突然ヒロインとなったマリアンナの恋愛事情〜女装の王子様に囲い込まれました

牧場のばら

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思わぬ邂逅

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 デヴィッドとアーサー、それとは別にクリフが、マリアンナ救出に向かっている頃、マリアンナはヘンドリックと向き合っていた。

「助けていただけるとは?」
 震える声でマリアンナが尋ねた。

「実は……王都で貴女を攫ったならず者たちを、僕が改めて買収したんだ。この馬車に乗っている奴らも僕の協力者だ。
 アリッサは金と権力で物事を動かせると思っているが、根回しも大切だってことさ」

 やがて馬車は古い教会の前に止まった。そこは廃村になった場所で、周囲は荒野が広がっており、他に建物は無かった。

 今にも朽ち果てそうな教会入り口の前に人影があった。

「嫌かもしれないが僕を信じて欲しい。僕はロックフィールド公爵家や王家を敵に回したくない。ノイマン公爵家を守らなければならないんだ」

 ヘンドリックはマスクをつけると、マリアンナに猿轡をした。そして、ごめんと囁くとヘンドリックは、マリアンナを乱暴に馬車から突き落とした。

「連れてきた。あ・れ・は中に?」と入り口の男に問いかけると
 男が頷き教会の中に入った。すぐさま、ベールを被った女が出てきた。

「いいざまね、貧乏貴族の娘にぴったりだわ」
 憎々しげなアリッサの声が響く。

 アリッサは近づいてくるとマリアンナの長い黒髪を掴み上げて立たせた。
 マリアンナは痛みに涙が出たが、ぐっと堪えてアリッサを睨みつけた。

「わたくしはね、お前みたいな下等な女がどうなろうが全く平気なの。虫けらみたいに踏み躙られればいいわ。
 あ、命は取らないわ。お前など人質にもならないもの。事が終わったら娼館に売り渡すわ」

(全く吐き気がする。妹とは思いたくもない)

 苦々しさを飲み込んで、ヘンドリックは内部を観察した。中には、人相の悪そうな男が3人いた。

 馬車の御者ともう1人は自分の協力者だが、金次第で動く破落戸たちをどこまで信用できるか、というところだった。
 奴らの頭かしらは話のわかる男だったが、この場所を記した紙が無事デヴィッドに渡っていることを祈るしかなかった。
 とにかく時間稼ぎをしなければ。

「それでどうするつもりなんだ?お前に頼まれたようにこの女を連れてきたが」

「決まっておりますわ。この女に乱暴して二度と公爵家に戻れないようにするのです。それから顔に傷をつけてやるの。あはは、見ものね」

「お前がそれで気が済むと言うのなら仕方ないが、淑女の思考や行動ではないがな」

 アリッサは目を細めた。
「あら、お兄さまもこの女に色目を使われたのかしら。高位貴族なら誰でもいいのね、全く下賤な、卑しい女ね。こんな女が良いなんて、ロックフィールドの男は異常だわ」
 
 尖った靴の先で、アリッサはマリアンナの腹を蹴った。マリアンナは呻いた。
 ヘンドリックは妹の残虐さに怒りが湧いた。異常者はお前だと叫びそうになった。しかしここは慎重に動かねばと、そっとマリアンナに近寄って抱え起こした。

「これは商品にするのだろう?無駄な傷はつけない方が良い。
 それよりお前、こんな所にいていいのか?我らが誘拐と傷害に関わっていることがバレたら、父上も家もまずいことになるんだぞ」

「大丈夫よ。この者たちは裏切らないわ。そのために大金を弾んだのですもの」

(それ以上の金を僕がさらに払ったがな)

 ヘンドリックは、所詮アリッサは世間知らずなのだと思ったが、それはヘンドリックとて同じ事だった。

 男たちはのろのろと動いた。

「こりゃどいつも上玉だな。」
 男たちはマリアンナを抱えたヘンドリックとアリッサを取り囲んだ。

「な、何なの!お前たち!言われたとおりにさっさとこの女に乱暴しなさいよっ!」

 3人のうち髭で顔面がよくわからないリーダー格の男が皮肉げに笑った。

「あんたも相当おめでたいなあ。ひとりを売り払うより3人とも売った方が儲かるに決まっているじゃないか」

 ヘンドリックは叫んだ。
「おい、お前たち!話が違うじゃないか。アリッサの暴挙を止める為に、僕がさらに金を支払ったんだから、僕の言うことをきけ!」

 うるさい、とヘンドリックは殴られた。

「ギャアギャアと五月蝿いこの女が不愉快なんだよ。あんたの妹なんだってな。散々俺らを馬鹿にした態度でなぁ、俺たちな苛ついてるんだよ。
 あんたもよく見たら綺麗な顔してるじゃないか。まとめて可愛がって、まとめて売り払ってやるよ」
 ニヤリと髭面が笑った。

「そんな事が許されると?僕らは公爵家の人間だ。お前たち、ただじゃ済まないぞ」

「御大層に公爵家だとな。そんなお偉いお貴族様でも、この女のやってることは人として最低なんじゃないのか。まあ、俺らが言えることじゃないがな」

 ベールを剥がされ転がされたアリッサは恐怖に青ざめながらヘンドリックの元へ這ってきた。

「おっと。勝手に動くんじゃないぞ。こいつら縛り上げておけ。
 黒髪の女、お前だけこっちに来い。おや、腹を蹴られて歩けなさそうだな」

 ならず者のリーダー格の男はマリアンナをひょいと担ぐと、教会の奥で悲しげに微笑む女神像のもとへ運んだ。

 震えるマリアンナに向けて髭面の男はそっと囁いた。

「声を出さないで聞いてください。
 ご令嬢はオディール子爵家のマリアンナ様ですね。
 俺は……子爵領で暮らしていた元農民です。こんなところでお嬢様に会えるとは思いもよりませんでした。
 不作で農地を手放し、食うために悪事に身を染めてしまいましたが、お嬢様や子爵御一家への御恩は決して忘れちゃおりません。俺が仲間の奴らをなんとかいたします。お嬢様を必ずお助けしますから。
 だがしかし、お嬢様を蹴ったあの女狐だけは許せん」

 
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