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双子の決心
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父親からアリッサとの見合いを告げられたデヴィッドは、その日一日を費やして出立の準備をした。
翌日の早朝、馬車で領地に向かった。
貴族として生まれたからには義務が伴う事はわかっている。しかしあまりに一方的な父のやり方への無言の抵抗だった。
「女として育てようとして、母が亡くなれば男に戻って好きにしたら良いと言いながら、今度は政略結婚をして爵位を継げ、と。父上は僕を人形だとでも思っているのか」
それでも真面目なデヴィッドは、当面の問題を回避しても公爵家の後継者となる可能性も捨てきれないため、領地経営について、現地を管理している代官について勉強しようと考えた。
とりあえず1ヶ月滞在して父を納得させる策略を練る。その間マリアンナには会えないけれど、シャーリーとクリフを付けたから心配はないだろう、と安心していたのだが。
*
領地の公爵邸で過ごしてひと月、近々戻るつもりでいたところへ、双子の兄ジェイムスがやってきた。
「準備は進んでいるのか?」
「何の?爵位を継ぐ準備か?」自嘲気味にデヴィッドは笑った。
「計画がずいぶん狂ってしまったよ。父上から子爵を譲って貰い、マリアンナに求婚して田舎へ引っ込むつもりだったんだがな。
どうやれば穏便にお前に公爵を継いでもらえるか、たくさん考えたさ。なあジェイムス、ソーンダイク家への婿入りをやめられないか?」
「それは無理だな。僕はエルリーヌ以外を娶るつもりはない。
普通に考えればお前が公爵家を継ぐのが妥当だろう」
「例えばお前とエルリーヌの間に生まれた子を公爵家の跡取りにするとか。」
「何故?お前がいるのにそんな周りくどいことをする必要があるか。どうしても嫌なのか?」
「公爵家を継ぐことが嫌なんじゃない。マリアンナと一緒になれない未来が嫌なんだ」
ジェイムスは呆れたという顔で、そんなに好きなのか?と尋ねた。
「好きで悪いか?それよりジェイムスにとっても公爵家を継ぐ方が良い話じゃないのか?
父上の仕事の補佐をしてゆくゆくは宰相という可能性が大きいのに、ソーンダイク侯爵として燻ってていいのか?本音を言えよ、ジェイムス」
ジェイムスは外面がとても良く、穏やかな物腰の優しい王子様と思われがちだが、実は好戦的な男だ。
デヴィッドと2人で剣の稽古をしている時も、勝たねば気が済まないので時間を忘れるほどのめり込んで2人して叱られたり、学院では一位を維持する為に並々ならぬ努力を重ねていた。
そういうジェイムスの性格をよくわかっているデヴィッドは、敢えて学院へは行かなかった。双子であることで比べられるのは必至だから、ジェイムスを刺激してややこしくなる事を回避したのだった。
それゆえ、ジェイムスが侯爵より公爵を望むのは当然だろうとデヴィッドは考えていた。
「燻るとはまた、率直な物言いだな。
そうだな、出来る事ならロックフィールド公爵家を継ぎたいと思っているさ。エルリーヌならば公爵夫人として問題ない、むしろ適任だろう。
お前を良い方向に変えてくれたマリアンナ嬢には感謝するが、子爵家の後ろ盾では心許ないだろうな。しかし、父上のお考えがどうなのかまではわからん」
「僕は、公爵家はジェイムスとエルリーヌが継げば良いと思ってる。ソーンダイク侯爵家へは、ジェイムス達に生まれた男子を養子に出せば良いじゃないか。
ただ、必ず男子を2人以上産むという事が前提となるので、こればかりは確約出来ないけどな」
デヴィッドは両手に子どもを抱くジェイムスと、生まれたばかりの赤ん坊をあやすエルリーヌを想像して、笑みをこぼした。悪くない未来じゃないか。子沢山の公爵家、良いじゃないか。
「デヴィッド、そろそろ戻ってくるのだろう?父上、兄上も交えて話し合おう。
