《無能》と蔑まれた少年、SSSランクの死神と契約し無双する〜幽冥の纏術師〜【2章完結!】

福寿草真@植物使いコミカライズ連載中!

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1-14 『戦姫』の記憶

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 パトロールを始めて、6日が経過した。

 その間、以前オーガと遭遇した時とは違い多数存在するゴブリンを時折屠りお金を稼いだり、警戒しながらも談笑したり、依頼斡旋所へ報酬を受け取りに行くと、ルティアの美しさに酒場の男衆がざわついたりはしたが、オーガと遭遇するような事もなく、比較的平和に時間が過ぎていった。

 そして迎えた7日目、最終日。

 いつものように合流し、草原へと向かい、様々な箇所を見て回る。

 しかし、やはりこれといって何かが起こる訳でもなく、草原には至って平和な時間が流れていた。

 強いてこの1週間で驚いた事を述べるならば、初日にルティアに借りた短剣の切れ味が今までの相棒に比べて格段に良かった事位だろうか。

 兎にも角にも、それしか思い浮かばない程度には平和であった。

「……何も起きないね」

「そうですね。……あの時の違和感は単に私の思い違いだったのでしょうか」

「僕も少なからず違和感は感じたし……どうだろう。ただ、まぁ何も起きないのならば、それに越した事は無いけどね」

「ですね。平和ならそれが一番ですわ」

 言って、並び歩くルトの方を向きながら、ルティアはふふっと可憐に笑った。

 その後もいつものルートやまた新しいルートを通りながら、2人は草原を見て回る。

 そして開始からおよそ2時間後。日も少し落ち、辺りが橙色に染まる時間帯に、本日の最終地点として設定してあった場所へと到着した。

 しかし──

「何も起きませんね」

「だね」

 やはり、何処にも違和感を感じるような箇所はなかった。
 つまり、これにて依頼は達成という事になる。

「……じゃあ、依頼達成という事で良いかな?」

「はい。ルトさん、1週間お疲れ様でした」

「ルティアさんも、お疲れ様。色々と勉強になったし、草原がとりあえず平和である事も確認できて、凄く有意義な時間を過ごせたよ」

「私もですわ。とても有意義な時間でした」

 言って、ルティアがニコリと微笑む。
 そして一拍開け、どこか名残惜しそうに口を開いた。

「……では、斡旋所に行きましょうか」

「あっと、ちょっと待って」

「どうかなさいましたか?」

「あーえっと、ルティアさんってこの後時間ある?」

「えっ……はい、あと1時間程度なら問題ありませんわ」

「実はこの近くに凄く景色の綺麗な場所があってさ、その、僕の思い出の場所なんだけど。もし良かったら、一緒にどうかな? なんて……その、この短剣のお礼も兼ねて……」

 言って、目を逸らし、照れくさげに頭を掻く。
 対しルティアは、パッと表情を晴れやかなものにすると、

「是非! よろしくお願いしますわ!」

 と、どこか楽しげに笑った。

 ◇

 その後、ルトの先導の元、草原を抜けた先にある森、その内ルトが密かに作った小さな道を歩いて行くとすぐに開けた場所へと到着した。

「着いた。……ここだよ」

 周囲を見渡す。
 一見すると、ただ森に取り込まれた草原地域のような様相だ。
 森でありながら、木が存在せず、丈の低い草しか存在しないそこは、砂漠の中に存在するオアシスのような物珍しさである。

 しかし、ルトが見せたかったのは、ここが存在するという事ではない。
 とある簡単な条件でのみ見る事ができる景色であった。

「えーっと、ここだ。ここに座ると──ってあ、ルティアさん地べたに座るのは嫌かな……」

 草原である為、そこまではっきりと汚れる訳ではないが、地べたに座る以上多少の汚れは免れないだろう。

 上流階級の人間は多少の汚れすら気にする事が多い。
 だからこそ、ルティアも気にするのではないかと思っての発言であったが、どうにも杞憂だったようで、

「ふふっ。草原位なら大丈夫ですわ!」

 言って、草原へとちょこんと膝を抱えて座る。
 そして、

「……少しだけ視線を上げてみて」

 というルトの言葉を受け、ルティアが視線を上げ──

「──とても綺麗ですわ…………」

 ポツリと感嘆の声を漏らした。
 それを受け、ルトは小さく笑うと、おおよそ1人分の間隔を空け、ルティアの隣へと腰掛け視線を上げる。

 そこには、あまりにも美しい光景が広がっていた。

 比較的高地に作られた王城や学園。まるで自身の存在を主張するかの様に輝くそれらのみが、森の上部から顔を出す。まるでこの国の陽の部分だけを照らし出したような光景は、人工の無機質さはありながらも、息を呑むほどに美しかった。
 また、そこに夜空に輝く満点の星々が加わり、その美しさを更に際立ったものにしている。

「凄いでしょ? 初めて見つけた時、本当感動してさ。今でも時々依頼終わりに来たりするんだ」

「……何度も来てしまう理由が良くわかりますわ」

 視線を空へと固定したまま、2人は言葉を交わす。
 その表情には、自然な笑みが浮かんでいた。

 と、ここで。ルティアが一度視線を下ろし、空を眺めるルトの方へと目をやった。
 そして、すぐに。少しだけ座る位置をルトの方へと寄せた。

「…………!?」

 多少の気恥ずかしさから開けた距離が、ルティアにより詰められる。
 そんな現状に、ルティアは気恥ずかしくないのかと、思わず彼女の方を向くと、

「ふふっ……」

 ルティアはほんのりと頬を赤く染めながら、どこか照れたように微笑む。

 ドキリとした。と同時に、ルトも顔を赤らめ、思わず目を逸らした。

「「…………」」

 静寂が訪れる。
 そしてその間に、多少はその距離に慣れたのか、2人は再び視線を空へと移した。

 ──不意に。

「ルトさんは……」

 ルティアは空を眺めながら、呟くように声を発する。

「……ん?」

「ルトさんは、どうしてアルデバード学園へ入学したのですか?」

 ルトは同じく視線を空に向けたまま、ポツリと呟くように、

「──実は僕には幼馴染が居てさ」

 ……誰にも話した事がなかった。話した所で、結局注目が行くのは自身ではなく、幼馴染の方だと思っていたから。
 しかし、相手がルティアだと考えたら、スラスラと言葉が出てくる。

