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デヴィとマリアンナ
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マリアンナはロックフィールド公爵家の与えられた部屋でしばし放心状態だった。
なぜならマリアンナの部屋はあまりに豪華で、しかもクローゼットの中にはドレスが数着と靴、化粧台の引き出しには装飾品が入っていたのだ。
マリアンナ専属の侍女のシャーリーが言うには、これらはすべてジェイムスの双子の妹であるデヴィお嬢様の手配で準備されたもので、貸与ではなくマリアンナへのプレゼントだという。
「デヴィお嬢様のお見立てですので、ご遠慮なさることはございません。お話相手としてご一緒されるわけですから、それなりの支度が必要になるのです。
マリアンナ様には、侍女やメイドではなく親しいご友人としての立場をお求めになっていらっしゃいます。さあ、ご用意いたしましょうね。デヴィお嬢様がお待ちかねでございますよ」
*
マリアンナは学院長室でのありがたい申し出のあと、学院を訪れた父オディール子爵と義弟アーサーと再会した。そこでロックフィールド家からの提案と、その申し出を受けることを伝えた。
今後もしっかり働いて少しずつ借金を返して、目処が立てばアーサーに領地経営を手伝わせて、未だ婚約者のいない2人に良い相手を見つけると、父子爵はそう言って笑った。
「きっと母さんがお前たちを守ってくれるよ」
父の言葉は嬉しいが、マリアンナは現実を見ていた。
「わたしは学院を卒業してロックフィールド家でのお勤めを終えたら、王都で仕事を見つけるつもりよ。デヴィ様はそのうち嫁がれるでしょうし、話し相手も期間限定ということになると思う」
「その時は義姉さんは必ず領地へ戻ってきてくださいよ。僕の力は微力なんです。僕は義姉さんと一緒に領地を守っていきたいのです。」
義弟のアーサーはマリアンナより2歳年下の15歳。
3歳の時にオディール家の養子としてやってきて以来マリアンナを慕っていた。最近になってアーサーがマリアンナに対して異性としての好意を表すようになった事に気がついてはいるが、それは姉弟の親愛の情を恋愛感情と勘違いしているだけだと思っている。
「アーサー、わたしは誰とも結婚する気はないの。
今はしっかり働いて公爵家へ早く借金を返済して、それからあなたとあなたのお嫁さんが許してくれるのなら、領地で過ごせたら良いと思っているだけ。だからアーサー、あなたにはしっかりしたお嬢さんを婚約者にしなくてはいけないわね。ねぇ、お父様?」
結局借金の返済先が変わるだけで借金が無くなるわけではないのだ。オディール一家は貧しくはあるが貴族としての矜持を捨てたわけでなない。ただ只管真面目に働いて立て替えていただいた借金を返すのが道理であると、彼らは心を引き締めるのであった。
そして宰相であるロックフィールド公爵が密かに練っている策略は、オディール家の面々は知らない。ゆくゆく彼らが巻き込まれていく事も。
そんなやり取りの後、次の週末にマリアンナは公爵家へやって来たのだった。
*
「やあ、マリアンナ嬢。部屋には慣れたかな?早速寮から移ってきてくれてありがとう。父上や兄上、そしてデヴィがお待ちかねだよ」
ジェイムスが部屋まで迎えに来てくれた。これから公爵家の皆様との顔合わせである。緊張して手が震えてきた。
クローゼットから選んだのは、マリアンナの黒髪に似合うパールグレーの光沢のあるタフタのシンプルなドレス。ゆるく纏めた髪には大振りのアメジストがついた髪飾り。全てデビィが用意してくれていた物で、
アメジストはロックフィールド公爵家の色だ。彼らの瞳は淡い紫色なのである。
