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第十話「これ以上ないくらい、良い的ですよねぇ」
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オーカーが運ばれた部屋へ駆けつけると、彼は満身創痍な様子でベッドに寝かされていた。
傷の手当は済んでいるようだったが、血を多く失っているのか顔色が悪い。
彼はバーガンディー達の足音に気が付くと、薄っすらと目を開けた。
「……陛下」
「オーカー、大丈夫か!?」
声をかければ、彼は困ったように笑って「申し訳ありません、油断、しました」と掠れた声で言う。
オーカーは剣術と魔法、両方の使い手だった。それがこんなにもボロボロにされてしまうとは。
バーガンディーはオーカーに、和平反対派の監視と、マダーの調査を頼んでいた。
その過程でこうなったという事は、犯人はその関係者だ。一番近いならマダーだが……。
「私が、不甲斐ないばかりに、奴を取り逃がすばかりか、このような無様な姿を……ああ、先代にどうお詫びすれば……」
オーカーはそう呟く。
その言葉にバーガンディーは違和感を感じた。呼び方だ。
(……先代?)
オーカーは、バーガンディーの父の事を名前で呼ぶ。
彼は前王の側近で補佐役であったが、同時に友人でもあった。父の頼みもあって、基本的には名前で呼んでたのだ。
小さな疑惑が胸に浮かび上がる。
この状態を見れば、落ち着いた後で話を聞く方が良いのだろうが、嫌な予感がした。
とりあえず、怪我の理由を聞きながら様子をみるかと、そう思った時。
「その人が、オーカーさんですか?」
シャルトルーズにそう聞かれた。
振り返れば、彼女は不可解そうな表情を浮かべている。
彼女の言葉にバーガンディーの中の違和感が、より色を増していく。
服の下に隠した武器をいつでも出せるようにしながら、バーガンディーはその言葉に乗った。
「君も何度も会っているだろう?」
「はい、ええ。会ってはいますが。ですが彼の“色”とは違います」
そうシャルトルーズが言ったとたん、一緒にいたサックスが懐から筒のようなものを取り出し、オーカーの額につきつけた。
魔導具で分類としては『銃』と呼ばれるものだ。
「さ、サックスさん!? どうしたでありますか!?」
「マルベリー。大丈夫だ、落ち着け」
ぎょっとするマルベリーにそう言うと、バーガンディーはサックスを見る。
「速いな、サックス殿」
「特技でしてね。さて、陛下。俺達が会ったオーカー殿、どっちか偽物みたいですよ」
サックスは銃を突きつけた相手から目を反らさずに言う。
バーガンディーは「ああ」と頷く。マルベリーは「偽物!?」と驚いた声を上げた。
しかし、一番目を剥いているのは満身創痍で寝かされている『オーカー』だ。
「こちらが偽物だ」
「へ、陛下、何を……」
そう言うと、バーガンディーは両手をパン、と合わせる。
そして小さく言葉を――魔法を発動するための呪文を唱えながら、ゆっくりと手を放す。
すると手と手の間に、キラキラとした光の粒が生まれた。
変装や、偽装を解く魔法だ。
バーガンディーは右手でそれを掴むと『オーカー』のに振りかける。
パラパラと光の粒は『オーカー』の身体に落ちて行き。
触れたそこから、燃えて広がるように『オーカー』の姿が、作り物それらに穴が開いていく。
やがて現れたのは、オーカーとはまるで違う男のそれだった。
歳は二十代ほど。彼は武人であったカージナルの父の部下だ。
「馬鹿な、どうして……」
