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ダーク勇者の結末
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「ぶほっ、ぐはっ、はあはあ……くそっ! こ、この俺がまさかスライムなんかに……」
ヴァルの脳裏に、このまま一生スライムにリンチされ続ける未来が浮かぶ。
『勇者ヴァル=ブルーイット、洗礼の洞窟にてスライムに倒される』
そんな恥ずかしい記事の見出しすら浮かんでくる。
(く、くそ……どうする? 一か八か逃げ出すか? いや、それもこの囲まれた状況じゃ成功する可能性が限りなく低い……。もういっそ一回死んで、城からやり直した方が……)
そう思った瞬間だった。
「はああああああああああああ!」
突如聞こえてきた声と共に、ヴァルに飛びかかってきていたスライムが真っ二つに斬り伏せられた。
「大丈夫ですか?」
ヴァルにそう声を掛けてくれたのは、ヴァルと同じくらいの女の子だった。
否、ヴァルには直感的に分かった。
目の前の彼女もヴァルと同じ紋章を授かった勇者なのだ、と。
おそらく彼女も新米勇者で、これから洗礼の洞窟を通って別大陸へ旅立つところなのだろう。
「ここは私に任せて!」
「え、いや、でも――」
ヴァルが「君も新米だろ」と言おうとした瞬間、彼女の手にした剣がバチバチと音を立てて輝き出した。
「雷よ、敵を討て!」
剣を振りかざすと、紫色の稲妻が迸り、スライムたちに向かっていく。
一瞬で黒コゲにされるスライムたち。
直撃を避けたスライムたちも、今の一撃に畏怖したのか散り散りになって逃げ出していく。
「ふう……これでよしっと。あっ、大丈夫でしたか?」
彼女は剣を仕舞い、呆気にとられているヴァルに声を掛けてくる。
近くで見ると、やはりまだあどけなさが残るヴァルと同い年くらいの少女に見えた。
「あ、ありがとう……おかげで助かったよ」
また女の子に助けられた悔しさはあるが、ここは素直にお礼の言葉を述べる。
「怪我はしていませんか?」
「……大丈夫。薬草ならたくさん持ってるから」
嘘ではないが、すごく虚しくなる台詞だった。
「そうですか。でも、無事でなによりです。私も冒険初日から、こうして人助けができて良かった」
「えっ?」
彼女の言葉にヴァルは引っ掛かりを覚える。
「どうかしましたか?」
「あ、いや、君も……君はひょっとして今日旅立ったばかりの勇者なのか?」
「そうですよ。先ほどジュネール王に謁見して、城下町を出てきたばかりですが、それが何か?」
彼女はきょとんとした顔をしているが、ヴァルは疑問に思う。
彼女が持っている剣は、全体攻撃が可能な強力な武器。
なぜ今日冒険の旅に出たばかりの彼女が、そんな凄い武器を持っているのか。
「そ、そうなんだ。じゃあ、その武器は一体どこで――」
「おーい! 勇者殿―! どこですかー?」
その時、聞き覚えのある嫌な声がヴァルの耳に届いた。
「あ、はーい! ここにいますよー!」
彼女が大きな声で返事をすると、洞窟の曲がり角から現れたのは、王様の隣に立っていたあのエリート兵士だった。
「勇者殿、急に走っていなくなってしまうので焦りましたよ」
「ごめんなさい。人の声が聞こえたような気がして、いてもたってもいられず。でも、そのおかげでモンスターに襲われていた彼を助けることができました」
「おお、そうだったのですか! さすが勇者ど――んん!?」
そこで兵士はヴァルの方へ顔を、向け目を細めた。
「おや? 誰かと思えば、伝説の勇者を夢見ている道具屋君じゃないか。仕事をサボってこんなところで一体何をしているのかね?」
「それはお前だって同じだろうが。兵士のお前がなんでこんなところに来てんだよ?」
「俺はちゃんとした仕事だ。王様に命じられて、勇者殿をこの先のポータルクリスタルまで護衛しているのだよ」
「ご、護衛……だと? しかも、王様の命令で……? なんなんだよ、そのVIP待遇は……はっ! も、もしかして、彼女が使っている剣も王が……?」
