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異変
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その後は、適当に世間話をしつつ拝殿の前まで戻ってきた。
「じゃあ、俺たちはこれで。色々話を聞かせてくれてありがとう」
「ほっほっ、なんのなんの。若いモンと話ができて、ワシも楽しかったわい。また、いつでも来るがええ」
別れの挨拶を済ませ立ち去ろうと思ったが、ここでふと宗介にある考えが浮かんだ。
宗介は足を止め、穏やかな顔をした龍前にもう一度向き直る。
「あっ、そうだ。最後にもう一つ訊きたいんだけどさ」
「何じゃい?」
「この村でオワラ様を祀っている場所って、ここだけ?」
宗介が尋ねると、一瞬だけ龍前の顔が強張った気がした。
「うむ、そうじゃよ。キヨさんのように個人で熱心に信仰しておる者はおるが、正式にオワラ様を神様として祀っているのはうちの神社だけじゃ」
龍前はすぐに柔らかな表情を取り戻して答えた。
「……そっか。どうもな」
宗介は軽く手を上げて、今度こそ龍前に別れを告げる。
隣を歩いていた光は神社の境内を出るまではニコニコしていたが、龍前の姿が見えなくなるやいなや、キッと宗介を睨みつけてきた。
「宗介君、酷過ぎるよ! 何の説明も無しに、いきなりあんなことをするなんて! 私がどれだけ恥ずかしい思いをしたか分かってる? 私だって一応女の子なんだから、もう少しデリカシーや気遣いってものを――」
土石流のように吐き出されるお小言。少しお腹をつねったくらいでこれだ。ただでさえ蒸し暑くて不快なのに、耳に届く金切り声のせいで頭まで痛くなってきた。
宗介は内心で「これだから女は……」と愚痴をこぼす。
「うるせえなあ。大体なあ、摘まめるくらいの腹であることを、まずは恥ずかしく思った方がいいんじゃねえのか?」
石畳の階段を降り切ったところで宗介が皮肉を返すと、光の顔がみるみるうちに赤く染まっていった。
「なっ、なっ……なんで宗介君はそんなに無神経なことを平然と言えるの!? もう、本当に信じられない!! そんなんじゃ絶対女の子にモテないよ!!」
「俺は女にモテたいだなんて微塵も思っちゃいねえよ。それよりお前の方こそ『顔は悪くないのに脱がしてみたらがっかり』な女になるんじゃねえの?」
「あ~もう、どうしてそんな酷いことが言えるの!? 私はお姉さんだからまだ我慢してあげるけど、泣かれてもおかしくないことを言ってるのは自覚してよ!」
そんな会話をしながら、宗介たちは炎天下の中、桜荘へと歩く。
だが、その時――。
「全く、宗介君は――」
光がまた何か文句を言いかけた瞬間、突如、宗介の視界がぐにゃりと歪んだ。
強烈な眩暈。
地面が激しく波打っているように感じて、宗介は膝を折る。
同時に、右肩がじゅくじゅくと疼き、皮膚の下を蟲が這っているような不快感を覚えた。
「えっ!? ちょ、そ、宗介君!?」
光の動揺した声が耳に届いたが、宗介は立ち上がることができない。
「ど、どうしよう、熱中症かな? こういう時ってどうすれば……」
「……だい、じょうぶ……だ……」
宗介は何とかそれだけ言葉を返す。
自分の身体のことだ。今の状態が熱中症によるものでないことくらいは分かる。
「とても大丈夫には見えないよ……と、とりあえず日陰に行こう! あっ、ほら、あそこにバス停があるから、あそこに座って少し休もう」
宗介は光に肩を貸してもらい、近くのバス停へと移動する。その間も肩の疼きは治まらず、むしろ痛みが背中や腕の方へ広がっているような気がした。
「宗介君、顔が真っ白だよ。それに、すごい汗……。ちょっと待ってて。近くで飲み物が売ってないか探してくるから」
