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二年生
進級
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優一は理系を選び、二年生に進級した。当然ではあるが陽太とクラスが別になったり、美術部でも田中が引退したりなど色々あったが、優一は特に変わらなく日々を過ごしていた。三年だからと部長に就任した藤村はほとんど部活に姿を見せない。絵を描くのが好きだと入部した一年生も三人ほどいたが、田中や近宮ほどの熱意のある部員は誰もいなかった。だから結局今日も美術室には優一と近宮しか姿を現さない。
「お疲れ様」
「お疲れ様。新しいクラスはどう?」
「別に変らないよ。まあ有川が理系クラスを選んだのは予想外だったけど」
「彼女はまあ……誰も止めなかったからでしょうね」
有川はお世辞にも数学も理科も得意とは言えない。一年生の時に仲良くしていた友人たちもみんな文系に行ってしまった。そこまでして有川が理系を選んだ意味を、近宮は知っているのだろうか。優一がちらりと近宮を見やると、近宮はもう優一には興味を失ったとばかりに石膏像の観察にいそしんでいた。だから優一も邪魔をしないようにと「はあ」と曖昧な返事だけを漏らした。
近宮は他人と積極的にコミュニケーションをとるようなことはしないが、周りのことはよく見ている。よく見ているのにわざわざ衝突するような物言いをするから厄介なのだが。まあ優一にはよく分からなかったが、近宮が言うのならそうなのだろう。もしかしたら自分の母と同じように、好きな相手と同じ進路を狙ったのかもしれない。やたらと俺に進路を尋ねてきていたが、あれは一体何だったのだろうか。好きな相手に直接聞けばいいのに。
まあでも本当にそうだとしたら優一は有川の熱意を羨ましくも思うし妬ましくも思う。好きな人と一緒にいたいと思って進路を選ぶというのは、優一が選ばなかった方の道だ。結局俺は陽太に失望されるのが嫌で文系を選ばなかった。有川は好きな相手に拒絶されるかもしれないとか思わなかったのだろうか。怖くはなかったのだろうか。でも有川が選んだ道も俺が選んだ道も、結局決断を他人に委ねている点では同じじゃないだろうか。優一はまだ自分が選んだ進路が正しかったのかの自信が持てないでいた。
「近宮は成績もいいだろ? 芸大以外、考えたりしなかったの?」
「藝大に行くために勉強してるの。順序が逆よ」
「……でも、芸大に行ってもその、就職とか」
「あなた、野球で大学行きたいって言ってる小島くんにも同じことを言うの?」
「あー……ごめん。失礼だった」
「分かればいいわよ。それにあなた、人の進路気にしてる場合?」
「確かに。そりゃそうだ」
優一はなんとなく理学部がいいかもしれないと思っただけで、進路について細かいことは何も考えていない。どこの大学がいいのかも、本当に理学部を選んでいいのかも、なにも分からない。しかし優一は近宮にそう指摘されてもまだ人の進路が気になって仕方がない。人の、と言っても陽太の進路だけではあるけれど。
「せめてどこの大学行くのかだけでも聞ければなあ」
「それも聞いてないの」
「聞けないよ。だって怖くない? 急にそんなこと聞かれたらさあ」
「参考にするとか言いなさいよ。勉強ができても、あなたの頭は意味ないのね」
「ぐぅ……まあ野球で大学行くんならきっと私立大学なんだろうなあ……私立の理系って学費高いんだよ……」
「やると決めたら案外努力できるものよ。返済不要の奨学金とか探せばいいじゃない」
「めちゃくちゃレベル高い話を要求しないで……」
優一と近宮は美術室で二人きりになることが多くなったのもあって、クラスは別になってもよく話す。だから、変な噂が立つのもある意味必然だったのかもしれない。とはいえ、優一は面と向かって有川に質問されるまで、そんな噂が出回っていることなどまったく知らなかったのではあるけれど。
「お疲れ様」
「お疲れ様。新しいクラスはどう?」
「別に変らないよ。まあ有川が理系クラスを選んだのは予想外だったけど」
「彼女はまあ……誰も止めなかったからでしょうね」
有川はお世辞にも数学も理科も得意とは言えない。一年生の時に仲良くしていた友人たちもみんな文系に行ってしまった。そこまでして有川が理系を選んだ意味を、近宮は知っているのだろうか。優一がちらりと近宮を見やると、近宮はもう優一には興味を失ったとばかりに石膏像の観察にいそしんでいた。だから優一も邪魔をしないようにと「はあ」と曖昧な返事だけを漏らした。
近宮は他人と積極的にコミュニケーションをとるようなことはしないが、周りのことはよく見ている。よく見ているのにわざわざ衝突するような物言いをするから厄介なのだが。まあ優一にはよく分からなかったが、近宮が言うのならそうなのだろう。もしかしたら自分の母と同じように、好きな相手と同じ進路を狙ったのかもしれない。やたらと俺に進路を尋ねてきていたが、あれは一体何だったのだろうか。好きな相手に直接聞けばいいのに。
まあでも本当にそうだとしたら優一は有川の熱意を羨ましくも思うし妬ましくも思う。好きな人と一緒にいたいと思って進路を選ぶというのは、優一が選ばなかった方の道だ。結局俺は陽太に失望されるのが嫌で文系を選ばなかった。有川は好きな相手に拒絶されるかもしれないとか思わなかったのだろうか。怖くはなかったのだろうか。でも有川が選んだ道も俺が選んだ道も、結局決断を他人に委ねている点では同じじゃないだろうか。優一はまだ自分が選んだ進路が正しかったのかの自信が持てないでいた。
「近宮は成績もいいだろ? 芸大以外、考えたりしなかったの?」
「藝大に行くために勉強してるの。順序が逆よ」
「……でも、芸大に行ってもその、就職とか」
「あなた、野球で大学行きたいって言ってる小島くんにも同じことを言うの?」
「あー……ごめん。失礼だった」
「分かればいいわよ。それにあなた、人の進路気にしてる場合?」
「確かに。そりゃそうだ」
優一はなんとなく理学部がいいかもしれないと思っただけで、進路について細かいことは何も考えていない。どこの大学がいいのかも、本当に理学部を選んでいいのかも、なにも分からない。しかし優一は近宮にそう指摘されてもまだ人の進路が気になって仕方がない。人の、と言っても陽太の進路だけではあるけれど。
「せめてどこの大学行くのかだけでも聞ければなあ」
「それも聞いてないの」
「聞けないよ。だって怖くない? 急にそんなこと聞かれたらさあ」
「参考にするとか言いなさいよ。勉強ができても、あなたの頭は意味ないのね」
「ぐぅ……まあ野球で大学行くんならきっと私立大学なんだろうなあ……私立の理系って学費高いんだよ……」
「やると決めたら案外努力できるものよ。返済不要の奨学金とか探せばいいじゃない」
「めちゃくちゃレベル高い話を要求しないで……」
優一と近宮は美術室で二人きりになることが多くなったのもあって、クラスは別になってもよく話す。だから、変な噂が立つのもある意味必然だったのかもしれない。とはいえ、優一は面と向かって有川に質問されるまで、そんな噂が出回っていることなどまったく知らなかったのではあるけれど。
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