「あ、はい。そうですよ。王家に伝わる宝らしいのですが、私の門出を祝ってプレゼントしてくれたんです。他にも冒険に必要なものは全て用意してくれて、ジュネール王は本当に素敵な王様ですよね」
にっこりと微笑む彼女。よく見ると、とても可愛らしい顔をしている。この特別待遇の理由が、ヴァルにははっきりと理解できた。
「くそっ、あのエロハゲオヤジ! 俺の時とはえらい違いじゃねえか! 男女差別で訴えるぞ!」
「あっ、とういことは、あなたも勇者なんですか?」
「えっ? あ、そ、それは……」
彼女の問いかけに対し、ヴァルは言葉を詰まらせる。
「ハハハ、勇者殿、なにを言っておられるのですか。こんなどこにでもいそうな少年が勇者なわけありませんよ。彼は勇者に憧れているだけの街の道具屋です」
「おい、ふざけんなよエリート兵士!」
「ちょっと強めのモブキャラみたいに言うな! 少なくとも道具屋のお前よりはキャラが立っているわ!」
「このやろう……。いいぜ、それなら見せてやるよ!」
ヴァルは二人の前に右手を出す。《戦勇の紋章》が刻まれた右手を。
これで彼女もヴァルのことを勇者だと認識すると思っていた。
しかし、彼女はなぜか不思議そうな顔でヴァルの紋章を見つめる。
「あなたの紋章、私の紋章とは違いますね」
「はっ? 違う?」
「はい。ほら」
彼女は服の袖をめくり、そこにあった紋章をヴァルに見せてきた。見ると、確かにヴァルの紋章にはない線が浮かび上がっていた。
「ほ、本当だ。《戦勇の紋章》っていうのはみんな同じだと思っていたけど、人によって違うのか……?」
しかし、アメリアの紋章もヴァルと同じだったはずだ。となると、彼女の方がヴァルたちと紋章の形が違うということになるのだろうか。
しかし、そこでまたエリート兵士がヴァルを馬鹿にするような笑い声をあげる。
「ハハハハハ、違って当然ですよ。だって、《戦勇の紋章》は《王の加護》を受けて、その形を変化させるものですから」
聞き覚えの無いワードが出てきた。《王の加護》とは一体……。
「おい、なんだよ《王の加護》って? 俺はそんな言葉聞いたことねえぞ」
「当然だ。《王の加護》は、これから冒険に旅立つ勇者にのみ与えられるものだからな。《王の加護》があるからこそ、勇者は例え冒険の最中に力尽きても再び王の御前で蘇ることができるのだ」
「なっ!? そ、そうだったの!?」
ヴァルの背中が一気に冷たくなる。
もし、ヴァルがあのままスライムにやられていたら、ヴァルの生涯はそこで終わっていたことになる。この時ばかりは、ネタにされっぱなしの薬草に感謝せずにはいられなかった。
「つか、王様ってふんぞり返っているだけのエロハゲオヤジじゃなかったんだな」
「お前は王様のことを何だと思っていたのだ。王様はああ見えて、偉大な力を持ったエロハゲオヤジなのだぞ」
部下にまでエロハゲオヤジだと認識されている王様が、少し不憫に思えた。
だが、これで長年疑問に思っていた『なぜ勇者は旅立つ際に必ず王様に会いに行くのか?』という謎が解けた。まさかそんなカラクリがあったとは、世の中にはまだまだヴァルの知らないことがたくさんある。
「ということは、あなたはまだ王様に謁見してない勇者ということですね?」
「あ、いや、謁見はしたんだけど……」
「ハハハ、彼の紋章はシールですよ、シール! 最近子供たちの間で流行っているみたいなんです、紋章シール! 『君も今日から勇者になれる!』なんてキャッチコピーがついてましてね」
人の紋章をシール扱いする兵士に、ヴァルは軽く殺意を覚えた。
「では、なぜ彼はこの洗礼の洞窟に?」
「思い出してください、勇者殿。ここへ来る前、我々は冒険の準備をするため道具屋へ立ち寄ってきましたよね?」
「ええ。でも、確か『休業中』の札が掛かっていて」
「つまりですね、ここで彼を助けたことによって街の道具屋が使用可能になる、という我々が用意した『クエスト』なのです」
強い決意のもと敢行されたヴァルの旅立ちが、クエスト扱いされた瞬間だった。そして――。
