突然ヒロインとなったマリアンナの恋愛事情〜女装の王子様に囲い込まれました

牧場のばら

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抱擁

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 デヴィッドは折り畳んだ紙を開いた。
 そこには、ある地名と教会の絵が記されていた。連行される破落戸に目を向けると、
「女の兄からあんたに渡せと言われた」と。

 デヴィッドは馬を走らせた。とにかく夢中で走らせた。デヴィッド、アーサー、公爵家の護衛騎士たちは教会を目指す。
 クリフは既に追いかけているという。うまくいけばどこかで会えるはずだ。

「マリアンナ、必ず助け出すからっ!どうか無事でいてくれ」
 
 一方、運よくアリッサの乗る馬車を見かけたクリフは、教会にたどり着いていた。
 クリフが少し離れたところからこっそりと様子を伺っていると、馬車が着きマリアンナが転がり落ちてきた。
 くっ…と、クリフは歯噛みをした。

 アリッサらしき女が、マリアンナの髪を掴んで立ち上がらせた。クリフは腑が煮え繰り返る思いだった。
 しかし、敵の数がわからぬ今、うかつに動けない。そろそろ日が暮れる。引き返してデヴィッド様に知らせるべきか迷っていたが、そんな時間はない。様子を見て教会内に飛び込まねばならない。
 敵の数はわからぬが、マリアンナ以外に、アリッサと、馬車の御者と仮面の男がいて、中には更に数名。

 クリフは愛用の剣の柄を指が白くなるほど握りしめた。応援が来なければひとりでやるしかない。最悪の場合もあり得るのだ。
 
 かたや、デヴィッドとアーサーだが、ようやく彼らも教会の見えるところまでやってきた。
 木立を見つけて騎士たちと馬を隠すと、そろそろと進んできたところで、クリフと遭遇した。
 
「デヴィッド様、申し訳ございません。わたしの不手際でマリアンナ様を攫われてしまいました。犯人はノイマン公爵家の兄妹です」

「クリフ、よくここまで辿りついた。我々はそのノイマン家のヘンドリック殿からこの隠れ場所を教えてもらった。彼はアリッサの計画をやめさせるために動いていたようだ」

「なんと!公爵子息は演技でマリアンナ様を馬車から投げ出したのか」

 聞き捨てならない言葉にデヴィッドは、なんだと!と声を荒げそうになり我に返った。

「全ての言い訳は終わってから聞こう。まずは救出だ」



 女神像の前で、元領民と名乗る男は跪いた。

 お嬢様、こんな事に巻き込んでしまい申し訳ありません、と謝る男に、領地が不作のせいで貴方たちに迷惑をかけてしまいましたと、マリアンナもまた謝るのだった。

 領地の不作で生きていくために必死だった男は、妻子を置いて一人で王都に出た。農地はその時に手放した。
 彼は働き口を探したが、田舎の元農民にはなかなか働き口が見つからなかった。
 そんな時にならず者の元締めから、用心棒をやらないかと誘われた。
「俺らはちょっとした金儲けのために悪さはするが、卑怯なことや人殺しだけはしないのさ」その言葉を信じた。いや、信じるしかなかった。

 生きるためとは言え悪事に手を染めてしまった。
 ただ、金を稼いで領地の妻子に送ってやろうとしただけなのに。もう帰れやしないな、そう思って妻から来た手紙を丸めて捨てた。

 領主様が借金をしてまで、我々領民を思ってご苦労されている。お嬢様も若様も働いていると聞く、そんな事が書いてあった。

「そんなお嬢様に俺はなんてことをしちまったんだろう。
 お嬢様は必ず助けます。いやなに、あの坊ちゃんたちはちょいと怖い目に遭ってもらってから縛り上げて、そのまんま置いて逃げますよ。公爵家にバラすぞと脅せばあの女狐もおとなしくなるでしょうよ」

 髭面は、安心させるような言葉を重ねたが、他の奴らがどう動くかわからない。なんとか時間稼ぎをして、その間に助けがくればいいのだが。そうなれば自分は死ぬかもしれないが、お嬢様を助けられたならそれもまた運命だと思った。

「アリッサ様たちに暴力は振るわないでくださいね。あの方はわたしが気に入らないだけなんです」

 こんな状況でもあの女狐に暴力を振るうなと言うマリアンナに、髭面は泣きそうになった。

 その時、表の方からガタンと音がした。元農民の髭面は、マリアンナを安全な場所に座らせると、様子を見てきますとそちらへ向かった。

 ガシャン、バシン、シャツ!ドスン、!
 何やら激しく不穏な音がしたのち、静寂が訪れた。
 カツカツと響く足音。

 マリアンナは身構えた。武器になる何かを探して女神像の足元にあった折れた燭台を掴んだ。

 灯をこちらに向けられて逆光でよく見えないマリアンナは燭台を振り回した。

「来ないで!燭台で突き刺すわよ!」
 恐怖の中、必死で叫ぶ。

「姉さんっ!」
「マリアンナ!!」

 光って良く見えないしうめき声が聞こえる中、アーサーの声と、会いたかった人の声が響く。
 近づいてきた足音はマリアンナの前で立ち止まると、抱きしめた。

「ああ、マリアンナ!!無事で良かった!怪我はないか?どこか痛むところはないか?」

「デヴィッド様?」

 それは3ヶ月ぶりに会うデヴィッドだった。マリアンナは手にした燭台を落とすと、デヴィッドに抱きついた。
 そしてここに連れられてきて初めて声をあげて泣いた。

「怖かっただろう、マリアンナ。済まなかった。僕のせいだ。君をこんな目に遭わせてしまった」

 デヴィッドにしがみつき泣いていたマリアンナは、我に返って、申し訳ありませんと、離れようとしたのだが、マリアンナを抱きしめる腕は緩まなかった。

「ようやく。ようやくこの手の中に閉じ込める事が出来たんだ。もう少しこのままいさせて」

「あー、お取り込み中申し訳ないが、姉上から離れて貰えますか?婚約者でもない男女の距離では無いです」
 眉間に皺を寄せたアーサーが不機嫌な顔で立っていた。

 


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