突然ヒロインとなったマリアンナの恋愛事情〜女装の王子様に囲い込まれました

牧場のばら

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デヴィッドの決意

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 デヴィッドが領地より戻ってきてから一か月経った。
 マリアンナは平穏な日々を送っている。ただデヴィッドには会えないだけで。

 学院卒業まであと半年。これまでの試験はどれも学年5位以内を維持してきたので、奨学生として卒業出来る見込みだ。
 公爵家の別邸に住んではいるが、必要最低限の物以外は父からの仕送りと図書館の仕事の報酬でやりくりしている。
 シャーリーや執事は、お預かりしている大切なお嬢様だからドレスでも何でも買えば良いと言ってくれたが、そこまでしてもらう理由はなかった。
 たまたまご縁があって公爵家でお世話になっているだけ、勘違いしてはいけない、と自分を律する気持ちが強かった。

 デヴィッド様はどうしてるのだろう?もう婚約はすんだのだろうかと気にかけているが、誰からもデヴィッドの話は聞かされなかった。まるでデヴィッドと言う人が存在していないかのように。

 そうこうしているうちに、アーサーが王都へ来る日がやってきた。
 個人的な用事であるので、別邸ではなくアーサーが泊まる宿で会うことになり、マリアンナはクリフに護衛として付いてもらった。

「姉さん!」
 久しぶりに会うアーサーはまた背が伸びて、少年っぽさが薄れて精悍な顔つきに見えた。領地を背負う覚悟と決意を感じさせる顔つきだった。

 アーサーは父からの手紙を預かってきていた。 
 領地経営が軌道に乗っており借金についての心配は何もいらない、厳しい返済はしなくて良くなったが、ロックフィールド公爵個人からの援助についてはできる範囲で返済し続けている、だからマリアンナは公爵家に対して負い目を持つ必要は無い、そして学院卒業後は領地へ戻ってきてアーサーを支えてやって欲しいと、そんな内容が書かれていた。

「父上は、僕と姉さんが結婚して後を継いで、領地を盛り上げて欲しいと願っています」

「アーサーには縁談だって降ってくるようにあるでしょう?
 わたし達は血の繋がりはなくても姉弟よ、結婚は考えられないわ。第一あなたより2つも歳上ですもの。お父様にはわたしからちゃんと伝えるわ」

 釈然としないアーサーはマリアンナに詰め寄った。
「姉さんはまだ、公爵子息のことを想っているのですか?」

「変な事を言うのね。もともと女性としてのデヴィ様の話し相手として屋敷に招かれて、あの方の事を女性だとばかり思っていたのよ。実は男性でしたとわかったからといって、急に好意を持つようになんてならないわよ」

「しかし、子息は姉さんのことを好きで諦めきれないから、公爵様を説得するために今も、あっ……」

「アーサー、貴方、何か知ってるの?デヴィッド様の事を誰も教えてくれないのよ。公爵閣下もジェイムス様もエルリーヌ様も。クリフ様もね」

 薄く開いたドアの外に立っていたクリフは、いきなり話を振られて変な声を出しそうになった。

「クリフ様、中に入ってくださいな。アーサーもクリフ様もわたしに隠してることがありますよね?わたしは大丈夫です。
 デヴィッド様の婚約がお決まりになったのですか?それならそうと隠さずに教えていただきたいです。お世話になったデヴィッド様には、お幸せになっていただきたいのですもの」
 マリアンナは精一杯の笑顔で告げた。



 領地から帰ったデヴィッドは父との面談の後、アリッサと会うためにノイマン家へ使いを出した。
 1週間後、ノイマン公爵家を訪れたデヴィッドは、豪華な応接間でアリッサと向き合っていた。
 ノイマン家にはアリッサの上に嫡男がおり、応接間にはその嫡男ヘンドリックも立ち会っていた。

「ロックフィールド公爵子息、よくいらしてくれた。我が妹アリッサは貴方に会う日をひたすら待ち続けていました。
 いろいろ事情がおありだとは思うが、アリッサの気持ちをまず聞いてやってください。私は席を外すが、良い結果になることを期待しています」

 一礼をしてヘンドリックが部屋を出ると、残されたのはデヴィッドとアリッサ、ノイマン家の侍女たちだった。

「ノイマン公爵令嬢、先日は私の勝手で予定を変更してしまい申し訳ございません。もっと早くに伺うべきでした」

「いえ、こうやって態々いらして下さった事、デヴィッド様の誠意を感じて嬉しく思いますわ。
 遠目にお見かけしたり、絵姿でしかお会いできなかったりデヴィッド様、やっと直接お目にかかれるのですね」