「調べが足りないな。彼は私の父を、ボルドー様、と呼ぶのだよ。――――シャモア」
名を呼べば、男は悔し気にぐっと歯を噛みしめる。
彼を見下ろしながら、バーガンディーは問う。
「姿を偽装する魔法は、対象の血がなければ出来ない。オーカーをどうした」
「……ハ。どうしたって? 死んじゃいませんでしたよ。生きているかも分かりませんけどね」
鼻で笑って、シャモアは言う。その言葉に、バーガンディーとマルベリーの顔が険しくなった。
「カージナルといい、お前達は何をしようとしている!」
「ああ、その言い方だと……お嬢、失敗しちゃったんですか。やっぱりなぁ。向いてないからなぁ、あの子。こういう事には」
ぜえぜえと、肩で息をしながら、シャモアは卑屈に笑う。
どうやら姿形こそ偽ってはいたものの、怪我自体は本物らしい。
自分達を騙すためにここまでやるのかとバーガンディーは苦く思った。
「砂も、森も。今の世論は和平賛成。大半がそうですよ。ですけどね、陛下」
シャモアの目が、ギロリ、と光る。
「死んでいった仲間を俺達は忘れない。あいつらの無念を忘れない。砂に勝利を、その言葉が今も俺の頭の中で響いてる」
目はバーガンディーに向けたまま。
怨嗟のような声で、彼は言う。
「あなたは良い王様だ。だけど。あんたは俺達にとって酷い王様だ」
「カージナルにも言われたよ」
「そうですか。……そうですか、ああ。ああ、本当に。――――あなたは酷い人だなぁ」
ハハハ、と声を上げてシャモアは笑い出す。
「――――俺達が何をしているか。そんなもんは単純です。時間稼ぎですよ、陛下」
「時間稼ぎだと?」
「ええ。今は和平の会議中。使者が滞在しているのもここで、賛成派のお偉いさん達も大多数はここにいる」
まさか、とバーガンディーの背中に冷たいものが走る。
シャモアはにんまり笑った。
「これ以上ないくらい、良い的ですよねぇ。――――ねぇ、マダーさん!」
シャモアはそう叫ぶと、突きつけられた銃を手で掴み。
体を起こし、力任せにサックスを放り投げた。その先にマルベリーがいる。咄嗟にサックスは体をよじり、マルベリーを辛うじて避けた。だが、そのせいで受け身をうまく取れず、棚に思い切りぶつかってしまった。
「師匠、マルさん!」
「貴様ッ!」
バーガンディーは袖からチャクラを滑り落とす。
だが、それより早く。シャモアの足元に、ぐるりと回転しながら魔法陣が広がった。
「他はいらない。だけどあなたは、生きていてもらわなきゃ困るんですよ、ねぇ、陛下!」
シャモアの口が半月を描く。
その魔法陣はスウとバーガンディーの下に移動し、
(転移の……ッ!)
そのままバーガンディーと、近くにいたシャルトルーズを巻き込んで、目が眩むほどの強い光を放った。
傷の手当は済んでいるようだったが、血を多く失っているのか顔色が悪い。
彼はバーガンディー達の足音に気が付くと、薄っすらと目を開けた。
「……陛下」
「オーカー、大丈夫か!?」
声をかければ、彼は困ったように笑って「申し訳ありません、油断、しました」と掠れた声で言う。
オーカーは剣術と魔法、両方の使い手だった。それがこんなにもボロボロにされてしまうとは。
バーガンディーはオーカーに、和平反対派の監視と、マダーの調査を頼んでいた。
その過程でこうなったという事は、犯人はその関係者だ。一番近いならマダーだが……。
「私が、不甲斐ないばかりに、奴を取り逃がすばかりか、このような無様な姿を……ああ、先代にどうお詫びすれば……」
オーカーはそう呟く。
その言葉にバーガンディーは違和感を感じた。呼び方だ。
(……先代?)
