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三年生
展示会準備
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優一は悩んでいた。クラスのみんな、特に有川からは絵の方に注力していいとは言われた。しかしそればかりやっていて、本当に陽太に胸を張って「頑張った」と言えるだろうか。そう悩んだ優一は絵具を乾かしている間などにクラスでの出し物の準備も大層手伝った。その結果、結局優一の作品が完成したのは文化祭直前のことだった。
「いいんじゃない?」
「ずっと描いてたらどんどん分からなくなってくるね……」
「分かる。ものすごく分かる」
近宮の言葉はやけに実感がこもったもので、優一は思わず笑ってしまう。そんな優一の方をじろりと睨みつけた近宮は再び優一の絵に視線を戻した。
「さて。誰かさんが長々と描いていたせいでまだ展示会のレイアウトが決まっていないのよね」
「……それはもう、ごめんなさい」
「あら。誰とは言っていないけど。まあサイズも大きいし、バランスの関係で私のとあなたのがラストでいいわね」
「じゃあ一、二年生の作品を並べていこうか」
田中や近宮ほど熱心な部員はいなかったが、それでも美術部に入部するような生徒はみんな描くことが好きらしい。美術室にまで来るような部員は少なくても、展示会があると言えばちゃんと作品を作ってくる。まあ美術部の活動は場所に縛られないのがいいところでもある。いや、もしかしたら俺がずっと部室にいるから後輩は近寄りづらかったのかもしれない。突然降って湧いた不安に駆られる優一を見て、近宮は不服そうに首を傾げた。
「どうしたの。早く動かして」
「いやぁ。俺って悪い先輩だったかなと」
「何言ってるの。作品だけ見ればいい先輩よ。きっと」
それはフォローなのだろうか。優一は一瞬近宮の言葉を訝しんだが、作業に没頭するうちにいつのまにかそんなことは優一の頭から消え失せていた。
作品を並べ終えると中々壮観である。優一は感心しつつも、ふと自分がずっと絵を描き続けていた場所に目をやった。展示のバランスとしては近宮が指示したこのレイアウトがいいと思う。でも
「俺のやつ、やっぱりここに飾りたいんだけど」
「……あー、確かにそうね。この絵はここにおいてこそ完成すると思う。でもバランスがねぇ……」
「なら私のやつを最後に置いてくれる?」
驚く二人をよそに、突然現れた吉井は大きな石膏像をポンと机の上に置いた。唐突な吉井の提案に困惑する二人を置いて、吉井は優一の作品をひょいとどけると自分の作品をそこに置いてしまう。
「顧問が展示に参加するなんて、初めてじゃないですか?」
「いやあ。個展とかもちゃんとやってるんだけど、横山先生からもっと分かりやすく何やってるか示せって言われちゃってさぁ」
また吉井の口から学年主任の名前が出てきた。吉井はよほど横山に振り回されているらしい。ぼんやりとしている優一を置いて、近宮と吉井は他の作品の感覚をテキパキと詰め、いつもの窓際にスペースを空けてくれた。
「ほら、上沢君」
「あ、ああ。ありがとう……ございます」
優一は自分の作品をそっと持ち上げて窓際に置く。これでもう引き返せない。陽太はこれを見に来てくれるだろうか。毎年一応展示を見に来てはくれていたけれど。……でも油断せず、ちゃんと連絡を入れておこう。そう思って優一はスマホを一度は取り出したものの、突然臆病風に吹かれて動きを止めた。
「なにしてるの。写真でも撮るつもり?」
「あー……なんか恥ずかしくなってきて」
「今更ね。……まあ分かるけど」
「別に誰に見られてもいいんだけど、陽太に見られたら、その」
「『ずっとこいつ俺のこと見てたんだ』ってなるわね」
「……やっぱり? うわー、俺危ないやつじゃん……」
「ここまで描いておいて何言ってんの、君」
「ちゃんと小島君に来てくれって言いなさいよ」
「……え、でもそれはやっぱり恥ずかしいかも」
「なんで先生が恥ずかしがるんですか」
珍しく騒いでいる二人そっちのけで優一はぐるぐると悩み続ける。今しがた近宮に言った通り、別に他人に見られたところで、俺が何を描きたかったのかなんて伝わらないだろうからいいのだ。でも陽太に見られたら。こんなの、もはや公開告白みたいなものでは? 何をしてるんだ、俺は。
「というか上沢君。あなた、小島君には見に来てってもう言ったんじゃないの」
呆れたように言う近宮に優一の思考が止まる。一瞬何のことかさっぱり分からなかった優一だが、夏休みに画材屋でそんなことを確かに言ったことを思い出して頭を抱えた。
「え。……あ、あーっ! 言った……。え、でもなんで近宮が知ってんの?」
「画材を買いに行った時に田中先輩が興奮して教えてくれたわ」
「興奮って」
「デートの提案までしちゃったって嬉しそうに言ってたわよ」
「……バレてるぅ」
「君、分かりやすすぎるからね」
女性二人に頷かれ、優一は己の行動を振り返る。確かにただの友人を見るためだけに興味もない美術部に入るようなやつはいない。ただの友人を必死に描くようなことは滅多にない。頬を染めて黙り込んだ優一を見て、近宮と吉井は楽しそうに笑った。
「展示会が終わったら打ち上げでもする?」
「いいですね。小島君も呼べば?」
「なんでだよ……」
「モデルなんだから資格十分でしょ」