「おめでとうございます、勇者殿。これで初めてのクエスト『勇者に憧れる無謀な道具屋』は見事クリアです。ハハハハハハ」
「いい加減にしろよ、このくそ兵士いいいいいいいいいいいい!」
高らかに笑う兵士に、ヴァルは本物の殺意を覚える。
これまでたくさん馬鹿にされてきたヴァルだが、ここまで馬鹿にされたのは初めての経験だった。
「これで街の道具屋が使用可能になりますが、いかがいたしましょうか、勇者殿。一度戻って旅の支度をすることもできますが?」
「いえ、このままポータルクリスタルを目指しましょう。幸い、良い武具をもらったおかげでこの辺りのモンスターは敵になりません。戻っている時間が惜しいです」
「ですよね。それじゃあ、道具屋君、我々は先を急ぐので気をつけて帰るのだよ。ハハハハハ」
癪に障る兵士の笑い声を聞きながら、ヴァルは怒りを堪えて考える。
色々と腹立たしいことはあったが、ヴァルのダークヒーローへの道が閉ざされたわけではない。
しかし、《王の加護》という新事実が発覚したことで、その道は無謀とも言えるものへと変貌してしまった。
ヴァルは一度死んだら、それで終わり。一度のミスも許されず、加えてずっと一人で戦い続けなければならないのだ。よほどのマゾヒストでもこんな挑戦はしないだろう。
けれど、ここで引き返せば、ヴァルはまた道具屋としての日々を過ごさなくてならなくなる。
(ぐ……それだけは嫌だ……。でも、今の状態で冒険を続けるのは、あまりにも……)
そんな葛藤がヴァルの胸中で渦巻く中――。
「あっ、そうそう!」
兵士がヴァルの方を振り返った。
「こっそりついて来ても無駄だぞ、道具屋君。ポータルクリスタルは《王の加護》を受けた勇者しか使用できない決まりになってるからな。危険を冒して奥まで進んでも門前払いをくらうだけだ。大人しく街へ帰れよ」
それだけ告げると、兵士は女勇者と共に洞窟の奥へと消えていった。
こうなっては、ヴァルにはもう街へ戻る以外の選択が残されていない。
こうしてヴァルのダーク勇者計画は、スライムにボコられただけという結果を残して、あえなく頓挫したのだった。
ヴァルの脳裏に、このまま一生スライムにリンチされ続ける未来が浮かぶ。
『勇者ヴァル=ブルーイット、洗礼の洞窟にてスライムに倒される』
そんな恥ずかしい記事の見出しすら浮かんでくる。
(く、くそ……どうする? 一か八か逃げ出すか? いや、それもこの囲まれた状況じゃ成功する可能性が限りなく低い……。もういっそ一回死んで、城からやり直した方が……)
そう思った瞬間だった。
「はああああああああああああ!」
突如聞こえてきた声と共に、ヴァルに飛びかかってきていたスライムが真っ二つに斬り伏せられた。
「大丈夫ですか?」
ヴァルにそう声を掛けてくれたのは、ヴァルと同じくらいの女の子だった。
否、ヴァルには直感的に分かった。
目の前の彼女もヴァルと同じ紋章を授かった勇者なのだ、と。
おそらく彼女も新米勇者で、これから洗礼の洞窟を通って別大陸へ旅立つところなのだろう。
「ここは私に任せて!」
「え、いや、でも――」
ヴァルが「君も新米だろ」と言おうとした瞬間、彼女の手にした剣がバチバチと音を立てて輝き出した。
「雷よ、敵を討て!」
剣を振りかざすと、紫色の稲妻が迸り、スライムたちに向かっていく。
一瞬で黒コゲにされるスライムたち。
直撃を避けたスライムたちも、今の一撃に畏怖したのか散り散りになって逃げ出していく。
「ふう……これでよしっと。あっ、大丈夫でしたか?」
彼女は剣を仕舞い、呆気にとられているヴァルに声を掛けてくる。
近くで見ると、やはりまだあどけなさが残るヴァルと同い年くらいの少女に見えた。
「あ、ありがとう……おかげで助かったよ」
また女の子に助けられた悔しさはあるが、ここは素直にお礼の言葉を述べる。
「怪我はしていませんか?」
「……大丈夫。薬草ならたくさん持ってるから」
嘘ではないが、すごく虚しくなる台詞だった。
「そうですか。でも、無事でなによりです。私も冒険初日から、こうして人助けができて良かった」
