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攫われたマリアンナ
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デヴィッドは本気で家を出る覚悟をしていた。
初めは公爵家が持っている子爵位を譲り受け、マリアンナと一緒に穏やかに生きる事を望んでいたが、アリッサ・ノイマンに噛みついたからにはただでは済まされないのは理解していた。理解していたからこその行動だった。
自分が出奔すれば、公爵家はジェイムスが継ぐしかない。ソーンダイク家からは多少の文句が出るだろうが、娘が公爵夫人となるのは悪くないはずだ。ゆくゆくはジェイムスとエルリーヌの子どもを養子とすれば良いのだ。
マリアンナのオディール子爵家には後継のアーサーがいるので問題ない。そしてデヴィッドは自身の持つ資産ーそれは亡き母から譲られたものだったーを換金して、家を借りる。まずは仕事を探さねばならない。
後はいつ家を出るか、だった。
*
アーサーが王都での用事を終えて領地に帰る日となった。
姉が世話になっているロックフィールド公爵へも挨拶に伺ったが、公爵は長兄アランとともに、隣国での結婚式の打ち合わせのため不在だった。
公爵はオディール子爵への土産を用意していた。受け取らないわけにもいかないが、受け取って良いものか困ってしまったアーサーだったが、これは感謝の気持ちだから是非受け取って欲しいと執事やジェイムスから言われて恐縮した。
また公爵の好意で領地までの馬車も手配されていた。
「では姉上、お世話になりました。卒業後は領地へお戻りくださいよ。待っていますからね」
アーサーを乗せた馬車は出発した。名残惜しいアーサーだったが、またすぐに会えると思い直して笑顔でマリアンナに別れを告げた。
見送ったマリアンナは若干の寂しさを覚えていたが、アーサーの乗った馬車が見えなくなると、馬車を停めた場所へクリフと共に向かった。
クリフを婿にどうかと勧められてから、なんとなく気不味い雰囲気があったものの、アーサーがやってきてからそれは緩和された気がする。アーサーはクリフに手合わせを願い、2人はたびたび別邸の庭で模擬剣で打ち合っていた。クリフの実力を素直に褒め称え、クリフ殿が姉を守ってくれるから安心だと、アーサーは安堵して帰って行ったのだが。
何か様子が違う?御者の姿が見当たらない。
不審に思ったクリフが馬車のドアを開けると、そこにいたのは縛り上げられた御者と見知らぬ男。
咄嗟の油断だった。
王都の往来で、まさかと気を緩めたクリフの隙をついてマリアンナは後ろから腕を取られた。そして、すかさずやってきた粗末な馬車に無理やり押し込まれてしまったのだ。
「マリアンナ様っ!」クリフは馬車に飛びつこうとしたが、ゾロゾロと現れた破落戸どもに取り囲まれた。
ざっと5人か、クリフは敵を目算する。
直ぐにでも片付け、マリアンナの乗った馬車を追いかけたいクリフだったが、御者を人質に取って首にナイフをあてがっているのを見ると、むやみに動けない。
マリアンナを早く追いかけたい、5人相手でもなんて事はない。しかし御者を見殺しにもできない、クリフは葛藤した。
「令嬢の事は諦めるんだな。あんた達が手出しをしなかったらこのまま引き下がるからよ。令嬢だけがお望みなんだとさ」
馬車の中にいる破落戸がそう言った時に、クリフは頭に血が上った。
腰の剣に手をかけたところで思わぬ助太刀がやってきた。
「クリフ殿!」
帰ったはずのアーサーがそこにいた。
「忘れ物しちゃって」と、馬車の男に向かってナイフを投げた。ナイフは男の手に刺さった。
瞬時にクリフは動いた。剣を抜くと破楽戸5人を一気に切り伏せた。ただし峰打ちだ。
「アーサー殿!マリアンナ様が攫われた!目立たぬ馬車で北の方角へ向かった。俺はマリアンナ様を追います!後を頼む」
*
粗末な馬車に乗せられたマリアンナは猿轡をかまされ腕も縛られた。
しばらく進むと縛った男が降り、入れ替わりに男がひとり入ってきた。
マスクで目元を隠し平民の衣服を着ているが、その振る舞いに、どこかの貴公子であることが察せられた。
「悪く思わないでくれよ。僕個人は君に恨みはないのだがね。
あの男を苦しめるためには、君は有効な手段だからね」
恐怖と混乱で涙するマリアンナの顎に手をかけて上を向かせた。
「なるほどね。この顔で公爵子息を籠絡したのか。大したことないのにな。顔に傷でもつければ、嫌になるんじゃないのかな」
男はどこからか細いナイフを取り出し、マリアンナの頬に当てた。
マリアンナは悲鳴も出せず、ただ涙するだけだったが、その脅えながら悲しむ態度に男は我に返った。
「悪かったね。冗談だよ。女性に暴力を振るうのは趣味じゃないんだ」
男は、宝石の飾りがついた短剣を丁寧に腰に戻した。
「妹は執念深い女だ。君を破楽戸どもに襲わせて傷物にして、デヴィッド・ロックフィールドに絶望を味合わせてやろうと目論んでるのさ。
君もデヴィッド殿も厄介な女に目をつけられたもんだな。
おや、何か言いたそうだね。叫ばないと約束できるなら口のものは外してやろう」
マリアンナは必死でうんうん、と頷けば、男は猿轡を外してくれた。
「まさか……妹というのはアリッサ・ノイマン公爵令嬢?あの方がこのような荒事を指図されたのですか?