それにアリッサ嬢からも逃げずにちゃんと断れよ。あれは執念深いから逃げ回っていたら必ず追いかけてくるぞ」
*
公爵家へ戻ってきたデヴィッドは、まずは父サイラスへ面会を申し出た。
厳しく叱責されると思っていたが、よく帰ってきたと言ってデヴィッドを責めることはなかった。
そしてマリアンナは別邸へ移ってそこから学院へ通い、放課後の図書館での仕事を再開したことを教えられた。
「オディール子爵には、マリアンナ嬢の婚約者候補としてクリフを薦めたが断られた。マリアンナ本人は何も知らない筈だ。
クリフには、本気ならば彼女の心を射止めよと発破をかけた」
「え?クリフって。一体どういう事です?」
デヴィッドは驚きに声が上ずってしまった。
「なんだ、気がついていなかったのか。クリフはマリアンナ嬢に好意がある。2人の身分は釣り合う。クリフは騎士爵を持っているし、彼らは気心もしれており良い夫婦になりそうだから、マリアンナ嬢の婚約者にするようにとオディール子爵に提案したのだ。
ところが子爵はそれを断った。
マリアンナ嬢が卒業したら領地に戻して、義弟のアーサー君と結婚させるつもりのようだ」
父から告げられた内容はどれもデヴィッドには受け入れ難く、怒りと嫉妬で声を荒げそうになったが、ぐっと我慢した。
「父上、後継者の件ですが、兄上たちも交えての話し合いを持つべきかと考えております」
サイラスは鷹揚に頷いた。
「確かにそうだな。その件については了解した。アランとジェイムスにも言い分があるだろう。ただ、逃げ切れると思うなよジェイムス。公爵家に生まれたからには、使命というものがあるのだ。
アリッサ・ノイマン公爵令嬢との婚約はどうするつもりだ?お前がそれほどまでに嫌がるのなら、他の令嬢を考える。ノイマン公爵に義理はない」
「父上、アリッサ嬢とは婚約ももちろん結婚も出来ません。
一度会って、はっきりとお断りするつもりです」
デヴィッドの意思は固かった。その決意を帯びた紫の瞳に、父親は小さなため息を吐くしかなかった。
まったくこの頑固さは妻と同じではないか。
「とにかくノイマン公爵とその令嬢は一筋縄ではいかんぞ。うまく立ち回れ」
父親の言葉にデヴィッドは頷いた。
翌日の早朝、馬車で領地に向かった。
貴族として生まれたからには義務が伴う事はわかっている。しかしあまりに一方的な父のやり方への無言の抵抗だった。
「女として育てようとして、母が亡くなれば男に戻って好きにしたら良いと言いながら、今度は政略結婚をして爵位を継げ、と。父上は僕を人形だとでも思っているのか」
それでも真面目なデヴィッドは、当面の問題を回避しても公爵家の後継者となる可能性も捨てきれないため、領地経営について、現地を管理している代官について勉強しようと考えた。
とりあえず1ヶ月滞在して父を納得させる策略を練る。その間マリアンナには会えないけれど、シャーリーとクリフを付けたから心配はないだろう、と安心していたのだが。
*
領地の公爵邸で過ごしてひと月、近々戻るつもりでいたところへ、双子の兄ジェイムスがやってきた。
「準備は進んでいるのか?」
「何の?爵位を継ぐ準備か?」自嘲気味にデヴィッドは笑った。
「計画がずいぶん狂ってしまったよ。父上から子爵を譲って貰い、マリアンナに求婚して田舎へ引っ込むつもりだったんだがな。
どうやれば穏便にお前に公爵を継いでもらえるか、たくさん考えたさ。なあジェイムス、ソーンダイク家への婿入りをやめられないか?」
「それは無理だな。僕はエルリーヌ以外を娶るつもりはない。
普通に考えればお前が公爵家を継ぐのが妥当だろう」
「例えばお前とエルリーヌの間に生まれた子を公爵家の跡取りにするとか。」
「何故?お前がいるのにそんな周りくどいことをする必要があるか。どうしても嫌なのか?」
「公爵家を継ぐことが嫌なんじゃない。マリアンナと一緒になれない未来が嫌なんだ」
ジェイムスは呆れたという顔で、そんなに好きなのか?と尋ねた。
「好きで悪いか?それよりジェイムスにとっても公爵家を継ぐ方が良い話じゃないのか?
