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アリッサの思惑
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デヴィッドは自白して以来、男性としてマリアンナとの距離を縮める為に、あの手この手で接近中である。
例えば学院へのお迎えは、ロックフィールド家の家紋入りの馬車に乗ってデヴィッド自らが迎えに行き、恐縮するマリアンナの手をとってエスコートするという紳士っぷり。
当然学院は大騒ぎになった。
ジェイムスの双子の弟であるデヴィッドが突然表舞台に現れたことは、世間を騒がせたものの貴族社会では歓迎して受け入れられた。
跡は継がなくても婿養子に望めるし、何より公爵家との繋がりも出来る。ロックフィールド公爵が持つ爵位のひとつでも譲り受ければ将来の出世も見込めて、またとない好物件である。
婚約者のいない貴族令嬢達は、何とかしてデヴィッドの目に留まろうとしたし、ロックフィールド公爵家にはデヴィッドへの婚約の申し込み書が小山になるくらい届いていた。
そんな状況だったのでマリアンナの立場は微妙であり、思わぬ嫌がらせをされることもあって、マリアンナは困惑とともにデヴィッドに対して腹を立てていた。
「そんな顔しないで?何か嫌なことでもあった?」
「大ありです!デヴィッド様、わたしひとりで帰れますからお迎えはやめていただきたいです。それでなくとも、公爵家との関わりをよく思わない方がいらっしゃるのです。
わたし、今日は2回も見知らぬ女子生徒にぶつかられましたわ」
キレ気味に答えるマリアンナに、それは良くないな、学院内に女性の護衛をつけようと、ジェイムスは笑顔で言うのだった。
*
「貴女がオディール子爵令嬢?」
教室で帰り支度をしているマリアンナの前に立つ人影があった。
たしかノイマン公爵令嬢のアリッサ様?
マリアンナは慌ててお辞儀をした。
「はい。マリアンナ・オディールと申します」
「貴女ね、一体どんな手を使ってロックフィールド家に取り入ったの?
そもそも貴女のお家って、借金まみれで貴族とも言えないような暮らしをしてらっしゃるそうではなくて?
貴女がその体を使ってロックフィールド様を籠絡したと噂になっているわ。全くこんな貧相な娘が公爵家には釣り合う筈がないというのに、少しはご自分の置かれた状況を理解なさい」
言い捨てると、アリッサ・ノイマンは取り巻きの令嬢を引き連れて立ち去った。
マリアンナは吐かれた暴言に呆然とした。
ああ、遂にやってきた、こんな事になりそうな気がしてたのよ……マリアンナは思わず脱力した。
「マリアンナさん、顔色が悪いわ。大丈夫?
厄介な人が出てきましたわね。アリッサ様は手強いですわよ。ノイマン公爵閣下もね」
咄嗟に寄り添ってくれたエルリーヌは、耳元でそっと呟いた。
見ていたなら助けに入ってくれれば良さそうなものだが、エルリーヌにはそこまでする謂れはないので、ただ傍観していた。今後もこんな事があるのだから、自分の力で乗り切らないといけないのだ。
ただ、相手が問題だ。ノイマン公爵家なのである。
(ややこしいのに目をつけられたわね。ジェイムス様にお知らせすべきかしら)
エルリーヌは思案するのだった。
*
アリッサ・ノイマンは実に貴族らしい娘だった。目下の者には目もくれない、平民など虫ケラ同然と考える気位の高い女性で、自分を磨きあげる事が一大関心事だった。
マリアンナやエルリーヌよりひとつ歳上で、ジェイムスの同級生になる。そしてアリッサの父はこの国の軍務を司る大臣であり、ノイマン公爵家はロックフィールド公爵家と勢力を二分する大貴族である。
ノイマン公爵はアリッサを王家に嫁がせようと画策し、この国の王太子の婚約者に送り込むことに成功した。アリッサは10歳のときに16歳の王太子の婚約者になり、厳しい王妃教育を耐え美しく気高く成長したのだが。