ここ最近受験準備でナーバスになっていた近宮が笑っているのを見て、優一は少しだけ安堵した。でも何も俺を揶揄うのをそんなに面白がらなくても。恨みがましい目で己を睨みつける優一を見て、近宮はまたケラケラと笑った。
「いいんじゃない?」
「ずっと描いてたらどんどん分からなくなってくるね……」
「分かる。ものすごく分かる」
近宮の言葉はやけに実感がこもったもので、優一は思わず笑ってしまう。そんな優一の方をじろりと睨みつけた近宮は再び優一の絵に視線を戻した。
「さて。誰かさんが長々と描いていたせいでまだ展示会のレイアウトが決まっていないのよね」
「……それはもう、ごめんなさい」
「あら。誰とは言っていないけど。まあサイズも大きいし、バランスの関係で私のとあなたのがラストでいいわね」
「じゃあ一、二年生の作品を並べていこうか」
田中や近宮ほど熱心な部員はいなかったが、それでも美術部に入部するような生徒はみんな描くことが好きらしい。美術室にまで来るような部員は少なくても、展示会があると言えばちゃんと作品を作ってくる。まあ美術部の活動は場所に縛られないのがいいところでもある。いや、もしかしたら俺がずっと部室にいるから後輩は近寄りづらかったのかもしれない。突然降って湧いた不安に駆られる優一を見て、近宮は不服そうに首を傾げた。
「どうしたの。早く動かして」
「いやぁ。俺って悪い先輩だったかなと」
「何言ってるの。作品だけ見ればいい先輩よ。きっと」
それはフォローなのだろうか。優一は一瞬近宮の言葉を訝しんだが、作業に没頭するうちにいつのまにかそんなことは優一の頭から消え失せていた。
作品を並べ終えると中々壮観である。優一は感心しつつも、ふと自分がずっと絵を描き続けていた場所に目をやった。展示のバランスとしては近宮が指示したこのレイアウトがいいと思う。でも
「俺のやつ、やっぱりここに飾りたいんだけど」
「……あー、確かにそうね。この絵はここにおいてこそ完成すると思う。でもバランスがねぇ……」
「なら私のやつを最後に置いてくれる?」
驚く二人をよそに、突然現れた吉井は大きな石膏像をポンと机の上に置いた。唐突な吉井の提案に困惑する二人を置いて、吉井は優一の作品をひょいとどけると自分の作品をそこに置いてしまう。
「顧問が展示に参加するなんて、初めてじゃないですか?」
「いやあ。個展とかもちゃんとやってるんだけど、横山先生からもっと分かりやすく何やってるか示せって言われちゃってさぁ」
また吉井の口から学年主任の名前が出てきた。吉井はよほど横山に振り回されているらしい。ぼんやりとしている優一を置いて、近宮と吉井は他の作品の感覚をテキパキと詰め、いつもの窓際にスペースを空けてくれた。
「ほら、上沢君」
「あ、ああ。ありがとう……ございます」
優一は自分の作品をそっと持ち上げて窓際に置く。これでもう引き返せない。陽太はこれを見に来てくれるだろうか。毎年一応展示を見に来てはくれていたけれど。……でも油断せず、ちゃんと連絡を入れておこう。そう思って優一はスマホを一度は取り出したものの、突然臆病風に吹かれて動きを止めた。
「なにしてるの。写真でも撮るつもり?」
「あー……なんか恥ずかしくなってきて」
「今更ね。……まあ分かるけど」
「別に誰に見られてもいいんだけど、陽太に見られたら、その」
「『ずっとこいつ俺のこと見てたんだ』ってなるわね」
「……やっぱり? うわー、俺危ないやつじゃん……」
「ここまで描いておいて何言ってんの、君」
「ちゃんと小島君に来てくれって言いなさいよ」
「……え、でもそれはやっぱり恥ずかしいかも」
「なんで先生が恥ずかしがるんですか」
珍しく騒いでいる二人そっちのけで優一はぐるぐると悩み続ける。今しがた近宮に言った通り、別に他人に見られたところで、俺が何を描きたかったのかなんて伝わらないだろうからいいのだ。でも陽太に見られたら。こんなの、もはや公開告白みたいなものでは? 何をしてるんだ、俺は。
「というか上沢君。あなた、小島君には見に来てってもう言ったんじゃないの」
呆れたように言う近宮に優一の思考が止まる。一瞬何のことかさっぱり分からなかった優一だが、夏休みに画材屋でそんなことを確かに言ったことを思い出して頭を抱えた。
「え。……あ、あーっ! 言った……。え、でもなんで近宮が知ってんの?」
「画材を買いに行った時に田中先輩が興奮して教えてくれたわ」
「興奮って」
「デートの提案までしちゃったって嬉しそうに言ってたわよ」
「……バレてるぅ」
「君、分かりやすすぎるからね」
女性二人に頷かれ、優一は己の行動を振り返る。確かにただの友人を見るためだけに興味もない美術部に入るようなやつはいない。ただの友人を必死に描くようなことは滅多にない。頬を染めて黙り込んだ優一を見て、近宮と吉井は楽しそうに笑った。
「展示会が終わったら打ち上げでもする?」
「いいですね。小島君も呼べば?」
「なんでだよ……」
「モデルなんだから資格十分でしょ」
ここ最近受験準備でナーバスになっていた近宮が笑っているのを見て、優一は少しだけ安堵した。でも何も俺を揶揄うのをそんなに面白がらなくても。恨みがましい目で己を睨みつける優一を見て、近宮はまたケラケラと笑った。
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