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スライムリンチ
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「うし、じゃあ行くか」
道具屋の前に『休業中』の札を立てかけたヴァルは、いよいよ冒険への第一歩を踏み出す。
見送ってくれる人間は誰もいない。
勿論、仲間もいない。
それでも、ヴァルの胸はかつてないほど期待で膨らんでいた。
ずっと夢見続けてきた冒険の旅。
その夢が叶おうとしているのだから。
「さらばだ、ジュネール城下町。またいつか会う日まで」
ヴァルは城下町を出る。
最初の目的地は決まっていた。
『洗礼の洞窟』
元はラビリンスだったそうだが、とっくに攻略され、今は新米勇者の登竜門として利用されている洞窟である。最奥にあるポータルクリスタルからは各大陸へワープすることができるため、ほとんどの勇者と冒険者は、最初にこの洞窟を訪れることになる。言ってみれば、勇者としてのチュートリアルダンジョンみたいなものだ。
ヴァルにとって、無論洗礼の洞窟へ足を踏み入れるのは初めての体験。だが、酒場の冒険者たちからは、この洞窟の情報を何度も聞いたことがある。
生息するモンスターは、基本的に雑魚ばかり。少し腕に自信のある者ならば、単独でも小一時間ばかりで、ポータルクリスタルまで辿り着ける。そのように聞いていた。つまりは、楽勝なダンジョンというわけである。
「う~ん、とりあえずどこの大陸に飛ぶか……。いきなり寒いとこや暑いとこはなるべく避けたいな。そういう場所は、雰囲気的にもうちょっと強くなってからだろうし……」
ヴァルはこの洞窟で苦戦することなど微塵も考えていなかった。故に、ポータルクリスタルでどこの大陸へ飛ぶかということばかり気にしていた。
そんなことを考えている間に、ヴァルは洗礼の洞窟の前までやってくる。
間近で見ると、やはり洞窟というだけあって怪しい雰囲気が漂ってきた。
土の壁は今にも崩れてきそうで、足元の地面もぬかるんでいる。一応、ところどころに明かりは灯っているものの、全体的に薄暗く視界が悪い。
足を踏み出すのが少しだけ躊躇われたが、ヴァルは「これこそが冒険だ!」と気合いを入れ、その身を洞窟内に身を投じた。
思えば、ここがターニングポイントだった。
ここでヴァルが少しでも「一人旅」の恐怖に気付いていれば、この後の悲劇は防げたかもしれない。
しかし、テンションの上がりきっていたヴァルは、特に何も考えず洞窟の中を進む。
そして、その時はすぐに訪れる。
目の前にモンスターが現れた。
ヴァルの前に立ちはだかったのは、緑色をしたゼリー状のモンスター。所謂『スライム』だった。基本中の基本モンスター。ヴァルは腰の剣を抜いて応戦する。
「はっ、やっぱ最初の戦闘は基本のスライムからってか? まあ、いいや。あっというまに、一刀両断――!?」
そこでヴァルはようやく気付く。薄暗くて見えなかったが、スライムは複数匹いる。それも二匹や三匹ではない。ざっと数えただけでも五匹は視認できた。もしかすると、奥にもう何匹かいるかもしれない。
ここで「逃げる」という選択ができていれば、最悪の事態は回避できたかもしれない。だが、初めての戦闘で、しかもスライム相手に背中を見せるなどという選択肢は、ヴァルの頭に一欠片も存在していなかった。
故に、ヴァルはスライムの群れに自分から突っ込んでいく。
「うらあ! このっ! くたばれ!」
ヴァルはやみくもに剣を振るう。
動きの遅いスライムには簡単に攻撃がヒットしたが、スライムの数はなかなか減らない。
気が付くと、ヴァルはスライムに取り囲まれてしまってきた。
こうなってしまっては、最早逃げることもできない。
そして、地獄が始まった……。
「この、いい加減に――痛ッ!?」
