ログティア~忘却の大地と記録の旅人~

石動なつめ

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新米冒険者とそれなり冒険者

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 ギルドを出て大通りを歩くセイルとハイネルは笑顔だった。
 気持ちは明るい。文字通りにっこにこである。 
 報酬も勿論の事だが、念願の冒険者として認められたのだ。
 二人は懐中時計を太陽の光にかざした後、大事そうに懐にしまった。

「ようやく僕達も冒険者となったわけですが、最初の依頼ってどんなものにしましょうかね」
「冒険者になって、かつ、パーティとしての記念すべき最初の依頼ですもんね」
「ええ、そうです。記念すべき! 最初の! 依頼!」
「今日はハイネル、テンション高いですね」
「ええ、冒険者ですからね!」

 そんな事を話しがらお互いに笑い合っていると、ふと何かを思いついたようにハイネルが鞄を軽く叩いた。

「自慢ではありませんが、昨日の戦闘で攻撃手段を失いました」
「おやまぁ」

 言われてみれば、確かに自分の武器は『火トカゲ』だけです、とハイネルは言っていたな、とセイルは思い出す。
 大いに助けられたが、それんしても随分コストの高い武器だ。駆け出しなら、何か別の武器を持っていても良いのではないだろうか。そう思ったのでセイルは聞く。
 
「そう言えば気になっていたんですが、ハイネルはマジックアイテム以外の武器ってどうしたんですか?」
「質屋に」

 予想外の答えが返ってきた。
 だが思う所があったのかセイルは重々しく頷く。

「世知辛いですね」

 言葉に妙に気持ちがこもっていた。
 反対に質屋を利用した本人であるハイネルの方は割とあっけらかんとしており、

「意外と便利ですよ、質屋。僕も何度か利用しています」

 などと、まるでオススメの料理を紹介するようなノリで人差し指を立てた。
 利用の仕方が違う気がする、とセイルは思った。

「ちなみに今まで何を預けたんですか?」
「眼鏡」
「日常生活に支障が出ますね」
「ええ、あれは大変でした」

 そう言った後、ハイネルは腕を組んで、考えるように手を顎に当てる。

「とは言え、今の手持ちだとマジックアイテムを買うには足りませんし。何か手頃な武器でも探してみますかねぇ」
「そうですねぇ」
「となると、目指すは武器屋ですね」

 目的地が決まると、セイルとハイネルは武器屋に向かって歩き出した。
 武器屋は冒険者ギルドのある大通りから南に向かった先の商人通りにある。
 商人通りには名前の通り、様々な店が立ち並ぶ。武器屋に防具屋、道具屋に宿屋。酒場に、お菓子屋。それ以外にも食べ物の屋台や、何を取り扱っているのか分からないような店もある。
 大通りにも屋台は出ているが、店数はこちらとは比べものにならない。
 足を踏み入れる前から漂ってくるふわりと食べ物の良い香りが鼻腔をくすぐり、セイルの食欲をそそった。

「武器屋だけでも結構な数がありますね。あとお腹がすきました、恐るべし商人通り」
「ええ。さすが冒険者の町と言った所でしょうか。ひとまず武器屋を覗いてから、食事にしましょう」
「合点!」

 二人は商人通りをきょろきょろと辺りを見回しつつ武器屋探しを開始した。



 一概に武器屋と言っても色々ある。
 剣だけを扱う店や弓矢だけを扱う店。
 一般の冒険者には手が出ないような高級品を扱う店に、特殊な加工の施された武器を扱う店。
 良さそうな武器を取り扱っている店は何件かあったが、財布の中身と相談するとなかなか厳しい。
 お金が貯まったら来ようとメモだけして、二人は色々見て回る。
 そうしてしばらく探していると、中古の武器を扱っている武器屋が目に留まった。

「中古の武器屋なんてあるんですね」
「今後の買い替えも考えると、最初の内は中古の方が良いかもしれませんね」

 ちらりと覗くと値段もちょうど良い。ここで探してみようと二人は店に入った。
 店の中には所狭しと武器が置かれている。中古と言う割にはきちんと手入れがされており、中には新品同然のものまであった。
 そういうものは値段もそれなりなのだが。

 店の中を見て回っていると、入口近くの壁に貼られている張り紙を見つけた。
 近づいて読んでみると、どうやらここでは主に、質流れの商品を買い取って販売しているらしいという事が分かった。
 質流れの商品。
 セイルは思わずハイネルを見た。

「僕の武器もいずれここに……」

 ハイネルはそんな事を呟きながら何やら感慨深く頷いてたが、質流れまで待つ気なのだろか。
 ついでに「ここで買戻し……」とも聞こえてきた。
 それならば質屋でそのまま受け取った方が値段が安いと思うのだが。
 そんな事を思いながら、セイルはしゃがみこんで樽や棚に並んでいる武器を見る。
 剣や杖、斧に弓。様々な種類の武器が販売されていた。
 ぱっと見ただけではどれが良くてどれが悪いのかセイルには分からない。
 ログを見たらそれなりには分かるだろうが、さすがに人通りの多い場所でログ魔法を使うのは憚られた。
 ふむふむと眺めなていると装飾の凝った短剣を見つけた。
 柄の部分に鳥を模した銀色の装飾が施されている。せっかくなのでと手に取ってハイネルに見せてみた。

「この短剣なんかどうです?」
「僕を前衛に出す気ですか? 役に立ちませんよ」

 ハイネルは首を振った。
 その言葉にセイルは首を傾げる。

「後衛が二人いれば、自然とどちらも前衛になると思いますが」
「え?」
「わたしが前衛ではないのですか、的な視線にノーと言いたい」

 セイルが棚に短剣を戻すと、今度はハイネルが何かを見つけたようで。
 にこやかな笑顔でタンバリンのようなものを持ってセイルに見せる。

「これはどうでしょう?」
「それはどんな武器ですか?」
「タンバリンです」
「どうやって使うので?」
「鳴らして応援します」

 ハイネルがシャラランとタンバリンを鳴らした。
 良い音だ。
 だがどんなに良い音でも武器ではない。

「とことん前衛に出る気がないですね、ハイネル」
「――――ぶはっ!」

 そんなやりとりをしていると、後ろから噴き出すような声が聞こえた。
 振り返ると、大柄な男が口に手をあてて笑いを堪えている。
 どうやら今までのセイルとハイネルの遣り取りを見ていたようだ。

「いや、悪い悪い。ぶははは……あー、えーと、だな」

 くつくつと笑いながら、大柄な男は軽く手を挙げる。
 そして二人の間にひょいと手を伸ばして、その奥にあったクロスボウを手に取って差し出した。

「初心者にはこれがいいぞ」

 そう言ってニカッと笑う男の背中には、立派なクレイモアが背負われていた。
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