俺にしか描けない

東妻蛍

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俺が部活を選ぶまで

部活紹介

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 優一の昼休憩はなかなか憂鬱なものだった。陽太と二人で弁当を食べるつもりだったのに、有川を始めとした女子たちから声を掛けられたからだ。周囲の男どもの羨望の視線を感じながら「先約があるから」と断るのは優一にとって大変勇気がいることだった。そんなに羨ましいなら変わってほしい。とてもじゃないが口には出せないが、優一は内心でため息を吐いた。
「お待たせ」
「おー。よかったの、さっきの」
「別に。そもそも陽太ほどじゃないけど、俺だって初めての人間と何喋っていいか分かんないし」
「俺ほどってなんだよ。……せめて、一緒に食うとか」
「え」
 もしかして陽太って女子と食事を共にしたいとか考えているのだろうか。優一の中の陽太像と先ほどの陽太の発言が結びつかず、優一は目を白黒させた。優一の困惑に気が付いたのだろう。陽太は慌てたように手を横に振った。
「違うって。俺が、じゃなくて! あの子たちも勇気出して優一に話しかけたんじゃねーかなって」
「敬意を表してってこと? でも、その気もないのに気を持たせるのは可哀想じゃない?」
「そういうもん?」
 優一の言葉がピンとこないらしく、陽太は小首を傾げた。その姿を見て優一は内心で大きなため息を吐く。お前には分からないだろうけど、お前の言動に振り回されっぱなしの俺にはあいつらの気持ちがよく分かるんだよ。
「午後ってなんだっけ」
「優一が待ち望んでた部活紹介だよ。さては本当に先生の話一個も聞いてなかったな?」
「ああ、あれ今日だったの。てか別にそんな待ち望んでないよ」
「そう? ずっと部活のページ見てたから、なんか探してんのかと思ってた」
 陽太が悪戯っぽく笑うのを優一は眩しく思う。普段なんにも気づかないこの男が、俺のことだけをこんなにしっかり見てくれている。それが俺にとってどれだけ特別感があって嬉しいことか。どれだけ勝手に期待して、何度そんなわけがないと打ちひしがれてきたことか。
「合ってただろ?」
「大正解」
 優一は自分の弁当から卵焼きをつまんで嬉しそうに笑う陽太の口に景品とばかりに突っ込んだ。両親が共働きの陽太は幼い頃にはたまに弁当を持ってこれないことがあり、その時は優一がよく弁当を分けてやった。その時によく陽太が一番美味しいと言っていたのが、優一の母が焼く甘じょっぱい卵焼きだった。男の子二人で食べるには全く足りない量だったが、二人で食べる弁当は満腹感よりも満足感があって優一はとても好きだった。
「うまー! 優一の母さんの卵焼き、本当に美味いよなぁ」
「ほんとそれ好きだね。またうちにご飯食べに来なよ。母さんも喜ぶし」
「野球部男子の食欲ナメんなって。大変なことになるぞ」
「なんだよその犯行予告みたいなやつ」
 弁当を食べ終えてあれこれ雑談をしていると、いつの間にかもう予鈴が近くなっていた。先ほどのクラス会で決まったクラス委員の先導のもとぞろぞろと体育館に向かう。さて、一体何の部活にしようか。優一は朝からずっと同じことを悩み続けていた。
 部活紹介はまず運動部から始まった。陽太が入部する予定の野球部を始めとしてサッカー部、バスケ部、バレー部、テニス部といったメジャーな競技の他、弓道部やアメフト部、ハンドボール部なんていうのもあった。しかしどれに対しても優一の食指は動かない。そもそも運動はできればやりたくないし、陽太がいない部活ならなおさら。でも陽太と同じ野球部に入ってレギュラーの座を競い合うようなことがしたいわけでもない。
 続いて文化部。一番最初に出てきた吹奏楽部はなんと野球部の応援に行くという。優一は一瞬いいかなと思ったが、突然舞台上でなぜか部員が腹筋をし始めたのを見て目を見開く。部員による説明だとランニングもあるし練習も忙しいとか。パス。俺は運動はしたくないんだってば。続いて出てきた美術部にも華道部にも茶道部にも科学部にも軽音部にも家政部にも新聞部にも演劇部にも興味を持てない。腹をすかせた陽太を思い浮かべて家政部に一瞬興味を抱いた優一だが、料理の他に縫物や編み物もあると聞いて苦い顔をする。そもそも自分は家庭科だけは大の苦手だった。これもパス。
 全ての説明が終わり、全員で教室に戻る。その道中、陽太は楽し気に優一のもとに駆け寄ってきたが、優一が渋い顔をしているのを見て首を傾げた。
「なに。部活紹介、楽しみにしてたんじゃねえの」
「なーんにも興味持てなくて」
「なんだ。まあでも帰宅部でいいじゃん」
「帰宅部は嫌なんだよ……」
「なんでだよ。あっ、俺と帰れなくなるから、とか?」
「そうだよ……って言ったらどうする?」
「心配しなくてもお前みたいなでかいやつを誘拐しようとする人間はもういないって」
 冗談めかしてはいたが、優一にとってはれっきとした本音だったのだ。しかし陽太は冗談としてとらえたらしく、優一の言葉を笑い飛ばした。ちくしょう。人の気も知らないで。でも、本音をしっかりと受け止められてもそれはそれで困る。だって、それは、だいぶ気持ち悪いじゃないか。男子高校生が同じ男子高校生と一緒じゃないと帰りたくない、なんて。
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