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編入生なんてシナリオイベントなかったわ。
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しおりを挟む「君は、何者なんだ」
深い海の蒼さを秘めた瞳を眇め、褐色の少女を見る。
愛しい子の周りを最近うろちょろしてる少女だ。――スヴェンは、得体の知れない化け物に見えた。
ニコニコと笑みを浮かべて、なりを潜めた狡猾さが垣間見えた。
編入生というだけでも珍しいのに、スヴェンはヴィオラに懐いて何処へ行くにも一緒だった。
少し前の自分を見ているようで、酷く苛立った。同時に、場所を奪われたかのような喪失感に襲われた。
ヴィオラと仲直りがしたくて、声をかけようとするとタイミングを見計らったかのように言葉を発して邪魔をするのだ。
「えぇっと、ユリア、だったかな? 僕が、何かだって?」
きょとん、翡翠の瞳をきゅるりと煌めかせる。しゅるり、と彼女の腕を伝う使い魔も、エメラルドの瞳をしていることに気が付いた。
透かし窓から差し込む光を受けて、きゅるりきゅるり、といっそう輝きを増す瞳に心臓が早鐘を打った。
「君の存在は、ヴィオラにとって害になるとしか思えない。僕には、君が同じ人間だとは思えない」
真に迫った告白に目を瞬かせて、腹を抱えて哄笑した。
気が狂ったのか、足を退いたユリアににぃっと目を弓形に歪めた。
「聡い人間もいたものだ」
「ッ! やっぱろ、君は……!」
「だけど、まだ秘密だ。まだ正体を明かすには早すぎる」
少女めいた可愛らしい声に、男の声が重なって聞こえた。
太陽が陰る。雲に覆い隠された空は暗く重たく、今にも雨が降り出しそうだった。
得体のしれない存在に、肌が栗立つ。強大な魔力を感じた。どうして誰も、この少女を警戒しないのか。
ふと、誰も通らないことに気が付いた。
教室も近く、誰かしら生徒が通ってもおかしくないはずなのに、誰一人として人の気配を感じなかった。それこそ、巡回の教師が来てもおかしくないのに、――その事実に気づいたとき、言いしれない恐怖が背すじを這い上った。
「ユリアは、ヴィオレティーナのことが好きなんだ」
「……彼女は、君が興味本位で手を出していい人じゃない」
眦を釣り上げる。険を帯びた表情に、愉悦を含んだ顔で視線を後ろへと流した。
ヴィオラと触れ合っているのを見る度に、心が大きく波打った。そこは、僕の場所だったのに!
「ヴィオレティーナは優しいね。途中編入でわからないことだらけの僕に、とっても親切にしてくれる。心も真っ白で、触れることを躊躇うような美しさがある」
「それが分かっているなら……!」
「だからこそ、触れたくなるんだよね」
カツン、とヒールを鳴らしたスヴェンは踵を返して背を向ける。
「おいッ」
「そろそろ、ヴィオレティーナが探しに来るから、僕は行くよ」
「だから、近づくなと――!」
「――彼女の隣も歩けない奴に言われたくないなァ」
シニカルに嗤ったスヴェンに言葉を失った。
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