宗介をベンチに座らせると、光は小走りで駆けていった。
「じゃあ、俺たちはこれで。色々話を聞かせてくれてありがとう」
「ほっほっ、なんのなんの。若いモンと話ができて、ワシも楽しかったわい。また、いつでも来るがええ」
別れの挨拶を済ませ立ち去ろうと思ったが、ここでふと宗介にある考えが浮かんだ。
宗介は足を止め、穏やかな顔をした龍前にもう一度向き直る。
「あっ、そうだ。最後にもう一つ訊きたいんだけどさ」
「何じゃい?」
「この村でオワラ様を祀っている場所って、ここだけ?」
宗介が尋ねると、一瞬だけ龍前の顔が強張った気がした。
「うむ、そうじゃよ。キヨさんのように個人で熱心に信仰しておる者はおるが、正式にオワラ様を神様として祀っているのはうちの神社だけじゃ」
龍前はすぐに柔らかな表情を取り戻して答えた。
「……そっか。どうもな」
宗介は軽く手を上げて、今度こそ龍前に別れを告げる。
隣を歩いていた光は神社の境内を出るまではニコニコしていたが、龍前の姿が見えなくなるやいなや、キッと宗介を睨みつけてきた。
「宗介君、酷過ぎるよ! 何の説明も無しに、いきなりあんなことをするなんて! 私がどれだけ恥ずかしい思いをしたか分かってる? 私だって一応女の子なんだから、もう少しデリカシーや気遣いってものを――」
土石流のように吐き出されるお小言。少しお腹をつねったくらいでこれだ。ただでさえ蒸し暑くて不快なのに、耳に届く金切り声のせいで頭まで痛くなってきた。
宗介は内心で「これだから女は……」と愚痴をこぼす。
「うるせえなあ。大体なあ、摘まめるくらいの腹であることを、まずは恥ずかしく思った方がいいんじゃねえのか?」
石畳の階段を降り切ったところで宗介が皮肉を返すと、光の顔がみるみるうちに赤く染まっていった。
「なっ、なっ……なんで宗介君はそんなに無神経なことを平然と言えるの!? もう、本当に信じられない!! そんなんじゃ絶対女の子にモテないよ!!」
「俺は女にモテたいだなんて微塵も思っちゃいねえよ。それよりお前の方こそ『顔は悪くないのに脱がしてみたらがっかり』な女になるんじゃねえの?」
「あ~もう、どうしてそんな酷いことが言えるの!? 私はお姉さんだからまだ我慢してあげるけど、泣かれてもおかしくないことを言ってるのは自覚してよ!」
そんな会話をしながら、宗介たちは炎天下の中、桜荘へと歩く。
だが、その時――。
「全く、宗介君は――」
光がまた何か文句を言いかけた瞬間、突如、宗介の視界がぐにゃりと歪んだ。
強烈な眩暈。
地面が激しく波打っているように感じて、宗介は膝を折る。
同時に、右肩がじゅくじゅくと疼き、皮膚の下を蟲が這っているような不快感を覚えた。
「えっ!? ちょ、そ、宗介君!?」
光の動揺した声が耳に届いたが、宗介は立ち上がることができない。
「ど、どうしよう、熱中症かな? こういう時ってどうすれば……」
「……だい、じょうぶ……だ……」
宗介は何とかそれだけ言葉を返す。
自分の身体のことだ。今の状態が熱中症によるものでないことくらいは分かる。
「とても大丈夫には見えないよ……と、とりあえず日陰に行こう! あっ、ほら、あそこにバス停があるから、あそこに座って少し休もう」
宗介は光に肩を貸してもらい、近くのバス停へと移動する。その間も肩の疼きは治まらず、むしろ痛みが背中や腕の方へ広がっているような気がした。
「宗介君、顔が真っ白だよ。それに、すごい汗……。ちょっと待ってて。近くで飲み物が売ってないか探してくるから」
宗介をベンチに座らせると、光は小走りで駆けていった。
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