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5話
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恵秀さんと初めてプレイをしてからひと月くらいが経った。顔を合わせるのは二日続けての日もあれば、隔日だったり、二日開けたりとまちまちだ。大抵は一緒にカフェに行き、恵秀さんが座れと立てのコマンドを使って、二人でお茶を飲んで雑談をして解散。あとは週に一回程度、トライアルルームで一時間くらい時間をかけて、来いと座れと立てのコマンドを組み合わせて何度か繰り返して過ごす日もある。今日は一時間コースの日だ。
ひと通りコマンドを使ってから、ソファに二人で並んで座るのがいつもの流れになっている。コマンドを受けてソファに腰を下ろした俺の頭を、恵秀さんが嬉しそうに撫でている。相変わらずコマンド後に俺を褒める時の恵秀さんはうっとり幸せそうにしているけれど、だいぶこの人の甘い表情と声にも慣れた。
「今さらですけど、恵秀さん、かなり顔色が良くなりましたよね。隈もないし」
俺を撫でる恵秀さんを眺めていたら、不意に初めて顔を合わせた時のことを思い出した。顔色は悪く、目元の隈もだいぶ濃かった。あの時から恵秀さんは俳優みたいだって思っているけれど、顔色と隈の有無で悪役から主人公役に変わった感じがあるなぁ、なんて考えたりしていた。失礼だから口には出さないけれども。
「うん、おかげさまで。ひと月も薬を飲まないで生活できてるのなんて、十年ぶりくらいかな? しっかり眠れてるし、身体は軽いし、メンタルも落ち着いてるんだ。本当に、よすがくんのおかげだ」
俺の言葉に、恵秀さんは満面の笑みを浮かべてそう言った。そんなに顕著に変わるものなんだ、と驚きつつ、しばらく薬を飲んでいないという事実がとても嬉しい。お前は誰にも必要とされずに生きていくんだよ――そうやって言われていると思っていた俺が、ドミナントの、恵秀さんの役に立って、必要としてもらえている。それが心の底から嬉しくて堪らなかった。
「お役に立ててるなら、俺もとても嬉しいです。ありがとうございます」
「ええ? お礼を言うのは僕の方でしょう? ありがとう、よすがくん。君は本当にとってもいい子だね」
思わず漏れたお礼の言葉に、恵秀さんがおどけたように声を上げた。それからうっとりと目を細めると、今度は両手でわしゃわしゃっと俺の頭を撫でた。普段と違うちょっと雑な手つきが珍しくて、撫でられながら俺はくすくすと笑った。
しばらくして気が済んだのか、恵秀さんは俺の髪をかき混ぜていた手を止めた。ぐしゃぐしゃになっていたらしく、そのまま手櫛で髪を梳かれる。優しい指先が頭皮に触れて、少しだけくすぐったい。
「ねえ、よすがくん。ちょっと相談なんだけど……もう少しコマンドを増やしてもいいかな?」
俺の頭から手を離すと、恵秀さんが改まってそんなふうに問いかけてきた。確かに恵秀さんが俺に使っているコマンドは、三つだけだし、どれも基本的なものだ。ひと月も続けていれば、新しいコマンドだって使いたくなるだろう。難しいものでなければ俺も応えられる。
「はい、大丈夫です。ちなみに、どういうコマンドですか?」
俺が頷くと、恵秀さんがパッと目を輝かせた。前々から犬っぽいと思ってはいたけれど、ここ最近はそれがすごく顕著な気がする。年上のお兄さんに対して抱く印象ではないと思うけれど、こればっかりは仕方がない。
「ありがとう。スキンシップをするもの……ハグとキスをお願いするコマンドなんだけど、」
「えっ!?」
「えっ?」
恵秀さんが話している途中で思わず声を上げてしまった。俺の反応が想定外だったのか、恵秀さんは不思議そうに声を上げてぱちぱちと瞬きをした。申し訳ないけれど、想定外だったのは俺の方だ。上げた声もだが、俺は相当驚いた顔をしていたらしく、恵秀さんが眉を下げて見つめてきた。
「よすがくん、?」
「いや、あの、すみません……。ハグはまだ分からなくもないんですけど、あの、……いやでもそういうのって、パートナーじゃなくて、恋人とするものじゃないです……?」
上手い言い方が思い浮かばず、必死で言葉を選んでどうにか恵秀さんに訴えた。だって俺は、恵秀さんの疑似パートナーではあるけれど、恋人ではない。流石にそこは抵抗がある。
そんな俺の訴えに、恵秀さんはきょとんとした顔で首を傾げた。
「……パートナーは恋人でしょう?」
「えっ、べ、別ものですよね?」
完全に認識に齟齬がある。二人揃って頭上に疑問符を飛ばし、お互いの言葉に首を傾げてしまった。
――俺たちや母さんたちみたいにお互いに恋愛感情を向けていないパートナーもそれなりにいるが、恋人や伴侶であり、パートナーでもあるっていう人たちの方が多いくらいかもしれない。
不意にいつかの父さんの言葉が頭をよぎる。そうだ、父さんは恋人でパートナーの方が多いかもしれないって言っていた。きっと恵秀さんはそっち派なんだろう。
「え、っと……あの、ちょっと確認してもいいですか?」
「う、うん……そうだね、僕も確認したいな」
戸惑いながら俺がそう言うと、恵秀さんも小さく頷いて同意してくれた。
「身近なところだと、俺の両親はドム同士で、お互いに同性のパートナーがいます。俺も、以前付き合ってた女の子にはパートナーになる予定らしい相手がいました。……だから、俺は恋人とか夫婦とパートナーは別のものって認識でした……」
「なるほど……。僕の場合は、逆に家族にしても友人にしても、周りの人たちはほとんど恋人がパートナーだったから、そういうものだと思ってた」
お互い、自分の周囲のパートナーたちの傾向が偏っていたらしい。真逆の環境にいれば、たしかに正反対の認識になってしまうだろう。それぞれ普通だと思っていたことを相手にひっくり返されてしまったのだ。俺もショックを受けたが、恵秀さんもだいぶショックを受けたらしい。さっき目を輝かせていたのが嘘のように切なげな顔をしている。言いにくさを感じつつ、これは大事なことなので言っておかねば、と俺は続けて口を開いた。
「そうなんですね……。あ、あと、その、恵秀さんとのことは月山社長にお願いされたのが始まりでしたし、その……恋愛とは全然別なものだと思ってました」
「あー……それは確かにそうなるよね……」
社長さんの名前を出すと、恵秀さんは分かりやすくがっくりと肩を落とした。俺が思った以上に恵秀さんはショックだったらしく、俯かれてしまった。申し訳なさやら気まずさやらを感じ、どう声をかけていいか分からず、俺も隣で口を噤んでいた。
数分続いた沈黙は、恵秀さんの大きな溜め息――というよりも深呼吸の音――で途切れた。恵秀さんの方をちらりと見れば、彼は顔を上げて俺をまっすぐ見つめていた。
