黒の解呪録 ~呪いの果ての少女~

蒼井 くじら

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南雲神社2

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 扉を開けて中へ入ると、奥に祭壇が設置されており、そこに宗介の身長と同じくらいの錫杖が祀られていた。


「あの杖がウチの神社のご神体じゃよ」
 

 少し自慢気に龍前は言う。確かに、ただの錫杖とは雰囲気が違う、と宗介も感じた。


(やっぱり普通の杖じゃないな。でも、ここからじゃよく分からない。もっと近くで、いや、何とかしてあの杖に触りたい)
 

 そう思った宗介は、隣にいた光に耳打ちする。


「……おい」
「え? なに?」
「お前、今から腹痛の振りをしろ」
「えっ? なんで? どうしてお腹が痛い振りをしなきゃいけないの?」
 

 光は訳が分からないといった顔で訊き返してくる。
 
 説明するのが面倒だった宗介は、実力行使に出ることにした。


「もういい。とりあえず、これから一言も喋らずにトイレに行って戻ってこい」
 

 それだけ言って、宗介は光のお腹を摘み思いきりつねった。


「痛っっっっったいっ!」
 

 宗介の思惑通り、光はお腹を押さえて悲鳴にも似た声をあげる。


「おや、どうなされた?」
 

 龍前も心配そうな顔を宗介たちの方へと向けてきた。


「なんかこいつ、急にお腹が痛くなったみたいで」
「それはイカンのう。厠はここを出て――」
「あっ、こいつ、すっげえ方向音痴だから、トイレまで案内してやってくれないか? 途中で漏らされたらジイさんも困るだろう?」
 

 宗介が言うと、光はお腹を押さえながら涙目で睨んできた。まあ、年頃の女の子が漏れるだの何だのと言われるのは、心に堪えるのだろう。宗介の知ったことではないが。


「そういうことなら仕方ないのう。では、ワシが戻るまでここを見張っておいてくれるか?」
「ああ。任せておけよ」
「では、お嬢さん。こっちじゃ」
 

 龍前に連れられ、外へと出ていく光。宗介の前を通り過ぎる時、彼女はもう一度恨めしそうな視線を宗介へ向けてきた。
 
 少し可哀相な気もしたが、これで邪魔者はいなくなった。宗介は二人が本殿から見えなくなるのを確認して祭壇へと近づく。そして、ゆっくりと手を伸ばし、祀られている錫杖を握った。


(やっぱりそうか……。この杖には霊力が宿っている)
 

 目の前にある錫杖は、間違いなく霊具だった。この杖を作る段階で製作者が霊力を込めたのか、はたまた使用者の霊力が杖に染み込んだのかは定かではない。だが、どちらにしろ、この錫杖は宗介と同種の『人間』のために作られたものだ。つまり、オワラ様は実在した人間であり、なおかつ宗介たちと同じく『除霊師』だったということになる。


(いや、ひょっとすると……)
 

 考えを巡らせながらその後も錫杖を調べていると、しばらくして外の方から足音が聞こえた。
 
 宗介は祭壇を離れ、戻ってきた二人を出迎える。
 
 光は顔こそ笑っていたが、目は全くと言っていいほど笑っていなかった。
 
 どうやら心に深い傷を負ったらしい。
 
 だが、その傷に見合うだけの情報は得られた、と宗介は思う。




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