突然ヒロインとなったマリアンナの恋愛事情〜女装の王子様に囲い込まれました

牧場のばら

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大円団に向けて

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 デヴィッドは、父であるサイラス・ロックフィールド公爵と向き合っていた。

「マリアンナ嬢の奪還、無事やり終えたようだな。ご苦労だった」

「はい。お陰様でマリアンナを取り戻しました」

「それでお前はどうするつもりだ?お前もわかっているだろうが、公爵家の嫁としてマリアンナでは不足だ。後ろ盾が弱すぎる。
 まあ、家柄がよくても中身が伴わないのもいるがな。まさかノイマン公爵の娘があんな暴挙に出るとは思わなかった」

「父上、私はこの家を出ようと考えています。籍を抜いてください。一平民として剣の腕を活かして生きます。そしてマリアンナを娶りたいと思います」

 ふむ、とサイラスは言った。

「後継から逃げて愛に生きると言うのか。その覚悟は本気だと?」

「はい。これまでは甘えがありました。三男という立場にあっても、貴族で無くなる事はないとたかを括っておりました。
 しかしそんな生半可な気持ちでは愛する人を守り抜く事は出来ない。もう、後悔はしたくないのです。
 母上の願いを聞き入れたのは、それが自分の存在意義だと思っていました。女の子になれば母上が愛してくれるのだと。
 しかし違うのです。ただ待つのではなく、自分の力で切り開かないといけないんだ。彼女に恥じない人間だと、堂々と言えるようになりたい。彼女を失いたくないのです」

 デヴィッドは瞳に強い光をたたえて父公爵を見た。




「わたくしの父、ソーンダイク侯爵が公爵閣下にお願いに上がりましたのよ。 
 つまり、わたしが子どもをたくさん産んで、ひとりを実家の養子にするから、ジェイムス様を公爵家の後継にして!ってことなの」

 きゃあ、子どもをたくさん産むってはしたなかったかしら、と照れながらもエルリーヌは嬉しそうだ。

「だって愛するジェイムス様との子どもよ。たくさん愛して頂けるってことよ。幸せすぎるじゃない?」

 頬を赤らめて照れるエルリーヌが可愛らしくて、マリアンナは自分まで幸せな気持ちになるのだった。

「だからマリィは安心してデヴィと結ばれたらいいのよ」




「そういう訳でな、ソーンダイク侯爵の方からジェイムスを公爵の後継へと薦められたのだ。
 その上でデヴィッドを自由にしてあげて欲しいと頼まれた。思えば侯爵もまた、小さい頃からお前たち双子を見守ってくれていたのだな」

「父上!それでは、マリアンナはどうなるのです?」

「ああ、公爵夫人としては及ばないが、エインズワース子爵夫人としてなら、マリアンナは適任であろう」



「それでね、うちの父がお節介をしてくれたのよ。
 今回、恐怖の体験をしたにも関わらず、マリィが毅然とした態度でいた事や、ならず者の中にオディール領の元領民がいてマリィを守ってくれた事とか、領民に慕われる素晴らしいご令嬢じゃないかって。
 お父様ってば、わしに息子がいたら、間違いなく嫁に貰うところだ!なんて言ったらしいのよ」

 本当に嬉しそうに笑うエルリーヌに、マリアンナの心は温かくなった。

「エリィ、わたし……」

 胸が詰まって声が震えるマリアンナを、エルリーヌは優しく抱いた。

「ふふ、お義姉さま、と呼んでもいいのよ」

「もう、エリィったら」

 部屋からは娘たちの華やいだ笑い声が聞こえる。
 お茶を運んできたシャーリーは、ドアの外で込み上げてくる涙をぐっと堪えた。

「ああ、ダイアナ奥様。貴女が愛していたお子様たちは、素晴らしい伴侶を得られましたよ。ジェイムス様には太陽のように眩しいエルリーヌ様が、デヴィッド様には月のように慈愛に満ちたマリアンナ様が。
 お二人ともこの上ない相手に巡り合われたのです」



 その後、ジェイムスも部屋を訪れ、「マリアンナ嬢が義妹になるのは大歓迎だよ」と告げた。

「ジェイムス様とエルリーヌ様のお子様はどれだけ美しいお子が生まれる事でしょうね、楽しみです」

「あらあマリィ、そんな他人行儀でなく、エリィとジェイで良いのよ。もちろん、お義兄様と呼んであげてもジェイは嬉しいと思うわ。」

「いつのまにそんなに仲良くなったの?」と驚くジェイムスに、2人はにっこり微笑んだ。

 夕刻になりベッドの上で本を読んでいたマリアンナの部屋をノックする音がした。

「デヴィッド様」

「調子はどう?まだ別邸に戻りたい?それとも領地へ帰りたいって言いだすのかな」
 笑いながらデヴィッドは尋ねた。

「もう身体はすっかり良いのです。ご心配をおかけしました。
 領地へは帰りませんが、そうですね、そろそろ別邸へ戻ろうかと思っています」

「わかった。僕も一緒に移るよ。君は無茶しそうだから。それから改めて君に伝えたい事があるんだ」

(後継者のことかしら。既にエリィから聞いたと言ってはならないわね)
 マリアンナは、はい、と頷いた。

「マリアンナ、聞いてくれる?
 君が図書館で仕事をしていた時に、見かけていたのはジェイムスではなく僕だよ。
 ワゴンを押してキビキビと動く君を見るのが密かな楽しみで図書館に通ってたんだ。
 梯子から落ちかけた時、助けるために君に触れた時の感触が忘れられなかったと言ったら軽蔑されるかな」

「図書館の王子様はデヴィッド様だったのですね」

「うん。それに、ロバート・ゴードンに襲われた時に気を失った君を抱き止めたのも僕なんだ。あの頃はまだ女だと思われていたので言い出せなかった」

「まあ!そうだったのですね。わたしは何度もデヴィッド様に助けてもらっているのですね。本当にありがとうございます」

「あの頃からずっと君が好きだよ。だから姑息な手段で君をここに連れてきたけど、僕は嬉しくてつい君に触れては、後からシャーリーにこってりと搾られてた」

 マリアンナはぷっと吹き出した。

「ずいぶんと距離の近い方だなあと思っておりました。
 それに、図書館の王子様のことを、わたしも慕っていました。
 ジェイムス様と学院で話した時、覚えていらっしゃらなかった。ジェイムス様のお立場なら素知らぬふりをされても当然でしょうが、違和感を覚えたんです。
 そしてデヴィ様に出会って、図書館で出会ったのは、もしかしたらデヴィ様?と考えたこともありました。
 それで、デヴィ様が男装したお姿なのかしらなどと考えたりして、混乱しました」

 2人は顔を見合わせて笑った。

「そりゃ酷いな。僕の女装は年季が入っているから見抜かれることはほとんどなかったけど、男装してると疑われてたとは!
 ねぇ、マリアンナ。僕も君をマリィって呼んでいいかい?エルリーヌが自慢するんだよ。自分たちは愛称で呼び合っているんだって」
 
 マリアンナは頬を赤らめて頷いた。
 我慢できなくなったデヴィッドがマリアンナに触れようと近づいたところで、バンとドアが開く。

「デヴィッド様ー!婚約前です!気軽に触れてはいけませんよ!」


 シャーリーの雷が落ちた。
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