「……ねえ、よすがくん。僕はハグもキスも……可能ならそれ以上のこともしたいと思っているくらいには、君のことを好いているんだ。……よすがくんは?」
「え、……あ、の、」
恵秀さんは真剣な顔で、ストレートに聞いてきた。はっきり伝えられた言葉にどうしていいか分からず視線が泳ぐ。開いた口からは意味のある言葉は出てこない。
分からない。正直に分からないのだ。過去に付き合ったことがあるのは女の子だけだし、これまで男性に恋愛感情を向けたり向けられたりしたことはない。恵秀さんのことをそういう目で見たこともない。素敵な人だと思うし、疑似とは言えパートナーとして一緒に過ごすことは何の問題もない。……ひとりの人間としてはとても好きだと思っているけれど、この人と恋人になるとか、キスなんかをするとか、そういうことはいまいち想像ができない。
どう答えればいいか分からず、俺が言葉に迷っていると、恵秀さんは肩を竦めて苦笑を零した。
「無理強いはしないよ、大丈夫。よすがくんがしたくないことをさせるつもりはないから」
「……すみません」
「よすがくんが謝ることじゃないよ、僕の方こそごめんね。最初に確認しておくべきだった」
恵秀さんは寂しそうに笑ってそう言った。その表情に妙に胸がぎゅっと締め付けられたような気がした。そんな自分の反応に俺が戸惑っていると、恵秀さんが言葉を続ける。
「でも、僕がそう思っているってことはちゃんと覚えていてね? なかったことにするつもりはないから」
じっと俺の目を見つめながらそう言った恵秀さんの声は、たぶん初めて聞く力強いものだった。俺はそれに気圧されてそのままこくこくと頷いた。
「あ、ちょっと待って一番大事なこと聞いてなかった。もしかしてよすがくん、今付き合っている人とか好きな人とか、いる?」
不意にハッとした恵秀さんが若干食い気味にそう尋ねてきた。その勢いに少し押されながら、俺はふるふると首を横に振る。
「い、いないです、いないです」
「そう、そっか。良かった」
俺が否定すると、恵秀さんは心底安堵したように肩の力を抜いて、表情を綻ばせた。わざわざ念を押すように言ったり、俺にそういう相手がいないことにそこまでホッとするほど、この人は俺のことが好きなんだろうか。戸惑いはしたものの、それを嫌だとかおかしいとかは思わないんだな、とまるで他人事のように思う自分がいた。
気まずさからか、落ち着かなさからか、その後はプレイをすることなく解散になった。いつも通り駅までは一緒に歩いて帰ったけれど、どうにも会話がぎこちなくなってしまっていた。
改札で別れる時、恵秀さんはいつも俺に、またね、と手を振る。今日も同じように手を振っていたけれど、恵秀さんはまた寂しそうに笑っていた。原因は言わずもがな俺なんだろうけれど、それが痛々しくて、やっぱり胸が締め付けられた。罪悪感からだろうか、なんて思いながら俺も手を振り返した。
アパートに戻ってからも、何故か恵秀さんのあの表情が頭から離れなかった。恋人になることには抵抗があるくせに、あの人が傷つくのは嫌だと思う俺は、わがままなんだろうか。――そんなことをぐるぐると、帰ってから眠りにつくまで考えてしまっていた。
+ + +
「あれから、どうだい?」
「多分順調……なんだと思います。恵秀さん、このひと月、薬を飲まずに過ごせてて、調子もいいって言ってました」
「それは何より」
恵秀さんの爆弾発言を受けてあれこれ考えていた俺は、カウンセリングという体で風早先生のところに相談に来ていた。両親に話すには抵抗があるし、普通のダイナミクスの友人たちにはなんて言えばいいか分からない。結果、何かあれば気軽においで、と言ってくれていた先生の社交辞令を真に受けて、ここに来てしまっている。
「あの、先生、ちょっといいですか?」
「何かな」
「……あの、ちょっと質問があって。……あ、でも、先生のプライベートのことですし、その、無理に答えなくてもいいんですけど。……ええと、先生と先生のパートナーさんって……その、恋人、ですか?」
言葉に迷った俺が、かなりまどろっこしい尋ね方をすると、風早先生はきょとんとした顔で数拍止まった後、少しだけ笑った。
「何かあったんだね?」
何かあったのかい? と聞かない辺り、察されている。隠すつもりもないけれど、バレバレだったらしい。少し恥ずかしい。
「……はい。恵秀さんに、ハグとかキスとかのコマンドを使いたいって言われました。それで、パートナーと恋人は別では? って俺が聞いたら、恵秀さんはパートナーは恋人でしょって言ってて……。お互い認識が正反対だったから、ちょっと戸惑っちゃいまして」
「あー……なるほどねぇ」
この前のことを極力簡潔に、正直に伝えると、風早先生は困ったように笑って肩を竦めた。
「私とパートナーは、もしかしたら君たちと似ているかもしれないな。元々お互い恋愛感情無しの関係だったけど、途中で恋人になったんだ。……ただ、こればかりは色んな人がいるから、一概にどのパターンが多いとは言えないし、他人のことは参考にならない気がするなぁ……人それぞれとしか言えないかな。誰よりも信頼しているから、この人に全てを預けたい、自分に預けてほしいって恋愛感情を抱く人もいる。逆に、恋人や伴侶とは対等な関係でありたいから主従って言葉がよぎるパートナー関係とは分けて考える人もいる。本当に人それぞれだよ、こればかりはね」
「そう、なんですね……」
先生の話を聞いて、余計にどうしたらいいか分からなくなってしまった。どっちの立場の考え方も理解できる。信頼関係が発展して恋愛関係になるというのも納得できるし、支配と服従という関係はどうしても上下関係が生まれやすいから、恋人とはそれを抜きにして対等な関係でありたい、というのもよく分かる。
じゃあ俺は? 俺自身は恵秀さんとどういう関係でいたいのか。俺は、恋人は対等な関係でパートナーは対等な関係じゃない、とは思っていない。――いや、そもそもの話、誰かを好きになる、恋人になるっていうことが俺の中であやふやなのかもしれない。改めて考えてみれば、周りと違うダイナミクスなのを気にして、自分から誰かを好きになるっていうことがなかったような気がする。前に付き合った人たちだって、始まりも終わりも相手からだった。――告白されてノリで付き合っていたような俺は、ちゃんとあの人たちを好きになっていたんだろうか。
唐突に自分の中の恋愛観や、人を好きになるということ自体が分らなくなった。それが無性に怖くなる。
恵秀さんは、俺に恋愛感情を抱いているみたいだけれど、俺が彼に同じものを持つことができるのか分からない。あんなに真剣な人に、どう応えるのが正解なのかが分からない。ああもう、結局分からない。
