《無能》と蔑まれた少年、SSSランクの死神と契約し無双する〜幽冥の纏術師〜【2章完結!】

福寿草真@植物使いコミカライズ連載中!

文字の大きさ
4 / 64

1-3 『天使』と呼ばれる少女

しおりを挟む
「……っと、そうこうしている内に、ほら何やら動きがありそうだぜ」

 ハッとした表情を浮かべると、アロンは手を離し、対峙する少年少女の方へと身体を向けた。

「あ、本当だ」

 ルトもそれに続いて向きを変える。

 状況は、先程に比べ大きく変化していた。

 というのも、イグザの方は直立していた先程とは違い、片膝を立てて手を差し出す体制へと変化しており、対するルティアの方は、イグザとの距離を詰め、彼の目の前へと立っていたのである。

 態勢を見るに、恐らくルトとアロンが小声で会話をしている最中に、イグザが更なる愛の言葉を口にし、ルティアがそれに何か返事をする寸前のようだ。

「……これ、どうなるのかな」

 ポツリとルトが言葉を漏らす。

 1年で最も有名で人気のあるルティア。
 そんな彼女がどちらを選んだとしても、大きな話題となる事は間違いないだろう。

 そんなルトの呟きを受け、アロンは腕を組みうーんと唸ると、はっきりと口を開いた。

「いやー、2年の序列3位の実力者で、その上イケメンときたもんだ。遂にあの《撲殺天使》が落ちるかもしれないなぁ」

「ぼ、撲殺天使?」

 聞き慣れない、物騒な言葉が耳に入り、ルトは思わず聞き返す。

「そ。撲り殺すが如く、告白してきた男を振り続けているから、撲殺天使。特に男の間で密かに囁かれている彼女のあだ名のようなもんだな」

 それにしても随分と物騒な名前である。
 もう少し、何とかならなかったのだろうか。

「最初にそのあだ名を考えた人は、彼女に何か恨みでもあるのかな……」

「……かもしれねーな。……なんか一時期殺戮天使なんて呼ばれていた時期もあったし」

 2人は何だか闇を見た気がして、何とも言えない表情を浮かべるとアハハと苦笑いをした。

 と、そう談笑を交えながらも真剣に2人の動向へと注目していると、遂にルティアが動いた。

 彼女は、その大きな双眸そうぼうでイグザの目を見つめると、小さく頭を下げ、上品に一言口にした。

「お断りしますわ」

 と。
 イグザの肩が揺れ、野次馬がワッと湧き上がる。

 そんな野次馬に混じって事の顛末を見届けていたルトとアロンは、驚いた表情を浮かべていた。

「……いや、まさか断るとはな」

 アロンが2人の姿を目に収めながら、苦笑いを浮かべる。
 彼は、本当に今回こそルティアが落ちるとそう思っていたのだろう。
 その瞳には、ただただ信じられないといった様子がありありと映っていた。

「……イグザ先輩ですら断られる。そんな彼女を落とせる人間なんているのかよ」

 一人、アロンはポツリと言葉を漏らす。

「…………」

 その横で、ルトは口を開かずじっと2人の姿を──正確にはルティアの姿を見つめていた。

「……何故だ」

 視線の先。野次馬達がザワザワと騒ぎ立てる中、片膝をついた状態で、イグザは肩をフルフルと震わせながら、小さくそう口にする。
 そして怒りが頂点に達したのか、すぐに立ち上がると、

「何故だ! 俺は、2年の序列3位だぞ? 間違い無く、上位の術師団へ入団できるだけの力を持った男だぞ? 将来が強く約束されてんだ! なのに何故断るッ! ルティア・ティフィラムッ!!!!」

 と、強く激昂した。

 そんな様子を目に収めながら、イグザと同様の疑問をルトも抱いていた。

 この世は強者がモテる。
 それは強ければ将来が約束されている上に、卒業後もなに不自由のない生活を送る事ができる為である。
 だからこそ、基本的に世の女性は、強く力のある術師団員や、学園の人間、その中でも上位に位置する者達に惹かれ、恋をする。

 それが、常識だ。

 だがそんな常識も、『天使』には通用しないらしく……。
 ルティアは静かに、しかし力のこもった声色でもって、それを口にした。

「──振られて最初に発する言葉が自身の戦闘力のことですか。…………確かに、この世界においては戦闘力が何よりも重視されますし、それを前面に押し出すのもおかしな事ではないと思います。しかし残念ながら、私という人間は、戦闘力でしか自身の価値を表現できないような方に心が靡くことはございませんので」

 そして一拍置き、まるで今まで何度も体験してきたかのようなうんざりした表情で、小さく溜息を吐くと、言葉を続けた。

「告白の言葉が自分は強いから……なんて。戦闘力を誇示するだけなら……そんなの魔物でもできますわ」

「…………ッ!」

「……この話はもうおしまいです。では、イグザ先輩。女性を落とす術を磨いてからまたおいでください」

 そう一言、ある意味では冷たい言葉を残すと、美しい金色の髪を翻し、校舎の方へと歩いていった。

 残されたイグザは、拳を強く握るとワナワナと震えていた。
 しかし、彼にもまだ理性はあった様で、ルティアに手を上げるようなことはしなかった。
 そんな事をすれば、自身の約束された将来すら失ってしまうという事を、知っていたからだ。

 野次馬が、一人また一人とその場を去っていく。
 このまま残っていたら、とばっちりを食らう可能性がある。
 だからこそ、早めに退散しようという算段だろう。

「なあ、俺らも行こうぜ!」

 アロンが声を上げる。

「……えっ!? あ、うん……」

 ルトは、もう少し残りたいという気もあったが、確かにとばっちりを受けるのは嫌な為、アロンの後に続きその場を離れる事にした。

 ──ポツリと一人立ち尽くすイグザと、堂々と校舎に向かうルティア。

 アロンに連れられ校舎へと向かう中で、ルトは前者に同情をし、同時に後者の事を、強く『美しい』と、そう感じていた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...