美しく装ってもらったマリアンナが緊張しつつ公爵家のダイニングルームへ向かうと、そこには既にサイラス・ロックフィールド公爵、アラン・ロックフィールド公爵家嫡男、そしてマリアンナがお仕えするデビィ・ロックフィールド公爵令嬢が席についていた。ジェイムスとデビィは双子だけあってそっくりの顔立ちである。
ロックフィールド家の夫人は10年前に他界したと聞いている。初めて会うデヴィはジェイムス同様人間離れした美しさで、マリアンナは自分如きが話し相手になるのかしらと困惑するのだった。
「マリアンナ嬢は母君に良く似ているね。その黒髪に藍色の瞳は全く同じだ」
「公爵閣下は母をご存知でいらっしゃるのですか?」
「この家の中ではサイラスで結構だよ。そう、私と君の父上クリフォード・オディール子爵と、君の母上アンジェラ夫人とは学院の同級生だったのだよ」
それは初耳である。
「父が光栄にも閣下と同級であることは存じておりましたが、母までとは知りませんでした。母はわたしを産んで間もなく儚くなりました。ですのでわたしは、母の姿を肖像画でしか知らないのです。
閣下が母のことを覚えていてくださって、とても嬉しく思います」
サイラスはマリアンナの言葉に満足して頷いた。控えめでありながら芯の強さをもったアンジェラは、サイラスにとって遅い初恋の相手だった。
もともと公爵家を継ぐために早くから婚約者が決められていたので、それは決して口にする事のない秘められた想いだった。
ただ幸せになってほしいと願った相手が、堅実で真面目な同級生と結ばれたことに心から喜んだ。そして、その彼女の忘れ形見が今目の前にいる。
アンジェラに良く似たマリアンナにも幸せになってほしい、サイラスは心からそう願っている。だからこそオディール家の借金問題の手助けに乗り出したのだった。
「それではマリアンナ嬢は、学院卒業までの一年と少しをデヴィの話し相手として過ごすことに、異論はないわけだね?」嫡男アランが話しかけてきた。
アランは双子より5歳歳上の23歳、宰相である父の補佐として王城に勤めている。未だ婚約者はいない。
双子と同じく整いすぎた容姿と落ち着いた物腰、そして公爵家の跡取りという恵まれた未来を持ち、将来の宰相候補と目されている。アランは独身貴族女性からの理想の夫として熱い視線を集めていた。
よろしくお願いしますと答えるマリアンナに、やはり満足げに頷いた。
そしてデヴィだ。
「マリアンナ様、わたくし病弱でずっと引きこもっておりました。それゆえ友達と言える方がひとりもおりませんの。マリアンナ様がわたくしの友人として親しくしてくだされば、とても嬉しいわ」
デヴィが女神のように微笑んだ。想像したより低めのハスキーボイスだ。
「デヴィお嬢様、精一杯勤めさせていただきます。よろしくお願いします」
「挨拶はそこまでにして、マリアンナの歓迎の食事を始めようか」
*
食事を終え、マリアンナが今まで飲んだ事もない高価なお茶を楽しんでいると、デヴィに話し掛けられた。
「マリアンナ様、わたくしの部屋で少しお話しませんこと?」
そう言ったデヴィの立ち姿はすらりとしており、隣に立ったマリアンナは下からデビィを見上げるかたちになった。まつ毛が長くて白磁のようなツルツルのお肌だわとマリアンナは見惚れた。
「さあ?」とマリアンナの手を取るデヴィだったが
「デヴィ、マリアンナは明日から学院もあるし、今日は疲れている筈だ。少しは遠慮しなさい」
と、公爵から嗜められてデヴィは諦めた。
どうやら病弱はもう克服して、なかなか行動的なお嬢様のようだ。
「明日からたくさんお話しましょうね。貴女が我が家に来てくださって本当に嬉しい。学院から早く帰っていらしてね。
わたくし…マリアンナ様が大好きだわ!」