スライムDによる背後からのタックルがヴァルに直撃。ヴァルは3のダメージを受けた。
「よくもやってくれ――ぐはっ!!」
さらにスライムBのタックル。ヴァルは4のダメージを受けた。
「ちょ、そういう数の暴力はやめ――ぐえっ!!」
当然、スライムがヴァルの言葉を聞くはずもなく、スライムFがまたもタックル。ヴァルは5のダメージを受けた。
その後も、大量のスライムにサンドバッグにされるヴァル。
しかし、ヴァルだって殴られっぱなしではない。
傷を負ったなら、回復をすればいいのだ。
「スライムごときに倒される俺じゃねえんだよ! ここは薬草を使わせてもらうぜ」
ヴァルは薬草を使い、体力を回復させる。
けれど、その間もスライムたちの容赦ない攻撃は続く。
スライムAの攻撃、ヴァルは3のダメージを受けた。
スライムBの攻撃、ヴァルは2のダメージを受けた。
スライムCの攻撃、ヴァルは3のダメージを受けた。
スライムDの……。
一方的にダメージを受け続けるため、ヴァルは回復から攻撃に移ることができない。
これが一人旅の恐ろしさ……。
仲間がいれば、ダメージも分散されるうえ、『回復』『攻撃』『補助』と役割を分担できるが、一人旅の場合はこれら全てを自分一人で行わなければならない。
スライムにド突かれながら、ヴァルは仲間の大切さを認識した。
しかし、認識したからといって、現状が何か変わるわけがない。
「スライムごときが調子に乗るなよ。こっちは道具屋なんだ! 薬草なら無限に使えるんだよ!」
道具屋スキル『無限の緑』によって、ヴァルの薬草使用回数に制限はない。
しかし、このスキルがヴァルを更なる地獄へと突き落とす……。
『ダメージを受ける→薬草を使う』
攻撃をする暇がないヴァルは、この無限ループにはまってしまった。
薬草を使わずに攻勢に出れば、その後の集中攻撃でヴァルはお陀仏。
起死回生のアイテムも、全体に攻撃できる魔法もない。
終わることの無いスライムリンチが、この洗礼の洞窟で始まった。
道具屋の前に『休業中』の札を立てかけたヴァルは、いよいよ冒険への第一歩を踏み出す。
見送ってくれる人間は誰もいない。
勿論、仲間もいない。
それでも、ヴァルの胸はかつてないほど期待で膨らんでいた。
ずっと夢見続けてきた冒険の旅。
その夢が叶おうとしているのだから。
「さらばだ、ジュネール城下町。またいつか会う日まで」
ヴァルは城下町を出る。
最初の目的地は決まっていた。
『洗礼の洞窟』
元はラビリンスだったそうだが、とっくに攻略され、今は新米勇者の登竜門として利用されている洞窟である。最奥にあるポータルクリスタルからは各大陸へワープすることができるため、ほとんどの勇者と冒険者は、最初にこの洞窟を訪れることになる。言ってみれば、勇者としてのチュートリアルダンジョンみたいなものだ。
ヴァルにとって、無論洗礼の洞窟へ足を踏み入れるのは初めての体験。だが、酒場の冒険者たちからは、この洞窟の情報を何度も聞いたことがある。
生息するモンスターは、基本的に雑魚ばかり。少し腕に自信のある者ならば、単独でも小一時間ばかりで、ポータルクリスタルまで辿り着ける。そのように聞いていた。つまりは、楽勝なダンジョンというわけである。
「う~ん、とりあえずどこの大陸に飛ぶか……。いきなり寒いとこや暑いとこはなるべく避けたいな。そういう場所は、雰囲気的にもうちょっと強くなってからだろうし……」
ヴァルはこの洞窟で苦戦することなど微塵も考えていなかった。故に、ポータルクリスタルでどこの大陸へ飛ぶかということばかり気にしていた。
そんなことを考えている間に、ヴァルは洗礼の洞窟の前までやってくる。
間近で見ると、やはり洞窟というだけあって怪しい雰囲気が漂ってきた。
土の壁は今にも崩れてきそうで、足元の地面もぬかるんでいる。一応、ところどころに明かりは灯っているものの、全体的に薄暗く視界が悪い。
