大人向け童話、児童文学集

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終わらせ太郎

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 ある村にとても働き者の男がいました。
「よく頑張るねぇ」
 そう声をかけると男は笑って言いました。
「俺の仕事は『やったら終わる』からな」

『やったら終わる』
『始めたら終わる』
 それが男の口癖でした。
 そんな彼を村の者たちは『終わらせ太郎』と呼びました。
   
 終わらせ太郎は『先延ばし』とは無縁でした。
 いつも誰よりも早く仕事を始めます。
 仕事前に『やりたくないなあ』と言う躊躇が見られないのです。

 その結果、彼の仕事量は増えていきました。
『仕事を先延ばししない』分、仕事が早く終わることで、もっと仕事ができるようになったと言うこともありますが。
『仕事を先延ばしにしない』彼のことを、『仕事好き』だと考えた者によって、仕事を増やされたと言う面もありました。

 仕事が増えても、終わらせ太郎は文句も言わず、やはり『先延ばし』もせず、働きました。

 ある日のこと。
 働き者の終わらせ太郎が、仕事場で倒れているのを、仕事仲間が見つけました。
 
 仕事仲間は駆けつけて、
「大丈夫か?」
 その身体を起こしました。

「ああ……」
 終わらせ太郎は苦しげでしたが、穏やかな表情でもありました。

「今、医者を呼ぶからな。頑張れ!」
 そう慌てる仕事仲間の耳に、終わらせ太郎の声が聞こえてきました。
「終わる……」

「え?」
 聞き返すと、終わらせ太郎は微笑んで、
「やっと、終わるんだよ……」

 仕事仲間は、終わらせ太郎のどこか満足な表情を見ながら、思い出しました。
 終わらせ太郎の口癖を――『仕事は始めたら終わるんだよ』

 終わらせ太郎は『終わる』ために行動していた。
『終わる』ことこそ、彼の仕事をする『モチベーション』だったのではないか。
 そう仕事仲間は考えました。
 そして、今、彼は『満足げ』な表情で、『やっと終わる』と言っている……

『何』が終わると言っている?

『人生』と頭に浮かんで、仕事仲間はゾッとしました。
 そして、
「何言ってんだ! 頑張れ!」
 穏やかな微笑みをたたえる終わらせ太郎を励ましました。

 
 ――

 その後、終わらせ太郎は、お医者さんの手によって、一命を取り留めました。

 倒れている彼を発見した仕事仲間によって、終わらせ太郎が『人生が終わること』に何だか安堵のようなものを感じていた様子が、他の仕事仲間達にも伝えられました。

「ずいぶん無理をさせてしまっていたんだな……」
 終わらせ太郎の仕事仲間は、彼に仕事を押しつけた経験がある者がほとんどでしたので、皆、後悔しました。

 その後、終わらせ太郎は元気になり、仕事に復帰しましたが、相変わらず誰よりも早く仕事を終わらせることができますが、仕事仲間はこれまでのようにさらに仕事を頼むことを止めました。

 終わらせ太郎から『手伝うよ』と言われたときだけ、『これぐらいなら負担にならないかな』と言う量の仕事をしてもらうようにしました。

 これまで終わらせ太郎は『仕事を手伝ってもらえる』と言う面でも仕事仲間にとってとても頼れる存在ではありましたが。

 皆は何よりも、終わらせ太郎の、勤勉な様子に励まされていたことに気付いたので、また無理をさせて終わらせ太郎を失ってはいけないと思ったのです。




 ――終――
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