繋いだ手をそっと外して優しく微笑むデヴィに、マリアンナは思わずときめいてしまった。
デヴィの笑顔の破壊力は想像以上だった。
なぜならマリアンナの部屋はあまりに豪華で、しかもクローゼットの中にはドレスが数着と靴、化粧台の引き出しには装飾品が入っていたのだ。
マリアンナ専属の侍女のシャーリーが言うには、これらはすべてジェイムスの双子の妹であるデヴィお嬢様の手配で準備されたもので、貸与ではなくマリアンナへのプレゼントだという。
「デヴィお嬢様のお見立てですので、ご遠慮なさることはございません。お話相手としてご一緒されるわけですから、それなりの支度が必要になるのです。
マリアンナ様には、侍女やメイドではなく親しいご友人としての立場をお求めになっていらっしゃいます。さあ、ご用意いたしましょうね。デヴィお嬢様がお待ちかねでございますよ」
*
マリアンナは学院長室でのありがたい申し出のあと、学院を訪れた父オディール子爵と義弟アーサーと再会した。そこでロックフィールド家からの提案と、その申し出を受けることを伝えた。
今後もしっかり働いて少しずつ借金を返して、目処が立てばアーサーに領地経営を手伝わせて、未だ婚約者のいない2人に良い相手を見つけると、父子爵はそう言って笑った。
「きっと母さんがお前たちを守ってくれるよ」
父の言葉は嬉しいが、マリアンナは現実を見ていた。
「わたしは学院を卒業してロックフィールド家でのお勤めを終えたら、王都で仕事を見つけるつもりよ。デヴィ様はそのうち嫁がれるでしょうし、話し相手も期間限定ということになると思う」
「その時は義姉さんは必ず領地へ戻ってきてくださいよ。僕の力は微力なんです。僕は義姉さんと一緒に領地を守っていきたいのです。」
義弟のアーサーはマリアンナより2歳年下の15歳。
3歳の時にオディール家の養子としてやってきて以来マリアンナを慕っていた。最近になってアーサーがマリアンナに対して異性としての好意を表すようになった事に気がついてはいるが、それは姉弟の親愛の情を恋愛感情と勘違いしているだけだと思っている。
「アーサー、わたしは誰とも結婚する気はないの。
今はしっかり働いて公爵家へ早く借金を返済して、それからあなたとあなたのお嫁さんが許してくれるのなら、領地で過ごせたら良いと思っているだけ。だからアーサー、あなたにはしっかりしたお嬢さんを婚約者にしなくてはいけないわね。ねぇ、お父様?」
結局借金の返済先が変わるだけで借金が無くなるわけではないのだ。オディール一家は貧しくはあるが貴族としての矜持を捨てたわけでなない。ただ只管真面目に働いて立て替えていただいた借金を返すのが道理であると、彼らは心を引き締めるのであった。
そして宰相であるロックフィールド公爵が密かに練っている策略は、オディール家の面々は知らない。ゆくゆく彼らが巻き込まれていく事も。
そんなやり取りの後、次の週末にマリアンナは公爵家へやって来たのだった。
*
「やあ、マリアンナ嬢。部屋には慣れたかな?早速寮から移ってきてくれてありがとう。父上や兄上、そしてデヴィがお待ちかねだよ」
ジェイムスが部屋まで迎えに来てくれた。これから公爵家の皆様との顔合わせである。緊張して手が震えてきた。
クローゼットから選んだのは、マリアンナの黒髪に似合うパールグレーの光沢のあるタフタのシンプルなドレス。ゆるく纏めた髪には大振りのアメジストがついた髪飾り。全てデビィが用意してくれていた物で、
アメジストはロックフィールド公爵家の色だ。彼らの瞳は淡い紫色なのである。
美しく装ってもらったマリアンナが緊張しつつ公爵家のダイニングルームへ向かうと、そこには既にサイラス・ロックフィールド公爵、アラン・ロックフィールド公爵家嫡男、そしてマリアンナがお仕えするデビィ・ロックフィールド公爵令嬢が席についていた。ジェイムスとデビィは双子だけあってそっくりの顔立ちである。