オーカーは、バーガンディーの父の事を名前で呼ぶ。
彼は前王の側近で補佐役であったが、同時に友人でもあった。父の頼みもあって、基本的には名前で呼んでたのだ。
小さな疑惑が胸に浮かび上がる。
この状態を見れば、落ち着いた後で話を聞く方が良いのだろうが、嫌な予感がした。
とりあえず、怪我の理由を聞きながら様子をみるかと、そう思った時。
「その人が、オーカーさんですか?」
シャルトルーズにそう聞かれた。
振り返れば、彼女は不可解そうな表情を浮かべている。
彼女の言葉にバーガンディーの中の違和感が、より色を増していく。
服の下に隠した武器をいつでも出せるようにしながら、バーガンディーはその言葉に乗った。
「君も何度も会っているだろう?」
「はい、ええ。会ってはいますが。ですが彼の“色”とは違います」
そうシャルトルーズが言ったとたん、一緒にいたサックスが懐から筒のようなものを取り出し、オーカーの額につきつけた。
魔導具で分類としては『銃』と呼ばれるものだ。
「さ、サックスさん!? どうしたでありますか!?」
「マルベリー。大丈夫だ、落ち着け」
ぎょっとするマルベリーにそう言うと、バーガンディーはサックスを見る。
「速いな、サックス殿」
「特技でしてね。さて、陛下。俺達が会ったオーカー殿、どっちか偽物みたいですよ」
サックスは銃を突きつけた相手から目を反らさずに言う。
バーガンディーは「ああ」と頷く。マルベリーは「偽物!?」と驚いた声を上げた。
しかし、一番目を剥いているのは満身創痍で寝かされている『オーカー』だ。
「こちらが偽物だ」
「へ、陛下、何を……」
そう言うと、バーガンディーは両手をパン、と合わせる。
そして小さく言葉を――魔法を発動するための呪文を唱えながら、ゆっくりと手を放す。
すると手と手の間に、キラキラとした光の粒が生まれた。
変装や、偽装を解く魔法だ。
バーガンディーは右手でそれを掴むと『オーカー』のに振りかける。
パラパラと光の粒は『オーカー』の身体に落ちて行き。
触れたそこから、燃えて広がるように『オーカー』の姿が、作り物それらに穴が開いていく。
やがて現れたのは、オーカーとはまるで違う男のそれだった。
歳は二十代ほど。彼は武人であったカージナルの父の部下だ。
「馬鹿な、どうして……」
「調べが足りないな。彼は私の父を、ボルドー様、と呼ぶのだよ。――――シャモア」
名を呼べば、男は悔し気にぐっと歯を噛みしめる。
彼を見下ろしながら、バーガンディーは問う。
「姿を偽装する魔法は、対象の血がなければ出来ない。オーカーをどうした」
「……ハ。どうしたって? 死んじゃいませんでしたよ。生きているかも分かりませんけどね」
鼻で笑って、シャモアは言う。その言葉に、バーガンディーとマルベリーの顔が険しくなった。
「カージナルといい、お前達は何をしようとしている!」
「ああ、その言い方だと……お嬢、失敗しちゃったんですか。やっぱりなぁ。向いてないからなぁ、あの子。こういう事には」
ぜえぜえと、肩で息をしながら、シャモアは卑屈に笑う。
どうやら姿形こそ偽ってはいたものの、怪我自体は本物らしい。
自分達を騙すためにここまでやるのかとバーガンディーは苦く思った。
「砂も、森も。今の世論は和平賛成。大半がそうですよ。ですけどね、陛下」
シャモアの目が、ギロリ、と光る。
「死んでいった仲間を俺達は忘れない。あいつらの無念を忘れない。砂に勝利を、その言葉が今も俺の頭の中で響いてる」
目はバーガンディーに向けたまま。
怨嗟のような声で、彼は言う。
「あなたは良い王様だ。だけど。あんたは俺達にとって酷い王様だ」
「カージナルにも言われたよ」
「そうですか。……そうですか、ああ。ああ、本当に。――――あなたは酷い人だなぁ」
ハハハ、と声を上げてシャモアは笑い出す。
「――――俺達が何をしているか。そんなもんは単純です。時間稼ぎですよ、陛下」
「時間稼ぎだと?」
「ええ。今は和平の会議中。使者が滞在しているのもここで、賛成派のお偉いさん達も大多数はここにいる」
まさか、とバーガンディーの背中に冷たいものが走る。
シャモアはにんまり笑った。
「これ以上ないくらい、良い的ですよねぇ。――――ねぇ、マダーさん!」
シャモアはそう叫ぶと、突きつけられた銃を手で掴み。
体を起こし、力任せにサックスを放り投げた。その先にマルベリーがいる。咄嗟にサックスは体をよじり、マルベリーを辛うじて避けた。だが、そのせいで受け身をうまく取れず、棚に思い切りぶつかってしまった。
「師匠、マルさん!」
「貴様ッ!」
バーガンディーは袖からチャクラを滑り落とす。
だが、それより早く。シャモアの足元に、ぐるりと回転しながら魔法陣が広がった。
「他はいらない。だけどあなたは、生きていてもらわなきゃ困るんですよ、ねぇ、陛下!」
シャモアの口が半月を描く。
その魔法陣はスウとバーガンディーの下に移動し、
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そのままバーガンディーと、近くにいたシャルトルーズを巻き込んで、目が眩むほどの強い光を放った。
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