「よすがくんはさ、彼にそういうことを言われてどうだった? 嫌な気持ちになった?」
ここに来てぐるぐるとあれこれ余計に考えて黙り込んでしまった俺に、風早先生がそう尋ねてきた。落ち着いた先生の声を聞いて、あの時の自分の気持ちを思い返してみる。
「嫌な気持ちとかは……なかったです。恋人じゃない人とそういうことをするっていうのには抵抗があって、驚きと戸惑いはありましたけど」
「そうか」
俺の返答に、風早先生は穏やかに微笑んだ。
「驚いたり戸惑ったりするのは当然だと思うよ。悪いことじゃない。よすがくんに抵抗があるなら、無理に応えることもない。ただ、前にも言ったと思うけど、きちんと二人で話し合った方がいいだろうね。どちらかに無理や我慢を強いるのは、良くないからね」
「分かりました」
先生の言葉に素直に頷く。そうだ、結局のところ二人で話をしないことにはお互いの思ってることは分からない。……応えられるかどうかも、分からないけど。
きちんと話さなきゃ恵秀さんの思ってることは分からないし、俺のことだって伝わらない。恵秀さんが伝えてくれたんだから、どう思われるかわからないけれど、俺の中の恋愛に対するもやもやを恵秀さんに聞いてもらおう。これから俺たちがどう変わっていくのかは、まだ分からないけれど、できることをやってみないと。
病院からの帰り道、俺は恵秀さんに、明日会いませんか、と連絡を入れた。間髪入れずに同意の返信が来て少しだけ笑ってしまった。
一晩経っても、俺の思考は渦を巻いているようで、どうにもまとまらない。電車に揺られながら、今までのこと、これからのこと、恵秀さんのこと、自分のこと――一向に答えが出ないことをぼんやりと考え続けていた。
いつもの駅について、改札を抜ける。改札を出てすぐの場所に恵秀さんがいた。手元のスマホに視線を落としていたけれど、俺が名前を呼ぶと、パッと顔を上げてこっちを向く。俺を見るその顔は、あからさまにホッとした表情を浮かべていた。
「こんにちは、恵秀さん」
「こんにちは。……ああ、来てくれてよかった。気まずくなってもう会ってもらえないかと思ってたんだ」
恵秀さんは、溜め息――というか安堵の息を吐いてそう言った。大袈裟すぎやしないか、と思ったけれど、恵秀さんにとっては、そのくらい心配だったのかもしれない。そう思うと、なんとなくくすぐったい気持ちになる。
「さ、さすがにそんなことはないですよ」
「うん、ありがとう」
苦笑交じりに答える俺に、恵秀さんが嬉しそうにはにかんだ。
恵秀さんは格好いい。顔の造形といい、スタイルといい、俳優ですと名乗られても、まったく違和感を感じないくらいに容姿が整っている人だと思う。そんな人が、俺の言葉に分かりやすく一喜一憂するほど俺を好いている、なんてことが不思議でならない。
「どうかした?」
「あ、いえ、ちょっとぼーっとしてました。すみません」
恵秀さんに声をかけられて我に返る。本人を前にしてあれこれ考えるのはよくない。答えの出ない思考の渦は一度遠ざけて、目の前の恵秀さんに集中しないと。
そのまま俺たちはいつものトライアルルームへ向かった。この前にみたいにぎこちなくなるかと身構えていたけれど、恵秀さんがいつも通りに話をしてくれたおかげで、気まずさもぎこちなさも特に感じることはなかった。この数日間で割り切ったのか、ただ色々な感情を表に出さないようにしているのかは分からないけれど、ただ、そういう対応ができる恵秀さんに、改めて年の差を感じた。
店に着いて、いつもと同じように喫茶スペースの席を決め、飲み物を注文する。昨日考えていたことを伝えようと思って、口を開きかけたが、先に口を開いた恵秀さんに遮られてしまった。
「この前はいきなりごめんね? 意識してほしい気持ちは本当なんだけど、ちょっと先走っちゃったね」
「いえ、大丈夫です。俺の方こそ、すみません」
「よすがくんが謝ることじゃないでしょう? 気にしないでね」
そう話す恵秀さんの表情は穏やかだ。この前の寂しそうな表情が嘘のようで、逆にそれが気になってしまった。気になったものの、うまく指摘する言葉が浮かばず、俺は結局何も言えなかった。
「ねえ、よすがくん。これからのプレイなんだけど、今まで通り決めてあるコマンド三つで続けていっていいかな?」
飲み物を運んできてくれた店員さんの背中を見送ってから、恵秀さんがそう切り出した。自分の前に置かれたグラスに手を伸ばしかけていた俺は、動きを止めて恵秀さんに視線を向ける。
「えっ、あ、俺は全然問題ないですけど……」
恵秀さんはいいんですか? そう言葉を続けることはできなかった。いいも何もない。恵秀さんはこの前、無理強いはしないと言っていた。俺の気持ちを優先してくれているからだ。なんとなく胸が痛い気がするのは、きっと申し訳なさのせいだろう。
「ありがとう。……この前も言ったけど、やっぱり抵抗があるって言ってるよすがくんに無理にお願いするのは違うでしょう? そういうのは、君が僕と同じ気持ちになってくれたらお願いしようと思って。別に慌てることでもないからね」
優しく微笑む恵秀さんに、やっぱり胸が軋む。俺は、この優しい人にどのくらい我慢をさせないといけないんだろう。どうしたらこの人を好きだと思えるんだろう。無性にそんな焦燥感に襲われる。
「あの、恵秀さん、……俺、お話ししなきゃいけないことがあって」
「うん、何かな?」
「……うまく言えないっていうか、この年で何言ってるんだって思われるかもしれないっていうか……自分でも、よく分からなくて」
「……うん、大丈夫。ゆっくり話してごらん」
優しい低音が俺の鼓膜を揺らしてくる。恵秀さんの顔が見れず、俺は手元のグラスに視線を落とした。こうやって言おう、これを伝えよう、と昨日考えていたくせに、いざ恵秀さんを前にすると頭が真っ白になっていた。
「俺、多分、恋愛というか、人を好きになるとかそういうのが、いまいちよく分かってなくて……なんか改めて考え始めたら本当に分からなくなって、恵秀さんの気持ちにどうやって応えたらいいのかとか、どのくらい一緒にいれば貴方と同じ気持ちになれるのかとかが、考えても分からなくて……。それがすごく、申し訳ないっていうか、どうしたらいいのかって、……本当に全然、分からなくて、」
どうしようもなく要領を得ない話になってしまった。分からない分からない、と駄々をこねている小さな子どものようで、情けなくて、恥ずかしい。自分で自分を恥ずかしく思っていると、俺の向かいで恵秀さんが小さく笑ったのが聞こえた。
「よすがくん、顔を上げてくれる?」
優しく紡がれるお願いに、大人しく従って恵秀さんの方を見る。俺を見つめるその顔は、想定外にとても嬉しそうで、柔らかい表情をしていた。
「よすがくんは、この前僕に好きとかキスしたいとか言われた時に、嫌だとか、気持ちが悪いとか、生理的に無理だとか、そういうことって思った?」