王太子は視野を広く持ち、隣国を含む国際関係を円滑に進めていきたいと願って、婚約後すぐに隣国に留学してしまった。その時に同行していたのが、王太子の従兄弟でもある双子達の兄アランだった。
アリッサは会えない婚約者を慕い王妃教育を頑張っていたが、4年の留学を終えて帰ってきた王太子から告げられたのは婚約解消をしたいという言葉だった。
理由は隣国の公爵令嬢と心を通わせ将来を約束したというものだった。婚約した時に10歳だった少女との未来が思い描けなかったとも言われた。
6歳年が離れているアリッサは、自分にはどうしようもない理由で婚約を解消されてしまった。もちろん王家からは多大な慰謝料が払われたが、アリッサもノイマン公爵も、お金よりも新たな婚約者を見つけて欲しかった。王家の他の王子たちは既に婚姻しているか既に婚約者がいる。アリッサが王家に入り込む余地はない。
そして高位貴族たちは10代半ばにはもうほとんど婚約者が決まっている。
ノイマン公爵は宰相のロックフィールド公爵の子息たちに目を付けたが、既に次男のジェイムスはソーンダイク侯爵令嬢と婚約済み、長男アランに婚約を申し込めば丁重に断られてしまった。
それでもノイマン公爵は諦めず、他国の王侯貴族、この国では年下でも高位貴族ならばと、数々当たってみたものの、何故かアリッサの婚約は纏まらなかった。
アリッサは焦った。
公爵令嬢であり王妃教育まで受けたこの自分に婚約者がいないのは誰かが横槍を入れて邪魔をしているのだ、とさえ思っていた。
元婚約者の王太子は優しい人だったが、アリッサは苛烈な性格をしていたので、ただ優しいだけの男性に心が動かなかった。
実は、この激しい性格と冷たい美貌が原因で男性達から敬遠されていたのだが、アリッサにはその事が理解出来ず、自分を蔑ろに扱い、婚約申し込みを断る貴族達へ怒りを覚えていた。
そんな時に、ロックフィールド公爵家の三男、ジェイムスの双子の弟が救世主のように現れたのだった。
謎の存在のデヴィッドに好意があるわけではないが、ただ自分のプライドを守る為にデヴィッドと縁を結ぶと決意した。
その為には、どういう理由があるのか知らないが、たかが子爵の娘ががデヴィッドに大切に扱われている事が許せない。
アリッサはマリアンナを排除することに決めたのだった。
例えば学院へのお迎えは、ロックフィールド家の家紋入りの馬車に乗ってデヴィッド自らが迎えに行き、恐縮するマリアンナの手をとってエスコートするという紳士っぷり。
当然学院は大騒ぎになった。
ジェイムスの双子の弟であるデヴィッドが突然表舞台に現れたことは、世間を騒がせたものの貴族社会では歓迎して受け入れられた。
跡は継がなくても婿養子に望めるし、何より公爵家との繋がりも出来る。ロックフィールド公爵が持つ爵位のひとつでも譲り受ければ将来の出世も見込めて、またとない好物件である。
婚約者のいない貴族令嬢達は、何とかしてデヴィッドの目に留まろうとしたし、ロックフィールド公爵家にはデヴィッドへの婚約の申し込み書が小山になるくらい届いていた。
そんな状況だったのでマリアンナの立場は微妙であり、思わぬ嫌がらせをされることもあって、マリアンナは困惑とともにデヴィッドに対して腹を立てていた。
「そんな顔しないで?何か嫌なことでもあった?」
「大ありです!デヴィッド様、わたしひとりで帰れますからお迎えはやめていただきたいです。それでなくとも、公爵家との関わりをよく思わない方がいらっしゃるのです。
わたし、今日は2回も見知らぬ女子生徒にぶつかられましたわ」
キレ気味に答えるマリアンナに、それは良くないな、学院内に女性の護衛をつけようと、ジェイムスは笑顔で言うのだった。
*
「貴女がオディール子爵令嬢?」
教室で帰り支度をしているマリアンナの前に立つ人影があった。
たしかノイマン公爵令嬢のアリッサ様?
マリアンナは慌ててお辞儀をした。
「はい。マリアンナ・オディールと申します」
「貴女ね、一体どんな手を使ってロックフィールド家に取り入ったの?
そもそも貴女のお家って、借金まみれで貴族とも言えないような暮らしをしてらっしゃるそうではなくて?