 冷たい美貌で知られるアリッサは頬を赤らめた。
「どうぞ、アリッサとお呼びくださいませ。お慕いしているデヴィッド様と親交を深めたく存知ますわ」

「では、アリッサ様。私は回りくどい事は苦手なので単刀直入に申し上げます。
 本日は、ノイマン家からの婚約申込みをお断りする為に参りました。
 公爵家を継ぐつもりはなく、爵位は兄ジェイムスが引き継ぎます。
 私は家を出て、自らの剣の腕を磨き騎士爵を賜れることを目指しておりますので、ノイマン公爵のご令嬢であるアリッサ様とは身分的に釣り合わなくなります。
 慕ってくださるのは大変光栄でありますが、アリッサ様に一騎士の妻という立場を受け入れる覚悟はお有りでしょうか」

「それはまた、可笑しなことをおっしゃいますのね。デヴィッド様が次期公爵におなりになることは、ロックフィールド公爵閣下に父が確認しております。その様な戯言をおっしゃるのはなぜですの?
 わたくし、高位貴族の一員として礼儀作法も勉強も厳しく身につけて参りました。お兄様のご婚約者でいらっしゃるソーンダイク侯爵令嬢にも引けはとりませんわ。必ず公爵家に相応しい働きをいたします」

「そうですね、アリッサ様のその貴族らしい点は非常に素晴らしいとは思います。そもそも王妃教育を受けていらしたのですからね。
 しかし、私は平民に近い騎士になる、と申し上げているのです。平民や下位貴族を見下している貴女がそれを受け入れられますか?」

 デヴィッドは公爵家を継がない。その言葉にアリッサは動揺したが、顔には臆面も出さなかったはず。しかし微妙な顔の変化をデヴィッドに見られていた。

「私には心に決めた人がおります。彼女を手に入れたくて、あれこれと足掻いてようやくそれが叶う前に、無理やり婚約を捩じ込まれた。
 私は貴女が学院で彼女に対して行った仕打ちも知っております」

 デヴィッドは穏やかに微笑んでいた表情を変えて、真顔になった。丁寧な態度はこの悪女には無駄なのだ。

「アリッサ嬢、私やロックフィールド公爵家を甘く見ない方が良い。学院内には我らの影もいる。全て報告を受けている。
 我らは貴女やノイマン公爵の計画をあっさり受け入れるほど愚かではない」

「あの子爵の娘を娶るおつもりですの?あの家は借金で首も回らない貧乏一家。娘は娼婦に堕ちるしかない様な有様ですわ。ロックフィールド公爵家のご子息デヴィッド様からまさかそんな戯言を聞かされるとは。
正気なのかしら?」

 小馬鹿にしたように冷たい笑みを浮かべたアリッサは、遂にその本性を表したようだ。プライドが高く、目下の者や平民を人とも思わぬ傲慢な本性。デヴィッドは目の前の豪華な美女を前にして、鋭い目つきでアリッサを睨みつけるのだった。

「話しが全く噛み合わないようだな。
 オディール子爵の借金は、天候不順による領地不作のため。それを領主自らが借金をしてまで領民を救おうとした結果だ。今やその行いが国に評価されて、国家からの融資を受けており、その融資は返済不要となっている。
 それを知って尚、オディール子爵を貶めると言うのか?」

「たとえそうだとしても、彼女は子爵の娘ですわ。公爵家とは釣り合う筈もございません!デヴィッド様もあの娘も、ご自分の立場を弁えるべきですわ」

「わたしは公爵家を出ると申している。騎士爵を賜ったとしても、貴女のお嫌いな平民同様の立場だ。公爵夫人にはなれない、と申し上げている。
 令嬢中の令嬢であるアリッサ嬢ならば、私などに固執せずとも、どのような高位貴族の子息も望み放題だろう。
 ああ、我が兄のジェイムスは無理だから。ジェイムスには素晴らしい婚約者がいる。側から見ていても甘々、相思相愛なのだ。きっと二人で公爵家を盛り立てていくことだろう。貴女が入り込む隙間などこれっぽっちもない。それは私にも言える事。愛しい人の為ならば全力で闘うつもりだ。
 万が一、彼女に手を出したならば、貴女方が我がロックフィールド家を甘く見ておられる事を後悔する事になるだろう。
 これ以上は話し合っても無駄のようだ。それではこれにて失礼」

 アリッサは屈辱で唇をわなわなも震わせながら、叫んだ。
悔しさに手にしていた扇を投げ捨てた。

「失礼な男!許せないわ。
 許さない………あの男も貧乏子爵の娘も。絶対に許さない」
 
 一方、ロックフィールド家へ戻ったデヴィッドは、穏便に済ませるつもりだったのが、最後は喧嘩を売ってしまった事で、父親から雷を落とされるのだが、彼には一片の後悔もなかった。
 

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