「思わなかったです、そういうことは」
恵秀さんからの問いかけに、俺はすぐに首を横に振る。風早先生にも同じようなことを聞かれたけれど、それが大事なことなんだろうか。よく分からないまま答えれば、恵秀さんはにこりと微笑んだ。
「それならよかった。違ったら申し訳ないんだけど、君の話を聞いていると、早く僕を好きにならなくちゃって思ってくれているように感じるんだ」
「えっ!?」
「ふふ、気づいてなかったかな? 無意識でもそう思ってくれてることが嬉しいんだ。でも慌てることじゃないし、無理に好きになろうとするものでもないから、そんなに悩まなくても大丈夫だよ」
俺が驚きの声を上げても、恵秀さんは思ったとおり、とでも言わんばかりの反応をするだけだった。小さな子どもに諭すような恵秀さんの言い方が、妙に恥ずかしい。
「僕もうまく言えないけど、誰かを好きになるって、こう……なんだろう、理屈じゃないから、あれこれ考えても深みにはまっちゃうんじゃないかな。……ええと、そうだな、ふとした時に、ああ、好きだなぁって思うこと、そのくらいの理解でいいんじゃないかな。少なくとも、僕はよすがくんに対してそうだったから」
穏やかに話す恵秀さんに、じわじわと顔が熱くなってきた。俺が分からないと言ったから説明してくれているのに、如何せん恵秀さんの好きの対象が俺だから、ものすごく恥ずかしいことを言われている気分になってくる。
赤面する俺に笑みを深めて、恵秀さんは言葉を続ける。
「別にね、よすがくんが僕のことを好きになれなくてもいいんだよ。……もちろん本音を言えば、好きになってもらえたら、ものすごく嬉しいけどね。これから君の気持ちがどうなるかは、僕にも君にも分からない。とりあえず今の僕は、君が僕からの気持ちを不快なものだと思っていないことと、僕からの気持ちに丁寧に向き合おうとしてくれていることが、とても幸せだなって思ってる。だから、申し訳ないと思ったり、焦ったりしなくていいんだよ」
「…………わかりました」
「うん、いい子」
今時中学生だってこんなことで悩んだりしないだろう。丁寧な言葉を尽くしてくれる恵秀さんに、ありがたいやら恥ずかしいやら申し訳ないやら、いろんな感情で頭が沸騰しそうになりながらどうにか頷くと、俺の疑似パートナーはお決まりの台詞を紡いだ。コマンドを使われていない時に「いい子」と褒められるのも、このひと月くらいでだいぶ慣れたと思う。照れくさいのは相変わらずだけど、そういうもの、として受け入れられるようになってきている。
氷が溶けてだいぶ薄くなったアイスコーヒーに口をつける。お互いのグラスが空になったのを確認して、恵秀さんはテーブルの上の小さな鍵を手に取った。
宣言通り、恵秀さんはいつもと同じコマンドを使って、いつもと同じプレイをした。ソファに並んで座る時と、そこで頭を撫でられる時はちょっとだけ緊張したけど、それだけだった。
それからプレイをする日も、それは変わらなかった。俺を好きだと言ってはいたけれど、あれから恵秀さんが態度を変えることはなかったから、俺も意識したり緊張したりしていたのは、はじめの内だけだった。
そうこうしている内に、早いもので九月が終わり、俺の学生最後の夏休みも終わった。月が変わって早々に内定式と懇親会への参加も終え、卒論もたまに行き詰りながらも比較的順調に進められている。そのあたりに関してはありがたいことにほとんど悩みはない。
長い休みが終わったのもあって、恵秀さんと顔を合わせる頻度はこれまでより減った。減りはしたものの、相変わらず週に数回会って簡単なプレイは続けている。恵秀さんを好きかどうか、恋人になれるかどうか、その答えは俺の中でまだ出せていない。目下俺が抱えている悩みがこれだ。恵秀さんは宣言通り根気よく待ってくれている。やっぱり彼に対する申し訳ない気持ちは拭い切れないけれど、気持ちばかりはどうすることもできないので、俺はほとんど変わらない毎日を過ごしている。
「――うん、よくできたね。いい子」
カフェで隣の席に腰を下ろした俺の頭を、恵秀さんが嬉しそうに撫でる。これを人前でされることにはまだちょっと照れくささが抜けないけれど、だいぶ慣れてきたと思う。
今日はトライアルルームには行かず、カフェでちょっとだけ顔を合わせる日だ。十月も下旬、恵秀さんと会ったばかりの頃に比べたら、ずいぶん涼しくなってきた。俺も恵秀さんも、注文するのは温かい飲み物に変わった。
頭を撫でていた恵秀さんの手が離れていき、それにつられて隣の恵秀さんの横顔を盗み見る。今日顔を合わせた時にも思ったけれど、若干顔色がよくないように見える。
「恵秀さん」
「うん? なあに」
呼びかければ恵秀さんは笑みを湛えてこちらを向く。浮かべる表情はいつもと変わらないけれど、あまり元気そうには見えない。
「あの、具合悪かったりします? 顔色、あまりよくないですよ?」
「え? あ、あー……ちょっとね。風邪っぽいのかもしれない」
俺の問いかけに一瞬視線を泳がせた恵秀さんは、苦笑交じりにそう答えた。その一瞬に少しの違和感があったけれど、それよりも続く言葉に思わず眉を顰めた。
「いや、具合悪いなら俺と会ってないで、ちゃんと休んでてくださいよ!」
「あはは……。でも具合悪いからこそよすがくんとプレイしたかったっていうのも、あったり……」
「……その気持ちは分からなくもないですけど、無理してここまで来たせいで症状重くなったらどうするんですか、もう。それ飲んだら今日は帰って寝てくださいね!」
力なく笑う恵秀さんの言葉に呆れてしまう。俺はヴァニラだから分からないけれど、普通のダイナミクスの人は体調不良の時にプレイをすると症状が改善するものなのかもしれない。いやでも具合が悪いなら出歩かないで大人しく寝ていた方が絶対いいと思う。そんな気持ちが強くて、十歳近く年上のドミナントに対して説教じみた言い方をしてしまった。
年下に説教された恵秀さんは、数秒ぽかんとした後、声を上げて笑った。こっちは真剣なのに、と眉間の皴を深くすると、肩を竦めて謝ってきた。
「ふふ、ごめん、ごめんね。心配してくれてありがとう。大人しく帰って休みます」
「ん、いい子ですね、恵秀さん」
素直に受け入れてもらえたのにホッとして、少しばかりふざけてみる。いつもの恵秀さんの真似をして「いい子」と言ってみると、一瞬きょとんとした恵秀さんがまた笑った。この人のツボがちょっと俺には分からない。
「ふ、ふふ、ありがとう。君に言われると照れちゃうなぁ」
「俺はいつも言われて照れてるんですけどね」
「そうだね。ふふ、だから珍しくて照れちゃうんだよ」
楽しそうに笑う恵秀さんの表情は穏やかだけど、顔色は変わらない。本当に大丈夫なんだろうか、と心配な気持ちは消えない。