貴女がその体を使ってロックフィールド様を籠絡したと噂になっているわ。全くこんな貧相な娘が公爵家には釣り合う筈がないというのに、少しはご自分の置かれた状況を理解なさい」
言い捨てると、アリッサ・ノイマンは取り巻きの令嬢を引き連れて立ち去った。
マリアンナは吐かれた暴言に呆然とした。
ああ、遂にやってきた、こんな事になりそうな気がしてたのよ……マリアンナは思わず脱力した。
「マリアンナさん、顔色が悪いわ。大丈夫?
厄介な人が出てきましたわね。アリッサ様は手強いですわよ。ノイマン公爵閣下もね」
咄嗟に寄り添ってくれたエルリーヌは、耳元でそっと呟いた。
見ていたなら助けに入ってくれれば良さそうなものだが、エルリーヌにはそこまでする謂れはないので、ただ傍観していた。今後もこんな事があるのだから、自分の力で乗り切らないといけないのだ。
ただ、相手が問題だ。ノイマン公爵家なのである。
(ややこしいのに目をつけられたわね。ジェイムス様にお知らせすべきかしら)
エルリーヌは思案するのだった。
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アリッサ・ノイマンは実に貴族らしい娘だった。目下の者には目もくれない、平民など虫ケラ同然と考える気位の高い女性で、自分を磨きあげる事が一大関心事だった。
マリアンナやエルリーヌよりひとつ歳上で、ジェイムスの同級生になる。そしてアリッサの父はこの国の軍務を司る大臣であり、ノイマン公爵家はロックフィールド公爵家と勢力を二分する大貴族である。
ノイマン公爵はアリッサを王家に嫁がせようと画策し、この国の王太子の婚約者に送り込むことに成功した。アリッサは10歳のときに16歳の王太子の婚約者になり、厳しい王妃教育を耐え美しく気高く成長したのだが。
王太子は視野を広く持ち、隣国を含む国際関係を円滑に進めていきたいと願って、婚約後すぐに隣国に留学してしまった。その時に同行していたのが、王太子の従兄弟でもある双子達の兄アランだった。
アリッサは会えない婚約者を慕い王妃教育を頑張っていたが、4年の留学を終えて帰ってきた王太子から告げられたのは婚約解消をしたいという言葉だった。
理由は隣国の公爵令嬢と心を通わせ将来を約束したというものだった。婚約した時に10歳だった少女との未来が思い描けなかったとも言われた。
6歳年が離れているアリッサは、自分にはどうしようもない理由で婚約を解消されてしまった。もちろん王家からは多大な慰謝料が払われたが、アリッサもノイマン公爵も、お金よりも新たな婚約者を見つけて欲しかった。王家の他の王子たちは既に婚姻しているか既に婚約者がいる。アリッサが王家に入り込む余地はない。
そして高位貴族たちは10代半ばにはもうほとんど婚約者が決まっている。
ノイマン公爵は宰相のロックフィールド公爵の子息たちに目を付けたが、既に次男のジェイムスはソーンダイク侯爵令嬢と婚約済み、長男アランに婚約を申し込めば丁重に断られてしまった。
それでもノイマン公爵は諦めず、他国の王侯貴族、この国では年下でも高位貴族ならばと、数々当たってみたものの、何故かアリッサの婚約は纏まらなかった。
アリッサは焦った。
公爵令嬢であり王妃教育まで受けたこの自分に婚約者がいないのは誰かが横槍を入れて邪魔をしているのだ、とさえ思っていた。
元婚約者の王太子は優しい人だったが、アリッサは苛烈な性格をしていたので、ただ優しいだけの男性に心が動かなかった。
実は、この激しい性格と冷たい美貌が原因で男性達から敬遠されていたのだが、アリッサにはその事が理解出来ず、自分を蔑ろに扱い、婚約申し込みを断る貴族達へ怒りを覚えていた。
そんな時に、ロックフィールド公爵家の三男、ジェイムスの双子の弟が救世主のように現れたのだった。
謎の存在のデヴィッドに好意があるわけではないが、ただ自分のプライドを守る為にデヴィッドと縁を結ぶと決意した。
その為には、どういう理由があるのか知らないが、たかが子爵の娘ががデヴィッドに大切に扱われている事が許せない。
アリッサはマリアンナを排除することに決めたのだった。
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