「その子は、いつも元気ハツラツで、太陽のように眩しい笑顔をして、気弱な僕を先導して色々な所へ連れてってくれた」

 楽しげに笑う。

「大きくなったら、ルトを養うんだ! なんてアホみたいな事をいつもどんな時でも言いながら」

 その表情がどこかその記憶を愛おしむ様な優しい苦笑いへと変わる。

 そしてここで多少の逡巡があったのか一拍開け、しかし意を決した様子で口を開く。

「……ねえルティアさん──『戦姫』って知ってる?」

 言って、視線をルティアの方へ向ける。
 対しルティアの方もルトへと視線を向けると、

「もちろんですわ! 若干15歳にしてあのエンプティから勧誘を受け入団した──って、まさか」

 言って目を見開く。恐らくルティアは察したのだろう。

 ──史上初。弱冠15才にして、発足から30年間序列1位である最強の術師団──エンプティから勧誘を受け、入団した少女がいる。
 桃色のミディアムヘアに、小柄な身長。しかしその身体を体躯に見合わない堅固な鎧で包み、自身の身長以上ある大きな槍を力強く振るう。

 その少女の名を──

「そ。そのまさかで、あの『戦姫』リアリナ・ストロメリアが僕の幼馴染なんだ……びっくりでしょ?」

「はい。正直、とても驚きました」

「だよね。僕自身も未だに信じられないもん」

 言って、ルトは苦笑する。
 そして、楽しげに話を続けた。

「……ねぇ、ルティアさん。そんなリアリナ──リアちゃんのエンプティへの入団理由は何だと思う?」

「えっと……やはり、強くなりたいから……でしょうか?」

「……外れ。正解は、僕と結婚した後に何不自由ない生活ができるようにお金を稼ぎたい、だよ。……笑っちゃうよね」

 何て言いながらも、ルトはどこか楽しげに笑っていた。
 ルティアは、そんなルトの横顔を見ながら、口を開く。

「……もしかしてルトさんが学園に入学した理由は……その、リアリナさんに釣り合う男になる為、という事でしょうか?」

 半ば確信して吐かれた言葉であったが、ルトはうーんと唸ると、

「いや、多分そんなんじゃないと思う。きっと、もっと単純で、バカらしい事が理由なんじゃないかな」

 と、どこか曖昧に返す。

「と、いいますと……?」

 ルティアが首を傾げる。
 そんなルティアの方を向くと、ルトは力無い笑みを浮かべた。

「例えば、ただ女の子に養われるだけなんて、そんなの嫌だから……とかね」

 たとえ、力の差が顕著であったとしても、男として養われるだけの生活は何としてでも避けたいものである。

 と、そんなルトに対し、ルティアは更に質問をぶつける。

「……ルトさんは、リアリナさんと並んで歩けるようになりたいんですか?」

「いや、そこはもう諦めてるよ。ただ、後ろについて行くだけにはなりたくないとは思ってる」

 ルティアが躊躇いがちに、もう一つの質問をぶつける。

「ルトさんは、その、リアリナさんの事が好き……なんですか?」

 直球。しかし、ルトは間を空けずにはっきり、

「うん、好きだよ。ただこの好きがどういう好きかは、正直まだわからないけどね」

 と言って、何とも言えない表情を作る。

「……羨ましいですわ。リアリナさんが、そしてルトさんが」

 言った後、視線を足元の方へと向けると、話を続ける。

「私には、そういった深い繋がりが、今までありませんでしたから」

「…………」

 薄々感じてはいた。あれ程人気で、知名度の高いルティアではあるが、思い返せば、今まで彼女の周りに、彼女と並び歩くような存在は見受けられなかった。

「ねぇ、ルトさん。私、この7日間が凄く楽しかったですわ」

 ルティアが声を弾ませながら言う。
 しかしすぐに声のトーンを落とすと、

「依頼の最中に、こんな事を思ってしまう事が良くない事なのはわかります。でもとても楽しかった。だからこそ……終わってしまうのが凄く寂しいですわ」

「……なら、もう少し続ける?」

 ルトがさも当たり前かのように提案をした。

「…………え?」

 ルティアが呆然と息を吐く。

「依頼は今日で終わり。だからここからはボランティアみたいな感じになるけど、もしルティアさんがやりたいのなら、付き合うよ。……その、僕も楽しかったし」

「ルトさん……」

「今の草原の様子を考えるに、パトロールというよりはただの散歩になっちゃいそうだけど……」

 言って、ルトはルティアに笑いかけた。
 そして一拍開け、どこか真剣な眼差しで、視線を空に向け、話を続ける。

「深い繋がりがないのならさ、これから作っていこうよ。……その、僕何かがこんな事言って良いのか、わからないけど──僕はルティアさんとなら、作れそうな気がするよ」

 ルティアが目を見開く。しかしすぐにその表情は、天使のような笑みへと変わった。

「……ねぇ、ルトさん。もう少しここに居てもよろしいでしょうか」

「うん、もちろん。いつまでも付き合うよ」

 言って2人は向き合い、笑い合った。

 同時に、「私も貴方となら、深い繋がりを作れそうですわ」と、ルティアは漠然と思うのであった。
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