「涼しくなってきてますし、あったかくして寝てくださいね?」
「うん、そうするよ。ありがとう」
そんなやり取りをして、カップを空にした俺たちは店を出て別れた。
それから半月以上、俺と恵秀さんは顔を合わせなくなった。
ひと通りコマンドを使ってから、ソファに二人で並んで座るのがいつもの流れになっている。コマンドを受けてソファに腰を下ろした俺の頭を、恵秀さんが嬉しそうに撫でている。相変わらずコマンド後に俺を褒める時の恵秀さんはうっとり幸せそうにしているけれど、だいぶこの人の甘い表情と声にも慣れた。
「今さらですけど、恵秀さん、かなり顔色が良くなりましたよね。隈もないし」
俺を撫でる恵秀さんを眺めていたら、不意に初めて顔を合わせた時のことを思い出した。顔色は悪く、目元の隈もだいぶ濃かった。あの時から恵秀さんは俳優みたいだって思っているけれど、顔色と隈の有無で悪役から主人公役に変わった感じがあるなぁ、なんて考えたりしていた。失礼だから口には出さないけれども。
「うん、おかげさまで。ひと月も薬を飲まないで生活できてるのなんて、十年ぶりくらいかな? しっかり眠れてるし、身体は軽いし、メンタルも落ち着いてるんだ。本当に、よすがくんのおかげだ」
俺の言葉に、恵秀さんは満面の笑みを浮かべてそう言った。そんなに顕著に変わるものなんだ、と驚きつつ、しばらく薬を飲んでいないという事実がとても嬉しい。お前は誰にも必要とされずに生きていくんだよ――そうやって言われていると思っていた俺が、ドミナントの、恵秀さんの役に立って、必要としてもらえている。それが心の底から嬉しくて堪らなかった。
「お役に立ててるなら、俺もとても嬉しいです。ありがとうございます」
「ええ? お礼を言うのは僕の方でしょう? ありがとう、よすがくん。君は本当にとってもいい子だね」
思わず漏れたお礼の言葉に、恵秀さんがおどけたように声を上げた。それからうっとりと目を細めると、今度は両手でわしゃわしゃっと俺の頭を撫でた。普段と違うちょっと雑な手つきが珍しくて、撫でられながら俺はくすくすと笑った。
しばらくして気が済んだのか、恵秀さんは俺の髪をかき混ぜていた手を止めた。ぐしゃぐしゃになっていたらしく、そのまま手櫛で髪を梳かれる。優しい指先が頭皮に触れて、少しだけくすぐったい。
「ねえ、よすがくん。ちょっと相談なんだけど……もう少しコマンドを増やしてもいいかな?」
俺の頭から手を離すと、恵秀さんが改まってそんなふうに問いかけてきた。確かに恵秀さんが俺に使っているコマンドは、三つだけだし、どれも基本的なものだ。ひと月も続けていれば、新しいコマンドだって使いたくなるだろう。難しいものでなければ俺も応えられる。
「はい、大丈夫です。ちなみに、どういうコマンドですか?」
俺が頷くと、恵秀さんがパッと目を輝かせた。前々から犬っぽいと思ってはいたけれど、ここ最近はそれがすごく顕著な気がする。年上のお兄さんに対して抱く印象ではないと思うけれど、こればっかりは仕方がない。
「ありがとう。スキンシップをするもの……ハグとキスをお願いするコマンドなんだけど、」
「えっ!?」
「えっ?」
恵秀さんが話している途中で思わず声を上げてしまった。俺の反応が想定外だったのか、恵秀さんは不思議そうに声を上げてぱちぱちと瞬きをした。申し訳ないけれど、想定外だったのは俺の方だ。上げた声もだが、俺は相当驚いた顔をしていたらしく、恵秀さんが眉を下げて見つめてきた。
「よすがくん、?」
「いや、あの、すみません……。ハグはまだ分からなくもないんですけど、あの、……いやでもそういうのって、パートナーじゃなくて、恋人とするものじゃないです……?」
上手い言い方が思い浮かばず、必死で言葉を選んでどうにか恵秀さんに訴えた。だって俺は、恵秀さんの疑似パートナーではあるけれど、恋人ではない。流石にそこは抵抗がある。
そんな俺の訴えに、恵秀さんはきょとんとした顔で首を傾げた。
「……パートナーは恋人でしょう?」
「えっ、べ、別ものですよね?」
完全に認識に齟齬がある。二人揃って頭上に疑問符を飛ばし、お互いの言葉に首を傾げてしまった。
――俺たちや母さんたちみたいにお互いに恋愛感情を向けていないパートナーもそれなりにいるが、恋人や伴侶であり、パートナーでもあるっていう人たちの方が多いくらいかもしれない。
不意にいつかの父さんの言葉が頭をよぎる。そうだ、父さんは恋人でパートナーの方が多いかもしれないって言っていた。きっと恵秀さんはそっち派なんだろう。
「え、っと……あの、ちょっと確認してもいいですか?」
「う、うん……そうだね、僕も確認したいな」
戸惑いながら俺がそう言うと、恵秀さんも小さく頷いて同意してくれた。
「身近なところだと、俺の両親はドム同士で、お互いに同性のパートナーがいます。俺も、以前付き合ってた女の子にはパートナーになる予定らしい相手がいました。……だから、俺は恋人とか夫婦とパートナーは別のものって認識でした……」
「なるほど……。僕の場合は、逆に家族にしても友人にしても、周りの人たちはほとんど恋人がパートナーだったから、そういうものだと思ってた」
お互い、自分の周囲のパートナーたちの傾向が偏っていたらしい。真逆の環境にいれば、たしかに正反対の認識になってしまうだろう。それぞれ普通だと思っていたことを相手にひっくり返されてしまったのだ。俺もショックを受けたが、恵秀さんもだいぶショックを受けたらしい。さっき目を輝かせていたのが嘘のように切なげな顔をしている。言いにくさを感じつつ、これは大事なことなので言っておかねば、と俺は続けて口を開いた。
「そうなんですね……。あ、あと、その、恵秀さんとのことは月山社長にお願いされたのが始まりでしたし、その……恋愛とは全然別なものだと思ってました」
「あー……それは確かにそうなるよね……」
社長さんの名前を出すと、恵秀さんは分かりやすくがっくりと肩を落とした。俺が思った以上に恵秀さんはショックだったらしく、俯かれてしまった。申し訳なさやら気まずさやらを感じ、どう声をかけていいか分からず、俺も隣で口を噤んでいた。
数分続いた沈黙は、恵秀さんの大きな溜め息――というよりも深呼吸の音――で途切れた。恵秀さんの方をちらりと見れば、彼は顔を上げて俺をまっすぐ見つめていた。
「……ねえ、よすがくん。僕はハグもキスも……可能ならそれ以上のこともしたいと思っているくらいには、君のことを好いているんだ。……よすがくんは?」
「え、……あ、の、」
恵秀さんは真剣な顔で、ストレートに聞いてきた。はっきり伝えられた言葉にどうしていいか分からず視線が泳ぐ。開いた口からは意味のある言葉は出てこない。