「えっ?」
彼女の言葉にヴァルは引っ掛かりを覚える。
「どうかしましたか?」
「あ、いや、君も……君はひょっとして今日旅立ったばかりの勇者なのか?」
「そうですよ。先ほどジュネール王に謁見して、城下町を出てきたばかりですが、それが何か?」
彼女はきょとんとした顔をしているが、ヴァルは疑問に思う。
彼女が持っている剣は、全体攻撃が可能な強力な武器。
なぜ今日冒険の旅に出たばかりの彼女が、そんな凄い武器を持っているのか。
「そ、そうなんだ。じゃあ、その武器は一体どこで――」
「おーい! 勇者殿―! どこですかー?」
その時、聞き覚えのある嫌な声がヴァルの耳に届いた。
「あ、はーい! ここにいますよー!」
彼女が大きな声で返事をすると、洞窟の曲がり角から現れたのは、王様の隣に立っていたあのエリート兵士だった。
「勇者殿、急に走っていなくなってしまうので焦りましたよ」
「ごめんなさい。人の声が聞こえたような気がして、いてもたってもいられず。でも、そのおかげでモンスターに襲われていた彼を助けることができました」
「おお、そうだったのですか! さすが勇者ど――んん!?」
そこで兵士はヴァルの方へ顔を、向け目を細めた。
「おや? 誰かと思えば、伝説の勇者を夢見ている道具屋君じゃないか。仕事をサボってこんなところで一体何をしているのかね?」
「それはお前だって同じだろうが。兵士のお前がなんでこんなところに来てんだよ?」
「俺はちゃんとした仕事だ。王様に命じられて、勇者殿をこの先のポータルクリスタルまで護衛しているのだよ」
「ご、護衛……だと? しかも、王様の命令で……? なんなんだよ、そのVIP待遇は……はっ! も、もしかして、彼女が使っている剣も王が……?」
「あ、はい。そうですよ。王家に伝わる宝らしいのですが、私の門出を祝ってプレゼントしてくれたんです。他にも冒険に必要なものは全て用意してくれて、ジュネール王は本当に素敵な王様ですよね」
にっこりと微笑む彼女。よく見ると、とても可愛らしい顔をしている。この特別待遇の理由が、ヴァルにははっきりと理解できた。
「くそっ、あのエロハゲオヤジ! 俺の時とはえらい違いじゃねえか! 男女差別で訴えるぞ!」
「あっ、とういことは、あなたも勇者なんですか?」
「えっ? あ、そ、それは……」
彼女の問いかけに対し、ヴァルは言葉を詰まらせる。
「ハハハ、勇者殿、なにを言っておられるのですか。こんなどこにでもいそうな少年が勇者なわけありませんよ。彼は勇者に憧れているだけの街の道具屋です」
「おい、ふざけんなよエリート兵士!」
「ちょっと強めのモブキャラみたいに言うな! 少なくとも道具屋のお前よりはキャラが立っているわ!」
「このやろう……。いいぜ、それなら見せてやるよ!」
ヴァルは二人の前に右手を出す。《戦勇の紋章》が刻まれた右手を。
これで彼女もヴァルのことを勇者だと認識すると思っていた。
しかし、彼女はなぜか不思議そうな顔でヴァルの紋章を見つめる。
「あなたの紋章、私の紋章とは違いますね」
「はっ? 違う?」
「はい。ほら」
彼女は服の袖をめくり、そこにあった紋章をヴァルに見せてきた。見ると、確かにヴァルの紋章にはない線が浮かび上がっていた。
「ほ、本当だ。《戦勇の紋章》っていうのはみんな同じだと思っていたけど、人によって違うのか……?」
しかし、アメリアの紋章もヴァルと同じだったはずだ。となると、彼女の方がヴァルたちと紋章の形が違うということになるのだろうか。
しかし、そこでまたエリート兵士がヴァルを馬鹿にするような笑い声をあげる。
「ハハハハハ、違って当然ですよ。だって、《戦勇の紋章》は《王の加護》を受けて、その形を変化させるものですから」
聞き覚えの無いワードが出てきた。《王の加護》とは一体……。
「おい、なんだよ《王の加護》って? 俺はそんな言葉聞いたことねえぞ」
「当然だ。《王の加護》は、これから冒険に旅立つ勇者にのみ与えられるものだからな。《王の加護》があるからこそ、勇者は例え冒険の最中に力尽きても再び王の御前で蘇ることができるのだ」
