ログティア~忘却の大地と記録の旅人~

石動なつめ

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ログティアの役割

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 ライゼンデの住人達の避難を済ませ、冒険者達が冒険者ギルドの前に揃ったのは、連絡を受けてから三十分後の事だった。
 ライゼンデには冒険者を引退して、そのまま住み付いた者達も多い。そのため、予想以上に協力者の数は多かった。
 彼らや衛兵達の協力もあって、アイザックの予想よりも早く準備が完了していた。
 セイルとハイネルも一通り準備を整えてその場にいる。
 その中にはフランもおり、彼のパーティの仲間達と共に真剣な眼差しをアイザックに向けていた。
 だが、その中にはアルギラ達の姿はない。

「アイザックさん、各班の編成が終わりました」

 アティカがそう言いながらアイザックに資料を手渡す。アイザックはそれを受け取ると、内容の確認を始めた。
 気が付けばアイザックもアティカもまた、武器屋防具等の装備を整えていた。もちろん他のギルド職員達もだ。
 普段身に着けているギルド職員の制服は鎧へ、ペンと書類はそれぞれの得意とする武器へと変わっている。
 アイザックは両手で扱うようなバトルアックスをドシンと片手で地面に置くと、アティカから受け取った資料を読み上げ始めた。

「これからゴーレム討伐部隊の編成の発表を行う。まずは第一班にフラン」

 ゴーレム討伐部隊にはフランや、ベテランの冒険者達の名前が次々と呼ばれている。
 だが残念ながらセイルやハイネルを含めた、最近冒険者になった者達の名前はそこには上がらなかった。当然と言えば当然だろう。
 冒険者になりたての新人を危険な任務に刈り出せば、被害が広がる危険があるからだ。

「班別に最初に名前を呼んだ奴がリーダーだ。そいつの指示に従え。名前を呼ばれなかった奴は、他の住人同様に避難しろ。自分の身を守って、余裕があったら他の連中を助けてやれ」
「応!」

 アイザックの言葉に冒険者達は掛け声を上げてザザッと動き出した。そうしてそれぞれの班でまとまると、役割分担を相談し始める。
 新人達もまた戸惑いながら避難場所へと向かって走り出した。
 だが。
 だが、ハイネルは動かない。手を強く握りしめて、ゴーレム討伐の部隊を見つめていた。

『――――何をやっても二番手で、何をやっても上手く行かない。冒険者になる為のテストだって、何年も何年も粘って、粘って、粘って、ようやく先日許可をもぎ取りました。その間にあいつはどんどん凄い奴になってしまって。ああいうのを、物語の主役って言うのでしょうね。僕は……脇役のままです』

 不意に、セイルの頭の中にハイネルの言葉が響いた。
 セイルは杖を握りしめてハイネルの顔を見上げる。

「行きましょう」
「セイル?」
「わたし達が出来る事をしましょう」

 セイルの言葉にハイネルは少し目を見張った。

「何を」
「白雲の遺跡です」

 白雲の遺跡にはストレイとウッドゴーレムがいる。冒険者の話では、全てのゴーレムがライゼンデに向かって来ているわけではないようだ。
 もしかしたらストレイ達は遺跡で、残ったゴーレムやゴーレム泥棒達によって危険な目に合っているかもしれない。

 冒険者達はライゼンデを守る事で手いっぱいた。ストレイを助けに行くのは、まだ大分後の事になるだろう。
 そしてその冒険者達はゴーレムを倒し終えたら遺跡まで行き、他のゴーレム達と同じくウッドゴーレムまで倒してしまうかもしれない。
 遺跡を守っていたウッドゴーレムが倒されれば、白雲の遺跡はもう二度と元には戻らないだろう。

「幸いゴーレムのほとんどはこちらに向かって来ているようです。遺跡に向かってストレイを探して、事態が落ち着くまでゴーちゃんをどこかに逃がしましょう」

 セイルの言葉に、ハイネルは顎に手を当て、思案する。

「……あの冒険者の話だと、ゴーレムは五、六体がこちらへ向かっているのでしたね」
「ええ。制御盤の魔石の魔力でゴーレム達が動いているなら、あれを外せばゴーレムへの動力供給が止まって、そちらも落ち着くのでは」
「そうですね」

 セイルの言葉にハイネルは頷いた。そしてもう一度ゴーレムの討伐部隊――――いや、フランを見る。
 セイルの位置からは、表情は読めない。
 ハイネルはフランを見つめたまま、セイルに向かって問いかけた。

「――――セイル。脇役が、主役と同じ舞台に立とうとするのは、愚かな事だと思いますか」

 問いかけと言うよりは、何かを決意した声だった。
 ほんの少しの緊張と不安が、そこに入り混じっている。
 セイルはハイネルの言葉に、はっきりと、胸を張って答えた。

「いいえ、ハイネル。誰しもが、誰しもにとっての主役です。あなたは決して、脇役などではありません」

 はっきりとしたセイルの言葉に、ハイネルの背筋が伸びる。
 それはお世辞でも、気を遣って言った言葉でもない。紛れもなく本心からのセイルの真実だ。
 セイルがハイネルにニッと笑ってみせると、ハイネルもまたお内情にニッと笑い返した。
 そして二人は踵を返すと、その場から駆け出した。
 二人が目指すのは白雲の遺跡。セイルとハイネルが冒険者になる為に、そして冒険者として、最初に足を踏み入れたあの場所である。
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