分からない。正直に分からないのだ。過去に付き合ったことがあるのは女の子だけだし、これまで男性に恋愛感情を向けたり向けられたりしたことはない。恵秀さんのことをそういう目で見たこともない。素敵な人だと思うし、疑似とは言えパートナーとして一緒に過ごすことは何の問題もない。……ひとりの人間としてはとても好きだと思っているけれど、この人と恋人になるとか、キスなんかをするとか、そういうことはいまいち想像ができない。
どう答えればいいか分からず、俺が言葉に迷っていると、恵秀さんは肩を竦めて苦笑を零した。
「無理強いはしないよ、大丈夫。よすがくんがしたくないことをさせるつもりはないから」
「……すみません」
「よすがくんが謝ることじゃないよ、僕の方こそごめんね。最初に確認しておくべきだった」
恵秀さんは寂しそうに笑ってそう言った。その表情に妙に胸がぎゅっと締め付けられたような気がした。そんな自分の反応に俺が戸惑っていると、恵秀さんが言葉を続ける。
「でも、僕がそう思っているってことはちゃんと覚えていてね? なかったことにするつもりはないから」
じっと俺の目を見つめながらそう言った恵秀さんの声は、たぶん初めて聞く力強いものだった。俺はそれに気圧されてそのままこくこくと頷いた。
「あ、ちょっと待って一番大事なこと聞いてなかった。もしかしてよすがくん、今付き合っている人とか好きな人とか、いる?」
不意にハッとした恵秀さんが若干食い気味にそう尋ねてきた。その勢いに少し押されながら、俺はふるふると首を横に振る。
「い、いないです、いないです」
「そう、そっか。良かった」
俺が否定すると、恵秀さんは心底安堵したように肩の力を抜いて、表情を綻ばせた。わざわざ念を押すように言ったり、俺にそういう相手がいないことにそこまでホッとするほど、この人は俺のことが好きなんだろうか。戸惑いはしたものの、それを嫌だとかおかしいとかは思わないんだな、とまるで他人事のように思う自分がいた。
気まずさからか、落ち着かなさからか、その後はプレイをすることなく解散になった。いつも通り駅までは一緒に歩いて帰ったけれど、どうにも会話がぎこちなくなってしまっていた。
改札で別れる時、恵秀さんはいつも俺に、またね、と手を振る。今日も同じように手を振っていたけれど、恵秀さんはまた寂しそうに笑っていた。原因は言わずもがな俺なんだろうけれど、それが痛々しくて、やっぱり胸が締め付けられた。罪悪感からだろうか、なんて思いながら俺も手を振り返した。
アパートに戻ってからも、何故か恵秀さんのあの表情が頭から離れなかった。恋人になることには抵抗があるくせに、あの人が傷つくのは嫌だと思う俺は、わがままなんだろうか。――そんなことをぐるぐると、帰ってから眠りにつくまで考えてしまっていた。
+ + +
「あれから、どうだい?」
「多分順調……なんだと思います。恵秀さん、このひと月、薬を飲まずに過ごせてて、調子もいいって言ってました」
「それは何より」
恵秀さんの爆弾発言を受けてあれこれ考えていた俺は、カウンセリングという体で風早先生のところに相談に来ていた。両親に話すには抵抗があるし、普通のダイナミクスの友人たちにはなんて言えばいいか分からない。結果、何かあれば気軽においで、と言ってくれていた先生の社交辞令を真に受けて、ここに来てしまっている。
「あの、先生、ちょっといいですか?」
「何かな」
「……あの、ちょっと質問があって。……あ、でも、先生のプライベートのことですし、その、無理に答えなくてもいいんですけど。……ええと、先生と先生のパートナーさんって……その、恋人、ですか?」
言葉に迷った俺が、かなりまどろっこしい尋ね方をすると、風早先生はきょとんとした顔で数拍止まった後、少しだけ笑った。
「何かあったんだね?」
何かあったのかい? と聞かない辺り、察されている。隠すつもりもないけれど、バレバレだったらしい。少し恥ずかしい。
「……はい。恵秀さんに、ハグとかキスとかのコマンドを使いたいって言われました。それで、パートナーと恋人は別では? って俺が聞いたら、恵秀さんはパートナーは恋人でしょって言ってて……。お互い認識が正反対だったから、ちょっと戸惑っちゃいまして」
「あー……なるほどねぇ」
この前のことを極力簡潔に、正直に伝えると、風早先生は困ったように笑って肩を竦めた。
「私とパートナーは、もしかしたら君たちと似ているかもしれないな。元々お互い恋愛感情無しの関係だったけど、途中で恋人になったんだ。……ただ、こればかりは色んな人がいるから、一概にどのパターンが多いとは言えないし、他人のことは参考にならない気がするなぁ……人それぞれとしか言えないかな。誰よりも信頼しているから、この人に全てを預けたい、自分に預けてほしいって恋愛感情を抱く人もいる。逆に、恋人や伴侶とは対等な関係でありたいから主従って言葉がよぎるパートナー関係とは分けて考える人もいる。本当に人それぞれだよ、こればかりはね」
「そう、なんですね……」
先生の話を聞いて、余計にどうしたらいいか分からなくなってしまった。どっちの立場の考え方も理解できる。信頼関係が発展して恋愛関係になるというのも納得できるし、支配と服従という関係はどうしても上下関係が生まれやすいから、恋人とはそれを抜きにして対等な関係でありたい、というのもよく分かる。
じゃあ俺は? 俺自身は恵秀さんとどういう関係でいたいのか。俺は、恋人は対等な関係でパートナーは対等な関係じゃない、とは思っていない。――いや、そもそもの話、誰かを好きになる、恋人になるっていうことが俺の中であやふやなのかもしれない。改めて考えてみれば、周りと違うダイナミクスなのを気にして、自分から誰かを好きになるっていうことがなかったような気がする。前に付き合った人たちだって、始まりも終わりも相手からだった。――告白されてノリで付き合っていたような俺は、ちゃんとあの人たちを好きになっていたんだろうか。
唐突に自分の中の恋愛観や、人を好きになるということ自体が分らなくなった。それが無性に怖くなる。
恵秀さんは、俺に恋愛感情を抱いているみたいだけれど、俺が彼に同じものを持つことができるのか分からない。あんなに真剣な人に、どう応えるのが正解なのかが分からない。ああもう、結局分からない。
「よすがくんはさ、彼にそういうことを言われてどうだった? 嫌な気持ちになった?」
ここに来てぐるぐるとあれこれ余計に考えて黙り込んでしまった俺に、風早先生がそう尋ねてきた。落ち着いた先生の声を聞いて、あの時の自分の気持ちを思い返してみる。
「嫌な気持ちとかは……なかったです。恋人じゃない人とそういうことをするっていうのには抵抗があって、驚きと戸惑いはありましたけど」
「そうか」
