裏ルート攻略後、悪役聖女は絶望したようです。

濃姫

文字の大きさ
75 / 117
思惑(しわく)は交わる

閑話 門番だった男【門番視点】

しおりを挟む
違法カジノの門番。それは男にとって一種の誇りでもあった。

 スラム街で強奪を繰り返し生きてきたゴミのような人生で、ようやく救われた職。給料はさながら、力が立つという象徴でもあったため商売女にもよく声をかけられる。自分の人生の最高潮がここだとさえ思っていた。

 そう、までは…。

 突然わき起こった火は瞬く間に会場を包み、騒ぎの間に金目のモノをくすねようとしたその時後ろから鈍器のようなもので強烈に殴打され意識を失った。

 目が覚めた時には既に手足を縛られ、口には口枷(くちかせ)が付けられていた。地下であることは察しがついたが、異様なのは周囲の厳重な警備だった。

 数人が交代で俺が逃げられないよう一時(ひととき)も目を離さず、胃に穴が開きそうなほど監視された。

 一体どういうことなのか、困惑が頭を占(し)めていたとき、誰かがこの地下まで下(お)りる足音とともに今まで俺を監視していた連中が一斉に頭(こうべ)を垂(た)れる。

 一瞬にして分かった。その足音の主こそ俺を此処に攫(さら)った親玉だと。生憎(あいにく)職業柄憎まれることも多ければプライベートでも刃傷沙汰(にんじょうざた)が耐えなかったからか動機(どうき)や誰が犯人なのかはまだ検討がつかない。

 じっとそいつが姿を現すのを待つ。しかし現れたのは、予想とはまるで異なるガキだった。

 何の冗談かと思ったが、他の奴らの反応を見る限り主であることに変わりはないのだろう。いや、正確には主のガキか。

 ガキは俺の口枷を解くように命令し、口枷がなくなったことでようやく涎(よだれ)を流す必要がなくなった俺はこのガキをまだまだ甘ったれたガキだと確信づいた。

 本来相手の自由を少しでも奪う口枷を外す命令を簡単に出し、親の力で何でも出来てきたせいで本物の暴力というものを知らない乳臭(ちちくさ)い頭の悪いガキ。

 「おいガキ、殺されたくねぇうちに今すぐこれを外せ。お前もぶん殴られたくねぇだろ」

 こいつは簡単だ。ガキなら少し脅せば言う通りになる、そんな考えでドスの効いた声を聞かせた。大体これで大半のガキは怯え泣く。

 このガキは一体どんな風に腰を抜かすのか、心の内でそう嘲笑っていると返ってきたのは一切の躊躇(ちゅうちょ)のない顔面への足蹴(あしげ)りだった。

 「ゴヘッぇ゛ッ…ツ゛!?‼!」と潰れたアヒルのような声で吹っ飛んだが、その威力(いりょく)は決して子どものものではない。大人でもここまでの力は出せない。

 今の足蹴りで歯が何本か抜け、口から血がダクダクと流れる。意識が混濁(こんだく)する中、髪をぐしゃりと鷲掴(わしづか)みにされ更に何発かモロに入れられる。

 そんなことをされたものだから当然顔はパンパンに腫(は)れ上がり、歯は数えるほどしか残っておらず、視力も片方は確実に喪失(そうしつ)していた。

 何故自分はこんな化け物相手に脅せるなどと馬鹿げたことを思ってしまったのだろうか。今では後悔先に立たずだが、ひたすらに殴り続けられる限りそう思わずにはいられない。

 しかしその殴られ続ける事自体まだ易しい方だったと知るには、あまりに受け入れがたい現実で俺の頭は許容しきれなかった。

 化け物はある程度殴打や蹴りに満足すると、次はおもむろに部下にトンカチを持ってこさせた。嫌な予感が俺の脳に伝わる前に、どちゅ…っ、と『何か』が潰れる音とともに鈍(にぶ)い痛みが脳を焼き尽くした。

 「イぎゃっ゛ァあ嗚呼゛ァァア゛⁉!‼!」
 「五月蝿(うるせ)ぇなぁ…」

 喉が掠(かす)れる程出した絶叫も一蹴(いっしゅう)され、さらにもう一本の指が潰される。

 「いgyぁぁぁsぁx『ドチュ…ッ』」
 「gyァァあっっ嗚呼『どちゅ…ッ』」
 「あgyぁ゛、ァギャギャギャギャgy」
 
 最終的に全ての指を潰されるまでその地獄を続き、喉も潰れ痛みで脳がイカれてしまった。

 叫んでいるのか嗤(わら)っているのか分からない音を出し、それが気に触ったのかみぞおちに破裂しそうな程の蹴りを入れられ盛大に吐いてしまった。

 「おぉ゛ぇえぇぇ゛ッツ゛、ゥ゙ぉぇあっっぇえぇ゛、『ゴッ…』ごえッ⁉!!?」

 自分が吐き散らかした汚物に頭を抑えられ、異臭にさらに吐き気をもよおす。その後はもう想像すらしたくない地獄の連続だった。

 両腕両足を魔法で切断され、切断面を火で炙(あぶ)られ中途半端な止血をされた挙(あ)げ句(く)内蔵を抉(えぐ)り出され、まだ繋がったままの腸(はらわた)を食べさせられる。

 全て食べきれなかったからと顎(あご)を素手(すで)で外され、露(あら)わになった口から虫を大量に詰め込まれ、死なないギリギリで全ての生き地獄を味あわされたのだ。

 最期はまともな精神状態を失った俺の腹に虫を入れ内側から食べられる感触と音が失神死まで持っていった。これならば単純に焼死(しょうし)した方がまだマシだったと、人間としての形を保って死にたかったと思う。

 ダルマの状態で、顎をなくし、汚物にまみれ、腸(はらわた)が飛び出だまま死ぬとは、想像もしていなかったのだから…。

 こうして小悪党(こあくとう)だった男は運の悪さが募り、最も目をつけられてはいけない人間、いや、吸血鬼の目に止まりこの世から去った。

 なお一連の始終(しじゅう)を見ていた手下からの圧倒的恐怖と絶対的忠誠が跳ね上がったことは言うまでもないだろう…。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...