伝説の勇者(仮)の道具屋ライフ

蒼井 くじら

文字の大きさ
11 / 34

スライムリンチ

しおりを挟む
「うし、じゃあ行くか」
 
 道具屋の前に『休業中』の札を立てかけたヴァルは、いよいよ冒険への第一歩を踏み出す。
 見送ってくれる人間は誰もいない。
 勿論、仲間もいない。
 それでも、ヴァルの胸はかつてないほど期待で膨らんでいた。
 ずっと夢見続けてきた冒険の旅。
 その夢が叶おうとしているのだから。

「さらばだ、ジュネール城下町。またいつか会う日まで」
 
 ヴァルは城下町を出る。
 最初の目的地は決まっていた。
『洗礼の洞窟』
 元はラビリンスだったそうだが、とっくに攻略され、今は新米勇者の登竜門として利用されている洞窟である。最奥にあるポータルクリスタルからは各大陸へワープすることができるため、ほとんどの勇者と冒険者は、最初にこの洞窟を訪れることになる。言ってみれば、勇者としてのチュートリアルダンジョンみたいなものだ。
 ヴァルにとって、無論洗礼の洞窟へ足を踏み入れるのは初めての体験。だが、酒場の冒険者たちからは、この洞窟の情報を何度も聞いたことがある。
 生息するモンスターは、基本的に雑魚ばかり。少し腕に自信のある者ならば、単独でも小一時間ばかりで、ポータルクリスタルまで辿り着ける。そのように聞いていた。つまりは、楽勝なダンジョンというわけである。

「う~ん、とりあえずどこの大陸に飛ぶか……。いきなり寒いとこや暑いとこはなるべく避けたいな。そういう場所は、雰囲気的にもうちょっと強くなってからだろうし……」
 
 ヴァルはこの洞窟で苦戦することなど微塵も考えていなかった。故に、ポータルクリスタルでどこの大陸へ飛ぶかということばかり気にしていた。
 そんなことを考えている間に、ヴァルは洗礼の洞窟の前までやってくる。
 間近で見ると、やはり洞窟というだけあって怪しい雰囲気が漂ってきた。
 土の壁は今にも崩れてきそうで、足元の地面もぬかるんでいる。一応、ところどころに明かりは灯っているものの、全体的に薄暗く視界が悪い。
 足を踏み出すのが少しだけ躊躇われたが、ヴァルは「これこそが冒険だ!」と気合いを入れ、その身を洞窟内に身を投じた。
 思えば、ここがターニングポイントだった。
 ここでヴァルが少しでも「一人旅」の恐怖に気付いていれば、この後の悲劇は防げたかもしれない。
 しかし、テンションの上がりきっていたヴァルは、特に何も考えず洞窟の中を進む。
 そして、その時はすぐに訪れる。
 目の前にモンスターが現れた。
 ヴァルの前に立ちはだかったのは、緑色をしたゼリー状のモンスター。所謂『スライム』だった。基本中の基本モンスター。ヴァルは腰の剣を抜いて応戦する。

「はっ、やっぱ最初の戦闘は基本のスライムからってか? まあ、いいや。あっというまに、一刀両断――!?」
 
 そこでヴァルはようやく気付く。薄暗くて見えなかったが、スライムは複数匹いる。それも二匹や三匹ではない。ざっと数えただけでも五匹は視認できた。もしかすると、奥にもう何匹かいるかもしれない。
 ここで「逃げる」という選択ができていれば、最悪の事態は回避できたかもしれない。だが、初めての戦闘で、しかもスライム相手に背中を見せるなどという選択肢は、ヴァルの頭に一欠片も存在していなかった。
 故に、ヴァルはスライムの群れに自分から突っ込んでいく。

「うらあ! このっ! くたばれ!」
 
 ヴァルはやみくもに剣を振るう。
 動きの遅いスライムには簡単に攻撃がヒットしたが、スライムの数はなかなか減らない。
 気が付くと、ヴァルはスライムに取り囲まれてしまってきた。
 こうなってしまっては、最早逃げることもできない。
 そして、地獄が始まった……。

「この、いい加減に――痛ッ!?」
 
 スライムDによる背後からのタックルがヴァルに直撃。ヴァルは3のダメージを受けた。

「よくもやってくれ――ぐはっ!!」
 
 さらにスライムBのタックル。ヴァルは4のダメージを受けた。

「ちょ、そういう数の暴力はやめ――ぐえっ!!」
 
 当然、スライムがヴァルの言葉を聞くはずもなく、スライムFがまたもタックル。ヴァルは5のダメージを受けた。
 その後も、大量のスライムにサンドバッグにされるヴァル。
 しかし、ヴァルだって殴られっぱなしではない。
 傷を負ったなら、回復をすればいいのだ。

「スライムごときに倒される俺じゃねえんだよ! ここは薬草を使わせてもらうぜ」
 
 ヴァルは薬草を使い、体力を回復させる。
 けれど、その間もスライムたちの容赦ない攻撃は続く。
 スライムAの攻撃、ヴァルは3のダメージを受けた。
 スライムBの攻撃、ヴァルは2のダメージを受けた。
 スライムCの攻撃、ヴァルは3のダメージを受けた。
 スライムDの……。
 一方的にダメージを受け続けるため、ヴァルは回復から攻撃に移ることができない。
 これが一人旅の恐ろしさ……。
 仲間がいれば、ダメージも分散されるうえ、『回復』『攻撃』『補助』と役割を分担できるが、一人旅の場合はこれら全てを自分一人で行わなければならない。
 スライムにド突かれながら、ヴァルは仲間の大切さを認識した。
 しかし、認識したからといって、現状が何か変わるわけがない。

「スライムごときが調子に乗るなよ。こっちは道具屋なんだ! 薬草なら無限に使えるんだよ!」
 
 道具屋スキル『無限の緑』によって、ヴァルの薬草使用回数に制限はない。
 しかし、このスキルがヴァルを更なる地獄へと突き落とす……。

『ダメージを受ける→薬草を使う』
 
 攻撃をする暇がないヴァルは、この無限ループにはまってしまった。
 薬草を使わずに攻勢に出れば、その後の集中攻撃でヴァルはお陀仏。
 起死回生のアイテムも、全体に攻撃できる魔法もない。
 終わることの無いスライムリンチが、この洗礼の洞窟で始まった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...