俺の返答に、風早先生は穏やかに微笑んだ。
「驚いたり戸惑ったりするのは当然だと思うよ。悪いことじゃない。よすがくんに抵抗があるなら、無理に応えることもない。ただ、前にも言ったと思うけど、きちんと二人で話し合った方がいいだろうね。どちらかに無理や我慢を強いるのは、良くないからね」
「分かりました」
先生の言葉に素直に頷く。そうだ、結局のところ二人で話をしないことにはお互いの思ってることは分からない。……応えられるかどうかも、分からないけど。
きちんと話さなきゃ恵秀さんの思ってることは分からないし、俺のことだって伝わらない。恵秀さんが伝えてくれたんだから、どう思われるかわからないけれど、俺の中の恋愛に対するもやもやを恵秀さんに聞いてもらおう。これから俺たちがどう変わっていくのかは、まだ分からないけれど、できることをやってみないと。
病院からの帰り道、俺は恵秀さんに、明日会いませんか、と連絡を入れた。間髪入れずに同意の返信が来て少しだけ笑ってしまった。
一晩経っても、俺の思考は渦を巻いているようで、どうにもまとまらない。電車に揺られながら、今までのこと、これからのこと、恵秀さんのこと、自分のこと――一向に答えが出ないことをぼんやりと考え続けていた。
いつもの駅について、改札を抜ける。改札を出てすぐの場所に恵秀さんがいた。手元のスマホに視線を落としていたけれど、俺が名前を呼ぶと、パッと顔を上げてこっちを向く。俺を見るその顔は、あからさまにホッとした表情を浮かべていた。
「こんにちは、恵秀さん」
「こんにちは。……ああ、来てくれてよかった。気まずくなってもう会ってもらえないかと思ってたんだ」
恵秀さんは、溜め息――というか安堵の息を吐いてそう言った。大袈裟すぎやしないか、と思ったけれど、恵秀さんにとっては、そのくらい心配だったのかもしれない。そう思うと、なんとなくくすぐったい気持ちになる。
「さ、さすがにそんなことはないですよ」
「うん、ありがとう」
苦笑交じりに答える俺に、恵秀さんが嬉しそうにはにかんだ。
恵秀さんは格好いい。顔の造形といい、スタイルといい、俳優ですと名乗られても、まったく違和感を感じないくらいに容姿が整っている人だと思う。そんな人が、俺の言葉に分かりやすく一喜一憂するほど俺を好いている、なんてことが不思議でならない。
「どうかした?」
「あ、いえ、ちょっとぼーっとしてました。すみません」
恵秀さんに声をかけられて我に返る。本人を前にしてあれこれ考えるのはよくない。答えの出ない思考の渦は一度遠ざけて、目の前の恵秀さんに集中しないと。
そのまま俺たちはいつものトライアルルームへ向かった。この前にみたいにぎこちなくなるかと身構えていたけれど、恵秀さんがいつも通りに話をしてくれたおかげで、気まずさもぎこちなさも特に感じることはなかった。この数日間で割り切ったのか、ただ色々な感情を表に出さないようにしているのかは分からないけれど、ただ、そういう対応ができる恵秀さんに、改めて年の差を感じた。
店に着いて、いつもと同じように喫茶スペースの席を決め、飲み物を注文する。昨日考えていたことを伝えようと思って、口を開きかけたが、先に口を開いた恵秀さんに遮られてしまった。
「この前はいきなりごめんね? 意識してほしい気持ちは本当なんだけど、ちょっと先走っちゃったね」
「いえ、大丈夫です。俺の方こそ、すみません」
「よすがくんが謝ることじゃないでしょう? 気にしないでね」
そう話す恵秀さんの表情は穏やかだ。この前の寂しそうな表情が嘘のようで、逆にそれが気になってしまった。気になったものの、うまく指摘する言葉が浮かばず、俺は結局何も言えなかった。
「ねえ、よすがくん。これからのプレイなんだけど、今まで通り決めてあるコマンド三つで続けていっていいかな?」
飲み物を運んできてくれた店員さんの背中を見送ってから、恵秀さんがそう切り出した。自分の前に置かれたグラスに手を伸ばしかけていた俺は、動きを止めて恵秀さんに視線を向ける。
「えっ、あ、俺は全然問題ないですけど……」
恵秀さんはいいんですか? そう言葉を続けることはできなかった。いいも何もない。恵秀さんはこの前、無理強いはしないと言っていた。俺の気持ちを優先してくれているからだ。なんとなく胸が痛い気がするのは、きっと申し訳なさのせいだろう。
「ありがとう。……この前も言ったけど、やっぱり抵抗があるって言ってるよすがくんに無理にお願いするのは違うでしょう? そういうのは、君が僕と同じ気持ちになってくれたらお願いしようと思って。別に慌てることでもないからね」
優しく微笑む恵秀さんに、やっぱり胸が軋む。俺は、この優しい人にどのくらい我慢をさせないといけないんだろう。どうしたらこの人を好きだと思えるんだろう。無性にそんな焦燥感に襲われる。
「あの、恵秀さん、……俺、お話ししなきゃいけないことがあって」
「うん、何かな?」
「……うまく言えないっていうか、この年で何言ってるんだって思われるかもしれないっていうか……自分でも、よく分からなくて」
「……うん、大丈夫。ゆっくり話してごらん」
優しい低音が俺の鼓膜を揺らしてくる。恵秀さんの顔が見れず、俺は手元のグラスに視線を落とした。こうやって言おう、これを伝えよう、と昨日考えていたくせに、いざ恵秀さんを前にすると頭が真っ白になっていた。
「俺、多分、恋愛というか、人を好きになるとかそういうのが、いまいちよく分かってなくて……なんか改めて考え始めたら本当に分からなくなって、恵秀さんの気持ちにどうやって応えたらいいのかとか、どのくらい一緒にいれば貴方と同じ気持ちになれるのかとかが、考えても分からなくて……。それがすごく、申し訳ないっていうか、どうしたらいいのかって、……本当に全然、分からなくて、」
どうしようもなく要領を得ない話になってしまった。分からない分からない、と駄々をこねている小さな子どものようで、情けなくて、恥ずかしい。自分で自分を恥ずかしく思っていると、俺の向かいで恵秀さんが小さく笑ったのが聞こえた。
「よすがくん、顔を上げてくれる?」
優しく紡がれるお願いに、大人しく従って恵秀さんの方を見る。俺を見つめるその顔は、想定外にとても嬉しそうで、柔らかい表情をしていた。
「よすがくんは、この前僕に好きとかキスしたいとか言われた時に、嫌だとか、気持ちが悪いとか、生理的に無理だとか、そういうことって思った?」
「思わなかったです、そういうことは」
恵秀さんからの問いかけに、俺はすぐに首を横に振る。風早先生にも同じようなことを聞かれたけれど、それが大事なことなんだろうか。よく分からないまま答えれば、恵秀さんはにこりと微笑んだ。
「それならよかった。違ったら申し訳ないんだけど、君の話を聞いていると、早く僕を好きにならなくちゃって思ってくれているように感じるんだ」