そして貴方様はアリッサ様のお身内……。
アリッサ様とデヴィッド様はご婚約されるはずです。わたしとは関係のないお方です。何故このようなことをなさるのですか」
「君のその聡明さが気に入らないんじゃないかな」
男はマスクを外した。
「申し遅れたが、僕はヘンドリック・ノイマン。アリッサ・ノイマンの兄だ」
初めは公爵家が持っている子爵位を譲り受け、マリアンナと一緒に穏やかに生きる事を望んでいたが、アリッサ・ノイマンに噛みついたからにはただでは済まされないのは理解していた。理解していたからこその行動だった。
自分が出奔すれば、公爵家はジェイムスが継ぐしかない。ソーンダイク家からは多少の文句が出るだろうが、娘が公爵夫人となるのは悪くないはずだ。ゆくゆくはジェイムスとエルリーヌの子どもを養子とすれば良いのだ。
マリアンナのオディール子爵家には後継のアーサーがいるので問題ない。そしてデヴィッドは自身の持つ資産ーそれは亡き母から譲られたものだったーを換金して、家を借りる。まずは仕事を探さねばならない。
後はいつ家を出るか、だった。
*
アーサーが王都での用事を終えて領地に帰る日となった。
姉が世話になっているロックフィールド公爵へも挨拶に伺ったが、公爵は長兄アランとともに、隣国での結婚式の打ち合わせのため不在だった。
公爵はオディール子爵への土産を用意していた。受け取らないわけにもいかないが、受け取って良いものか困ってしまったアーサーだったが、これは感謝の気持ちだから是非受け取って欲しいと執事やジェイムスから言われて恐縮した。
また公爵の好意で領地までの馬車も手配されていた。
「では姉上、お世話になりました。卒業後は領地へお戻りくださいよ。待っていますからね」
アーサーを乗せた馬車は出発した。名残惜しいアーサーだったが、またすぐに会えると思い直して笑顔でマリアンナに別れを告げた。
見送ったマリアンナは若干の寂しさを覚えていたが、アーサーの乗った馬車が見えなくなると、馬車を停めた場所へクリフと共に向かった。
クリフを婿にどうかと勧められてから、なんとなく気不味い雰囲気があったものの、アーサーがやってきてからそれは緩和された気がする。アーサーはクリフに手合わせを願い、2人はたびたび別邸の庭で模擬剣で打ち合っていた。クリフの実力を素直に褒め称え、クリフ殿が姉を守ってくれるから安心だと、アーサーは安堵して帰って行ったのだが。
何か様子が違う?御者の姿が見当たらない。
不審に思ったクリフが馬車のドアを開けると、そこにいたのは縛り上げられた御者と見知らぬ男。
咄嗟の油断だった。
王都の往来で、まさかと気を緩めたクリフの隙をついてマリアンナは後ろから腕を取られた。そして、すかさずやってきた粗末な馬車に無理やり押し込まれてしまったのだ。
「マリアンナ様っ!」クリフは馬車に飛びつこうとしたが、ゾロゾロと現れた破落戸どもに取り囲まれた。
ざっと5人か、クリフは敵を目算する。
直ぐにでも片付け、マリアンナの乗った馬車を追いかけたいクリフだったが、御者を人質に取って首にナイフをあてがっているのを見ると、むやみに動けない。
マリアンナを早く追いかけたい、5人相手でもなんて事はない。しかし御者を見殺しにもできない、クリフは葛藤した。
「令嬢の事は諦めるんだな。あんた達が手出しをしなかったらこのまま引き下がるからよ。令嬢だけがお望みなんだとさ」
馬車の中にいる破落戸がそう言った時に、クリフは頭に血が上った。
腰の剣に手をかけたところで思わぬ助太刀がやってきた。
「クリフ殿!」
帰ったはずのアーサーがそこにいた。
「忘れ物しちゃって」と、馬車の男に向かってナイフを投げた。ナイフは男の手に刺さった。
瞬時にクリフは動いた。剣を抜くと破楽戸5人を一気に切り伏せた。ただし峰打ちだ。
「アーサー殿!マリアンナ様が攫われた!目立たぬ馬車で北の方角へ向かった。俺はマリアンナ様を追います!後を頼む」
*
粗末な馬車に乗せられたマリアンナは猿轡をかまされ腕も縛られた。
しばらく進むと縛った男が降り、入れ替わりに男がひとり入ってきた。
マスクで目元を隠し平民の衣服を着ているが、その振る舞いに、どこかの貴公子であることが察せられた。
「悪く思わないでくれよ。僕個人は君に恨みはないのだがね。
あの男を苦しめるためには、君は有効な手段だからね」
恐怖と混乱で涙するマリアンナの顎に手をかけて上を向かせた。
「なるほどね。この顔で公爵子息を籠絡したのか。大したことないのにな。顔に傷でもつければ、嫌になるんじゃないのかな」
男はどこからか細いナイフを取り出し、マリアンナの頬に当てた。
マリアンナは悲鳴も出せず、ただ涙するだけだったが、その脅えながら悲しむ態度に男は我に返った。
「悪かったね。冗談だよ。女性に暴力を振るうのは趣味じゃないんだ」
男は、宝石の飾りがついた短剣を丁寧に腰に戻した。
「妹は執念深い女だ。君を破楽戸どもに襲わせて傷物にして、デヴィッド・ロックフィールドに絶望を味合わせてやろうと目論んでるのさ。
君もデヴィッド殿も厄介な女に目をつけられたもんだな。
おや、何か言いたそうだね。叫ばないと約束できるなら口のものは外してやろう」
マリアンナは必死でうんうん、と頷けば、男は猿轡を外してくれた。
「まさか……妹というのはアリッサ・ノイマン公爵令嬢?あの方がこのような荒事を指図されたのですか?
そして貴方様はアリッサ様のお身内……。
アリッサ様とデヴィッド様はご婚約されるはずです。わたしとは関係のないお方です。何故このようなことをなさるのですか」
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