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編入生なんてシナリオイベントなかったわ。
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しおりを挟むスヴェンの性別が変わっていることに、誰も気づきやしないのはおかしいと、当の本人を問い詰めたところ、簡単な催眠魔法で「スヴェン・リーデルシュタインは初めから男だった」と勘違いをさせているらしい。
なのにだ。スヴェンはヴィオラの部屋から出て行こうとせず、未だ居座っている。
それすらも可笑しいと思わないとはどういうことだ。
カトレアからは次の日、涙ながらにお礼を言われた。足元には美しい一尾の狐・フォーリアがいた。
「お姉さま! さすがお姉さま!! お姉さまなら解決してくれるって信じていたの!!」
そして今日も今日とて、元気に追いかけてくる妹プラスアルファ。
さらに後ろにユリアの姿も確認できる。
「――ヴィオレティーナ、こっち」
腕を引かれて、薄暗い教室内に引き込まれる。
艶のある声が耳元を掠めた。バタン、と扉を閉められるとローブの中に抱き込まれた。
「ちょ、っと、」
「しぃ、静かに」
目と鼻の先にある麗しい顔に心臓がドクドクと音を立てる。
聞こえるんじゃないかと、羞恥に頬が赤くなった。
ヴィオラはいまさら恥ずかしがったりしないけれど、ヴィオレティーナはそうじゃない。年頃の女の子だ。
ユリアも、スヴェンも、距離が近い上に簡単に抱きつきすぎなのだ。抱き枕ではないのだが、と抗議したい。
「――あー、ごめん、ヴィオレティーナ。抱きしめてたらお腹空いちゃった」
「先週あげたばかりよ」
教室の外に耳を澄ます。がっしりと腰を抱かれ、髪をかき上げられてようやくスヴェンに意識を移した。
ダメよ、という言葉も無視して、白い首筋に舌を這わす。熱く滑った感触に鳥肌が立った。
「ちょっと、スヴェンっ!」
「静かにして」
鋭い牙が肌に触れる。
ヂグリと甘い毒が身体に広がる。
ブツリッ、と肉を断つ音と痛みは何度経験しても慣れるものじゃない。
濃厚な血液の香りが広がる。
全身が熱く滾って、腹の奥底が疼き、甘い痺れが背筋を上った。
扉ごしに妹たちが走っていく声が聞こえた。
「ん、緊張してる?」
「うる、さいわッ」
飲むならさっさと飲みなさい、とヒールで爪先を踏みつけた。
顔が赤くなる。抱きしめる力が強くなって、牙が抜かれた。
脱力して、くずおれそうになった体を抱きとめられる。
血を吸われたあとはいつもこうだ。身体に力が入らなくって、甘い痺れと熱に苛まれる。
「今日も美味しかったよ♡」
ちゅ、と牙のあとに口付ければ、傷痕は小さく目立たなくなる。初めは傷痕なんてない真っ白い首筋だったが、毎回同じ場所から吸うために、ぽつりと痕がふたつ残ってしまうようになった。
乱れた襟元を直せば見えない位置だが、ときおり、ふさがったはずの傷痕が疼くことがある。
「一ヶ月に一回でいいって言ったのはどこのどなただったかしら」
「だって、ヴィオレティーナの血が思った以上に美味しかったんだもん。今生どころか、前世も処女だったんじゃないかってくらい」
にっこりと、邪気なく笑って言ったスヴェンに羞恥で顔が真っ赤になる。
「変ッ態!!」
バチン、と頬を平手で打たれたスヴェンは目を白黒とさせて「本当のことじゃないか」と冷静に言う。
もう一発食らわせてやろう、としたとき、氷の刃が飛んできた。
「ヴィオラがなんだって?」
「ゆ、ユリア……」
涼やかな顔をジャパニーズ・ハンニャにして、手に持った剣を振り翳す。
「ヴィオラから離れろ変態が!」
「僕に居場所を奪られたからって、嫉妬する男は醜いぞ?」
こめかみに浮かんだ青筋が痙攣する。
私闘は禁止されている、とヴィオラの声は魔法がぶつかり合う音でかき消された。
騒ぎを聞きつけて、「お姉さまぁ!」と妹ご一行までやってくる。
「……私は、静かに暮らしたいだけなのに!!」
傍観とはほど遠い喧騒に、思わず叫びが溢れてしまった。
悪役令嬢(仮)の傍観ライフはまだまだ先だ。
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