「えっ!?」
「ふふ、気づいてなかったかな? 無意識でもそう思ってくれてることが嬉しいんだ。でも慌てることじゃないし、無理に好きになろうとするものでもないから、そんなに悩まなくても大丈夫だよ」
俺が驚きの声を上げても、恵秀さんは思ったとおり、とでも言わんばかりの反応をするだけだった。小さな子どもに諭すような恵秀さんの言い方が、妙に恥ずかしい。
「僕もうまく言えないけど、誰かを好きになるって、こう……なんだろう、理屈じゃないから、あれこれ考えても深みにはまっちゃうんじゃないかな。……ええと、そうだな、ふとした時に、ああ、好きだなぁって思うこと、そのくらいの理解でいいんじゃないかな。少なくとも、僕はよすがくんに対してそうだったから」
穏やかに話す恵秀さんに、じわじわと顔が熱くなってきた。俺が分からないと言ったから説明してくれているのに、如何せん恵秀さんの好きの対象が俺だから、ものすごく恥ずかしいことを言われている気分になってくる。
赤面する俺に笑みを深めて、恵秀さんは言葉を続ける。
「別にね、よすがくんが僕のことを好きになれなくてもいいんだよ。……もちろん本音を言えば、好きになってもらえたら、ものすごく嬉しいけどね。これから君の気持ちがどうなるかは、僕にも君にも分からない。とりあえず今の僕は、君が僕からの気持ちを不快なものだと思っていないことと、僕からの気持ちに丁寧に向き合おうとしてくれていることが、とても幸せだなって思ってる。だから、申し訳ないと思ったり、焦ったりしなくていいんだよ」
「…………わかりました」
「うん、いい子」
今時中学生だってこんなことで悩んだりしないだろう。丁寧な言葉を尽くしてくれる恵秀さんに、ありがたいやら恥ずかしいやら申し訳ないやら、いろんな感情で頭が沸騰しそうになりながらどうにか頷くと、俺の疑似パートナーはお決まりの台詞を紡いだ。コマンドを使われていない時に「いい子」と褒められるのも、このひと月くらいでだいぶ慣れたと思う。照れくさいのは相変わらずだけど、そういうもの、として受け入れられるようになってきている。
氷が溶けてだいぶ薄くなったアイスコーヒーに口をつける。お互いのグラスが空になったのを確認して、恵秀さんはテーブルの上の小さな鍵を手に取った。
宣言通り、恵秀さんはいつもと同じコマンドを使って、いつもと同じプレイをした。ソファに並んで座る時と、そこで頭を撫でられる時はちょっとだけ緊張したけど、それだけだった。
それからプレイをする日も、それは変わらなかった。俺を好きだと言ってはいたけれど、あれから恵秀さんが態度を変えることはなかったから、俺も意識したり緊張したりしていたのは、はじめの内だけだった。
そうこうしている内に、早いもので九月が終わり、俺の学生最後の夏休みも終わった。月が変わって早々に内定式と懇親会への参加も終え、卒論もたまに行き詰りながらも比較的順調に進められている。そのあたりに関してはありがたいことにほとんど悩みはない。
長い休みが終わったのもあって、恵秀さんと顔を合わせる頻度はこれまでより減った。減りはしたものの、相変わらず週に数回会って簡単なプレイは続けている。恵秀さんを好きかどうか、恋人になれるかどうか、その答えは俺の中でまだ出せていない。目下俺が抱えている悩みがこれだ。恵秀さんは宣言通り根気よく待ってくれている。やっぱり彼に対する申し訳ない気持ちは拭い切れないけれど、気持ちばかりはどうすることもできないので、俺はほとんど変わらない毎日を過ごしている。
「――うん、よくできたね。いい子」
カフェで隣の席に腰を下ろした俺の頭を、恵秀さんが嬉しそうに撫でる。これを人前でされることにはまだちょっと照れくささが抜けないけれど、だいぶ慣れてきたと思う。
今日はトライアルルームには行かず、カフェでちょっとだけ顔を合わせる日だ。十月も下旬、恵秀さんと会ったばかりの頃に比べたら、ずいぶん涼しくなってきた。俺も恵秀さんも、注文するのは温かい飲み物に変わった。
頭を撫でていた恵秀さんの手が離れていき、それにつられて隣の恵秀さんの横顔を盗み見る。今日顔を合わせた時にも思ったけれど、若干顔色がよくないように見える。
「恵秀さん」
「うん? なあに」
呼びかければ恵秀さんは笑みを湛えてこちらを向く。浮かべる表情はいつもと変わらないけれど、あまり元気そうには見えない。
「あの、具合悪かったりします? 顔色、あまりよくないですよ?」
「え? あ、あー……ちょっとね。風邪っぽいのかもしれない」
俺の問いかけに一瞬視線を泳がせた恵秀さんは、苦笑交じりにそう答えた。その一瞬に少しの違和感があったけれど、それよりも続く言葉に思わず眉を顰めた。
「いや、具合悪いなら俺と会ってないで、ちゃんと休んでてくださいよ!」
「あはは……。でも具合悪いからこそよすがくんとプレイしたかったっていうのも、あったり……」
「……その気持ちは分からなくもないですけど、無理してここまで来たせいで症状重くなったらどうするんですか、もう。それ飲んだら今日は帰って寝てくださいね!」
力なく笑う恵秀さんの言葉に呆れてしまう。俺はヴァニラだから分からないけれど、普通のダイナミクスの人は体調不良の時にプレイをすると症状が改善するものなのかもしれない。いやでも具合が悪いなら出歩かないで大人しく寝ていた方が絶対いいと思う。そんな気持ちが強くて、十歳近く年上のドミナントに対して説教じみた言い方をしてしまった。
年下に説教された恵秀さんは、数秒ぽかんとした後、声を上げて笑った。こっちは真剣なのに、と眉間の皴を深くすると、肩を竦めて謝ってきた。
「ふふ、ごめん、ごめんね。心配してくれてありがとう。大人しく帰って休みます」
「ん、いい子ですね、恵秀さん」
素直に受け入れてもらえたのにホッとして、少しばかりふざけてみる。いつもの恵秀さんの真似をして「いい子」と言ってみると、一瞬きょとんとした恵秀さんがまた笑った。この人のツボがちょっと俺には分からない。
「ふ、ふふ、ありがとう。君に言われると照れちゃうなぁ」
「俺はいつも言われて照れてるんですけどね」
「そうだね。ふふ、だから珍しくて照れちゃうんだよ」
楽しそうに笑う恵秀さんの表情は穏やかだけど、顔色は変わらない。本当に大丈夫なんだろうか、と心配な気持ちは消えない。
「涼しくなってきてますし、あったかくして寝てくださいね?」
「うん、そうするよ。ありがとう」
そんなやり取りをして、カップを空にした俺たちは店を出て別れた。
それから半月以上、俺と恵秀さんは顔を合わせなくなった。
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