ロックフィールド家の夫人は10年前に他界したと聞いている。初めて会うデヴィはジェイムス同様人間離れした美しさで、マリアンナは自分如きが話し相手になるのかしらと困惑するのだった。
「マリアンナ嬢は母君に良く似ているね。その黒髪に藍色の瞳は全く同じだ」
「公爵閣下は母をご存知でいらっしゃるのですか?」
「この家の中ではサイラスで結構だよ。そう、私と君の父上クリフォード・オディール子爵と、君の母上アンジェラ夫人とは学院の同級生だったのだよ」
それは初耳である。
「父が光栄にも閣下と同級であることは存じておりましたが、母までとは知りませんでした。母はわたしを産んで間もなく儚くなりました。ですのでわたしは、母の姿を肖像画でしか知らないのです。
閣下が母のことを覚えていてくださって、とても嬉しく思います」
サイラスはマリアンナの言葉に満足して頷いた。控えめでありながら芯の強さをもったアンジェラは、サイラスにとって遅い初恋の相手だった。
もともと公爵家を継ぐために早くから婚約者が決められていたので、それは決して口にする事のない秘められた想いだった。
ただ幸せになってほしいと願った相手が、堅実で真面目な同級生と結ばれたことに心から喜んだ。そして、その彼女の忘れ形見が今目の前にいる。
アンジェラに良く似たマリアンナにも幸せになってほしい、サイラスは心からそう願っている。だからこそオディール家の借金問題の手助けに乗り出したのだった。
「それではマリアンナ嬢は、学院卒業までの一年と少しをデヴィの話し相手として過ごすことに、異論はないわけだね?」嫡男アランが話しかけてきた。
アランは双子より5歳歳上の23歳、宰相である父の補佐として王城に勤めている。未だ婚約者はいない。
双子と同じく整いすぎた容姿と落ち着いた物腰、そして公爵家の跡取りという恵まれた未来を持ち、将来の宰相候補と目されている。アランは独身貴族女性からの理想の夫として熱い視線を集めていた。
よろしくお願いしますと答えるマリアンナに、やはり満足げに頷いた。
そしてデヴィだ。
「マリアンナ様、わたくし病弱でずっと引きこもっておりました。それゆえ友達と言える方がひとりもおりませんの。マリアンナ様がわたくしの友人として親しくしてくだされば、とても嬉しいわ」
デヴィが女神のように微笑んだ。想像したより低めのハスキーボイスだ。
「デヴィお嬢様、精一杯勤めさせていただきます。よろしくお願いします」
「挨拶はそこまでにして、マリアンナの歓迎の食事を始めようか」
*
食事を終え、マリアンナが今まで飲んだ事もない高価なお茶を楽しんでいると、デヴィに話し掛けられた。
「マリアンナ様、わたくしの部屋で少しお話しませんこと?」
そう言ったデヴィの立ち姿はすらりとしており、隣に立ったマリアンナは下からデビィを見上げるかたちになった。まつ毛が長くて白磁のようなツルツルのお肌だわとマリアンナは見惚れた。
「さあ?」とマリアンナの手を取るデヴィだったが
「デヴィ、マリアンナは明日から学院もあるし、今日は疲れている筈だ。少しは遠慮しなさい」
と、公爵から嗜められてデヴィは諦めた。
どうやら病弱はもう克服して、なかなか行動的なお嬢様のようだ。
「明日からたくさんお話しましょうね。貴女が我が家に来てくださって本当に嬉しい。学院から早く帰っていらしてね。
わたくし…マリアンナ様が大好きだわ!」
繋いだ手をそっと外して優しく微笑むデヴィに、マリアンナは思わずときめいてしまった。
デヴィの笑顔の破壊力は想像以上だった。
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