走る。
ひとつ言うことがあるとすれば、ここが五階ってことかな!
「いざ、大空へ!」
「ひえっ」
まず人間は飛べないってことを抗議したかった。
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