黒の解呪録 ~呪いの果ての少女~

蒼井 くじら

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優しい嘘

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 その後、光から飲み物を受け取りベンチで少し休むと、宗介の体調も幾分回復した。
 
 歩けるようになったところで、宗介たちは桜荘へと戻る。


「ねえ、宗介君。体調が良くないなら、今日はもう休んだ方がいいんじゃないかな」
 

 部屋に入ると、光が宗介の体調を気遣って声を掛けてくれた。時刻は三時過ぎ。宗介自身も少し横になりたかったが、もう一つやっておかねばならないことがあった。


「いや、これから佐々村家に行く」
「佐々村家に? どうして?」
「一応、除霊のポーズだけは取っておかないと、あの家の連中も不安になるだろ。それに明日のことで猛さんに頼みたいこともあるからな」
 

 今日、宗介たちがやっていたのは呪いを解くための情報収集。だが、佐々村家の連中にしてみれば、宗介たちの行動は観光気分であちこち巡っているようにしか見えないはずだ。彼らの不信感や不安を増大させないためにも、一般人でも分かるような『除霊の振り』くらいは見せておかねばならない。


「除霊道具一式は持ってきてるんだろ?」
「え、うん」
「正装は?」
「ちゃんと持ってきてるよ」
「じゃあ、それに着替えて佐々村家に行くぞ。本当にお祓いの儀式をするわけじゃないから、正装で幣(ぬき)の一つでも手に持ってりゃ十分だ。俺はしばらく廊下に出てるから、着替え終わったら呼べよ」
 

 宗介は部屋の外へ出る。
 
 十分程すると、「おまたせ」という言葉と共にドアが開き、巫女装束に着替えた光が姿を見せた。着替えた彼女を見て、宗介は内心で「おっ」と思う。
 
 つい先ほど、光の容姿にダメ出しをしたばかりだが、彼女の巫女姿はなかなかどうして様になっていた。顔の造り的に、やはり和装が似合うのだろう。だからと言って「似合っている」などと誉めてやるつもりは毛頭ないのだけれど。


「じゃあ佐々村家に行くとするか」
「えっ? 宗介君は着替えないの?」
「必要ないだろ。お前の格好を見れば、佐々村の人も『除霊に来たんだ』って思うだろうからな」
「……宗介君、私のこといいように使ってない? 私だけこの格好で外を歩くの、正直かなり恥ずかしいんだけど……」
 

 宗介は「そんなことはない」と答えるが、実際は光の言う通りだった。
 
 まだ納得のいかない顔をする光に無理やり幣を持たせ、宗介たちは佐々村家へ向かう。
 
 佐々村家に着いた宗介たちは、源一郎に「これから美守の除霊を行う」と言って(ちょうどその場に涼子もいたのは好都合だった)、美守のいる座敷牢へと足を向けた。
 
 相変わらず嫌な臭いが漂う廊下を抜け、部屋の中へ入る。
 
 牢の中の美守は昨日と何も変わらない。だが、彼女に纏わり付く怨念は、昨日より僅かに肥大化しているように感じた。昨夜、美守の身体に体液を塗りつけていた子供たちのせいかもしれない。
 
 座敷牢を訪れたが、本当にお祓いをするわけではない。宗介たちは牢にお札を張ったり盛り塩を置いたりして「除霊してますよ」感を演出し、頃合いを見計らって部屋を出る。
 
 その際に光が「なんか詐欺っぽいね……」と言ったので、宗介は「こういうのを優しい嘘って言うんだよ」と皮肉交じりに返しておいた。



 
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