「なっ!? そ、そうだったの!?」
ヴァルの背中が一気に冷たくなる。
もし、ヴァルがあのままスライムにやられていたら、ヴァルの生涯はそこで終わっていたことになる。この時ばかりは、ネタにされっぱなしの薬草に感謝せずにはいられなかった。
「つか、王様ってふんぞり返っているだけのエロハゲオヤジじゃなかったんだな」
「お前は王様のことを何だと思っていたのだ。王様はああ見えて、偉大な力を持ったエロハゲオヤジなのだぞ」
部下にまでエロハゲオヤジだと認識されている王様が、少し不憫に思えた。
だが、これで長年疑問に思っていた『なぜ勇者は旅立つ際に必ず王様に会いに行くのか?』という謎が解けた。まさかそんなカラクリがあったとは、世の中にはまだまだヴァルの知らないことがたくさんある。
「ということは、あなたはまだ王様に謁見してない勇者ということですね?」
「あ、いや、謁見はしたんだけど……」
「ハハハ、彼の紋章はシールですよ、シール! 最近子供たちの間で流行っているみたいなんです、紋章シール! 『君も今日から勇者になれる!』なんてキャッチコピーがついてましてね」
人の紋章をシール扱いする兵士に、ヴァルは軽く殺意を覚えた。
「では、なぜ彼はこの洗礼の洞窟に?」
「思い出してください、勇者殿。ここへ来る前、我々は冒険の準備をするため道具屋へ立ち寄ってきましたよね?」
「ええ。でも、確か『休業中』の札が掛かっていて」
「つまりですね、ここで彼を助けたことによって街の道具屋が使用可能になる、という我々が用意した『クエスト』なのです」
強い決意のもと敢行されたヴァルの旅立ちが、クエスト扱いされた瞬間だった。そして――。
「おめでとうございます、勇者殿。これで初めてのクエスト『勇者に憧れる無謀な道具屋』は見事クリアです。ハハハハハハ」
「いい加減にしろよ、このくそ兵士いいいいいいいいいいいい!」
高らかに笑う兵士に、ヴァルは本物の殺意を覚える。
これまでたくさん馬鹿にされてきたヴァルだが、ここまで馬鹿にされたのは初めての経験だった。
「これで街の道具屋が使用可能になりますが、いかがいたしましょうか、勇者殿。一度戻って旅の支度をすることもできますが?」
「いえ、このままポータルクリスタルを目指しましょう。幸い、良い武具をもらったおかげでこの辺りのモンスターは敵になりません。戻っている時間が惜しいです」
「ですよね。それじゃあ、道具屋君、我々は先を急ぐので気をつけて帰るのだよ。ハハハハハ」
癪に障る兵士の笑い声を聞きながら、ヴァルは怒りを堪えて考える。
色々と腹立たしいことはあったが、ヴァルのダークヒーローへの道が閉ざされたわけではない。
しかし、《王の加護》という新事実が発覚したことで、その道は無謀とも言えるものへと変貌してしまった。
ヴァルは一度死んだら、それで終わり。一度のミスも許されず、加えてずっと一人で戦い続けなければならないのだ。よほどのマゾヒストでもこんな挑戦はしないだろう。
けれど、ここで引き返せば、ヴァルはまた道具屋としての日々を過ごさなくてならなくなる。
(ぐ……それだけは嫌だ……。でも、今の状態で冒険を続けるのは、あまりにも……)
そんな葛藤がヴァルの胸中で渦巻く中――。
「あっ、そうそう!」
兵士がヴァルの方を振り返った。
「こっそりついて来ても無駄だぞ、道具屋君。ポータルクリスタルは《王の加護》を受けた勇者しか使用できない決まりになってるからな。危険を冒して奥まで進んでも門前払いをくらうだけだ。大人しく街へ帰れよ」
それだけ告げると、兵士は女勇者と共に洞窟の奥へと消えていった。
こうなっては、ヴァルにはもう街へ戻る以外の選択が残されていない。
こうしてヴァルのダーク勇者計画は、スライムにボコられただけという結果を残して、あえなく頓挫したのだった。
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