父上の仕事の補佐をしてゆくゆくは宰相という可能性が大きいのに、ソーンダイク侯爵として燻ってていいのか?本音を言えよ、ジェイムス」
ジェイムスは外面がとても良く、穏やかな物腰の優しい王子様と思われがちだが、実は好戦的な男だ。
デヴィッドと2人で剣の稽古をしている時も、勝たねば気が済まないので時間を忘れるほどのめり込んで2人して叱られたり、学院では一位を維持する為に並々ならぬ努力を重ねていた。
そういうジェイムスの性格をよくわかっているデヴィッドは、敢えて学院へは行かなかった。双子であることで比べられるのは必至だから、ジェイムスを刺激してややこしくなる事を回避したのだった。
それゆえ、ジェイムスが侯爵より公爵を望むのは当然だろうとデヴィッドは考えていた。
「燻るとはまた、率直な物言いだな。
そうだな、出来る事ならロックフィールド公爵家を継ぎたいと思っているさ。エルリーヌならば公爵夫人として問題ない、むしろ適任だろう。
お前を良い方向に変えてくれたマリアンナ嬢には感謝するが、子爵家の後ろ盾では心許ないだろうな。しかし、父上のお考えがどうなのかまではわからん」
「僕は、公爵家はジェイムスとエルリーヌが継げば良いと思ってる。ソーンダイク侯爵家へは、ジェイムス達に生まれた男子を養子に出せば良いじゃないか。
ただ、必ず男子を2人以上産むという事が前提となるので、こればかりは確約出来ないけどな」
デヴィッドは両手に子どもを抱くジェイムスと、生まれたばかりの赤ん坊をあやすエルリーヌを想像して、笑みをこぼした。悪くない未来じゃないか。子沢山の公爵家、良いじゃないか。
「デヴィッド、そろそろ戻ってくるのだろう?父上、兄上も交えて話し合おう。
それにアリッサ嬢からも逃げずにちゃんと断れよ。あれは執念深いから逃げ回っていたら必ず追いかけてくるぞ」
*
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厳しく叱責されると思っていたが、よく帰ってきたと言ってデヴィッドを責めることはなかった。
そしてマリアンナは別邸へ移ってそこから学院へ通い、放課後の図書館での仕事を再開したことを教えられた。
「オディール子爵には、マリアンナ嬢の婚約者候補としてクリフを薦めたが断られた。マリアンナ本人は何も知らない筈だ。
クリフには、本気ならば彼女の心を射止めよと発破をかけた」
「え?クリフって。一体どういう事です?」
デヴィッドは驚きに声が上ずってしまった。
「なんだ、気がついていなかったのか。クリフはマリアンナ嬢に好意がある。2人の身分は釣り合う。クリフは騎士爵を持っているし、彼らは気心もしれており良い夫婦になりそうだから、マリアンナ嬢の婚約者にするようにとオディール子爵に提案したのだ。
ところが子爵はそれを断った。
マリアンナ嬢が卒業したら領地に戻して、義弟のアーサー君と結婚させるつもりのようだ」
父から告げられた内容はどれもデヴィッドには受け入れ難く、怒りと嫉妬で声を荒げそうになったが、ぐっと我慢した。
「父上、後継者の件ですが、兄上たちも交えての話し合いを持つべきかと考えております」
サイラスは鷹揚に頷いた。
「確かにそうだな。その件については了解した。アランとジェイムスにも言い分があるだろう。ただ、逃げ切れると思うなよジェイムス。公爵家に生まれたからには、使命というものがあるのだ。
アリッサ・ノイマン公爵令嬢との婚約はどうするつもりだ?お前がそれほどまでに嫌がるのなら、他の令嬢を考える。ノイマン公爵に義理はない」
「父上、アリッサ嬢とは婚約ももちろん結婚も出来ません。
一度会って、はっきりとお断りするつもりです」
デヴィッドの意思は固かった。その決意を帯びた紫の瞳に、父親は小さなため息を吐くしかなかった。
まったくこの頑固さは妻と同じではないか。
「とにかくノイマン公爵とその令嬢は一筋縄ではいかんぞ。うまく立ち回れ」
父親の言葉にデヴィッドは頷いた。
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