足を踏み出すのが少しだけ躊躇われたが、ヴァルは「これこそが冒険だ!」と気合いを入れ、その身を洞窟内に身を投じた。
思えば、ここがターニングポイントだった。
ここでヴァルが少しでも「一人旅」の恐怖に気付いていれば、この後の悲劇は防げたかもしれない。
しかし、テンションの上がりきっていたヴァルは、特に何も考えず洞窟の中を進む。
そして、その時はすぐに訪れる。
目の前にモンスターが現れた。
ヴァルの前に立ちはだかったのは、緑色をしたゼリー状のモンスター。所謂『スライム』だった。基本中の基本モンスター。ヴァルは腰の剣を抜いて応戦する。
「はっ、やっぱ最初の戦闘は基本のスライムからってか? まあ、いいや。あっというまに、一刀両断――!?」
そこでヴァルはようやく気付く。薄暗くて見えなかったが、スライムは複数匹いる。それも二匹や三匹ではない。ざっと数えただけでも五匹は視認できた。もしかすると、奥にもう何匹かいるかもしれない。
ここで「逃げる」という選択ができていれば、最悪の事態は回避できたかもしれない。だが、初めての戦闘で、しかもスライム相手に背中を見せるなどという選択肢は、ヴァルの頭に一欠片も存在していなかった。
故に、ヴァルはスライムの群れに自分から突っ込んでいく。
「うらあ! このっ! くたばれ!」
ヴァルはやみくもに剣を振るう。
動きの遅いスライムには簡単に攻撃がヒットしたが、スライムの数はなかなか減らない。
気が付くと、ヴァルはスライムに取り囲まれてしまってきた。
こうなってしまっては、最早逃げることもできない。
そして、地獄が始まった……。
「この、いい加減に――痛ッ!?」
スライムDによる背後からのタックルがヴァルに直撃。ヴァルは3のダメージを受けた。
「よくもやってくれ――ぐはっ!!」
さらにスライムBのタックル。ヴァルは4のダメージを受けた。
「ちょ、そういう数の暴力はやめ――ぐえっ!!」
当然、スライムがヴァルの言葉を聞くはずもなく、スライムFがまたもタックル。ヴァルは5のダメージを受けた。
その後も、大量のスライムにサンドバッグにされるヴァル。
しかし、ヴァルだって殴られっぱなしではない。
傷を負ったなら、回復をすればいいのだ。
「スライムごときに倒される俺じゃねえんだよ! ここは薬草を使わせてもらうぜ」
ヴァルは薬草を使い、体力を回復させる。
けれど、その間もスライムたちの容赦ない攻撃は続く。
スライムAの攻撃、ヴァルは3のダメージを受けた。
スライムBの攻撃、ヴァルは2のダメージを受けた。
スライムCの攻撃、ヴァルは3のダメージを受けた。
スライムDの……。
一方的にダメージを受け続けるため、ヴァルは回復から攻撃に移ることができない。
これが一人旅の恐ろしさ……。
仲間がいれば、ダメージも分散されるうえ、『回復』『攻撃』『補助』と役割を分担できるが、一人旅の場合はこれら全てを自分一人で行わなければならない。
スライムにド突かれながら、ヴァルは仲間の大切さを認識した。
しかし、認識したからといって、現状が何か変わるわけがない。
「スライムごときが調子に乗るなよ。こっちは道具屋なんだ! 薬草なら無限に使えるんだよ!」
道具屋スキル『無限の緑』によって、ヴァルの薬草使用回数に制限はない。
しかし、このスキルがヴァルを更なる地獄へと突き落とす……。
『ダメージを受ける→薬草を使う』
攻撃をする暇がないヴァルは、この無限ループにはまってしまった。
薬草を使わずに攻勢に出れば、その後の集中攻撃でヴァルはお陀仏。
起死回生のアイテムも、全体に攻撃できる魔法もない。
終わることの無いスライムリンチが、この洗礼の洞窟で始まった。
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