黒の解呪録 ~呪いの果ての少女~

蒼井 くじら

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白昼夢

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 先ほどの強烈な眩暈は幾分収まってきたが、気分は依然として悪い。熱にうなされた時のように、頭がぼんやりする。
 
 宗介が俯いて気持ち悪さに耐えていると、不意に誰かの足音が聞こえた。光が戻ってくるには早過ぎる。重い頭を上げて正面を見ると、そこには一人の女の子が立っていた。
 
 赤いスカートに白のシャツを着たどこにでもいそうな子。年は六、七歳といったところだろうか。宗介のことを不思議そうな顔で見つめていた。


「お兄ちゃん、具合悪いの?」
 

 女の子は抑揚のない声で、そう尋ねてきた。


「うん? ああ、少しな……」
 

 返事をするのもしんどかったが、宗介は女の子に答える。


「そうなんだ。お薬あげようか?」
 

 その言葉を聞いて、宗介は「近所に住んでいる子かな」と思った。女の子の気遣いは素直に嬉しかったが、宗介の状態は市販の薬でどうにかなるようなものではない。
 
 故に、「いや、大丈夫だ」と断ろうとした瞬間――
 
 ――ブスッ!

 耳に残る嫌な音が聞こえ、宗介は驚愕する。
 
 女の子はポケットから取り出したフォークで、何の躊躇いもなく自分の右目を突き刺した。
 
 異常な光景に、宗介は完全に言葉を失ってしまう。
 
 ただただ唖然としていると、女の子はフォークをぐりゅっと回転させ、そのまま勢いよく引き抜いた。
 
 フォークの先端には、視神経を伴う血に濡れた眼球。
 
 女の子は宗介を見てニタっと笑う。
 
 その目は、あの夜に見た子供たちと同じく真っ黒に染まっていた。


《コレ……タベテ》
 

 女の子は眼球の刺さったフォークを宗介に向かって差し出す。
 
 無論、眼球など食べられるわけがない。
 
 今すぐに逃げ出したかったが、宗介の意思に反して身体は全く反応してくれない。
 
 石膏で固められたかのように身動き一つ取れなかった。


《ビョーキ……ナオルカラ……》
 

 女の子は、動けない宗介の口に赤い眼球の刺さったフォークを、ゆっくりと近づけてくる。


(やめろ……やめてくれ!)
 

 心でいくら叫んでも、女の子の手は止まらない。
 
 眼球が口に入る手前で、血に染まった瞳がギョロっと宗介を見た気がした。
 
 そして、宗介の唇と眼球が触れ合った瞬間――。


「宗介君?」
 

 気が付くと、きょとんとした光の顔が正面にあった。手には水滴のついたスポーツドリンク。辺りを見渡すが、女の子の姿はどこにもない。
 
 ただ、宗介の唇には、血の付いた目玉のぬるっとした感触が残っていた。


「大丈夫? ぼんやりして目の焦点が合ってなかったよ」
「今、ここに……」
 

 言いかけて宗介は止めた。今、宗介が見たものは白昼夢。光に説明したところで「誰もいなかったよ」と言われるのがオチだ。
 
 宗介はまだ疼く右肩に、そっと手を当てる。
 
 どうやら『時間がない』のは、美守だけではないらしい。


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